メディアのPV数を増やす方法と、その落とし穴

メディア運営のお手伝いをしていると、圧倒的に多いKPIがPV数です。最近ではPV数をKPIにすることの是非が問われることも増えてきていますが、依然PV数以外に納得しやすい定量的なKPIが見つけられないことも事実です。

しかし、私自身、PV数だけを追いかけたことで過去に苦い思いをしたことがあります。今回はその体験が少しでもみなさんのお役に立てればと思います。

KPIは250万PVのメディアを1000万PVにすること

ソーシャルメディアが普及し始める直前の2009年〜2011年のことです。ある企業のメディア運営をお手伝いすることになりました。クライアントはそれまで他の制作会社と組んでいたのですが、半年間を過ぎても250万PVを超えられず、制作会社も「この予算ではこれ以上は無理」と音を上げたそうです。そこで私が勤めていた会社に相談をいただくことになりました。

当初はMTを使ったブログメディアにしたい、という理由で声をかけていただいたのですが、クライアント側のさまざまな厳しいレギュレーションの壁があり、けっきょくCMSは使わず、これまで通り毎回新たにページを制作することになりました。

更新は月1回、ターゲットは20代〜30代のサラリーマン。メディアコンセプトは「忙しいサラリーマンへ、情熱と癒やしを」。与えられたKPIは、最低でも月間1000万PVにすること。そうすれば広告収入のメドが立つ、という理由でした。

元々大手ポータルサイトからの流入があったので250万PVを確保できていたのですが、クライアントにとっては250万PVでは広告が取れないので、最低でも1000万PV以上にしていきたい、という説明でした。

問題点の洗い出しと改善施策

そして、250万PVのメディアをいかにして1000万PVにするか、ということで現状の検証を始めました。既存のメディアの問題点を洗い出すのはそんなに難しいことではありません。岡目八目となって、好き勝手にケチをつければいいだけですので。

たとえば洗い出した問題点は…

■面白くない
■コンテンツが少ない
■ターゲットが見えない
■マイナー感がある
■ユーザビリティが悪い
■直帰率が高く、回遊率が低い

など…そんな感じです。

メディアコンセプトは従来通り、「忙しいサラリーマンへ、情熱と癒やしを」だったのですが、私は新たに「情熱と癒やし=美女」という裏コンセプトを立てました。私自身が「美女」と仕事をしたいという下心があったのは否定しませんが、すべてのコンテンツに「男の本音」を盛り込むことを徹底したかったのです。

■面白くない

面白くない、とケチをつけるのは簡単ですが、実際に面白いコンテンツを考えることは、もちろん容易ではありません。しかし、コンテンツを面白くすることは、全体の骨組みとなるので最も注力すべき課題でした。私自身、面白いコンテンツを作ることは得意なほうではないので、「面白くする」というよりも「男の欲望」に忠実に、そして素直に応えることを考えるようにしました。「男の欲望」とは何か? そこで「男の欲望=モテたい」と定義することにしました。これは定義の内容の是非を問うものではありません。プロジェクトに関わる全員が共通認識として持つ、ブレない明確な定義があることが重要なのです。

そのために「美女を眺めながら、モテるようになるメディア」と宣言したのです。

■コンテンツが少ない

コンテンツを増やします。しかし、制作費は減額されていました。ではどうするか? 単価を安くしてコンテンツを増やさなければなりません。ただし、コンテンツの量を増やすことで質が落ちてしまっては本末転倒。そのためには、企画をテンプレート化していかに手間と時間をかけずに良質なコンテンツを制作していくかが勝負でした。

そこで特集を含め、すべての企画・デサインをテンプレート化しました。取材や撮影、原稿作成の工数を減らすことで効率化を図り、その分企画に注力し、コンテンツを増やしたのです。また、同じテンプレートでテーマを変えていくことで、結果的にユーザーのリピート率を上げることも狙いました。

ミュージシャンが毎回、同じ会場で同じセッティングにすることでコストを抑えるものの、曲とアレンジを変えることで聴衆を驚かすような演奏をするイメージです。

そして、私はテンプレート化した下記の5つの企画を「PV荒稼ぎ五大鉄板企画」と命名しました。毎号同じテンプレートなのでページ数を増やしてもさほどコストはかからず、ページ遷移を増やす仕組みの企画にすることで、自ずとPVを増やすことに貢献したからです。結果、総ページ数はリニューアル前の10倍くらいに増やすことができました。

