トヨタ車椅子

裏ルートを見つけたトヨタのEV戦略

【取材ノート】

本日7日はトヨタの電動化戦略説明会に行ってきました。参考資料はこちら(でもそこそこ長文ですよ)
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28416855.html

さて、この2年ほど矢継ぎ早に戦略発表を乱れ打ちしているトヨタですが、世間からはずっと「EV出遅れ」と言われてきました

一昨年トヨタは「電動化プロジェクトの説明会」を開催し、そこで発表されたのが2030年までにEV、FCV、PHV、HVなどを年間550万台販売するという目標でした。

トヨタは年飯1000万台ですから過半が電動化車両になる計算になります。ただしうちHVなどのエンジン併用モデルが450万台。モーターのみのモデルが100万台ということで、日経あたりが騒いでいるような「EV以外はシーラカンス」なんて世の中はまだ30年くらい来ないわけです。理由は簡単。高価なバッテリーを沢山必要とするEVは値段が高すぎて売れないからです。

今日の発表では、この550万台達成が5年前倒しになって2025年に早まりそうだと。そしてその原動力は予想以上のHVの売れ行きとのことでした。

良いですか? みなさま耳かっぽじってよく聞いてください。EVは依然近未来の製品で、今から時代を席巻するのはHVなんです。はい。

実際欧州を始めとするいくつかのメーカーが華々しくEVを先行開発してきましたが、その頼みの綱のEVがちっとも売れないので、メーカーの「全販売実績の平均CO2排出量」で規制する2010年のCAFE規制をクリアできる見通しが立たず、トヨタにHVを売ってくれと泣きついてきています。

その結果が先日のトヨタによるHV特許の無償提供なのです。ただし、思った以上に売れている上に、他社に供給する分も必要になったという流れで言うと、これまでも散々苦しい思いをしてきたバッテリーの確保がさらに大変になるわけです。

一応トヨタはHVの技術提供の範囲にバッテリーを入れてませんが、調達能力の無い会社にHVのシステムだけ納めて「バッテリーは知らん」ってやったら、ビジネスは成立しませんからある程度の面倒は見ざるを得ないでしょう。

しかも世界で一番台数を売る中国マーケットではEVじゃないとナンバー交付2年待ちみたいなEV超優遇策でEVを売らないわけにはいかない上、例によって中国政府は「わが国でEVを売るなら中国製のバッテリーを採用すること」とご無体なことを言うわけです。

そんなわけでトヨタは従来からパイプを築いてきたパナソニックに加え、中国のBYDおよびCATLとも提携することにしたのです。これは恐ろしい話で、グローバルなバッテリー生産量のTOP3全部とトヨタは提携しちゃったってことです。みんなが欲しがるバッテリーという状況を考えると、大人気ないと言えばこれ以上大人げない話もありません。

しかーし、本日の最大のトピックスはそれじゃないのです。大人気ない話すら消し飛ぶテーマは何かと言うと、トヨタはついにEVで儲ける方法を思いつきました。「儲からないからやりたく無い」とEVから逃げ回ってきたトヨタですが、儲かるとなれば話は変わってきます。

テスラが開いた21世紀的EVって言うのは、バッテリーをドカンと積んで、航続距離バッチリの自動運転の何のという全部盛りEVです。日産のリーフはもう少々抑え気味ですが、オールラウンダー型を目指していることは変わりません。んじゃトヨタは一体何をしようと言うのか?

という良いところで一回話が変わります。トヨタはここのところCASEとMaaSに熱心に取り組んできました。特にMaaSは地域の特性に強く紐づくので、地域地域で特徴のある形が求められます。

例えば過疎地の老人の移動問題。これだけ免許返納の圧力の強い中で、クルマが無いと病院に行けない人はどうしたらいいんでしょうか? 「子供を轢き殺したらどうするんだ!?」はごもっともですが「じゃ、病院に行けなくて死ぬのは一人で死ねってことか!?」ってのも反対側にはあって、要するに悲劇のインパクトは違えど、これはトロッコ問題なんです。

