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「E TICKET RAP SHOW2」発売記念。E TICKET PRODUCTION(桑島由一)インタビュー(前編)「ILLNINALが去年のテーマでした」

E TICKET PRODUCTION(以下、Eチケ)の最新作となるミニアルバム「E TICKET RAP SHOW2」(以下、『ETRS2』)が、4月4日に発売となる。

 今回のアルバムは先行発売されたシングル「ILLNINAL vol.1」、「ILLNINAL vol.2」の2枚に収録された音源に、桜エビ~ずの水春が歌う「Right Now」が新録。
 また、総勢10人によるマイクリレー「ILLNINAL」が、本作の目玉となっている。


 「ich」では昨年初頭に続いてEチケのインタビューをおこなった。



今回は新作アルバムの話はもちろんのこと、昨年発売された「E TICKET RAP SHOW」(以下『ETRS』)以降のEチケの仕事を振り返った。そして前回同様、「Planning&Production」を担当する岡島紳士にも同席していただき、アルバムのコンセプトとアートワークについて話を伺った。


「E TICKET RAP SHOW2」発売記念。
E TICKET PRODUCTION(桑島由一)インタビュー。


「ILLNINALが去年のテーマでした」



——今日は水春さんの「Right Now」のMVの撮影おつかれさまでした。このインタビューと同時公開となりますが、撮影はいかがでしたか?


E TICKET PRODUCTION - Right Now feat.水春(桜エビ~ず)
 ミュージックビデオ


(E TICKET PRODUCTION、以下、Eチケ) 朝からいろんな場所を回って撮りました。僕もどうなるか、よくわからなくて、すごくいろんなイメージの映像を撮りました。


岡島紳士(以下、岡島) 監督はターボ向後さんです。


—— Eチケさんの「花火 feat.Summer Rocket」を撮られた方ですね。


岡島 ノリのいい曲なので、カット割り早く、ギミック感、90年代感が感じられるものを、とお願いしました。サンプリング感というか、いつものEチケ的な感じ。ビデオテープの山を使ったジャケット撮影の現場にも水春さんに来て貰って、そこでもMV撮影をしています。

—— このインタビューの時点ではまだ未公開ですが、「Right Now」はどのような曲になるのでしょうか?

Eチケ ポップな曲に仕上がっていると思います。


岡島 4つ打ちのパーティーラップですね。「ETRS」における「りんねラップ」のような立ち位置となる曲だと思います。


—— 桜エビ~ずの水春さんを起用された理由を教えてください。


岡島 エビ中の妹分的存在のグループとして、前から注目していました。倖田來未などのモノマネが得意で、MC力がある。一人称が「僕」のいわゆる「僕っ子」なんですが、女の子らしさもあって。グループの中で目立っているけど、でもどこか影があって、特別な存在感があります。ラップという表現方法がハマると思いました。


—— レコーディングはいかがでしたか?


Eチケ とてもスムーズでした。表現力があるので、ニュアンスをつけてもらう作業も問題なかったです。シャウト部分は直前にお願いしたのですが、きちんと対応してもらえました。

ILNINALとは?


E TICKET PRODUCTION 2ndミニアルバム「E TICKET RAP SHOW 2」リリースパーティー OP MOVIE


—— 「E TICKET RAP SHOW2」の発売がいよいよ間近に迫ってます。手応えはいかがですか?


Eチケ 作った時期がバラバラですので、前回のような一気に作ったという感じではないですね。
でも、1枚にまとまった時の流れは上手く作れてるんじゃないかなと思います。

—— 今回の参加者を選ばれた経緯について教えてください。

岡島 今回は人数の違いで、曲のバリエーションを出そうと考えました。
異色なのは4人で歌うSummer Rocketですね。4人編成の楽曲はEチケ初で最多人数ですね。


—— 初期のライムベリーは4人でしたが、3MC1DJでしたからね。今回のミニアルバムの製作はいつ頃、スタートしたのですか?


岡島 「ETRS」を作っている時ですね。ただ、「ETRS」のリリースイベントが終わった後は完全に力尽きて抜け殻になっていて、二ヶ月くらいほぼ事務作業だけやっていました。だから本格的に出演者のオファーをはじめたのは4月からですね。


—— シングル表題曲の「ILLNINAL」が今回のコンセプトですか?


岡島 出演者全員でマイクリレーをするというアイデア自体は「ETRS」の頃からあったのですが、スケジュールの都合で実現できなかったんです。


Eチケ ちょっとずつ出た曲がつながって最後に大きなものになるというものを作りたかったんです。「マイクリレー曲があったらあがる」じゃないですか。

—— 聞き慣れない言葉ですが、「ILLNINAL」はどういう意味ですか?


