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2018年クズ記事オブ・ザ・イヤー

今年、運悪く遭遇してしまった「クズ記事オブ・ザ・イヤー」の発表です。

クズ記事といってもいろいろありますが、ここで紹介するのは、クラウドソーシングを使って書かれるような穴埋めコピペ記事ではなく、悪意をもって確信犯で書かれたインチキ記事のことです。

『なぜ日本のプロ野球選手に、愛煙家が多いのか』

なぜクズ記事なのでしょうか。

それはすべてが根拠のない憶測で書かれ、それが真実であるかのように印象づける独断と偏見に満ちた記事だからです。

たった2〜3人の愛煙家のプロ野球選手を例に、プロ野球界の4〜5割の問題として屁理屈をこねているのです。

私自身、朝日新聞社の「アエラ」という雑誌で、「結婚できない症候群」をテーマに取材されたことがあります。「アエラ」の記者は、私一人の話があたかも7〜8人に取材したかのように捏造し、さらには「世の中のすべての結婚できない男の原因は○○だ」、といった論調で書いたのです。

これと同じです。

たったひとつの例を挙げて、それがあたかもすべてにあてはまる普遍的真実かのように展開する憶測の羅列。暗闇の中、ナイトスコープでカラスを見て「カラスは緑色だ」と結論づけるようなものです。

巨人にいた東野峻という投手が愛煙家だったのを例に、あたかもタバコが原因で20代で引退したかのように示唆しています。

引用

しかし東野は結局禁煙できず、「やめないことも勇気」という難解かつ強気な反論を公にしたばかりか、成績も低迷したため原監督からも見切られた。その後はタバコ断ちを果たしたものの、目立った活躍は残せず、他球団を渡り歩いた末に29歳の若さで引退した。

また、「声もあるが」と書いているのですが、声の主がまったく不明。根拠なく「プロ野球界で全選手の約4割が喫煙者」と言っているのです。私はこの数字がウソだとは言っていません。根拠がないのです。「〜と言われている」と同じで、誰がどこで言っているのか知りたいのです。ネットに書かれている噂レベルの記事を根拠に適当に書いているのでしょう。実際、「プロ野球選手 喫煙」で検索すれば、数名のプロ野球選手の喫煙シーンの写真とともに、数多くのまとめ記事が出てきます。

根拠となるデータを示さず、プロ野球選手の喫煙率を自分の印象で数字を明示しています。JT全国喫煙者率調査によると日本の男子全体の喫煙率が27.8%程度ですが、この記事を書いたライターは平均よりもかなり高い喫煙率だと決めつけています(正確には当てずっぽうの予想)。こんな曖昧な根拠を前提に、「プロ野球選手はタバコをやめるべきだ」と、丁寧に長い記事を書いているのだ。

引用

プロ野球界で全選手の約4割が喫煙者という声もあるが、その数字はかなり少なく見積もっているような気がする。現場で取材している個人的な見解として、全体の半数以上は吸っているのではないかという印象を受けている。

「気がする」「印象を受けている」といった表現で、責任逃れをするために断言を避けているにもかかわらず、半数以上が喫煙者という前提で書かれています。

また、たった一人の喫煙選手のコメントを引き合いに出し、彼の意見があたかもプロ野球選手すべてにあてはまる「やめられない理由」だと結論づけています。

引用

パ・リーグ某球団で活躍する20代後半の愛煙家選手に、こんな話を聞いたことがある。
「タバコをやめようと思ってもやめられない現状がある。なぜなら喫煙所に集まる先輩選手やコーチたちとタバコを吸いながら、その場でしかできない話ができるというメリットがあるから。助言をもらえるのは緊張感のある練習中だけでなく、喫煙所のようにお互いがリラックスした雰囲気の中だとかみ砕かれた言葉になるからスーッと体に入っていきやすい。(中略) そして何よりも今まで吸い続けてきたタバコをやめるのは簡単ではない。何といってもタバコのリラックス効果があるからこそ、野球のプレーも向上できたので」

そして極めつけのとんでも論へと続きます。これも同上のたった一人の選手の態度からの憶測にすぎません。プロ野球選手に愛煙家が多いのは、高校時代から喫煙をしているからだと結論づけているのです。

引用

まあ、仮に「ちゃんと20歳から吸っています」なんて優等生っぽい発言をしたとしても、信用はできなかっただろう。プロ野球界でも未成年のころから隠れて吸っていた喫煙者が大半であろうと推察されるからだ。

私がこのインチキ記事に倣って記事を書くなら、こんな感じの記事にするでしょう。

王貞治、長嶋茂雄、江夏豊、工藤公康、金本知憲、筒香嘉智、坂本勇人などプロ野球史を彩ってきた一流選手は、みな愛煙家(伝聞)だ。愛煙家であることは、超一流の選手になるための必須条件なのだ。いまは嫌煙ブームのあおりを受けて、愛煙家であることを隠す選手が多いが(憶測)、それでもプロ野球選手の約4割は愛煙家である(伝聞)。メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有が、未成年で喫煙していたことがバレたように(事実)、多くの一流選手にとってタバコは欠かせない(憶測)。プロ野球に入って成人になってから喫煙者になるのは考えられないので、彼らはみな高校生のときから愛煙家なのだ(憶測)。根拠のない「タバコ=身体に悪い」キャンペーンに騙されるな。超一流のトップアスリートはみなタバコが大好きなのだ(憶測)。

かなり無茶苦茶な論理展開だと思いませんか。今回紹介した「クズ記事オブ・ザ・イヤー」は、まさにこういう論理展開で書かれた記事なのです。

Webではこんなインチキ記事が、あちこちで正装してしたり顔で闊歩しているのです。


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