やさしい気持ちで万葉集 山吹の花に導かれて
日本最古の歌集『万葉集』
古代に行きた人々の生の声が聞こえるような、喜怒哀楽が散りばめられた歌です。
昔の人の肉声は聞けませんが、歴史書には載っていない、もうひとつの姿を垣間見せてくれます。
高市皇子という人物がいます。
天下分け目の争いに勝利した天武天皇という人物の息子なのですが、奈良時代の大貴族・長屋王の父と言ったほうがとおりが良いかもしれません。
彼の生きた時代は、父の天武天皇がビックメジャーだし、異母兄弟もたくさんいるので、ちょっと存在を知られていないかなあという気もします。
でもこの高市皇子の残した歌がとてもいいのです!
高市皇子を語るために、少し遡って聖徳太子様の時代から始めます。
聖徳太子さまの時代から遡って
聖徳太子さまが生きていた頃、その政治を助け一緒に働いていたのは蘇我氏でした。
蘇我蝦夷(そがえみし)が聖徳太子様の力となり、ふたりにはわかちがたい結びつきがあった…!と描いているのが、山岸凉子先生の『日出処の天子』です。(名作)
しかしえみしの息子いるかの時代になって、蘇我氏は天皇を超える力をつけ、天皇を蔑ろにするような態度を取ったために、白昼堂々暗殺されてしまいます。
いるかを討ったのは、中大兄皇子。
中大兄皇子は、のちに天智天皇となって即位しました。
天智天皇の弟で、右腕として働いていたのが大海人皇子という弟です。
天智天皇の弟である彼が後継者!と誰もが思っていた所、天智天皇の息子・大友皇子がにわかにクローズアップされてきたために、こりゃまずい、今度は俺が殺されるかも…と思って大海人皇子は先手を打ちます。
打って出た大海人皇子が開いた戦いこそ、『壬申の乱』です。
どっちが尊いの?
壬申の乱で勝利した大海人皇子は、天武天皇として即位します。
天皇として働きぬいた天武天皇にやがて死が訪れます。
その後継者となったのが、天武天皇の息子である草壁皇子です。
天武天皇には多くの子女がいまして、皇位を継ぐ立場にある男子は10人いました。
その中で草壁皇子は、2番めの年令。しかし身分は一番高いとされていました。
当時はまだまだ熱烈な身分制度。
父親が誰であるかはもちろん、母親の血筋も問われたのです。
草壁皇子の母は鸕野讚良皇女(うのさららのひめみこ)
父親が天智天皇なので皇女です。
あらゆる女性の中で、皇女が最も身分が高いのです。
他の兄弟たちは、豪族の娘だったりしたので、皇女を母に持つ草壁皇子が跡継ぎ候補ナンバーワンでした。
しかし草壁皇子は大変にびみょーーな問題があったのです。
弟にあたる大津皇子という男子がいたのですが、彼の母もまた皇女。しかも草壁皇子の母とは姉妹だったのです。
年令でいうと、草壁皇子のほうが年上です。
しかし、大津皇子の母は、草壁皇子の母の姉でした。
姉妹の身分の差でいうと、出自が一緒の姉妹ですから、年かさであるということで、姉の方が位が高いことになります。
しかし、実際に跡を継ぐべき男子は、妹の子の方が先に生まれました。
これどっちを優先するべきなんでしょうか?
姉の子の方が位が高いの?
妹だけど、年令が上の方の皇子を優先すべきなの?
長男でありながらずっと補佐役として
この答えは、姉が先に死んでしまっていたことで自然と決着がつきました。
生きている妹の方が、自分の子の優位性を主張したのです。
息子が天皇となる器を備えるまでの間、着々と力をつけてきたもう一人の天皇候補、自分の甥でもある大津皇子を粛清したりもして、その血脈を盤石なものにしていきます。
しかし、草壁皇子は天皇の座に付くことなく死んでしまいます。
ただ、子供を残してくれました。
彼女は、息子の死後まだ跡を継ぐには程遠い孫のために、自分が天皇になることで権力を掌握します。
彼女の名を持統天皇と言います。
この様子をずっと傍らで見てきた人物がいました。
彼もまた、天武天皇の息子であり、父が起こした壬申の乱にも従軍し、勝利の後は共に働き、持統天皇が即位したあとは太政大臣という最も高い地位にて政治を率いた人でした。
彼こそが高市皇子なのです。
天武天皇の長男でありながら、母の身分が低いためにその後継ぎにはなれななかった人です。
壬申の乱では父天武天皇に最も信頼され、軍の指揮を任された人物。
その人となりを知るすべは少ないのですが、万葉集に歌が残されています。
それはすべて、ある女性に向けた追悼の歌でした。
そしてこの歌が、高市皇子の歌として残るすべてなのです。
高市皇子と彼が残した万葉集の歌について語ります。
【オンラインイベント】やさしい気持ちで万葉集 山吹の花に導かれて
【日時】2023年 8月20(日)
20時スタート 21時30頃終了
zoomによるオンラインイベント(見逃し配信あり)
【参加費】2000円
【オンラインイベント】やさしい気持ちで万葉集 山吹の花に導かれて | ただうち香織の奈良ガイド (uruwashinara.com)
巻頭イラストはyonakaさんのものを拝借しました。ありがとうございました。
奈良でガイドをしています。これからもっとあちこち回っておもしろいガイドを提供します。ご支援どうぞお願いいたします。