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naraノート:10 二月堂観光の思い出その3

二月堂の休憩所は、昭和の時代から時計の針が止まっているようだった。案内板は黄色く色あせ、扇風機はもはや骨董ものという風情だ。

そこでは、用意されているお茶を自由に飲むことができる。茶碗は使ったら自分で洗うスタイル。とりあえずお茶をすすりながら一息入れる。すると息子がトイレに行きたいと言い出したので、休憩所裏のトイレに連れて行く。休憩所裏は7月初旬ながらまだ紫陽花が咲いており、休憩所を背景にしてみるとなかなか趣きがある。ついついぼーっと眺めていると、息子がトイレから出てきて声をかけてくる。その声で我に返った私は息子の手をとって休憩所へと戻った。

休憩所に戻ると母も叔母も休憩を終えようとしていたらしく、茶碗を洗っていた。私も自分の茶碗を洗い、休憩所を後にした。そして、先ほどの廊下を下る。

廊下を抜けて少し進むと、左手に土塀のある裏参道に出た。後から知ったことだが、この裏参道は奈良を代表する写真家の入江泰吉が、その風景をカメラに収めた場所である。息子は見馴れぬ光景に好奇心が刺激されたのか、参道のあちこちを走り回っている。

すると何かを見つけたらしく、参道脇でしゃがみこむ。そして「お父さーん」と私を呼ぶ声。どうやら彼はサワガニを見つけたらしい。そのなかなかの観察力に親バカよろしく感心しながら、一緒にサワガニを眺める。東京に暮らしているとこういった生き物を目にする機会は少ない。しばらくの間息子と一緒にサワガニを眺め、好奇心が落ち着く頃合いを見計らって、東大寺を目指してまた歩き出した。

つづく

#奈良 #二月堂

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