「E TICKET RAP SHOW 2」発売記念。E TICKET PRODUCTION(桑島由一)インタビュー。(後編)「アイドルラップと90年代」
E TICKET PRODUCTION(桑島由一)インタビューの前編では『E TICKET RAP SHOW 2』の内容を中心に話を伺った。
後編では、E TICKET PRODUCTION(以下、Eチケ)が2017年に楽曲を手掛けた、ぱいぱいでか美と吉田凜音の楽曲についての話を伺っている。
そして、最後にアルバムのジャケットについて話していただいた。
あの、一度見たら忘れられない山積みにされたビデオテープを用いたジャケットはどのようなコンセプトで作られたのか?
そこにはEチケのアイドルラップとは違う、もう一つの90年代が存在した。
「E TICKET RAP SHOW 2」発売記念。E TICKET PRODUCTION(桑島由一)インタビュー(後編)
「アイドルラップと90年代」
PPDKM
ぱいぱいでか美
ぱいぱいでか美「PPDKM」(MV)
ーー ここからは2017年にEチケさんの手がけた「ETRS2」以外の曲について伺います。最初に、ぱいぱいでか美さんの「PPDKM」について教えてください。
E TICKET PRODUCTION(以下、Eチケ) Eチケっぽいラップを書いてくれって依頼を受けたので、「よーしTB-303を入れちゃおう」みたいな感じで作りました。最初にレゲエホーンが入るのはオーダーされたので入れましたね。今となってはもうちょっとBPMを上げればよかったかなと思います。歌いにくいと思って下げましたけど、もう10ぐらい上でもよかった。
—— レコーディングはどうでしたか?
Eチケ ディレクションは別の方で、僕は後ろで見ていただけです。Eチケ完全プロデュースじゃない時は他の人がディレクションに入ることがほとんどで、場合によっては収録に行かないこともあるので。
—— ぱいぱいでか美さんの歌も、アンケートから組み立てたのですか?
Eチケ すごく丁寧に書いていただいて、面白いコラムを読んでいるみたいでした。カーペットが焦げたって話があったので「胸は焦がしても焼かないカーペット」という歌詞につながりました。象が好きって書いてあったけど、普通の象じゃでか美さんらしくないので、(サルバドール・)ダリから「宇宙象」という言葉を入れてますね。
もらった情報を組み立てることで、でか美さんの面白さが伝わればいいんじゃないかな。
あとは、バンドじゃないもん!やアカシック、(神聖)かまってちゃんといった、パーフェクトミュージックのレーベルメイトからの引用もあります。
—— ラップはどうでしたか?
Eチケ スゴイ練習してきていただいたので、何の問題もなかったですね。
岡島紳士(以下、岡島) レコーディングの前の日程でいつもレッスンを行うんですが、でか美さんは完璧に歌えてて、しっかり練習したんだなと思いました。レッスンが巻きで終わったのは初めてだったかもしれないですね。すごく真面目な人なんだなと思いました。
Ride On Turtle 吉田凜音
「RINNE HIP」収録
吉田凜音アルバム「SEVENTEEN」初回盤DVDよりライブダイジェスト、トレーラー映像(「Ride On Turtle」は58秒からダイジェストで流れる)
——「りんねラップ」以降、吉田凜音さんとの仕事が増えていますね。まずは「RINNE HIP」に収録された「Ride On Turtle」ですが、この曲はどういうオファーが来たのですか?
Eチケ オーダーがきて、最初に出したものはボツになったんですけど、おそらく陽気で幼すぎたんじゃないかなと思います。じゃあ、これはどうですか? と次に出したのが「Ride On Turtle」でした。僕なりのTrapですね。
Trapやるにあたって、「あい! あい!」って掛け声が使いたいけど、他の人が使ってるサンプリングソースがわからなくて悩みました。それで色々調べて、バリ島のケチャの声を使いました。だから民族音楽の要素が入ってるんですよ。
—— 歌詞がギャングスタラップですね。かなり物騒な感じで。
Eチケ 凜音さんの時は「悪ガキ感」を入れることが多いですね。一部明らかにやりすぎなんですけど(笑)。この曲に関しては、オールドスクールじゃなくて、今日的なイメージというオーダーがあって作りました。
—— オールドスクールのラップと、Trapでは作り方は違うんですか?
Eチケ 端的に言うとサンプリング主体か、打ち込み主体の違いですかね。
—— Trapってどうやって作るんですか?
Eチケ 僕もほぼ初めて作るタイプの曲だったのですが、まずベースドラムをいくつか配置して試行錯誤しながら作りましたね。でもこの曲はTrapまでは行かない感じです。どちらかというとブレイクビーツとかドリルンベースの文脈かも知れません。
—— タイトルの「Ride On Turtle」というのは、何かヒップホップのスラングなんですか?
