夢の舞台

ずっと、ミュージシャンになりたかった。だけど、ある日、ふと自分で自分自身を見てしまった。僕にはミュージシャンは、向いていない。研究とか、文字を書く仕事が、向いている。どう考えてもそうだった。

だから、結局ミュージシャンの夢は諦めた。

はずだった。あの男が現れるまでは……

……

僕はネットのライターだ。まとめサイト何かを書くのが仕事だ。副業と思いクラウドソーシングで始めて、いつの間にか本業の仕事は、これになっていった。

今日も、書くネタを探して、ブラりと、散歩する。

書くネタが、なくなってしまったのを最近感じる。書くネタなんて物は、結局の所、間違った世界への憤りから生まれるもので、こんな正しい世界では、全てが規則正しく動いていて、少しも言語化を、必要とする、曖昧な所がないのだ。頓知を利かせて、逆に、そんな事を書くことにした。

正しい世界の、それの写し身、形象、つまり、具体的な例を、探していた。

すると、池があった。

水質汚染の酷さから、取り壊される所だった池だが、水質を綺麗にする装置が開発されて、無事に残っている。

今回のネタは、こいつで、行こうか。そんな事を、考えている時だった。

「俺はアンタをミュージシャンにする」

高い声がした。いや、低い声でもある。高低い声でというのが、丁度いいのか?

ミュージシャンか、僕にもそれを目指していた時期が、あったなぁ。

そんな事を、思いながら、声のした方向を見た。

黒い帽子に、サングラス、マスク。黒いコート。

全身を黒装束に見を包んだ男が、こっちを睨んでいた。

一瞬自分が見つめられているような気がしたが、あ、これよくあるやつだ、かわいい子に挨拶されて、手を挙げたら、自分の、後ろっかわにいたやつに挨拶していただかだったってやつ。まあ、可愛い女の子じゃなくて、怪しい男だけどな。と、思考が流れ、思い留まる。

しかし、男は僕の方をどう考えても凝視している。

「正しい世界なんて、間違ってると、思わないか? 適材適所なんて、クソ喰らえだ。お前は、ミュージシャンになりたいんだろ? なりたいやつがなればいい。そうじゃないのか? それこそ、本当に正しい世界だ。間違ってて、ゴチャゴチャで、でも、それこそが、人の生きる、血の通った世界なんだ」

男は再びそんな事を言った。

「えっと……」

「ジギかーやさんだね。」

「それは、僕のネットのハンドルネーム……」

不思議なもので、現実の名前を呼ばれるよりも、ネット上での、自分の名前を呼ばれたときの方が、驚きと言うか、親しみというか、嬉しさを感じる。それは、何故なんだろうか?

「俺は鳴辺一弥、ミュージシャンだ。今から俺はお前の先生だ。お前をミュージシャンにする。アンタは、俺について来ればいい。心配するな。流れに身を任せろ」

「いやいやいや、何を君は……言ってる……んだ……ろう……」

凄い剣幕で、男は僕を見つめる。

「分かったよ。ミュージシャン、目指すよ」

幸いネット上で、連載をしてる訳ではない。やめたければすぐ辞めれる。暫くの間なら、ミュージシャンを目指すのも、面白いかもしれない。 

「で、先生、何を教えてくれるんだ?」

「お前の好きな子は、ミュージシャンが好きだ。アンタは、ミュージシャンに真剣になりたい筈だ。なぜ、諦めたんだ? 過去に一体何が、あった? 思い出してみろ」

四つ角の、しめ縄のかかった岩。そして、悲しみ。

「あの、四つ角の、岩……何だかあれに関係したような……」

男は驚いた様子だった。少し顎に手をやり、考えた後、男は言った。

「そうか。今は、揺らいでいる。あそこには近付くな。今のお前があっちに行ったら、あっちが、改変されてしまう」

「どういう事ですか?」

「まあ、隠すのも意味がないな。お前が乗り気になった今、隠し通す事は、無駄な作業だ」

そして、男はマスクとサングラスと帽子を脱ぎ去った。

現れた顔は……じゃーん。僕でしたー。

背筋が凍りついた。自分と同じ人間に、3人出会ったら死ぬんだよな……

「ジギかーや、お前が全て悪いんだ。お前がミュージシャンにならなかったせいで、全ては、正しく回り始めた。」

「鳴辺さん? と、言いましたよね。正しいなら、いいじゃないですか?」

「正しい世界は、正しいまま、当然の帰結として、終わろうとしているんだ。俺は間違った世界からこの世界に呼ばれた。召喚されたんだ。お前とは会わないようにしてきた。ここで、自分が、何故呼ばれたのかを、ずっと考えてきた。この池、俺の世界では、既に取り壊されてる。取り壊されたのは、間違いだった。環境汚染は、以前より酷くなった。だけど、それで、狂い出した歯車は、大きく結末を変えた。だから、あの世界は終わらない。そして、俺が、呼ばれたのは、こっちの世界が、終わろうとしているからだ。そう、気付いた。」

「はあ……」

「こっちの世界が、助けを求めてたんだ、この俺に。そう気付いた。だから、俺はずっと避けていたアンタに会いに来ることを決めたんだ。」

「短編で、収まる内容じゃなさそうですね」

「長編ものだな。この話。しめ縄のかかった岩。あれが、通路だったようだな。」

……

それから、僕は俺につれられ、ミュージシャンになった。

彼女もできた。大好きだった、憧れの女の子だ。今はその子に、憧れられて、変な気分だ。

正しい世界を、ぶち壊す。その引き金になるのが、僕の下手な歌なんだそうだ。

あの歌には、間違った世界を、もたらす鍵が、込められている。

と言うわけでまた、聞いてください。

積み木崩しの様に、世界の、正しい歯車の、壊れる音を。

矛盾の上に花が咲く様子を、目に写すといい。

……

後書き

小説として、きちんと、落ちがついてなくて、あとがきも何もないけど、何か、この、話は、好きになりそうだ。

ネットのライターに、ミュージシャン、正しい世界では、正しいが故に、終わりを迎える。だから、間違った世界にして、世界の終わりを食い止める。そんな大好きなモチーフと、テーマが、込められているから。

読んでいただきどうもありがとうです。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

5

小説

書いた小説! 僕、小説だけは高評価みたい。結構スキを五個以上もらってることに気が付いた……
1つのマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。