ひかるん_4

2018.5.26「信岡ひかる生誕祭 Oh! 20th 〜ついに時はキタ〜」レポート




 テキスト&イラスト:松村早希子

 今なら、「ありがとう」が言える。
 ライムベリーという存在のおかげで、こんな類稀なる素晴らしい女の子、ひかるんに出会えた。

 このテキストのために2015年3月に書いた自分のブログ
を読み返していた。

大好きだった世界が突然消えた、しかも最悪の形で。ということにまだ動揺していて、人と話している時はまだマシだが、朝起きた時や夜眠る前や、仕事で一人残って単純作業してる時などに気がつくと泣いてる時があったりして、情緒が不安定。
ただ、この世の大多数の人たちにとって、テレビにも出てないひとつのアイドルグループの揉め事や顛末なんて本当に取るに足らないことで、興味も関心も無いということはよくわかってる。
不特定多数の人々が読むインターネット上の文章では、客観的で正確な情報を載せるべきとも思うし、単純に説明しないと読み物として不親切。
でも今、人に親切にする心の余裕が無い。ライムベリーがどんなグループで、2015年の2月に何が起こったかを冷静に説明する気力も無い。

      (まつむらさきこ「ライムベリーと私」)

とても感傷的で、いわゆる「わかる人にはわかる」「わからない人には不親切」な、自分が一番嫌いなタイプの文章。
でも、あの時期にはこういう風にしか書けなかった。

ライムベリーに起こった悲しい事件について触れるとどうしても恨み言が出てきてしまうけれど、それは一番傷つけたくない存在を傷つけることになるので、このブログを書いた当時と変わらず何も言えないし、言いたくない。3年という時間が流れても、心の痛みは全く変わっていない。

でも変わったこともある。グループ創設当時に中学生だったメンバー4人は、今年全員が二十歳になった。MIRI、HIME、HIKARU、そしてプロデューサーのE TICKET PRODUCTIONこと桑島由一氏は、今も活動を続けている。

MIRIちゃんはライムベリーの名前を継いで現在も活動中。ソロとしてもアルバム2枚を発表し、フィメールラッパーとして着実に成長している。HIMEちゃんは2015年12月にlyrical schoolに加入し、可愛い妹キャラからグループを牽引する存在になった。
桑島由一氏は吉田凛音ら数々のアイドルにラップ曲を提供しミニアルバムをリリース。現在は新しい「女の子ラップユニット」を準備中。そして、DJ HIKARU、ひかるんこと信岡ひかるちゃんは、現在はソロアイドル・モデルとして活動中。
悲しみの中にずっと閉じこもっている人は誰もいなくて、みんなそれぞれの道を進んでいる。

2018年5月26日、渋谷gee-geにてひかるんの生誕記念ライブが開催された。


「信岡ひかる生誕祭 Oh! 20th 〜ついに時はキタ〜」このちょっとふざけたライブタイトルも、人を笑わせることが大好きなひかるんらしい。

   ひかるんとは何度もライブで共演しているはちきんガールズの石川彩楓さん、演劇の舞台で共演した若林倫香さんという縁あるゲストたちのライブとトークの後、二十歳のひかるんのライブが始まった。

以前から告知で「すごい方々とご一緒します!」と強調してだいぶハードルを上げていた、小林清美先生率いるバンドメンバー(その場でひかるんが急遽決めたバンド名は「クレイジー隊」 Gt.オバタコウジ、Ba.林由恭、Dr.林久悦、Pf.小林清美先生)の演奏が、そのハードルを軽々と飛び越えて本当に凄かった。
一曲目のイントロが鳴り出したその瞬間からもう音の迫力が桁違いで、小さなライブハウスで東京ドームや武道館クラスのプレイヤーの極上の演奏を味わえたのは、近所の洋食屋で突然ミシュラン三ツ星クラスのお料理が頂けたような贅沢さだった。

弾ける明るさの「Puppy Love」で華やかに幕を開け、続く「涙色の傘」で叙情的な世界に変わった。初めての小林清美先生提供曲。初めて聴いた時は、このTHE清美先生ワールドという感じの、女の情念溢れる歌をひかるんがどう表現するのだろうかと心配したけれど、ひねりがなく真っ直ぐな印象だったひかるんの歌声に、憂いが生まれていた。そして清美先生楽曲のカバー「君の帰る場所 僕の行く場所」は、複雑な表現に挑戦する姿が見えた。

カバーが続き、あまりにも有名な椎名林檎の「丸の内サディステッィク」。本家ではピアニカが奏でるイントロのフレーズをギターが鳴らした瞬間「キタ!あの曲・・・」と思った。ひかるん本人は「意外だと思います」と言っていたけれど、とても声に合っていて、ひかるん自身も歌っていて気持ちよさそうだった。そして前述の通りバンドの演奏は最高で、個人的に大好きな曲をこの演奏陣で聴けたことも嬉しかった(ギターソロの色気がすごかった)。

この曲を歌ったことでバーンと喉が開いた感じがして、最新シングル曲「Crazy amazing」は、独特の世界観を持つ小林清美先生が「ひかるちゃんの為に新しい世界を作ってあげたかった」とインタビューで語っていた通り、少女から段々と大人になっていく時の捉えどころのない感情が描かれている。ポエトリーリーディングの手法はライムベリー時代のひかるんの持ち曲にもあったけれど、思春期の少女が抱える繊細な感情が表されたあの頃の曲と違って、「Crazy amazing」は、まだ子供でいたい気持ちと早く大人になりたくてもどかしい気持ちが揺れ動いている。 

 ひかるんがMCで「二十歳の目標は挑戦、セルフプロデュースに挑戦しました」と語っていた。現在ひかるんはセルフプロデュースでアイドル活動を行なっている。新曲「Crazy amazing」では、MVは自分で監督へ依頼し、ジャケット写真も衣装も自分で選んだ。生誕祭の構成も自分で考え、グッズのイラストも自分でイラストレイター(chiro)に発注したものだと話していたことが、しみじみと感動的だった。

 誰かにプロデュースされた役柄を演じてきて、「何かをつくりたい」という自分の意志は全く見えなかった女の子が、美術系の大学でものづくりに貪欲な仲間たちに囲まれた環境で、自分の信じる「良いもの」を生み出したいという欲望を持ったこと。
 お酒が飲めるようになったとか、成人式だとか(振袖姿は楽しみだけど)、社会のルールで「大人」になるのではなく、ひかるん自身が後ろを振り向かず一歩一歩着実にやってきたことが、このライブを一緒に作り上げた人たちのような素敵な出会いを呼んで、いま少しずつ「大人」になっていっている。

ライムベリーの一件があってから、いつまでもグジグジしていて未だにその頃の気持ちを思い出すと泣いてしまう自分がいる。でも心の傷は傷として抱えたまま、目の前の美しい存在と出会えたこと、今この瞬間に只々感謝する。ひかるんが私を「大人」に近づけてくれたと思う。



松村早希子 

プロフィール

 1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。ブログにて、アイドルのライブやイベントなどの感想を絵と文で書いています。
 雑誌『TRASH-UP!!』にて「東京アイドル標本箱」、WEBサイト「リアルサウンド」にてコラム「松村早希子の美女を浴びたい」を連載中。

Twitter
BLOG
Tumblr

  信岡ひかる ライブスケジュール





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?