着彩

【3分で読めるダークファンタジー 】それぞれの正義

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★この小説は
#3分で読めるダークファンタジー  「六花抄 -Tales like a ash snow - 」
銀髪の剣士の姉と魔道士の妹が残酷な世界を旅する、ほろ苦い物語。

過去作品はこちら(オムニバスなのでどこからでも読めます)
https://note.mu/narumasaki/m/m38dd8451bb44

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とある村に、姉妹がいた。
姉は剣士。
長身痩躯の銀髪が風でなびいている。腰には細剣が納められた鞘が太陽の光を受け、白銀に煌めく。
妹は魔導師。
白いフードから、銀髪の癖毛がくるんと遊んでいる。少女の手にした杖の先には絶対零度の魔力が込められた宝玉が輝く。
姉が刃で切り裂き、妹が氷の矢で穿つ。
2人で1人の魔法剣士だった。

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戦禍で両親を失った少女たち。
孤児となった二人は、村の用心棒として働きながら、屋根裏で暮らしている。
「いやぁ、君たちが来てから、すっかり村は平和になったよ」
「これは今日の分の報酬じゃよ」
白髪の髭を生やした老人は姉妹に数枚の銅貨の入った麻袋を手渡す。

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姉妹の1日の流れはこうだ。
朝、お弁当をつくり、村長から任務を受ける
昼、任務の合間でお弁当を食べる
夕、村長に任務の報告をし、夕飯を食べる
晩、2人で床につき話しをしながら眠る
「お姉ちゃんと二人なら、きっとこれから先も大丈夫だね」
「そうだな。でも、お前はいつも油断しすぎだ。この間の討伐任務だって……」
「えへへ、お姉ちゃんが助けてくれるって信じてるから」
「まったく、明日も早い。寝るぞ」

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もうすぐお姉ちゃんの誕生日だ。
でも、私はいつも助けられてばかり。お姉ちゃん、何をしたら喜んでくれるかな。
微睡む意識の中、幼い日の記憶が蘇る。

4人で暮らしていた、大きな屋敷。
お花畑いっぱいに咲きほこる白百合の花。白いワンピースに大きな帽子をかぶったお姉ちゃんの横顔。花の香り。

ああ、そうだ。お姉ちゃんの好きなお花ーー
明日は森へ花を探しにいこう。

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「今日は森へお散歩に出かけてくるの」
「危ないぞ」という姉の静止を振りほどき、妹は家を後にする。
せっかくだから、森の魔物も倒しながら進もう。そうしたらお姉ちゃんも褒めてくれるかもしれない。

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少女は氷の魔法の使い手だった。
「このあたりにも魔獣がいるね、倒したらお姉ちゃん喜んでくれるかな」
詠唱し、空気中の水分を絶対零度で圧縮し、氷の矢で敵を貫く。
次々と襲いかかる魔獣を排除していく。
死に際、魔獣は口元が微かに震えていたが、それを知るよしもない。
「あった!白百合の花」
氷の魔導師は花を見つけると、村への帰路へついた。

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屋根裏で姉は武具の手入れをしていた。
「ただいま!」
「傷だらけじゃないか、大丈夫か?」
「平気、平気!それよりも姉様に渡したいものがあるから、あの丘の大きな木まで来てほしいの。早くきてね!」
「お、おい…」
小さな少女は姉の言葉も聞かず、すぐさま走り去っていった
「仕方のないやつだ」
姉は妹の待つ丘の上を目指した。

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「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう」
妹の手から差し出されたのは、白百合の花束。
花弁の香りが思い出へと誘う。
ああ、懐かしい香りだ。ありがとう。
お姉ちゃんの細い指が私の髪を優しく撫で下ろす。
えへへ、頭を撫でてもらうのなんて久しぶりだね。
次の瞬間、茂みから魔獣が喉元を目がけ飛び出してくる。
危ないーー
白百合の花束は地に落ち、朱く濡れた。

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魔獣の群れは村の方へ向かっていった。
「わ、わたしのことはいいから……、村の、みんなを……」
白い肌があっという間に赤く染まる。
「やだやだやだ!お姉ちゃん死んじゃいやだ」
姉の指が頬を撫でる。その温度は恐ろしく冷たい。
「お前は、強い……これからは強く生き……」
姉の指はするりと私の頬を離れて地に落ちた。

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「お姉ちゃんの仇だッ!絶対に許さない!!」
氷の魔力を編みながら、次々と魔獣を撃ち抜く、氷の魔導師。
ついに、姉の仇の魔獣の心臓を貫く

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魔獣は死の間際、追憶の光に包まれる。

子供達ガ帰ッテコナイ
子供達ハ、ドコへ

コノ花トッテモ良イ匂イ
本当ダ、パパノ所に持ッテイコウ
何ダ?人間カナ?

「このあたりにも魔獣がいるね、倒したらお姉ちゃん喜んでくれるかな」

止メテ、オ兄チャンを殺サナイデ!
ワァ、助ケ……

白百合の花畑のそばに伏せているのは小さな魔獣だった。
魔獣の喉元や心臓には氷の刃が突き刺さっていた

俺達ハ、何ノ危害モ加エテイナイ
俺達ハ、何ノ罪モ犯シテイナイ
俺達ハーー

意識は沫となり、ついには弾けて消えた。

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