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ブラックマンタへの激重感情

※余裕でネタバレ

1月28日に、「アクアマン/失われた王国」を観た。

私は映画をほとんど観ない人間で、付き添いで年に1回行くかどうかというレベルだ。ただ、このときは阪神の映画を2連続で観て映画館へのハードルが下がっていたのと、良い映画館で観たいという気持ちがあった。

近くに9席しかない映画館がある。椅子は革張りで、リクライニングを最大限倒して寝転びながら鑑賞ができた。その席で観ることができる作品の一つが「アクアマン/失われた王国」だった。

この作品は2作目で、私は1作目を観ていない。ちなみにアクアマンが登場するほかの作品も観たことがない。

さすがに知識ゼロで観ても楽しめないと思い、前作のあらすじだけを簡単に調べてから行った。

映画を見る前に私が得た知識は以下のとおり。

・主人公のアーサーは人間と海の王国の王族のハーフ
・前作の敵役は主人公の異父兄弟
・主人公は前作のヒロインと結婚している
・主人公の母親は海の王国の元女王
・黒人のライバルキャラは昔主人公に父親を殺されている

映画は全体的にすごく面白かった。上記の知識だけでも十分に楽しめた。私は、映像作品が苦手で、観ている途中で誰が誰だかわからなくなってあらすじや話の展開が掴めなくなる。でも、アクアマンは個々のキャラの見た目がはっきりしているし、話もシンプルでわかりやすかった。

ただ、「映画館の良い席で映画を見たい」という気持ちだけで観た映画。9席しかない席には他に客はいなくて、貸切状態で楽しめた。映画自体もわかりやすくて、とても楽しめた。


それだけで十分なのに、結果として私は、タイトルにある通りブラックマンタに対して激重感情を抱いている。映画を観て2ヶ月が経つ今現在も。

私は前作を観ていないから、前作でブラックマンタがどのように描かれているか知らないままで映画を観た。だから、私が抱いたブラックマンタへの感情は的外れなものなのかもしれない。本当は、圧倒的悪の立場で、同情や共感などをする相手ではないのかもしれない。


映画を観ている途中までは、ブラックマンタ=悪役という感想だけ抱いていた。ブラックマンタは、映画の序盤で古代の武器を拾い、その武器の持ち主である古代の王族に精神を乗っ取られる。その結果、アクアマンをはじめとするアトランティスの一族への復讐心が強くなる。そんなあらすじだったと思う。

映画をテンポよく進めるためにだろうか、ブラックマンタの心情描写はあまりなかった。漠然と、「主人公にまあまあな恨みがあるんだな」とだけ感じていた。


物語の最後で、ブラックマンタは主人公に倒される。そのあと、古代の武器が主人公の弟の手にわたり、弟の精神が乗っ取られて、ブラックマンタは正気に戻る。主人公は弟から武器を奪い、古代の敵を破壊する。戦いをしていた場所が崩壊して、主人公たちは慌てて逃げ出そす。

ブラックマンタは崩壊に巻き込まれて、奈落に落ちそうになる。片手でぶら下がりなんとか這いあがろうとするブラックマンタ。ここで主人公が無言で手を差し伸べる。主人公の根の良さというか、ヒーロー要素が垣間見えるなと思った。

しかしここでブラックマンタ。

「舐めんな」と言って、自ら手を離して落ちていった。


ここだ。

ここで私の脳内は、ブラックマンタでいっぱいになった。


ブラックマンタはあくまで悪役であり、これより後のことは描かれていない。落ちていった場所はあまりにも深かった。きっと死んだのだろう。

主人公もわざわざ救いに行くつもりはないようで、やれやれという感じでその場を去った。


彼は、正気に戻ってから死ぬまでの間に何を考えたのだろうか。

元々の復讐心はあるとはいえ、主人公に武器を奪われた瞬間、正気に戻った瞬間、これまでの強い復讐心の一部が他人のものだったと気づいたはずだ。自分だけの復讐心だったはずなのに、古代の王族に乗っ取られて、利用された。

武器を奪われた瞬間に、彼は傍観者へと変わった。同じように乗っ取られている主人公の弟と主人公の戦いを、見ることしかできなかった。体はボロボロで、戦いに参加することはできない。

まともに体を動かせない間、主人公と弟の戦いを見ている間、彼の心にあるものはなんだったのだろうか。絶望か、それとも呆然か、喪失感か、または乗っ取られたとしても絶えない復讐心か。


建物が破壊されたあと、彼は必死に生きようとしていた。片手でその体を支えて、必死に穴から這いあがろうとしていた。

これはただの生存本能による行動だろう。もしかしたら、再度復讐するという気持ちや少しの後悔、ここで死んでたまるかという意地を抱えていたのかもしれない。

それでも、主人公から手を差し伸べられたとき、彼は「舐めんな」といって手を離した。少しだけ考えて、生きようとすることを辞めた。

死を選んだのは、彼のプライドからくるものだろうか。恨みを持つ相手に助けられたくなかったのだろうか。

落ちていく瞬間、地面や岩に激突するまでの瞬間、彼は何を考えていたのだろう。


冒頭で触れた通り、私は普段映像作品を見ない。なので、描写されていない心理描写はわからないし、想像して考えることもほとんどなかった。小説はよく読むけど、小説には大抵心理描写が丁寧に描かれているから、書かれていることをもとに考えることが多かった。

映像作品をみて、登場人物の心理状態をここまで深く考えるのは、おそらく初めての体験だ。

新鮮で、そして怖い。映画を観て2ヶ月経つのに、いまだに彼の死に際について考えてしまう。


もしかしたら、原作や監督のインタビュー、制作裏話などで、ブラックマンタの最期や気持ちについて説明がされているのかもしれない。

でも、私はそれらを確認できない。彼の心情が判明することを恐ろしく感じるからだ。

もちろんこの物語はフィクションだし、ブラックマンタは実在しない。それなのにずっと、想像ばかりしている。

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