社内でスリッパを禁止すべきか?から考える対話による合意形成プロセス

先日、こんな記事を見ました。

上記を見て思い出したのが昨年のこちらの記事。

どちらの記事もTwitterでは批判が多く、正直、しょうもない内容だし、メディア(日経)側のタイトルの選定に悪意すら感じているのですが、全国の足のムレを不快に感じたり、においが気になる人(私です 笑)の尊厳を守り、心置きなくスリッパに履き替えられるためにこれらに反論していきたいと思います。

しかし、今回、本当にお伝えしたいのは反論ではありません。

反論によって一方的に自分の立場を主張するのでなく、相容れない2つの意見を合意形成に結びつけるためにはどのような思考が必要なのかを考え、対話のフレームワークを使って、建設的な議論を生むプロセスを導き出す。これが今回の主題です。

※以降、「足のムレを不快に感じたり、においが気になる人」では長いので『足ムレ君』と呼ぶことにします(私のことですが)。



まずは、引用元の主張の整理

冒頭の2つの主張を簡単にまとめます。

前者(※1)は、レオス・キャピタルワークスというファンドが投資する企業を選ぶとき、現場を取材し、端々に現れる企業の本質を探っていて、そこでの基準の例として、オフィスで靴をスリッパに履き替える習慣のある企業からは内向きの経営姿勢がすけて見える。社外の株主に報いようとする気持ちが薄く投資に向かないと考えられる。というお話し。

後者(※2)は、社員4000人を擁するソフトウェアメーカー、ワークスアプリケーションズの創業経営者の牧野氏が、身だしなみを他人に押し付けるつもりはないのだが、オフィスでのスリッパは絶対に許さない。仕事をする気があるのか疑ってしまう。というお話しです。

※以降の主題は主張の中身でなく、思考プロセスなので、上記のリンク先の記事を読まなくてもここから先の議論は問題なく進められます。



次に、足ムレ君の反論を挙げてみる

そこで、足ムレ君は上記に対して以下の反論が想定できます。

【反論1】スリッパに履き替える習慣のある企業が、内向きの経営姿勢で、社外の株主に報いようとする気持ちが薄いという、実証や根拠が示されていないのではないか。

【反論2】足ムレ(発汗や多汗症)は先天的に個人差があり、気にならない人が気になる人の気持ちを分かっていないのではないか。

【反論3】上記1,2を前提に、社内でのスリッパを禁止されたら、理不尽に感じるし、不快感から生産性が下がるのではないか。



しかし、こういった主張をいくら論理的に数値や根拠を用いて説明したとしても大抵うまくいきません。

例えば、【反論2】について、男性の足のにおいが気になる割合が54%、におい対策をしている割合が26%もいる(※3)、といった反論の根拠は探せばいくらでも出てきますが、もとの主張「内向きの経営姿勢」や「身だしなみ」の反論にはなっていないのです


また、今回の交渉相手は、絶対的な権力者です。もし、「俺がファンド・マネージャーなんだから・・・」「俺が創業社長なんだから・・・」と言われてしまっては議論になりません。そうならないためにはこちらからの歩み寄りが必要でしょう。

私たちは、顧客・上司・株主と時に立場が上の人(本質的には平等なのですが)との交渉は避けては通れません。このような状況で必要なのが対話です。



そもそも、対話とは何か?

 対話は「戦うコミュニケーション」ではない。言葉を戦わせ、相手の弱点を突き、自分の主張を強弁することは対話ではないのだ。対話とは、相手の正当性を認めようと努力し、歩み寄りの契機を見出そうとするプロセスなのである。

これは、不都合な相手と話す技術(※4)からの引用です。
(この本はたくさんの示唆が得られる内容だったので、今後私のブログで何度も出てくると思います。)