Eチケ スラングですか? って、よく聞かれるんですけど、実は全然違うんですよ。メイクマネーする曲というところから連想して『おぼっちゃまくん』(小学館)から引用しました。
—— あぁ! 小林よしのり先生のギャグ漫画ですね。普通わからないですよ(笑)
※『おぼっちゃまくん』の主人公の御坊茶魔は、超お金持ちの子供。複数の子亀に乗って移動する。
Eチケ 本当は「ギャラ高い方が今夜のボス」って歌詞にしようと思ったけど、ちょっと、ビッチ感が出過ぎるので、「わたしのボス」に変えました。タイトルと絡めて深読みされても困るし。
——「三日前の雇い主はKILL」も物騒でいいですね。
Eチケ あれは単純に、凜音さんはこれからどんどん売れていくだろうから、どこかで僕が切られるんじゃないかという不安を自虐気味に入れました。リリックの中には、ノリアキの「unstoppable」のインスパイアもあります。こういうところから引っ張ってくること、僕の手法としてかなり重要です。
パーティーアップ 吉田凜音
「STAY FOOL!!」収録
吉田凜音「パーティーアップ」ミュージックビデオshort ver.
——「パーティーアップ」について教えてください。
Eチケ 「りんねラップ」の流れを汲むものというオーダーを受けて作ったんですけど、仮の歌詞で書いたものが採用されたので驚きましたね。たとえば「右手に持ってるマイカフォーン」ですけど凜音さんは左利きなんですよ。こちらとしては後で直そうと思って書いていたんですけど、OKと言われて。
—— 基準がわからないですね(笑)
Eチケ 一番の歌詞が結構エキセントリックなのは、仮の歌詞として自由に書いているからですね。次に凜音さんに作った曲の「BQN」は、「パーティーアップ」の、エキセントリックな部分を踏まえて書きました。
—— あと、梶井(基次郎)と太宰(治)って名前が出てくるのが、文学色が強いというか。
Eチケ 村上が春樹か龍なのか、受け取る人によって違うのが面白いんじゃないでしょうか(笑)
—— そのつながりで「愛の才能あんの」って歌詞は音で聞いていた時は庵野秀明のことかと思ってたんですが、冷静にみると川本真琴の「愛の才能」ですね。
Eチケ あれは岡村(靖幸)ちゃんのイメージですね。仮だから自由に書いて何か言われたら修正しようと思ってたらOKが出て、その調子で二番もお願いします。って言われて、逆にどうしようって迷いましたね。
—— そんなことってあるんですね。
Eチケ あと「上にあるのは天井と教師」はECDさんの「HOLD UP!」のイメージ引用ですね。
—— トラックはどのような感じで作られたのですか?
Eチケ 自分の思うオールドスクール感ですね。ホーンは打ち込みを吹き直してもらって、それでソウルフルになっている面もあるのかもしれないですね。MIXはECDさんのDJなどをやっていたILLICIT TSUBOIが担当されていて、だからECDさんの引用が多いのかもしれないです。どう思うかな? 気付くかな? って感じで恐る恐る入れる感じで。
—— MIXはどうでしたか?
Eチケ MIXで音が差し引きされたり、弾き直しがあったりで、結構印象は変わりますね。
あと、この曲は最後に爆発があるんですよ。
—— あれは最高ですね(笑)
終り方をどうしようかと思った時に宇多丸さんのラジオでやっていた「N.Yエンディング」(曲が爆発音で終わることを指す造語)を思い出して、TSUBOIさんに爆発の音をわざわざ用意してもらったんですよ。それなのに「違う爆発音が良い」ってワガママを言ってしまい結果、今の爆発を用意してもらいました。
—— 爆発にこだわる男(笑)
Eチケ ドッカーンの後にカランカランみたいのが来て、そうこれこれみたいな(笑)。すごい面白かったです。
—— 僕はまだ未聴なのですが、ライブで披露した「BQN」はどんな曲なんですか?
Eチケ 基本はオールドスクールという依頼だったので、Run-D.M.Cの「walk this way」を意識したんですけど、全然違うものになってしまいました。「りんねラップ」や「パーティーアップ」よりは変化球だけど、でもわかりやすい曲になっていると思います。
—— 吉田凜音さんの曲を書く時は、Eチケさんの中でかなりイメージが出来上がっているんですか?