<PV荒稼ぎ五大鉄板企画>
★美女グラビア(ちょいエロな画像をひたすら並べる)
★美女診断(質問に答えて美女との相性を占う)
★美女座談会(美女を数人揃え本音トークを展開)
★美女アンケート(アンケートを通して女性の本音を勉強)
★美女ランキング(美女が好む価値観などを質問してランキング化)

■ターゲットが見えない

一応「20代〜30代の忙しいサラリーマン(男性)」というターゲット設定となっていましたが、ペルソナが漠然としていたので、細かく設定し直し、そのペルソナが日常的に求めるものは何か?という意識特長と行動特長を徹底的に追究しました。20代〜30代のサラリーマンの主な関心事として「仕事」「恋愛」「お金」「趣味」「エンターテインメント」などのテーマは踏襲しつつも、そういったテーマにすべて「美女」を絡ませることにしました。なぜなら精力旺盛な若い男子にとって、「美女」に優る関心事はないからです(おっさんの私でもそうですが)。

■マイナー感がある

予算の都合もあり、無名のタレントを起用したり、「企画で勝負だ!」とばかりに、毎回ヒネりすぎた企画でサブカル感、というかマイナー感が漂っていたので、メジャー感をどれだけ出すか、ということを考えました。

具体的には毎月、人気女優をキャスティングし、トップページを飾ってもらうことにしました。毎月の特集企画を女優が出演する映画のテーマと連動させることにしたのです。人気女優に登場してもらい、特集企画のテーマに沿ったインタビューをすることで、ただの映画の宣伝にならないように気をつけました。

人気女優が主演する作品と特集テーマですが、たとえば仲里依紗さん主演の『ゼブラーマン -ゼブラシティの逆襲-』では「悪女と遊ぼう!」特集、広末涼子さんの『ゼロの焦点』では「女のヒミツ」特集、井上真央さんの『ダーリンは外国人』では「結婚したいですか?」特集、菅野美穂さんの『ジーン・ワルツ』では「働きガールは好きですか?」特集など。毎号すべてのコンテンツを映画のテーマに合わせた構成にしたのです。

たとえば、広末涼子さんの『ゼロの焦点』は、広末涼子さん扮する主人公が行方不明になった夫を探すミステリー。特集テーマを「女のヒミツ」とし、「女がヒミツを守るとき」をテーマに広末涼子さんにインタビュー。他に「女のコのヒミツ教えちゃいます」という座談会や、「彼に言えないヒミツありますか?」という100人アンケート。そして「女のコの気持ち知ってるつもり?」と題した女心理解度心理テストなど、すべてを「女のヒミツ」をテーマにした企画で揃えました(もちろんどのページに行っても美女が現れるようにしてます)。

このようなパターンで毎号、映画作品と連動することで映画会社や女優さんとWin-Winの関係を築きながらメジャー感を担保しつつ、PV数を増やしていきました。

■ユーザビリティが悪い

当時、まだフラットデザインの考え方はなかったため、雑誌的デザインや構成に引きずられたユーザーインターフェイスだったので、これを徹底してフラットでシンプルな設計にしました(コスト削減の意味もありました)。その場合、デザインに凝ることはあえて避け、ビジュアル面で「美女」をより美しく見せることだけにこだわりました。「美女」の撮影には一番こだわったため、制作費の中でも撮影費の占める割合がかなり高くなっていました。

■直帰率が高く、回遊率が低い

これまでは大手ポータルサイトからの流入があったものの、直帰率が高く、回遊率がほとんどなかったため250万PVで頭打ちになっていました。ここはいかに回遊率を高めるかの設計をしました。いまで言うレコメンドエンジン的な導線を張り巡らせました(もちろん手動)。そのためサイト内リンクのキャッチコピーにも特集企画以上に注力する気概で取り組みました。

結果、一発回答で1000万PVを達することができ、以後、平均で1200万PVを維持し、半年後に「美女は好きですか?」という特集を組んだ月は、2500万PVを達成するまでに成長しました。

PV数と広告収入の関係性

KPIとしていた1000万PVを達成したことで、広告収入はどうなったか? タイアップ記事(いまで言うネイティブアド)が毎月入るようになりました。

たとえば…

「座談会☓飲料メーカー」
「振り向き美女☓食品メーカー」
「ファッション☓診断☓飲料メーカー」
「グラビア☓診断☓ランキング☓飲料メーカー」
「読者モデル☓アンケート☓ランキング☓飲料メーカー」

といった形で、主に特集のテンプレートだった「PV荒稼ぎ五大鉄板企画」のスピンアウト企画が次々と生まれ、タイップ記事は全体のほぼ10%のPV数を稼ぐことに成功しました(たとえば総PV数が1000万PVなら、タイアップ記事のPV数が100万PV)。

KPIを達成、その後は?

