見出し画像

メディア・アーティストのための助成金入門

今までは英語で記事を書くことが多く、よく medium を用いていたのですが、たまに日本語記事を medium に投稿してもビューがあまり伸びないことと、Processing Community Day に際して日本語でものを書くことが増えてきたのでこの際に note に登録することにしました。助成金の申し込みについては書き方は一人一人違いますし、以下の文章は自分の経験だけを基にしているので個人の意見だと認識した上でお読みください。また、入門と書いたものの別に自分は上級者でもないし偉く語れる立場ではないですが、おさまりがいいのでこうしました。

前澤友作氏が100万円を配るときに応募者がツイートしていた資金の使い道を選考基準にしていたようですが、これを見てすぐに助成金のモデルを思い出しました。100人もの人数に助成している財団はないと思いますが、支給額に関しては同程度で100万円から300万円が多いと思います。今でこそクラウドファンディングという選択肢がありますが、海外留学をしたい学生や海外で活動をしようと思っているアーティスト向けはまず助成金に申し込むべきでしょう。私自身、東工大を卒業してからカナダで修士課程に進学する際に三つほど海外留学奨学金に申し込みましたが、そのときは一つだけ面接に進めたものの結果は全滅でした(同じ年には知り合いのうち二人が助成金に採択されていてひどい劣等感を覚えていました)。両親の支援もあり自費で工学の修士課程を出てから、現在ではフリーランスとして生計を立てる傍ら芸術家向けの助成金にも頻繁に申し込んでいます(英語版ですが自分がどう生計を立てているかはmediumに書きました)。そもそも助成金は収支ゼロになることが前提なので、他に仕事がないと生活できません。

タイトルは助成金としましたが、メディア・アーティストとして日本で応募できる助成金の数は限られています。私は2017年にポーラ芸術振興財団の若手芸術家の在外研修に採択されましたが、そのほかに挙げられるのは文化庁の在外研修制度や吉野石膏美術振興財団くらいでしょうか(展覧会や発表の予定などが決まっている場合は他にも応募できるものはいくつかあると思います)。そこでおすすめなのは海外のアーティスト・イン・レジデンスなどにも申し込むことです。もちろん英語で書く必要がありますが、そもそも在外研修に申し込むにしても海外で研修するなら英語は必須です。また、完璧な英語は求められていないので自信がなくても挑戦してみるべきです(自分がアーティスト・イン・レジデンスで知り合ったヨーロッパや南アメリカのアーティストでも英語に苦手意識を持っている人は少なからずいました)。採択人数を考慮すると助成金は基本的に応募しても採択されないものと考えるべきなので、初めのうちはくじけずに数をこなしていくしかないと思います。一つでも採択されれば、次回以降に別の助成金やレジデンス等の公募に採択される可能性は飛躍的にあがります。自分のキャリアのうちいつ応募するかに関しては、早ければ早いほどいいと思います。もちろん在学中などは難しいかもしれませんが、募集要項を見ると35歳未満向けのものが多いですし、一度失敗してからまた応募するチャンスがあることを考えると早いうちからダメもとで何度も応募するべきだと思います(ちなみに私がポーラに採択されたのは27歳の年ですが、レジデンスなどを含めると初めて採択されたときは26歳でした)。

助成金申請の際に必要なものですが、事務的な書類を除いて基本的にはプロポーザル、ポートフォリオと推薦状・受入状の三種類です。プロポーザルは助成金の肝にあたります。理工系の助成金であればなぜ資金が必要なのかを明確に書く必要がありますが、芸術系の場合はある程度詩的な文章が好まれると思います。自分はなるべく具体的な計画とコンセプチュアルな内容を混ぜるようにしています。具体的といっても例えばどのアート・センターを訪ねるとか、フェスティバルに行くとかその土地を知っていることをアピールできればいいですし、実際にその団体と事前に連絡を取る必要はありません(もちろん連絡をとったうえで、例えばワークショップをしてほしいという話になればよりよいプロポーザルになりますが)。また、自分の制作に必要な技術的なサポートをしてくれる工房などの情報もあるといいでしょう。その上で自分のコンセプトに関して説明するのですが、自分の場合は理工系の用語を使いながら読み手が完全には理解できないような(自分でも何を書いているのか理解していないことが多いですが)文章にすることでポエティックな要素を追加しています。その他にも書き方のコツはあると思いますが、日々ブログなどで(くだけた文章だけでなく制作に関する思いについて少しかたい文章で)発信しながら文章を上達させていくのが近道だと思います。