Eチケ 元々あるイメージを誇張してます。「りんねラップ」の頃はやんちゃな悪ガキぐらいだったのが、『パーティーアップ』ではギャングというか。
—— キャラクターがどんどん悪い方に出世している。
Eチケ 最初は遠慮して書いていたのが、途中からもっと誇張してええんやろ。みたいな。
岡島 凜音さんは「りんねラップ」と「ETRS」をきっかけにして「RINNE HIP」が始まり、Victorからのメジャーデビューが決まり、ソロアイドルからラップ系アーティストにこの1年で変化しましたね。そして『真冬のオオカミくんには騙されない』(abemaTV)に出演したことでネクストブレイク枠に。それに伴って「パーティーアップ」と「りんねラップ」のMVの再生回数がかなり伸びてます。僕とEチケはVictorさんでの会議に呼ばれて、凜音さんの今後の音楽性とかについて、ブレストレベルですが話し合ったりしています。元々ラップだけじゃなく歌がすごくうまい子なので、バランス良く表現しつつ、ブレイクして欲しいですね。
—— Eチケさんにとって2017年はどんな年でしたか?
Eチケ 『ETRS』が出たのが2017年の1月でした。自分名義のCDは初だったのでシンプルに感動しました。以降もたくさんの方と曲を作ったりMVの撮影したり、刺激になることが多かったですね。それらを点ではなくて線に繋げるような活動をしていきたいです。
『E TICET RAP SHOW2』のCDジャケットは
どのようにして生まれたのか?
—— 最後に『ETRS2』のジャケットについて教えてください。ビデオテープの山の上に女の子がいるというスゴイビジュアルですが。
Eチケ あれは完全に岡島さんの世界観ですね。
—— Eチケさんは、意見を言わないんですか?
Eチケ 最初はアイデアがたくさんありましたが、だんだんネタが無くなってくるじゃないですか。だから、アイデアが出ない時は岡島さんにお任せしています。だから今回は岡島さんのアイデアですね。
—— 岡島さんは、どうしてこういうジャケットにしたんですか?
岡島 自分にとっての、90年代を象徴するものとしてビデオテープを選びました。
—— あのビデオは私物ですか?
岡島 実家から上京した時に全部持ってきたものです。家の押入れやクローゼットはほとんどビデオテープで、収納スペースとしての意味をなしていないですね。
—— ラベルにはタイトルが書いてあるんですよね。
岡島 写真では見えないけどシャーペンで細かく書いてありますよ。マジックで書いてあるものは修正してます。『ポケベルが鳴らなくて』(裕木奈江主演、93年放送の日テレ系列のドラマ)とか、僕が好きなだけでEチケに関係ないので。
—— 私物ってのが、スゴイですよね。
岡島 カセットテープだとCDを録音して音楽を聞くためのものですけど、VHSってテレビ番組を撮るものですよね。今だと全録とかYOUTUBEがあるけど、当時は一度録り逃がすと二度と観れないんですよね。特にバラエティや歌番組は。子役オタ、アイドルオタにとっては一回(番組を)録り逃がしたら終りで、だからビデオデッキを常に回しておかないといけなかったんですよね。アイドルオタクの用語に「〇〇ちゃんのCM捕獲しました」って言い方があるんですよ。
—— もはや野生動物と同じ扱いですね。
岡島 天から与えられたものを我々が捕まえるという。だから僕のような在宅派は一日中ビデオデッキを回してましたね。そして録画し続けているので再生する時間がなくて観ることができないという。複数デッキを持ってても全部が録画で回ってたりするから。
—— 岡島さんほどではないですけど、僕も似たようなことをやってました。それは90年代的な体験かもしれないですね。
岡島 ラジオを録る人もいたけどそれは少数派で、やっぱりカセットテープは音楽を録るものだったじゃないですか。ビデオテープはより個人的で日記みたいなものとなっている。
—— どの番組を録るかという行為が、そのままその人のパーソナリティーを現している。テープのラベルをみるとその人のことがわかるという。
岡島 ラベルに違うタイトルを書いて、誤魔化したり。
—— ラベルにタイトルを書いて整理している人はまともな人ですよ。僕は雑に扱ってました。
Eチケ 岡島さんがビデオテープを持ってきた時に、これは撮影に使った後は捨てるのかと思ったんですよね。でも、綺麗にダンボールに閉まって持って帰ったから、驚きました。
岡島 録画時の時系列順にダンボールに入れてもってきたので、撮影の時にできるだけこの順番に置いてくださいと言ったのですが、結局、無理でした。帰ってから元の順番に戻すのに一日半かかりました。
——でも、もう中の映像は一生観ないんですよね。
岡島 観ないからってのは、よくわからないですね。じゃあ、観るための録っていると思っていたのか? っていう。それは舐められている。
——手段と目的が転倒しています(笑)
岡島 狩人なんで。カメラマンがテープを引き出してちぎった時は身を切られるような思いになりました。既にHDDにダビング済みで、捨てていいテープではあったんですけど。
Eチケ ビデオの山を見て、岡島さん、だいぶヤバイと思いましたけど、スタジオで一本だけビデオを再生したら映像と音楽で『MEMORIES』(大友克洋が監督したオムニバスアニメ映画、OP、EDは石野卓球が担当)だと一瞬でわかった時は、僕もヤバイと思いました。
岡島 ビデオテープとビデオデッキはアートとして使われてないからやりたいなぁと思ってました。最近のレトロ趣味のものでカセットテープやフィルムのカメラが再評価されてますよね。そう考えるとVHSのビデオテープも有りのはずなんですけど、話題になるのはいつもセルビデオなんですよね。『VHSテープを巻き戻せ!』という映画もありましたけど、あそこで話題になるのはセルビデオやB級ホラーばかりじゃないですか。
—— 80年代に生まれたレンタルビデオ店での体験がベースにあるものですよね。
岡島 でも本当のメディア体験って自分で買ったテープにテレビの映像を記録した思い出じゃないですか。それは一切誰も触れてないので、いつか自分でやりたいと15年くらい前から思ってました。
—— 女の子がビデオテープの上に乗っているというイメージは昔からあったということですか?
