naotoiwa

クリエイティブ・ディレクター。国分寺にある大学で教鞭をとっています。著書は『おとなのための創造力開発ドリル』他。個人サイトは「mono-cataly.com」「naotoiwa.com」です。仕事以外でも個人の作品として、写真をソコソコ撮ります。文章もシコシコ書きます。

七 月 〜蛇の目傘〜

—七 月—

 梅雨はまだ明けない。三週目の土曜日、日向さんと駅で待ち合わせをした。日向さんはなんと和服姿で登場。
「文士みたい」とわたしが言うと、日向さんは少し照れた。
「ただの作務衣だよ」
 でも、傘までジャパネスク。朱色に白い丸模様。
「蛇の目傘だっ。あめあめ降れ降れ、かあさんがぁ、蛇の目でお迎え嬉しいなぁ」
「そう。へびの目玉みたいな丸が付いてるから蛇の目傘って言うんだ」
「え、そういう意

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③ 六 月 〜かくれ里〜

—六 月—

 梅雨の晴れ間の土曜日、わたしは日向さんの家に着いた。けれど玄関のところに貼り紙がしてある。
『ちょいと急用で東京に。夕方までには帰ります』
 え、日向さんいないの? だったら連絡ぐらいしてくれたっていいのに、と思わず独り言を言いそうになって苦笑い。そうだった。あんなこと提案したのはわたしの方なんだから、文句を言うのはお門違いだ。まあ、いいや。それじゃあ、日向さんが戻るまでひとりでど

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② 五 月 〜風立ちぬ〜

—五 月—

 連休明けの土曜日の午後、日向さんと駅で待ち合わせをした。
「五月はつつじがきれいだよ、境内いっぱいに咲いてるお寺があるんだ、見に行かない?」 
 今月もお花見、お寺巡り。おじさんとおばさんみたいだわ、とわたしは心の中で苦笑する。すると、
「人間関係の悩みはね、人間だけでは解決できないものだからね」と日向さん。
 なにやら意味深なお言葉。それって、オレは何も助けてやれないぞ、ってこと

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① 四 月 〜春は残酷〜

—四 月—

 縁側にて。
「春になると、やっぱりなんだか嬉しくなりますね! 気持ちがウキウキしてきます」
 そうわたしが言うと、
「きみも案外のんきなことを言うんだね」と日向さんが笑っている。そして、
「春は残酷な季節である。T.S エリオット、知ってる?」と聞かれた。
「知らない」と答えると、
「イギリスの詩人」とだけ日向さんは教えてくれた。
「でも、なんで春が残酷なの? こんなに暖かくて花も

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ちょいと古風な恋愛小説を、

さて、突然ですが、この春から、ちょいと古風な恋愛小説を一篇書いてみることにしました。一年間かけて毎月一章ずつ。そのくらいのペースだったら普段の仕事の合間を縫いながらでもなんとかなるのでは、と思った次第です。結果、合計8万字(400字詰め原稿用紙換算で200枚分)ぐらいの中編小説になればと考えています。

完全書き下ろしなので、話の結末は今のところ全く決まっていません。タイトルも未定です。来年の三月

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プロローグ

プロローグ

 わたしは月に一度、日向さんの家に行く。土曜日の午後、都心から一時間電車に乗って観光客でいつもにぎわうあの街の駅で降り、土産物屋がいっぱい並んでいるあの通りをしばらく歩き、何本目かの路地を左に曲がる。そして、幅の狭い踏切を越えお寺の門を抜け、苔むした境内を進んでいくと、ようやく日向さんの住んでいる家が見えてくる。日向さんの家はお寺の敷地と裏山に囲まれるようにして建っている。純日本風の

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