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文章術のすべては映画から学んだ

私は小学生の頃から映画が大好きでした。記憶では『ベン・ハー』がきっかけで映画にハマり、当時ゴールデンタイムに放映していた映画はほぼすべて観ていた気がします。家でもテレビで放映される映画だけは聖域で、いつでも何時間でも観させてもらっていました。上京してからは名画座をはしごして古い映画を何度も観に行っていました。80〜90年代は同時期にビデオが普及した頃でもあったので、ほぼ毎晩1本は観ているくらい夢中になっていました。

映画は総合芸術と言われます。脚本があって、演者がいて、演出があって、音声と映像があって、一度に世界中の何百万人、何千万人を巻き込む。こんなすごいエンターテインメントはほかにありません。

私は文字をベースにしたコンテンツの制作を仕事にしていますが、コンテンツをつくるときにはいつも頭の片隅で映画を参考にしています。

映画製作に関する本にも面白い作品がたくさんありますが、今回は文章作成にもすぐ役立ちそうな『フィルムスクールで学ぶ 101のアイデア』という本から10のアイデアを抜粋して紹介します。

① 最初は強く

② 語りすぎずに見せる

③ ビギニング、ミドル、エンド

④ ハイ・コンセプトな映画は一行の文章で説明できる

⑤ プロットは物語性を、ストーリーは感情をこめて

⑥ ストーリーは登場人物特有の性格に、テーマは普遍的な人間性に関係する

⑦ すべての映画はサスペンス

⑧ 対立軸を実在させる

⑨ リズムとテンポ

⑩ 簡潔に!

① 最初は強く

映画を観ていると、冒頭シーンは説明的な描写より、「え?何が起こってるの?」という思わせぶりが多いと思いませんか? 映画のオープニングは作品のテーマを象徴的に表すだけでなく、ストーリーの背景を明らかにする目的もあります。また、インパクトを与えるために最初に見せるのは、「つかみ」です。「つかみ」とは一番面白いポイント」を示唆します。Webコンテンツにおいても、情報洪水に浸かったユーザーは起承転結に従って読む時間も余裕もありません。最初に強いインパクトを与え、「面白そう」と思わせるかどうかがカギを握ります。

② 語りすぎずに見せる

映画では「私は先週、交通事故で妻子に先立たれ、絶望的な気分で何もやる気がおきない」というシーンを主人公に語らせることはまずありません。昼間にカーテンを閉め、ちらかった部屋で無精髭を伸ばしたまま、食事もろくにとらずウイスキーをだらだら飲む……といったシーンが出てくることでしょう。観客はなぜこんな自暴自棄な暮らしをしているんだろう? と疑問を持ちます。そして、妻子を失くしたことは後々にわかってきます。映画は言葉より多くの情報をつめこめる「映像」が主となるので、ムダな説明や会話を極力省き、登場人物の心理描写などは映像で見せるようにします。

「語りすぎる」というのは、言葉で伝えすぎる、ということだけではありません。映像でもムダな説明描写が続けばユーザーは必ず飽きます。あなたの制作したコンテンツが少しでも冗長だと感じたならば、迷うことなく短く削ってしまいましょう。

映像にしろ、言葉にしろ、冒頭では「おや?」(疑問)もしくは「まあ!」(驚き)と、瞬間的に思わせることが重要です。

③ ビギニング、ミドル、エンド

ストーリ―には必ずビギニング、ミドル、エンドの三幕があります。

ビギニング:問題を確立する(状況設定)

ミドル:事態を複雑にする(葛藤)

エンド:事態は解決に向かう(課題解決)

ここで求められるストーリーとは、あなた自身のストーリーではなく、ユーザーのストーリーです。

たとえば30歳になるまで、ずっと彼女ができずに悩んでいる男性がいたとします。もしあなたがそのユーザーの悩みに応えられそうなアイデアを提供するとしたら、ユーザーが自分ゴト化してくれなければ意味がありません。あなたが考えることは、なぜ彼には彼女ができないのか? というユーザーの抱える問題に耳を傾け、彼が求めるストーリーの道筋を示し、助言を与えることなのです。

④ ハイ・コンセプトな映画は一行の文章で説明できる

ハイ・コンセプトとは、ダニエル・ピンクの著作『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』で広く知られるようになった言葉です。

著書によると、ハイ・コンセプトとは

・パターンやチャンスを見出す力

・芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力

・人を納得させる能力 

・一見ばらばらな概念を組み合わせ・新しいものを生み出す能力

とあります。

著者は「情報化社会はコンピュータのようなロジカル能力によって築かれた。次の時代は、創意や共感などによって築かれる『コンセプトの時代』がやってくる」と予言しています。このようなハイ・コンセプトな映画は一行の文章で説明できる――逆に言えば、一行で説明できないコンセプトのコンテンツでは見向きもされない、ということになります。