Eチケ 「ILL」というヒップホップ用語と「なる」という日本語を組み合わせた造語ですね。飲みニケーションみたいなものですね。

岡島 ガンバリズムとかビシバシステムみたいなものですね。

Eチケ “ILLNINAL”という言葉が、2017年の僕の目標だったんですよ。だから自分でバッチも作って、「ILLになるぞ」と、気持ちを高めてました。だから、最初にその言葉があって、その後でCDのタイトルにも決めました。

——「ETRS2」収録の「ILLNINAL」は合体版となるのですか?

Eチケ シングルにはなかったパートと水春さんのパートが追加されるので、全体の尺は6分くらいの長さになっています。ラッパーじゃない女の子がマイクリレーする曲としては、かなり珍しいんじゃないかと思います。

—— 長い曲は大変ですか?

Eチケ リリックを書くのは大変ですが、これは少しずつ書いていったので、そこまでじゃなかったですね。人数が多いので、MIXを担当した里本あすかさんの方が大変だったんじゃないかなぁと思います。

—— 「ILLNINAL」は、90年代に流通していた短冊型の8cmCDが二枚並んで
いるように見えるアートワークとなってますね。



Eチケ 二組のアーティストを同時に撮影することはスケジュール的に難しいんですよ。どうしたらいいか迷っていて、そんな中でデザインを早く出すように言われて、とりあえず短冊なら自然に二組が同居できるかなと思って、試しにオザケン(小沢健二)のCDを二枚つなげて見本として出したらOKが出て、今の形になりました。


岡島 8cmCDってだけで気持ちいいですよね。


—— ジャケットには、それぞれ元ネタがあるそうですが。


Eチケ ヒップホップのCDでネタを探したんですけど、8cmってあんまり出てなかったので、単純にJPOPで好きなシングルを選びました。


FUN FOR FUN 
feat.風間マライカ&神﨑風花(sora tob sakana)
「ILLNINALvol.1」収録 

E TICKET PRODUCTION「ILLNINAL vol.1」DIGEST TRAILER


—— ここからはそれぞれの楽曲についてお伺いします。「FUN FOR FUN」は「ETRS」の「AS ONE」に続いてsora tob sakana(以下、オサカナ)からの参加となってます。


岡島 ふうれいさん(風間玲マライカ&神﨑風花)に関しては「ETRS」からのストーリーがありまして、前回オサカナのまなつかさん(山崎愛&寺口夏花)に「AS ONE」に参加していただいたのですが、それを聴いた風間玲マライカさんが「私もラップやりたい」と何度もおっしゃってくださったので、夢をかなえるおじさんとしては、是非お願いしたいと思いました。

Eチケ 「AS ONE」よりもテクニカルな曲で、テイストはオールドスクールな仕上がりとなっています。今回もいつもどおり、アンケートからリリックを組み立てました。個人的には歌詞に寺口(夏花)さんの名前が出てくるのが面白いなぁと思っていて。このCDに出演していないけど、メンバーの名前が出てくるってのは、結構ありそうで無い気がするので。


—— レコーディングはいかがでしたか? まなつかさんの時は親戚の子みたいだとおっしゃってましたけど、ふうれいさんの印象はいかがでしたか?


Eチケ 神﨑風花さんが真面目で黙々と取り組んでいましたね。逆に風間玲マライカさんは挑戦的な感じで、それぞれの性格が出ていましたね。まなつかさんみたいにアッパーと控えめのコンビなのですが、今回の二人の方がは、もうちょっと大人の親戚の子でしたね。

—— ラップはどうでしたか?


Eチケ イケイケでうまかったですね。「ILLNINAL」の時にラッパーっぽいことを言ってくださいと言って、自由に喋ってもらったのですが、その時に神﨑風花さんが喋った一言が、ミニアルバムの最後のワードになっています。それが僕はすごく気に入っていて。ここは、注目です。

—— 今回も歌詞が面白いですね。「山田くんの例のとこみたく」って、どういう意味ですか?

Eチケ アンケートで「ジブリが好き」だと書いていたので『ホーホケキョ となりの山田くん』からイメージしました。『山田くん』で山田一家が暴走族に脅される場面で急に画面がリアルになるシーンがあるのですが、ジブリと言われて真っ先に思い出して。あのシーン、妙に気にならない? という問いかけです。


WONDERFUL WORLD
feat.青山ひかる
「ILLNINALvol.1」収録

E TICKET PRODUCTION - WONDERFUL WORLD feat.青山ひかる ミュージックビデオ(short ver.)


