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雪かき編集者がいっぱい!

最近、あるカメラマンが「編集者がいなくなってしまった!」と嘆いていました。事情を聞くと、編集者としてやるべき仕事をしない人ばかりになってしまったということでした。カメラマンは決して昔を懐かしむベテランではなく、まだ30歳になったくらいの人です。

現場では「お任せします」と言って、一切ディレクションをしないで、写真が上がってから「修正して」と簡単に言ってくる編集者が本当に増えたと言います。

いまはデジタルでどんな加工も可能になりました。しかし、可能になったからといって、手間とコストがかからないわけではありません。雪かき編集者は、現場で何も考えず出来上がってから、電柱もナンバープレートを消せばいいと考えるのです。

編集者といってもそのタイプはさまざまです。大きく分けると以下の4つのタイプに分類されます。

Ⅰ. 教祖タイプ
Ⅱ. 企画屋タイプ
Ⅲ. 職人タイプ
Ⅳ. 雪かきタイプ

Ⅰ〜Ⅳのタイプについて順を追って紹介しましょう。

Ⅰ. 教祖タイプ

人と金を集めるのが得意で、自らの手を動かすことなく、新しいコンテンツを生み出していく編集者です。次々とベストセラー本を出して時の人となっている幻冬舎の箕輪康介氏は、典型的な教祖タイプでしょう。“信者ビジネス”と揶揄されることもありますが、その人脈と企画力で、多くの人を魅了しています。これからの時代のハイブリッド型編集者を体現しています。お金を集めることも得意なのでプロデューサータイプとも言います。

Ⅱ. 企画屋タイプ


教祖タイプの多くは企画屋タイプを兼ねています。情報アンテナが高く、常に新しいこと、面白いことを探しています。企画屋タイプは、自身がやりたいこと、実現したいことが明確なので、現場でも段取りよく、指導力を発揮します。ディレクタータイプとも言います。

Ⅲ. 職人タイプ


知識が豊富で、文章にこだわりをもつタイプです。なかには原稿に赤入れをすることに生きがいを感じて、文章を直すことが編集者の仕事だと勘違いしている人もいます。「ライターに書かせるより自分で書いたほうが早い」とよくぼやくのもこの職人タイプです。企画やディレクションが苦手なので、ライターやカメラマンへのディレクションもあまり好んでしません。むしろ校正者・校閲者に近い編集者です。

どのタイプがよい編集者とは一概には言えません。それぞれ得意不得意もありますし、雑誌と書籍でもタイプは違ってきます。

問題はⅣの雪かきタイプです。カメラマンが嘆いていたのも、この雪かきタイプです。
 
Ⅳ. 雪かきタイプ

村上春樹の小説『ダンス・ダンス・ダンス』に、「文化的雪かき」という有名な言葉があります。

主人公の「僕」は言います。

「穴を埋める為の文章を提供してるだけのことです。何でもいいんです。字が書いてあればいいんです。でも誰かが書かなくてはならない。で、僕が書いてるんです。雪かきと同じです。文化的雪かき」
「でも有効な雪かきの方法(中略)、コツとか、ノウハウとか、姿勢とか、力の入れ方とか、そういうのは。そういうのを考えるのは嫌いではないです」

しかし、雪かきタイプの多くは、「僕」のように有効な方法を考えることをまったくしません。

これがただの「雪かきタイプ「の編集者です。取材現場で何もしない人。

私が以前一緒に仕事をした典型的な雪かき編集者の一例を紹介します。

そのとき私は取材をされる立場でした。インタビューを受けるのは私のほかに2名。鼎談の体裁でのインタビューでした。インタビュアーは雪かき編集者が兼任でした。取材場所は会社の会議室。広めの会議室で中央が空間になって机が四角く囲まれていました。どこに座ればいいか雪かき編集者に尋ねたら、「どうぞお好きなところに」と言われました。

でも、私がここに座ったとしたら、ほかの2名はどこに座るのかな? インタビュアーはどこに座るのかな? と疑問が湧いてきました。鼎談なので3人が一緒に写るシチュエーションは必要じゃないのかな? インタビュアーが座る席は私たちの向かいの2メートルくらい離れた位置になるけど、これで話がちゃんと聞けるのかな? 窓から自然光が入ってきていて逆光になる側に座っているけど大丈夫なのかな? 真後ろに何か書かれたホワイトボードがあるけど隠さなくていいのかな? 次から次へと疑問が湧いてきます。

私だったら取材を始める30分前に入って、まず3人が一緒に写るシチュエーションとインタビュアーとの距離を考え、まず机の配置を並べ替えます。そして、鼎談中のカットを撮影することを考え、自然光の入り方や背景を考慮して、カメラマンと相談して決めます。

しかし、雪かき編集者は現場でのディレクションを一切しませんでした。新人ではありません。40歳くらいのベテランです。しかもカメラマンは30分ほど遅刻。鼎談中に挨拶もなく撮影を始める始末です。

現場では、取材先に取材目的と一連の流れを説明します。現場スタッフを不安にさせないよう、随時段取りを説明する必要があります。そして、食事の用意、席の配置、時間配分、撮影のサポートなど細かい業務が次から次へと出てきます。

編集者は、どのタイプであろうが、全体を俯瞰し、参加者全員が自身の仕事に集中できる環境をセッティングするのが仕事です。誰も気づかないことにいかに気づくか。自分がしてほしいことを常に考えなければなりません。

現場での取材や撮影において、不測の事態は必ず起こります。スタッフの誰かが突然来られなくなったり、時間に遅れたり、用意すべきものが揃っていなかったり、関係者に話がきちんと伝わっていなかったり…。しかし、トラブルの大半は事前の準備でほとんどがクリアできます。起こり得そうなトラブルを事前に想定して、そのときにどういう対処をすべきか事前に用意しておけばいいだけです。

リハーサルをすることまではなかなかできませんが、綿密な香盤表(時間割りしたスケジュール表)を作成することで、ある程度トラブルのシミュレーションは可能になります。

雪かき編集者は、自社もしくはクライアントのお金でただ“スタッフを用意する人”になってしまっています。準備をすることもなく、危機回避のシミュレーションもしません。雪が積もったらその場しのぎで、よそへ雪を移すだけです。

現場でもスタッフに「任せます」と言って、ただ傍観しているだけになります。とりあえず埋めるためにコンテンツを作る、だけの人です。だから、原稿も写真もイラストも衣装もメイクも出来上がってから、「ああじゃない、こうじゃない」と後出しジャンケンをします。

ベストの1☓1☓1☓1=1を目指して準備をしないで、現場でいきなり5☓5☓5☓5=625パターンを出させて、そこから1つを選ぶようなことをします。これが雪かき編集者です。

雪かき作業は、労働生産性が低いどころか、マイナスでしかありません。

教祖でも、企画屋でも、職人でもない、雪かき編集者は決してプロではありません。給料泥棒です。しかし、Webメディアにはこういう雪かき編集者がいっぱいです。


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