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もう少しスペースが必要だ-②

南半球はこれから夏です。私の住んでいるシドニー郊外でも日差しの強い日が多くなりました。今日は晴れて最高気温29度、金曜は36度まで上がる予報が出ています。やれやれ。。。

前回のnoteで取り上げたストリート、私が住んでいるアパートから駅および駅前の大きなショッピングセンターに続く通りで、私は日常品の買い物で利用することが多いです。私は基本的にこのストリートが嫌いではありません。朝はカフェでコーヒーを買ってオフィスに向かう人がいますし、お昼時にはサンドイッチを頬張っている人やタバコ休憩しながらおしゃべりしている人たちを見ることができます。お昼休みの間にスポーツジムで一汗流そうとスポーツウェアで歩いている元気な人もいて、自分の用事のついでにオフィスワーカーの日常を見るのは楽しいです。
101 Things I Learned in Urban Design School”のトピックNo.26に、以下のような記載があります。この本の中でもっとも好きなトピックかもしれません。簡単に要約して日本語に訳してあります。

“Ordinary life isn’t boring”(普通の生活は退屈ではない):本当の都市の文化は特別な出来事に存在するのではなく、ストリート・ライフ、つまり通常のストリートや地域のざわめく生き生きとした活動にこそ存在しています…………(ストリートライフは、作ろうと思って直線的にできるものではなく)日々の”やるべきこと”から育つ副次的な現象です。子供達を学校に連れて行き、交通機関に向かい、仕事や買物に出かけ、そして図書館を訪れる、といった都市住民の歩行者としての生活が最も重要な活動です。この基本の活動が、純粋な楽しみのためのエリアを探索するモチベーションとなり得るのかもしれません。…………都市計画に関わる際には、平凡なものを受け入れます。デザインは日常生活に便宜を図り、これを祝福することに重点が置きます。文化的なイベントは1度だけのものですが、日常(生活)は毎日報われます。

前述のストリートにおいて、移動空間の2.0mのスペースと併せて、彼らのアクティビティを支えているのは、約1.8mの建物と公共空間のトランジションスペースだと思います(もう一度前述のダイアグラムを記載します)。カフェを始めとする飲食店の前には、決して立派ではありませんが、テーブルや椅子が置かれていてオフィスアワーであれば割といつもそこに誰かがいます。しかしオフィスアワーが終わって夕方になると、少し寂寥感が漂います。カフェもオフィスの稼働に合わせて、6:30頃にオープンし、15:00にはクローズしてしまいます。

この通りは駅の北側にあります。以前は駅の北側が賑わいの中心で、お肉屋さんや八百屋さんなどの小売もあって、オフィス以外の利用ももう少しあったようです。しかし今は駅前、南側の大きなショッピングセンターがまちで一番賑わっている場所で(私もそこを目指して歩く訳ですが)、北側の商業施設は少々さびれた感が否めません。こちらはもう少し広いスケールで見る必要があるので、また別にまとめようと思います。

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話は変わりますが、“101 Things…”にストリートと自動車の関係に触れたトピックが二つあるので、ご紹介します。トピックNo.66とNo.71です。

66.Separating pedestrians from vehicles is risky(歩道を車両から離してしまうことはリスキーです): よいストリートには「その場所自身のよさ」と「移動のためのルート」という2つの側面があります。この2つ目的は絡み合っています。運転手としてそのストリートを通り過ぎている間に、面白そうなストリートを見つけ、後日そこへ戻ってきて、ストリートライフを楽しんでいる人もいるかもしれません。また、ストリートの楽しみの一部は通り過ぎる人や車を眺めることでもあります。
車の動きが優先されているストリートは歩行者を歓迎していないかもしれません。しかしバランスが重要です。車を排除することとに見合うだけの大人数の集中的な歩行者の活動が保証されるのでない限り、歩行者を優先するために車を排除したストリートは経済的に実現性がなく、退屈で、安全でさえないかもしれません。U.Sにおいて、このような歩行者だけのストリートは80箇所より少なく稀なケースです。車両用ストリートの段階に戻った例もいくつかあります。
71.Make streets high friction(ストリートに高い摩擦を起こしましょう):ドライバーたちが習慣的に早すぎるスピードで運転してしまうとき、彼らはストリートに固有で特別な特徴に反応しています。自動車を運転する人は、道路のエッジが摩擦を起こしている所では、普段よりもゆっくり運転します。縁石沿いの駐車スペースは最も良い摩擦を引き起こすもので、殆ど全てのストリートに存在しているに違いありません。狭い車線と両側二車線はもまた運転を遅らせます。特に、成長した樹木、中央分離帯に植えられている樹木は、運転手が衝突を避けたいためだけではなく、彼らが少し時間をとって通りの雰囲気を楽しむこともできます。多くの歩行者が存在は同様な効果があります。ドライバーは、人々を眺めることと同時に、危険防止のために警戒したいと考えています。スピードバンプなど現場・現場で取られる他方策は、効果的に車両のスピードを遅めますが、これらはストリートデザインにおいて表層的で短命なものです。