—— 青山ひかるさんの「WONDERFUL WORLD」はアンニュイなラップで、今までにない感じがしました。


Eチケ アンケートによると青山さんは声優さんにも興味があるとのことで、そこからイメージを広げて、夢や理想と現実についての曲にしました。だからこのリリックは一見、恋愛モノにみえるけど、夢に対するスタンスについて書いています。椅子取りゲームがあって、それがうまくいかないとか。
MV自体も女の子同士の恋愛みたいに見えるけど、恋愛の歌ではないんですよ。

—— 青山さんを起用された理由を教えてください。

岡島 青山さんは日本のトップクラスのグラビアアイドルの一人なんですけど、ライブアイドルとしても勢力的に活動されている方なんですよ。だからラップをやってもらったら面白いんじゃないかと思ってお願いしました。実は女の子のラップだからと言って、アイドルにこだわるつもりはあまりなくて、グラビアアイドルや女優、YouTuber、インスタグラマーでも何でも、その方が魅力的なら是非、歌ってもらいたいんです。


—— レコーディングはどうでしたか?


Eチケ すごいハードスケジュールの中で参加していただいて。アンニュイでキュートでしたね。

岡島 舞台が忙しい中がんばってくださいました。


——「世界は素晴らしい」はライムベリーの「世界中にアイラブユー」からですか?


Eチケ ルイ・アームストロングの『What a Wonderful World」のことですので、関係ないですね。


—— アンケートを元にリリックを作るという作り方自体は今まで通りですか?

Eチケ リリックは変わってないですね。以前話したように、機材が変わったことでトラックの作り方が変わったことの方が大きいです。


——「Live」(Ableton)にはなれましたか?


Eチケ 例えると高級なビデオデッキみたいですね。再生はできるけど、難しい機能はまだ使いこなせていない感じです。


——「校舎の影 伸びてゆく影  私は今も青春の中で」というリリックが好きです。


Eチケ 子供の頃に感じていた影が伸びていく怖さみたいなものを表現していますね。他にも自分の一部だと思っていたものが、他人のように感じる心境とか。時の移り変わりとか。その中で過去や夢から逃げられないイメージです。ネガティブにもポジティブにも取れるように書きました。


—— MVの夜の学校には、その怖さがありますね。


Eチケ 夜の学校でMV撮るっていうから恐いかなぁと思ったら、撮影時もグラウンドがサッカー場として使われていて、巨大な照明がついていて、全然怖くなかったんですよ。


—— 映像が凝ってましたね。


Eチケ 監督がこだわる方で、大分工夫されてましたね。


BEATS ME 
feat.南端まいな&野本ゆめか(アイドルネッサンス)
「ILLNINALvol.2」収録

E TICKET PRODUCTION「ILLNINAL vol.2」DIGEST TRAILER



——「BEATS ME」は個人的にはすごく好きなテイストの曲です。



Eチケ 「ロケット噴射でぶっ飛ぶお台場~」のところのババー、ババーってのが今のEDMとは違う、昔のテクノのバカさが出ていて面白いですよね。ライブでやった時はストロボが点滅する演出にしてもらって盛り上がりました。本当はもっと生楽器のサンプリングを入れようと思ってたんですけど結局このバランスに落ち着きましたね。


—— まいゆめ(南端まいな&野本ゆめか)の起用理由について教えてください。


岡島 アイドルネッサンスという清純なイメージのアイドルがラップをやるのも面白いと思ってオファーしました。年齢的にも高校生と中3だけど大分子供っぽくて、曲とのギャップが生きていますね。 アイドルネッサンスには「ETRS」の時もオファーしたかったのですが、オリジナル曲がない状態の時には受けてくれるはずがないと思って勝手に諦めてました。でもその後、オリジナル曲を出されたので「受け入れてくれるかも?」と思ってオファーしました。



—— まいゆめは、ラップは、はじめてですか? すごくうまかったですね。



岡島 そうですね。「BEATS ME」の後に、アイルネだけでBase Ball Bearの「The Cut-feat. RHYMESTER-」をカバーしてますね。



——「17歳のセブンティーン」というBase Ball Bearの「17歳」からの引用もありますね。

Eチケ 僕としても「17歳」には一方的に想い入れのある曲なので……。余談ですが、「前髪」という曲もめちゃめちゃ良くて感動しました。


—— アンケートで印象的だったのは?


Eチケ まいなさんが、少林寺をやってるというので、ウータン・クランとつなげました。あと、アンケートではないですが、「こりゃ良い  it is good」ってラインは、Run‐D.M.Cが「笑っていいとも!」に出演した時にタモリが即興でやったラップからですね。

——「ムーブはジャズヒップ」というのもタモリつながりですか?