で、そこには電動の超小型モビリティがやはりぴったりはまるのですね。例えば時速6キロくらいで、免許の要らないセニアカーの前例がありますが、例えばこれをサブスクリプションにして月額貸出モデルのMaaSにする。トヨタが以前発表して、今ひとつ何がどう良いのかわからなかったサブスクリプションサービスの「Kinto」が俄然ここで活きて来ます。

しかも、これに簡易的な運転支援機能とか、自動運転とか付けちゃう。移動ルートがほぼ決まっている様なセニアカーの類なら、自動運転の難易度は圧倒的に下がります。だってその場で条件を与えられて組み立てる必要がなく、病院とかスーパーとか駅とかってルートマップをあらかじめ何種類か持たせておけば良いわけですから。

そこでトヨタは気づいたわけです。「あ、そうか、EVもオールラウンダーを目指すから複雑になって技術的にも売価的にも大変なんだ」。ということでトヨタは世の中で具体的に困りごとを抱えていて、つまりソリューションがやって来るのを口を開けて待っているお客さんに一本釣りで機能限定のEVをぶつけて行けば売れるだろうと考えたわけですね。そういうのを色々やれば、トータルではそこそこまとまった数になるんじゃないか? そうです10年ぐらい前に流行ったロングテールです。

例えば銀行とかの営業に使われている軽自動車。企業イメージから言えばEVの方がいいけれど、今の軽と価格差がありすぎて入れ替えできない。「ってことはEVの価格の大半を占めるバッテリーを削って、200万円以下の航続距離の短いEVとかを作ってあげれば、何千台か売れるじゃん」。こういうのを落ち穂拾いみたいに積み上げる。シャシーを前、中、後ろと分けて、コンポーネンツを組み替え可能に構築しておいて、ニーズに応じてそれらの順列組み合わせで応用範囲を広げる。

排ガス規制には、CAFE規制の他にZEV規制とかがあります。これはアメリカのもので、全生産台数に対して定められたパーセンテージ、ゼロエミッションカーを売らなければならないルールですが、EVでさえあればオールラウンダーじゃなきゃダメとは限らない。安価で簡易な都市内トランスポーターだってナンバーさえ付けば1台にカウントされます。

日本でニーズに対応して一撃必殺系のノウハウを貯めて行けば、そういう規制のある国でだって、応用して数を稼げますし、CAFEの方にもじわじわ効きます。多少利幅が薄くても罰金を払うよりマシだし、サブスクリプションとかの継続ビジネスだったら、後で儲けられます。みなさんのよく知っている例で言えば、プリンターを利益ゼロで売ってもインクで継続的に設けられる。ああいうヤツです。MaaSはイニシャルで儲けなくて良い。後でじっくり儲ける方が良いわけです。

しかも地方のディーラー網がこれからの少子化過疎化の地域で生き残るためには、クルマを売ってなんぼではなくて、地域の問題解決をしてお金を稼ぐビジネススタイルに変えて行った方が良いわけです。そうじゃないとクルマが売れなくなったら店をたたまなくちゃならないわけで、みんながそんなことをしていたら、地方が消滅してしまうのです。だからMaaSだし、MaaSだからEV。いわゆるビルドtoオーダーで、顧客のニーズに応じたものを作って収める。さっきの高齢者用自動運転なんて、必要ルートの入力をディーラーがやってあげた方が良いわけです。そして新しい行き先を登録したくなったらまた連絡をもらって毎度あり。

順番としてはEVを作っちゃったから売らなくちゃじゃなくて、MaaSのネタがあるけれど、これやるにはEVが向いていると。そんなわけで他社が高価で全部盛りのすごいEVを発売してメディアからやんやの喝采を浴びつつ、足元で高すぎて販売が振るわないという姿を横目で見つつ、トヨタは内野安打で小さく稼ぎながら、EVの台数を積み上げ様としているのでした。

手堅いなぁ。なんかだいぶ書いちゃったけど、これは24日のITemediaビジネスオンラインに本番用の記事を書く予定です。

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