これでクライアントが最初に掲げた「1000万PVあれば広告収入で回していける」というビジネススキームは無事成立したのでしょうか? 答えはノーでした。最終的には1000万PVが5000万PVになろうが、このメディアを存続させるのは困難、という判断が下り、3年足らずで終了することになりました。

1000万PVというKPIはあったものの、その先にあるKGIが定かではなかったのです。このメディアが成長した暁には、クライアントはさらに別のスポンサーと組んで、そこからの出資を元にECやO2Oと連動した事業拡大の構想があったようなのですが、そこに至る“大人の事情”もあり、志半ばで断念した結果になったのです。

そもそも1000万PVなら広告収入で運営が継続する根拠はあったのか? では最初に打ち立てたビジネススキームは何だったのか? 1億PVだったらECやO2Oの事業に拡張できたのか? 広告収入がいくらだったら存続したのか? …などなど、さまざまな疑問が湧いたのですが、そんな“大人の事情”を抜きにしても、私なりに反省する点はなかったか、振り返ってみました。

下記は、当時メディアを運営していたときに、メディア構築にあたってのやるべき施策としてプロジェクトメンバーに共有していた指針です。

1) KPI(めざす目標は何なのか)
PV、UU、ダウンロード数、会員数

2) コンテンツ力
いかにユーザーに喜ばれる記事を作るか。
プレミアムなコンテンツ、物語化、ポリシーを貫く。
内在的価値判断(釣りではない!)。

3) LPO(Landing Page Optimization)
いかにして読ませるか、回遊させるか。
せっかく訪問した客を逃さないための施策(チューニング)。

4) CTR(Click Through Rate)
いかにして初めの一歩を踏ませるか。
流入してきたときに目をひくキャッチコピー、ビジュアルをチューニング。

5) PDCA(Plan Do Check Act)
顧客との密接な議論と絶え間ない改善提案。
インキュベーション(育成)。

しかし、何かが決定的に足りなかったのです。

そして、何年か後に「Lean Analytics: KPIにしてはいけない8つの指標」の記事で下記のような引用文を目にしでハッとしました。

“追うべきでない(Vanityな)指標は、(数値の大きさから)楽しい気分にさせてくれる。しかし、あなたがどのように行動したらいいのかは教えてくれない。”

メディアが指標にしていた1000万PVというKPIは、広告スポンサーのためであって、ユーザーのためではなかったのではないだろうか。「策士、策に溺れる」ではありませんが、施策としては確かにクライアントが設定するKPIを達成しました。しかし、その先にいるユーザーが何を求め、ユーザーとどんな形でエンゲージメントを結んでいくべきか、という視点に欠けていたのではないだろうか、と。受注仕事の限界とはいえ、その先にあるべきKGIをなぜ想定しなかったか。

私はKPIとしてPV数を追いかけ、達成しながらも存続できなかった苦い体験をしました。メディアを運営するにあたって、いまもPVやUUは重要な指標の1つとなっています。しかし、それ以上に忘れてならないのは、「そのメディアは何で利益を生み出すのか?」、そして「このメディアは誰のものか? 誰にとって価値があるのか?」というKGIなのです。

クライアントと私が打ち出した施策は、限りなく広告に近い作業だったように思います。大手ポータルサイトからの流入に依存する形で訪問したユーザーに対して、どれだけ目に止めてもらい、楽しんでもらうか。いわゆる集客目的の単なる刹那なバズ狙いのコンテンツだったのではないだろうか、と。瞬間風速でもPV数が確保できていれば、広告スポンサーからの出稿が確保できたのですから。もし将来的にECやO2Oを想定していたのなら、それをKGIとして視野に入れたコンテンツ設計もあったはずです。

近視眼的に広告主だけを向いたメディアに未来はない、というのが私が得た最大の教訓です。

『星の王子さま』の作者・サン=テグジュペリに有名な名言があります。

愛は、お互いを見つめ合うことではなく、
ともに同じ方向を見つめることである。

メディアの運営者は広告主と見つめ合うのではなく、一緒にユーザーを見つめなければならないのです。

(文・成田幸久)

コンテンツ制作に関するお問い合わせはこちらへ。
narita.yukihisa@gmail.com

職歴はこちら


 


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

53

コメント4件

勉強になりました。「美女」と例えも面白かったです
こちらこそ、さっそく読んでいただいてありがとうございます!
コメントありがとうございます。僕も詳細はわからないのですが、その先にあるECやO2O事業の展開につながらないと判断したようです。メディアはあくまでもそのための呼び水、準備ということで。
とても勉強になりました^_^
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。