引き続き、同書から引用します(※5)。

 対話とは「戦わないコミュニケーション」である。戦わないがゆえにむしろ厳しい対立状況に向いている。
 厳しい対立状況にあっては、当事者に価値観の共有はなく、発想は大きく異なり、主張は真正面から衝突する。このような状況で言葉を戦わせても、対立は激化するばかりで解決は望めない。(中略)
 当事者に問題を解決したいという意思があり、しかも話し合いによって解決したいという意思があるならば、残された道は対話だけである。対立する相手と戦うのではなく、相手の正当性を段階的に認めていくのだ。その上で合意形成のポイントを探るのである。

ここで、2つのキーワードが出てきました。
それは、“段階的” と “プロセス”です。そう、対話を成功させ、交渉を相手と合意形成するために、段階的プロセスにあてはめて考えることができそうです。



対話から合意形成につなげるフレームワーク

同書『不都合な相手と話す技術』では、「価値観」「発想」「主張」「合意形成」の4段階を紹介しています(※6)。

上記の図は私の創作で、本の中では言及されていませんが、これは、様々な局面で適用可能な立派はフレームワークです。

さっそく、冒頭の議論を受けて「社内でスリッパを禁止すべきか?」を例に、スリッパ反対派と容認派(足ムレ君)それぞれの思考を単純モデル化して、対話による合意形成プロセスを見ていくことにしましょう。(※7)


Phase1: 「価値観」のレベルで考える

スリッパ反対派も容認派も目的は「ビジネスの成功のため」と捉えることができますが、その価値観は大きく異なります。
反対派は「外向きの経営姿勢」と「身だしなみ」を第一に考えています。一方容認派(足ムレ君)は、「足ムレの不快さ」「臭いと思われたくないという他者の目」を第一に考えています。

ただし、反対派は、発汗量やにおいの個人差を否定できないはずですし、一般論として、社員一人ひとりが快適に働けるに越したことはありません。容認派としても、「経営姿勢」や「身だしなみ」がどうでもよいわけではありませんし、一般論としてだらしないことをよろこぶ人はいません。

要するに価値観の優先順位が異なるだけなのです。優先順位の問題であるならば「自分はそうは思わないが、相手がそう思うのは理解できる」と、相手の正当性を認める余地があるのではないでしょうか。


Phase2: 「発想」のレベルで考える

反対派は「社外の株主に報いようとする気持ちが薄く投資に向かない」という発想です。一方、容認派は「不快感を我慢させられては生産性が落ちる」という発想です。完全に相容れない発想ですが、ここで見るべきなのは発想の内容ではなく論理です。「スリッパを禁止すること」が、それぞれが第一に考える「価値の実現」あるいは「価値の喪失」に論理的に結びつくかを見るのです

反対派にしても、スリッパ禁止による不快感と生産性の関係性を認めるでしょう。社員が理不尽と判断したときの従業員満足度や離職率の影響を否定できないはずです。一方、容認派にしても、スリッパをだらしないと顧客に思われてしまっては、企業の損失につながり得ることは認めざるをえません。また、内向きの経営姿勢であるという主張を完全には否定できないでしょう。

こう考えれば、このレベルでも「自分はそうは考えないが、相手がそう考えるのも理解できる」と相手の正当性を認めることも可能でしょう。


Phase3: 「主張」のレベルで考える

現実に対立が表面化するのはこのレベルにおいてです。身だしなみと外向きの経営姿勢を打ち出しスリッパを禁止すべきだ。いや、足ムレが気になる社員のために、スリッパを禁止すべきではない——完全に相互排除的な主張です。

ですが、ここで見るべきは、「禁止する/しない」という相互排除的な部分ではありません。双方の主張の背景にあるもの、つまり、「経営姿勢」や「身だしなみ」「不快さ」「におい」を交渉の論点として認めることができるか、です。論点として正当性を認めることができれば、最後の段階へと進むことができます。


Phase4: 「合意形成」

当事者がお互いに正当性を段階的に認め合った結果、お互いに歩み寄る気になれば合意形成ができます。

例えば、「身だしなみ」を考慮し、「スリッパをだらしないと顧客に思われてしまっては、企業の損失につながる」の対策を優先するとしましょう。すると、来客エリア・共有エリアでのスリッパは禁止、ただし、自席や執務エリアではスリッパはOKという意思決定ができます。

