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【3分で読めるダークファンタジー】破ラレタ掟

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★この小説は
#3分で読めるダークファンタジー  「六花抄 -Tales like a ash snow - 」
銀髪の剣士の姉と魔道士の妹が残酷な世界を旅する、ほろ苦い物語。

過去作品はこちら(オムニバスなのでどこからでも読めます)
https://note.mu/narumasaki/m/m38dd8451bb44

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「ハァハァ……もはや儂の命も長くは保たないだろう……がはっ」
口元を覆う掌に、濁った血が纏わりつく。
「第一皇子であるお前に、この国を託したい……」
「お、俺がこの国を……!?」

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これはとある王家の話。
王位継承するには、古から伝わる掟を守る必要があった。
その掟とは、「魔窟に棲まう、竜の髭をとってくること」
一人前の王になるには、竜を鎮めるほどの武力、強大な相手に打ち克つ知力の両方を民に誇示する必要がある。
それが一国の主としての通過儀礼だった。

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「私たちに護衛の仕事だと?」
長身痩躯の銀髪の少女は、驚いた表情を見せる。
「えへへ、わたしたちもだいぶ有名になってきたことだよね!お姉ちゃん」
驚いた姉とは反対に、銀髪のくせ毛の少女は、ふふんと得意げに答える。
銀髪の姉妹の魔法剣士。
旅を続けるのには似つかわしくない、その高貴な風貌からこの一帯で有名になっていた。

使いの兵士の男たちが告げる。
「王子より直々の極秘任務である。では明日、大公殿下の別室まで来るように」
圧のある声色が耳につく。
「報酬は前払いだ」
銀貨がパンパンに入った麻袋を置くと、その場を去っていくのであった。

「王子の秘密の護衛……か。だが、報酬は悪くない。それに……」
「それに?」
「王家からの依頼とあれば、今後にも活きるだろう」
姉は妹へやわらかい表情で語りかける。
「うん! がんばろうね」

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翌朝、二人の少女は宮殿から離れた、王子の別室の前にいた。
「緊張するね、王子様って言うくらいだからカッコイイといいなぁ」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう。さっさと任務をこなして……」

その時、玉座の裏の扉が開く。
少女たちは姿勢を正して、名を名乗ろうとする。
「私たちは今回の護衛の任務の命を授かったーー」
「お前らの名前など、何でも構わない。それよりもちゃんと竜を殺せるんだろうな」
ずかずかと靴の音を鳴らしながら、尊大な声が聞こえる。
「なっ!?」
「わかっているな、今回は次期国王を決定する、重大な儀式だ。お前たちは俺の言う通りにしていればいい」
「これは王子の命令だ。極秘のな。」

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王位継承の掟を守るために、魔窟の竜の討伐に向かう一行。

グルゥゥゥウ!
「なんだお前、俺のことを誰だと思って!?」
瘴気をまとった狼が今にも飛びかかろうと、地面に鋭利な爪を立てる。
グガァァァ!
魔物に言葉が通じるはずがなく、胸元を目掛けて飛びかかろうとする。
グサリ、と狼の心臓を細剣が貫く。
「ひぃいい!む、無理だ。こんなのに勝てるわけがない!」
そう言い残すと王子は、槍を捨てて岩陰の方へ隠れていってしまった。
「お、おい…!」
「お姉ちゃん、囲まれてるッーー!?」
「いまはいったんこの場を切り抜けるぞ」

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「無理だ、無理だ。嫌だ。早く帰りたい……」
先程までの尊大な振る舞いとは裏腹に、王子は岩陰でカタカタと怯えていた。
「先が思いやられるな、ここは私たちで切り抜けるぞ」
「う、うん……そうだね。」
姉妹の少女たちは、次々と魔物を斬り伏せて洞窟の奥へと進むのであった。

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「だいぶ奥まで進んだな。あの下にいる竜がこの魔窟の主か」
崖の真下に巨竜が眠っている様子が伺える。
「眠っているうちにやっつけちゃおう」
耳元でささやく少女。しかし、次の瞬間。
「あっ……」
足元の石がコロコロコロと転がっていき、寝息を立てる竜の鼻の前に落ちていく。

目を覚まし、こちらを睨みつける巨竜。
グオォォォォ!と洞窟内を響く雄叫びが聞こえる。
耳を塞いでも頭の中に震動が起こる。

「お、俺はまだ死にたくないいいい! お前らがなんとかしろぉぉ!」
そう言って王子は姉妹の二人を崖の下に突き落とし、そそくさと逃げ出してしまった。

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二人の姉妹が巨竜と戦い始めてから数刻が過ぎた。
死闘の末、決着が着こうとしていた。
「今だよ、お姉ちゃん!」
詠唱とともに、妹のまわりに冷気が集まり始める。
そして、姉の細剣が絶対零度の冷気に包まれる。
「アイシクル・ピアスッ!!」
姉の渾身の一撃は竜の片目を貫く。
貫かれた表皮から氷が広がっていき、頭部の半分が砕け散る。

グ、グォォォ……
巨竜は地に力なく倒れ伏すのであった。
「や、やったね、お姉ちゃん」
「ああ、さすがに強力な相手だったな……」
「て、手こずらせやがって。これが証の竜の髭か」
聞き覚えのある、耳障りのある声がする。
フンと巨竜の亡骸を踏みつけ、ぶちりと髭を抜いた後、立ち去るのであった。

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魔窟を後にし、城へ戻る一行。
「ハハハッ、これで次の王はこの俺だ。お前らも来いよ。城で楽しい宴だ」
城門をくぐり、大広間へ上がる3人。
「親父に報告してくる。どうせこの国は俺のものだ。お前らも来るといい」
そう言って、国王のいる寝室へと向かうのだった。

「そうか。ついに、竜の髭を取ってきたのじゃな。さて、その者たちは?」
「俺の新しい従者たちだ。近衛隊にしようと思ってな」
「ちょっと…!」
前のめりになる妹を腕で静止する姉。
「竜の髭を取ってきた。古からの掟でこれで俺は王になれるんだろう?」
「その前に、お嬢さん方。我が息子は本当に己の力で、自分の力で竜を倒したのじゃな」
無言で目を合わせる姉妹たち。
「本当に息子が、一人でやったのじゃな?」
王子からの冷たい目線が銀髪の少女たちに向けられる。

本当のことを言いますか?
はい
いいえ


■■■ はい
「本当に息子が一人でやったのじゃな?」
こくりとうなずく銀髪の少女。
「はっはっは、何を疑っているんだ? 俺が嘘を付く筈がないだろう」
それを聞いた王は、小声で残念だ…と独り言ちた後、力なく息絶えた。
やがて王として即位した皇子は、己の欲望を満たすためだけに、振る舞い続けたという。
数年も立たぬうちに、民からの革命によってその身を滅ぼしたという。


■■■ いいえ
「本当に息子が一人でやったのじゃな?」
王からの問いかけに、長身痩躯の少女は答える。
「いや、竜を倒したのは私たちだ。そこの王子は何もしていない」
「なっ、お前! 何を言っているんだ?あの竜は俺が殺したんだ」
「もうよい。そなたたちの傷を見ればわかる…… なぜお前の鎧がそんなに汚れていないのかもな」
「お前に、この国を任せることはできぬ。この国を出ていけ!」
こうしてまもなく王は病に倒れ、王子はどこか遠い国で身分を隠しながら一人朽ちていったという。
強き主導者のいない国はやがて数人の臣下たちが己の利権のために争い、滅びる運命が待っていった。

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