ポートフォリオに関しては日々ウェブサイトを更新することが非常に重要です。自分の活動について自分自身が把握しておくことは重要ですし、レジデンスによってはウェブサイトのURLがポートフォリオ代わりになることもあります。キャリアの初めのうちは小さなプロジェクトでも日々のスケッチの活動でもなんでも詰め込んで形だけでもポートフォリオらしくすることが大事ですが(そもそも書類審査する側もそこまで詳しく見ないと思います)、何年かして作品数が多くなってきたら逆にポートフォリオに記載するものは5~10件くらいに絞った方がいいと思います。助成金に応募するようなメディア・アーティストはいくつも作品をこなしていて当然なので、作品数は評価されないからです。このとき重要なのは、自分の気に入っているプロジェクトはもちろん、なるべくジャンルがかぶらないようにするのが重要です。例えば映像系のアーティストでしたらVJ作品で気に入っているものだけで埋めるのではなく、貢献度は少なくてもアニメーションを担当したアプリだったり、映像を提供したダンス作品などを載せた方が幅広く活動していることが見えてよいと思います。また、メディア・アートではポートフォリオと合わせて動画提出が求められることがしばしばあります。一度に例えば5作品もの動画をまとめるのは大変なので、こちらもショーリールとして日々アップデートしていくのが重要です。一度ひな形ができれば別のものに応募する際にも手間は少なくなるでしょう。以上のポートフォリオに関しては仕事を探すときなどにも重宝するので、助成金に応募するつもりがなくても時間を割くことをお勧めします。

推薦状と受入状はある意味では一番難しいかもしれません。在外研修の場合は推薦状と受入状の両方が必須で、その他のレジデンスなどでは推薦状が必要になることがしばしばです。推薦状はお世話になった先生はもちろん、数枚必要な場合は近しいアーティストの知り合いなどにお願いするのもいいと思います。その際に重要なのは下書きを自分で用意してから加筆をお願いすることです。忙しい人が多いし、文章に苦手意識がある人だとしても下書きを持っていって自分の言葉にしてもらうようにお願いすれば断りづらいと思います。受入状をもらうにはいくつかのパターンがあると思います。行きたい都市があるが受け入れ先は問わない場合や、そもそも行きたい都市すら問わないというのであれば、手あたり次第に知り合いのつてをあたってみるのがいいと思います。知り合いでなくても、例えば僕自身にコンタクトしてくれれば何か手伝えるかもしれないし、openFrameworks や sfpc で有名なザックは定期的にオープン・オフィスと称して相談に乗ってくれるので、図々しく行動するのが大事です。研修先の希望がある場合はそこに直接コンタクトをすればよいのですが、返事をもらえるとは限らないし、公募をしているからそちらに申し込んでくれといわれるかもしれません。そのような場合は研修先にこだわらずに探すべきです。また、お金に余裕があるなら実際に現地に自費で行ってみてイベントやミートアップなどの勉強会などに参加してみるのもいいと思います。コネクションを作るのは時間のかかる作業ですが、行動した分だけ報われます。

助成金の公募は通常は秋ごろに締め切られるので季節外れの記事にはなりましたが、上にも書いているように文章を書くスキルにしてもポートフォリオにしてもコネクションにしても予想以上に時間がかかります。次の2019年秋に申し込んだ場合は採択されても2020年に研修を始めることになりますが、もし少しでも興味がある方は今から行動しましょう。この記事で(メディア・アーティストに限らず)一人でも多くの方が助成金やレジデンスへの応募に興味を持っていただければと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?