しかし、この場合、もしパーテーションが低いなどの理由で、来客エリアから執務エリアが見える状態なのであれば、足ムレ君の気が休まる時は訪れません。


そこで、
「来客エリアと執務エリアをしっかり分けるべきか?」

「しっかり分けてしまうことは内向き経営姿勢につながる心配はないか?」

「いや、例えば、東京ディズニーリゾートは執務エリアを一切見せない。執務エリアをしっかり分けることがむしろ、外と内 = オンとオフが明確になることによって、外向き経営につながるのだ」

「パーテーションを交換し、来客エリアと執務エリアをしっかり分け、来客エリアでは最高の接客を実現しよう」

という結論に帰結するかもしれません。


これが対話の力です。双方の歩み寄りによって、新たな問題(来客エリアと執務エリアが分かれていない)を発見し、新たな対策(パーテーションを交換)を行い、外向き経営姿勢を打ち出しつつ、足ムレ君はめでたく自席でスリッパに履き替えられるようになりました。



対話から合意形成につなげるフレームワークのまとめ

最後に、上記のフレームワークの要点を整理しておきましょう。ポイントは2点です。


●Phase1~3は重なり合っていて、互いに行ったり来たりしながら考えを深めていくもの

例えば、その発想(Phase2)は価値の実現(Phase1)に結びつくのか、や
その主張(Phase3)の背景にある価値(Phase1)を交渉の論点として認めることができるのかなど。


●Phase1~3を経ても合意形成の道筋が決まったわけではなく、何をどのように合意形成するのかが重要。双方の歩み寄りの契機を見出したなら、本質的な課題の発見、双方が納得できる第三の解を創り出すことができる。



冒頭に書いたように、今回のスリッパを禁止すべきという記事に対するTwitterの反響は多くが批判でした。それ以外でもTwitterでは毎日批判で溢れています。しかし、ただ意見を批判するのでは何も生まれません。(ここまですでに4000文字、Tweetの140文字ではムリがあるのかもしれませんが…。)

よく批判をするなら代案を出せという論調がありますが、それも議論を前にすすめる一つの手段でしょう。ただし、もし、相手がその代案を受け入れてくれなかった場合はどうでしょうか。むしろ、すんなり受け入れられることのほうが少ないはずです。

そこで必要なのが対話です。他者に歩み寄ることは、必ずしも相手を敬ったり好感を持つ必要があるわけではありません。他者の(人格でなく)論理に沿って、他者の思考を再構築するくらいの気概があっても良いのではないでしょうか。それが合意形成の一歩につながるはずです。




P.S.

足ムレ君の私ですが、調べてみると、発汗量(ムレやすさ)は遺伝で決まってしまうようですが、においは遺伝しないようです(※8)。つまり、きちんとケアすればにおいは防ぐことができるとのこと。

私は足ムレ君であることは防げませんが、足クサ君になりたくはありません。

自席ではクロックスを愛用し、万全のムレ対策を行いつつ、来客エリア・共有エリアではクロックスを履かない、を実践していますので、スリッパ禁止派の皆さま、どうか暖かくお許しいただけると幸いです(笑)




※引用元

(※1)「スリッパに履き替える企業はダメ」 プロの銘柄選び
注目ファンドマネジャーに学ぶ勝利の方程式(1)
(2017/09/30アクセス)

(※2)頼むから、社内でスリッパを履いてくれるな(2017/09/30アクセス)

(※3)男性の足の臭いは雑巾、女性は●●の臭いであることが調査で判明(2017/09/30アクセス)

(※4)北川達夫.不都合な相手と話す技術.東洋経済新報社.2010.P64.

(※5)同上.P73.

(※6)同上.P63.

(※7)同上.P74-P76.

(※8)足の臭いは遺伝??(2017/09/30アクセス)

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なおゆき

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