岡島 本当は他にも色々なイメージがあったのですが、時間と場所の制約で諦めたことも多いですね。でも後日発売されるDVDでは、他のカットも見ることができますよ。
—— 出演されたモデルさんはどのような方ですか?
岡島 「JKのLINEあるある」のCMが話題で、「ワイドナショー」などにも出演されている其原有沙さんです。「ETRS」のりりかさんがショートカットでしたので、今回はロングヘアーの方にお願いしたかったんです。複数のアーティストが参加するCDなので、女の子がモデルなんだけど、匿名性のある写真にしたかったんですよ。かつ、アイドルや歌手だと「この子もラップするのかな」と思われてしまうので、若手女優やモデルが良くて。そこでネクストブレイクな若手女優・モデルの其原さんにお願いしました。
—— このビデオテープの山をみていると、壮大なコンセプトの作品にみえますね。
岡島 やっていることは、そんなに変わらないです。だんだん都内で撮れるいいロケ場所がなくなってきたので、スタジオを使った方が自由にできると思ったんですよ。地方に行けばまだまだあるんですけど。別企画ですけど、昔のセルのビデオテープが山ほど置いてある中古屋にもお願いしたのですが断られたので、スタジオで撮ろうと思いました。
—— インパクトはすごいですね。ただ、岡島さんの考えるアートワークのイメージとEチケさんの音楽って、ちゃんとつながってるのかなぁ? とも思いました。
岡島 今日の撮影でつながりましたね。残念ながら。
—— 残念ながら?
岡島 リリースパーティーを楽しみにしていてください。
—— Eチケさんはビデオテープの曲は作らないですか?
Eチケ いや、作らないと思いますけど(笑)
—— 岡島さんの持っているイメージがEチケさんの曲にフィードバックされることってあるんですか?
Eチケ あまり無いですね。同じ90年代でも僕が知っていて岡島さんが知らないことや逆のこともありますから。年齢も育った場所も違うから微妙に好きなものがズレてるんですよね。でも重なる部分があると面白い。あったねーそれ。みたいな時はあがる。だからといって岡島さんの好きな90年代に吸い寄せられるということはないですね。
岡島 Eチケさんには音楽機材に対するフェティッシュがあるけど、僕にはテレビやビデオデッキに対するフェティッシュがある。
Eチケ TB-303をペロペロ舐めたいみたいのが、岡島さんにはないですよね。
岡島 DJ機材に女の子が足を置いた写真を撮るとマニアが怒りますけど、ビデオデッキに足を置いたって誰も怒らないじゃないですか。「君らはビデオデッキ、ビデオテープに悪いと思わないのか?」って思います。
—— 再生装置でしかないですからね。それで映像作るわけじゃないので。
岡島 いや、作りますよ。ダビングして編集するじゃないですか。
—— なるほど(笑)最後に今後の予定について教えてください。
岡島 今回のミニアルバムはリリースパーティーをやった後で店頭イベントをやっていくのでまだまだ先は長いですね。とにかく最後まで完遂せねばと思います。あと水春さんのMVが最高なので観て下さい!そしてリリパもすごくいいものになると思うので是非来て欲しいです。
Eチケ 二枚目のミニアルバム、ぜひ皆さんに聴いて頂きたいです。このCDの中でしか流れない時間、というのもあると思います。アッパーなパーティーチューンからダウンテンポな曲まで、気に入って頂けるものが必ずあるはずです。参加アーティストに興味がある方、ラップに興味がある方、色々な視点で捉えることができる作品ですので、耳を貸すべきです! リリイベ等々ありますので、ぜひ遊びにきてください!
詳しくはこちらを参照ください。
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