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ブラジルのサトウキビ畑にて

去年のお仕事をふり返ってみると、最も印象に残っているのは、ブラジル西部のサトウキビ畑の訪問です。

私は商品企画というお仕事柄、いろんなところへ行って、見聞きして、商品コンセプトを練ります。その協力をしてくれるのが、各地域で自社商品を販売してくれている販売代理店です。まぁ、なかなか儲かる商材なので、販売代理店のオーナーは地元の名士であり、経営者として大成功しているわけですが、なかなかぶっとんだ方が多くて、面白いんですね。

このブラジル西部の販売代理店のオーナーは、その中でも極めつけに面白い方でした。この方は多角経営されており、我々の商材だけでなく、畜産業やら、ガソリンスタンドやら、色々経営されております。訪問時には、オーナーへのヒアリングで、小一時間ほど、ご要望やら苦情やらを伺った後に、市場調査に行く予定でしたが、その日は予定を全て変更して、急遽オーナーツアーに参加することになりました。

言われるがまま、オーナー所有のピックアップトラックに乗り、雑談をしながら、よくわからないハーブティーを回し飲みしているうちに、車はどんどん都市部から離れていきます。しばらくしているうちに、道路から赤土に変わり、そのうちに周りは一面サトウキビ畑に。その先には防風林で囲まれたオーナーの農場がありました。

そこには、従業員の方とそのご家族がお住まいで、ちょうどスクールバスが子供たちを迎えにきているところでした。牧場はとにかく広くて、農機具倉庫やら、オーナーの別荘やら、牛の放牧やら、魚の養殖やら、オーナーのオーナーによるオーナーのためのツアーが始まったのですが、私はかなり焦っていました。もともとの予定では、店舗でヒアリングしているはずが、思うようにいきません。同行している営業マンに、オーナーの目を盗んで、コソコソと「計画と違うよね」と伝えるのですが、「分かるだろう?オーナーさんだぞ!」の一言で片づけられてしまいます。

そうこうしているうちに、日も暮れてきて、私も明日へ気持ちを切り替え始めた頃、ツアーも終わりに近づいてきました。オーナーが運転する車の助手席に座り、「やれやれ」と一息ついた時、おもむろにオーナーは車を止めます。そして、急にダッシュボードを空けて、拳銃を取り出しました。「えっ!何?」と驚いて、オーナーの視線の先を追うと、そこには、鳥が佇んでいました。

オーナーは運転席の窓から、鳥めがけて発砲し始めましたが、全く当たらないんですよね。玉を充填し直して、十発程度撃ったのですが、鳥は前後移動だけで俊敏に避けるわけです。その様子がなぜか滑稽で、ふと後部座席を見ると、営業マンは必死に笑いをこらえていました。

オーナーが運転席を出て、鳥との間合いをつめようとした瞬間、鳥は夕暮れの空に飛び立ちました。営業マンはここぞとばかりに腹を抱えて大笑い。私は外に出て、オーナーと夕暮れの空を見ながら、鳥を見送ったのでした。

ブラジルの大草原の中に、スーツ姿のサラリーマンという構図が、B級映画のワンシーンっぽくて、自分でもおかしくて、忘れえぬ思い出となりました。