見出し画像

うるう日

今日2月29日は四年に一度の閏日(うるうび)です。現代人は特別に意識することはないかもしれません。でも、古代の人たちにとって知恵が試される日でもありました。

古代エジプトでも私たちと同じように太陽の動きに基づいた暦が使われていました。つまり、一年は365日で構成されていたのです。しかし、科学的に正確であろうとするならば、実際の一年は365.242189日です。つまり、365日だけの暦では一年ごとに0.242189という端数が積み重なっていきます。これはおよそ六時間に相当し、四年経つと一日分(24時間)のズレを生んでしまいます。

現代人はこのズレを閏日で調整しているんですね。古代エジプト人もおそらくこのズレを経験的に知っていたはずです。ところが、あえて閏日を設けることはありませんでした。これにはいくつか理由が考えられますが、国土全体で統一した運用を目指すとき、布告や確認に間違いが生じると社会が混乱する恐れがあったからだと思われます。

ヒヒの水時計
ヒヒは知恵の神トトの化身とされた
紀元前7〜1世紀、ファイアンス製、高さ5.7 cm
メトロポリタン美術館所蔵(MMA 17.194.2341)

しかし、このズレを敢えて調整しないと、四年ごとに一日、暦が季節を追い越してしまいます。しまいには、1460年(4x365)ごとに一年ズレることになります。どういうことかというと、真冬が730年後に暦上の真夏に位置することになり、1460年後に一周回って元に戻るということを繰り返します。これは大変です。だって、冬祭りが夏祭りになるわけですから。

この1460年という壮大な循環を古代エジプト文明は二度経験したと考えられています。紀元前13世紀と紀元前28世紀頃だったと推測されます。すでにエジプト人は文字も暦も発明して運用していました。私たちには不完全に見えるこの暦は、歴史学では「民衆暦」(Civil Calendar)と呼ばれています。太陽の運行に寄せているので「太陽暦」(Solar Calendar)と紹介する教科書もありますが、的確とはいえません。

計算が苦手でちっともピンと来ない・・・

とろこで、0.242189という端数もまた、四年ごとに一日を挿入するだけでは完全に解決できません。私たちが使用するグレゴリオ暦は、400年に97回の閏年を設けて絶妙に太陽の運行に合わせているのです。しかし、科学が発達した現代では、精密にプログラミングされているシステムに秒単位の誤差が出るだけで、混乱が生じる可能性があります。グレゴリオ暦ではそれを支えることができません。どうやら、地球の自転も公転も常に一定ではなく、わずかに遅くなったり速くなったり変化するようなのです。宇宙の摂理は人類の叡智を超える深淵で溢れているんですね。科学者たちは1972年以降、閏秒を27回挿入してきたようですが、そのたびに技術的な欠陥が生じかねないと危惧されてきました。この問題を人類はいまだに完全に克服できていないそうです。

古代エジプト人が閏日を初めから放棄していたのは、この難題を知っていたからかもしれません。いいえ、それは買い被りすぎでしょうか。例えば、ナイル川の毎年の氾濫を祝う祭が、数百年の間に少しずつ遅れて開催されたことが判明しています。そのうち、暦と季節が看過できないほどズレてしまうと、観念したように季節を無視して、特定の日に祭を固定するようになりました。古代人の試行錯誤が垣間見える気がします。

ナイルの洪水を祝うオペト祭を記録する祭事暦
ルクソールのラムセス三世記念神殿南外壁、紀元前12世紀

宇宙の脈動を測るなんて私には想像できませんが、古代人は知恵を絞って果敢に挑戦したんですね。いつか、古代エジプトの元日や時間についてもご紹介したいと思います。

(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?