今回取り上げたストリートは一方通行なのですが、交差点も多く、右折レーンが必要だと考えれば、車の走行スペースは2車線になるだろうなあと思います。歩道に接する1レーンを駐車スペースにあてることで、エッジにフリクションが起こり、車がいたずらにスピードを上げないようになっていると思えば、これも必要なんだなあと理解できます。いずれも、交通計画やもう少し上位の計画を見てみないと判断はできないですが、歩行者の移動や街路樹のためにもう少しスペースが必要だからといって、車両のスペースをサクリファイズするのは正しくないように思えます。

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1.8mの建物とストリートのトランジション部分も、車両スペースもストリートをアクティブにしている必要なスペースで、現状程度の空間は必要、と仮定します。

街路樹を配置するなら(現状では9mピッチで配置されています)、全部が全部とはいいませんが、建物は少なくとも2-3m程度セットバックしてほしかったです。でなければ、庇のある所には街路樹は植えないとか、街路樹のある場所には庇を浅くするといった細かい配慮がほしかったなあと思います。そうすれば、植え桝のスペースは現状1.2m角から2.5m角ぐらいは取れたでしょう。根っこももう少しのびのびとできたと思います。また、歩きにくくはなるけど、桝の縁の部分を少し立ち上げるか、樹木周りに根締めのグランドカバーを入れて、踏圧を避けるための工夫もあったらよかったのにと思います。車両側の駐車スペースについてもレーン全部を駐車スペースとするのではなくて、歩道から半島状にでっぱらせて、樹木のためのスペースを少しでも多く確保できたのかもしれないなあと思います。いずれも今からでは難しいですよね。

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見出し画像は、同じストリートでいわゆる銘木・古木を残してある箇所です。プライベート空間なので、用がなければ敷地に入りませんが、並木にこだわらなければ、こんな感じで、厳選した樹木の周りに大きくスペースをとってあげるのもいいかと思います。また、このストリートはもともと無料のシーティングスペースがほとんど無い所でもあるので、樹木が植栽されている箇所のスペースを膨くらませて、且つ樹木周りを立ち上げ、お弁当やコーヒーをいただけるようなシーティングスペースもしつらえたかもしれないなあなんて想像します。

街路樹一本とっても必要なスペースを確保するために、建物のセットバックをはじめとし、建物、道路と丁寧に調整をするといったことが必要ですよね。事前のガイドライン作成の必要性を感じます。そこまでして街路樹は必要か?という気持ちにもなりますが、やはり日差しの強い中、徒歩での移動となると木陰はありがたいです(日差しが強くなってきた最近、特に実感します)。

あたりまえですが、樹木は生き物です。植え付けてしまえば、基本的には、定期的な施肥も水やりもいらないので、植えっぱなしになることも多いです。若木のうちは想像し難いのですが、生き物ですから成長します。車止めや街灯のように配置するのはそもそもが馴染まない素材なのだろうと思います。樹木だけではなく、植物は自力で移動できません。環境条件が悪いと樹勢が弱ります。樹勢が弱ると病害虫に攻撃されやすくなりますし、病害虫の攻撃により倒木の恐れがあるとなったら、伐採という流れになると思います。街路樹の場合は街なかに植えられていますので、仮に危険木と判定されて伐採、ということになったら、歩車ともに通行止にしてクレーンで吊るして人力で上から職人さんが玉切りをして下に降ろしていくという方法になるのかなあ、大ごとだなあ、職人さんも少なくなってきているし、いったいいくらかかるんだろうと、要らない心配をしてしまいます。

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上に私が書いたことはすべて「でもしか」、”こうすればよかったのにな”ということばかりです。じゃあどうするのということは、今の所、街路樹調査をかけて、選木して危険木については切るという方向で、残ったものに関しては、できる範囲でその周辺のスペースを整えてあげる、ぐらいのことしか浮かびません。もう既にそんなこと検討して且つ実行に移されていらっしゃるのでしょうね。

この事例から離れるとは思いますし、少し時間もかかりますが、空間づくりの観点から、"人"と"樹木"と"建物"と"道路"がどうしたら良い関係を結べるのか考えてみたいと思います。、、、書いていて、古典中の古典、アレキサンダー・クリストファーのパタン・ランゲージを思い出してきました。なんかそこに考える手がかりがあったような(日本の家にはあるけど)手元にないので、しょうがないから英語版ポチってみます。もってこればよかった。

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