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谷口マサト著「コンテンツマーケティングの新常識」は、Web業界に風穴を空けるか。

仕事上、オウンドメディアやコンテンツマーケティングに関する本が出ると一通り読むことにしているのですが、最近出ている本はどれもひとい。

事例は5年前から変わっていないし、ネットにあふれている耳タコな記事を寄せ集めたものばかり。自分たちでオウンドメディアを運営したことも、コンテンツマーケティングを実施したこともないのではないかと疑いたくなるレベルです。

巷にあふれるコンテンツマーケティング本は、まるで骨だけで構成された骸骨本です。なぜか? コンテンツマーケティングの血肉となるコンテンツについて何も語っていないからです。

ラーメンを作るレシピがあっても、どんな味のラーメンになるかまったくわからない感じです。同じ醤油味でもラーメン屋さんによって、味はピンキリです。「とりあえずラーメンの作り方は教えたからね。どんな味になるかは俺の知ったことじゃない」。そんな感じのコンテンツマーケティング本ばかりです。

だから、お客さんから「コンテンツマーケティングをやりたい」と相談をいただいても、実際にお会いしてヒアリングをしたり、提案をさせていただくと、ほとんどが「商品は出さないの? 検索で何カ月で上位に表示されるの? 毎月いくらかければ○○PVいくの?」と、そんなリアクションばかりです。

そうすると、結局「それがお望みなら広告をいっぱい出しましょう」と、提案させていただくことになります。

中小企業がコンテンツマーケティングに取り組むとき、気をつけたい4つのポイント」の記事によると、コンテンツマーケティングの結果に満足している大手企業は2割。中小企業にいたっては7割以上が「興味もない」としています。

この記事でも「コンテンツマーケティングのスキルとは、編集力にある」と指摘している通り、編集力をおざなりにしてコンテンツ力のない記事が無目的に大量生産されているのが実情です。

この編集力をおざなりにした元凶は、米国から輸入されたコンテンツマーケティングブームに便乗したハリボテコンテンツマーケティング会社と、ゴミ記事の大量生産文化を醸成したクラウドソーシングといえるでしょう。

コンテンツマーケティング成功のカギは物語にある。

そんなWeb業界に、LINEの名プロデューサー谷口マサト氏が一石を投じてくれました。「コンテンツマーケティングの新常識」です。コンテンツマーケティングが日本に上陸した2011年頃以来、日本で初めての本当の意味でのコンテンツマーケティング本です。

MarkeZineで連載された記事のまとめということもあり、378円(Kindle版)の格安価格でボリュームも30分程度で読めてしまいますが、その中身の濃さと充実ぶりは、2000円以上する巷の「なんちゃってコンテンツマーケティング本」の百倍役に立つことでしょう。

谷口氏は、まず最初に「コンテンツマーケティング成功のカギは物語にある」と説きます。そして、「物語」を大前提として、コンテンツマーケティングの成功への7つのプロセスを挙げています。

1. 金(そもそも制作費を生み出す仕組みが必要)

2. 時間(制作費によって5分読まれるコンテンツを作る)

3. 広告(コンテンツと商材のテーマを合わせる)

4. 感情(笑わせ泣かせて心を動かす)

5. 変化(商品の見方を変える)

6. 計測(態度変容を計り、継続受注する)

7. 発展(コンテンツを生み出し、そのメディアの影響力を発展させる)

これらはもちろん、コンテンツマーケティングの基本的な設計思想を踏まえているので、類似書にも同じようなことは書かれています。しかし、3、4、5、7について、ここまで具体的なヒントを提示してくれたコンテンツマーケティング本はありません。これがまさにコンテンツマーケティングの血肉となる「物語」の作り方なのです。

3、4、5、7はコンテンツ自体の設計をどう考えればいいのか、後の章の「動画広告」を例に挙げながらわかりやすく説明しています。

動画広告の大きな課題と克服方法について

1. 尺とコストの関係

2. 作り手の文化の違い

3. バズと感動のトレードオフ

4. 商品にどう落とすか

5. 音をどうするか

そして、極めつけは「Webクリエイティブの4つの原理」。これはなんとなくわかっているつもりで、実際にはほとんど実行できていないことが多々あります。だから、ユーザーとのエンゲージメントを築くコンテンツができないのだと、改めて気づかされます。

1. 知っているモノが、別のモノに見えるように表現する(A≠A)

2. (A≠A)で興味を持たせ、物語によって継続して見てもらう

3. 物語のメッセージによってユーザーを変え、態度変容を起こす

4. メッセージはユーザーのインサイトから考える

こんなノウハウを赤裸々に露呈してしまって大丈夫かな、と余計な心配をしてしまいますが、大丈夫です。イチローのマネをしたところで、誰もイチローにはなれません。ノウハウを知ったところで、誰も谷口氏のマネなんてできないですからね。

谷口氏のマネをして、同じようなコンテンツを作ることはできなくてもいいのです。とんちんかんなゴミコンテンツを粗製濫造しても、意味はないことがわかるだけでも、一読の価値があるでしょう。


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