⑤ プロットはストーリー性を、ストーリーは感情をこめて

プロット(筋書き)とは映画の中で物理的に起きる事象で、ストーリーはその事象に対して登場人物が抱く感情の描写を表します。事実だけが描写されてもユーザーの心は動かされません。プロットにストーリーが付与され、ストーリーに感情の揺れや動きが描写されて、はじめてユーザーは自分ゴト化し、共感します。

⑥ ストーリーは登場人物特有の性格に、テーマは普遍的な人間性に関係する

⑤の「ストーリーは感情をこめて」は、すなわちキャラクターをどれだけ精緻に描くか、ということに尽きますが、テーマは「愛ほど尊いものはない」「正直に生きれば幸せになれる」といった人間が普遍的に抱く思想と言えます。SF映画のようにどんなに非現実的なシチュエーションでも、私たちがその世界に入り込んで心を動かされるのは、この普遍的な人間性に関係するテーマが必ず盛り込まれているからです。

⑦ すべての映画はサスペンス

ここでいう「サスペンス」とは、「次がどんな展開になるのか?」と絶え間なく思わせることです。ウィキペディアの説明に「サスペンスは、ある状況に対して不安や緊張を抱いた不安定な心理、またそのような心理状態が続く様を描いた作品をいう」とありますが、必ずしもミステリーやホラー映画に限ったことではありません。三幕構成の二幕「葛藤」「困難」「障壁」がサスペンスを生むのです。人は最初から最後まで何の変化もないただハッピーな情景だけを描いたり、ただ不幸な状況を描いても決して共感しません。一幕(状況設定)⇢二幕(葛藤)⇢三幕(解決)があって始めてストーリーに共感するのです。

⑧ 対立軸を実在させる

ストーリーを面白く際立たせる方法論として確立されているのがこの対立軸です。対立軸とは「変化」と「対比」に置き換えることもできます。その対立軸のギャップが大きければ大きいほど、人の心は動かされます。変化とはストーリーにおける「欠落→回復」「行く→帰る」「問題→解決」のプロセスのギャップ。対比はキャラクター(『アナと雪の女王』のアナとエルサ、『ダークナイト』のバットマンとジョーカー、『半沢直樹』の半沢と大和田)や、構成(善と悪、失敗と成功、貧乏と金持ち、生と死)のギャップです。

あなたのお気に入りの小説や映画、ドラマを思い浮かべてみてください。きっとこの対立軸が明確に実在し、そのギャップはとても大きいに違いありません。

⑨ リズムとテンポ

観客を飽きさせないためには、リズムとテンポのバランスが重要とされます。一般的にリズムのよいひとつのシーンの持続時間は15秒~3分と言われます。ただ、このリズムが2時間ずっと続けば当然観客は飽きてしまいます。テンポは1シーン中に存在するペース配分です。アクション映画ならテンポは速くなり、ヒューマンドラマなら遅くなる傾向があります。ただし、人の心理を丁寧に描こうとするあまり、テンポがゆっくりになりすぎても、やはり観客は飽きてしまいます。

映画ではジャンルの特性や目的に応じて、このリズムとテンポを考慮しながら編集されていきますが、昨今のWebコンテンツにおいては、リズムもテンポも速く短く、という傾向にあります。

2分という尺が長く感じ、内容によっては15秒でも十分というケースもありますが、なんでも短くすればよい、ということではありません。伝えたいメッセージに合わせて尺とテンポ、リズムを考えることが必要になります。

⑩ 簡潔に!

人は複雑さを嫌います。あのレオナルド・ダ・ヴィンチも「シンプルであることは究極の洗練された形だ」と語っています。シンプルな言葉であるほど、伝えたいメッセージは強く印象的になります。本書では「どんなに直観力にすぐれ、独創的であっても、ストーリーに対して絶対に必要かどうか、必ず見直すべきだ」と提唱しています。簡潔に! というのは、不要な要素をそぎ落としていく作業なのです。

完全が達成されたというのは、そこにつけ足すものがない状態ではなく、とり除くものがないという状態です。

本書で紹介されている、フランスの作家、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリのこの言葉は、まさにコンテンツづくりにおける編集の重要性を一言で表していると言えるでしょう。

以上『フィルムスクールで学ぶ 101のアイデア』から一部を紹介しましたが、映画が作られるプロセスを知ることは、コンテンツ作りの参考になるだけでなく、きっと退屈な映画さえも楽しく観る視点を与えてくれるに違いありません。

以下、オススメの映画製作に関する本を付け加えておきます。興味のある方はぜひ読んでみてください。

『リュックベンソンの世界』

『フランシス・フォード・コッポラ、映画を語る ライブ・シネマ、そして映画の未来』

『名監督の技を盗む! 』

『宮崎駿 出発点―1979~1996』


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