些細な偶然。【SS】由佳と千歳シリーズ ※深夜の二時間作詩投稿
「はぁ…」
金曜の夜。
パンプスのヒールが夜道のアスファルトをカツカツと鳴らす。ダークグレーのパンツスーツのスラリとした足が、住宅街の駅の人混みから逃れるように現れた。
小気味良い音ではないのは、彼女、千歳の気持ちが沈んでいる事を感じさせる。
ため息を吐いた表情も、どこか暗い。
失敗、ではないと思いたいけれど今週の仕事は散々だった。
千歳はデザイン会社で営業をしている。
クライアントとデザイナーの間に立つのが彼女の仕事だ。
今週は満足のいく立ち回り方が出来なかった。
ああすれば良かったこうすれば良かったと、会社の最寄り駅からここまでずっと考えていた。
不毛な一人反省会も、答えが出ないまま頭の中をぐるぐる回るだけでは心の重みを増すだけで悪循環のように感じる。
こういう時は、やっぱりアレだ。
よし、と意を決して踵を返すと少しだけもと来た道を戻りコンビニに入っていった。
「ただいま〜」
我が家の扉を開け、やっとパンプスを脱ぐ。
開放感。
ご飯のいい匂いがする。今夜は生姜焼きのようだ
「おかえり〜!」
人懐こい顔がキッチンから顔を出した。同居中のパートナーである由佳だ。
笑顔に誘われるようにキッチンへ向かうと、千歳の手に持たれたコンビニ袋が由佳の目に入った。
「何買ってきたの?」
「ふふ、これよこれ。」
由佳の問に千歳はよくぞ聞いてくれましたと言いたげな笑みを浮かべ、ガサ、と小さな音を立てて袋の中を彼女に見せた。
中にはハーゲンダッツが2つ、仲良く並んでいた。ふたりが好きな、マカデミアナッツ味。
「お風呂あがりに、一緒に食べようと思って。」
気分転換には彼女を巻き込んで好きなものをたべるのが良いと思ったのだ。
しかし袋から顔を上げた由佳の表情は、単なる嬉しいとは違う、少し驚いだようなものだった。
「え、すごい!」
「なにが?」
「とにかく凄いのよ!」
途端にぱあっと表情を明るくして冷蔵庫に急ぐと、冷凍庫から見慣れたものを取り出した。
「私もさっき、帰りに買ってきたの!」
その手には、マカデミアナッツ味のハーゲンダッツが2つ。
「えー!すごいね。」
「ね、すごいでしょ!私達、似た者夫婦ね!
合計4つになったハーゲンダッツを冷凍庫に仕舞う。
偶然ってあるものだなぁ。
「すごい偶然。どうしたの、急に食べたくなったとか?」
「う〜ん、それもあるけど…千歳、今週元気なかったから。」
些細な偶然は、彼女が作った小さな運命だった。
由佳のこういう察しの良いところが、心底素敵だと思う。
「ありがとう。」
「ううん、一緒に食べようね。」
彼女特製の生姜焼きが乗った皿を持って、リビングへ。
おわり
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Twitterの#深夜の二時間作詩 投稿用のお話です。
以前書いた、由佳と千歳の話はこちら。
前回が木曜の夜の話にしたので、今回は金曜の夜にしてみました笑
この二人の話はまた書きたいと思います。
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