Eチケ それは、ゆめかさんがジャズヒップというダンスをやっているそうで。

——「アイドルとはつまり終わることなきパーティー」というリリックが、刺さりますよね。今となっては、複雑な気持ちになりますが。


Eチケ アイドルとはなんぞや? と考えた時に「終りなきパーティー」じゃないかと出てきたんですよね。『今夜はブギー・バック』の「とにかくパーティを続けよう」へのアンサーでもありますね。

花火
feat.Summer Rocket
「ILLNINALvol.2」収録

E TICKET PRODUCTION - 花火 feat.Summer Rocket ミュージックビデオ(short ver.)



——「花火」は今までとは違うテイストですね。


Eチケ これは10年以上前に作った曲で、ほぼ原型通りですね。いろいろ作ってどれがいい? って岡島さんに聞いたら、「花火」がいいって言われて。前からどっかのタイミングでやろうという話はしていたんですよ。夏の歌なので、サマロケに合うかなと。



—— ライトノベルを書いていた頃ですか?



Eチケ その後だと思います。MOEK-MCZよりも前ですかね。



——Eチケさんが桑島由一名義でライトノベルで書いていた時の話みたいな歌詞ですね。


Eチケ 最後の「君置き忘れた本に挟んだ しおりも二度と見ることはないな」って歌詞が、めっちゃカッコよくてパンチライン。原曲はもっと大人な歌詞だったんですけど、マイルドにしています。



——作ったけど歌う人がいなかったから封印されていたという感じですか?



Eチケ 元々その頃は、誰かに歌ってもらうって気持ちで作ってなかったんですよ。だから封印していたわけではありませんが、良い曲なのであらためて世に出したいなっていう。

—— 岡島さんはEチケさんの音源を聞いてどう思いました? この曲を選ばれた理由を教えてください。


岡島 声が若いですね。


Eチケ 痩せてた頃の声です。



岡島 90年代の日本語ラップの中でも、無視された文脈の曲だと思うんですよ。


—— こういう流れがあったんですか? 個人的には、かせきさいだぁは連想しましたが。


岡島 音楽評論家の宗像明将さんも、同じことを言ってましたね。


Eチケ これってあえて、かせきさいだぁを意識したとかじゃなくて、当時の僕がこういうラップをやっていたんですよね。だから本当の意味でオールドスクール。これと新しめの「BEATS ME」といっしょにあるのが面白いですよね。アレンジもあえて昔のままで余計なものはないですね。サンプリングだけ弾き直してもらって、それ意外は、ほぼそのままです。


—— サマロケに歌ってもらった印象はどうでしたか?


Eチケ 自分のデモのイメージと、良い意味で1番ギャップがあった曲ですね。爽やかな印象で、とてもアイドルっぽくなることに驚きました。


岡島 サマロケは参加者のなかでは、ダントツで“地下アイドル”のフィールドにいたグループだったと思うんですが、だからこそのやぶれかぶれ感というか、当たって砕けろ的な、怖いものがない感が武器になると思ってお願いしました。実際そういう風になってくれて良かったです。
4人が頑張ってくれたおかげで、一生懸命感が清々しい音源とMVになったかと思います。


—— 4人の曲は難しかったですか?


Eチケ 振り分けて作詞したわけじゃなくて、元の歌をパート分けしたので、4人で歌うということはそこまで意識してないですね。

—— あてがき要素はないんですか?

Eチケ 「ILLNINAL」の4人のパートはあてがきですが、この曲は違いますね。歌詞の世界観が先にありきです。


—— 4人は、なんとおっしゃってましたか?

Eチケ 恋愛が終わっていくことを男の子目線で歌うのが新鮮だったと言ってましたね。あと、この歌にもタモリへのリスペクトがありますね。

—— タモリズムですね。こういう桑島由一的なラノベの世界観をラップにするというやり方は今後出てくるんですか?

Eチケ どうなんですかね。


—— 実はEチケの世界観と桑島由一の世界観って乖離しているじゃないですか。桑島由一の小説を読んでいたファンとEチケのファンも実はつながっていないし、お互いのことを知らなかったりするわけで。この曲って唯一、その両方が重なっていると思うんですよね。

Eチケ それは意識してやったわけじゃないので、わからないですね。僕としては、「WONDERFUL WORLD」と方法論は変わってないつもりです。昔の歌だからこういう歌詞になったってだけなのかなぁ。

—— 男の子の考え方が若いですよね。予備校生くらいの年齢の子って感じがして初々しいと思いました。


Eチケ 僕はもう、おっさんだからなぁ。意識的にやってるものじゃないから、この当時の等身大の歌詞が、こういう感じってだけじゃないかな。

—— この頃の作品は他にはないんですか?

Eチケ あるにはあるけど、同時期に作詞していたのは、コスプレイヤーと恋愛したいというラップと、アキバで美少女ゲームを買うために並んでるってラップだから、世に出ることはないですね。


後編に続く。


 リリースパーティの詳細はこちらを参照ください。

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