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4,短距離男道ミサイルさんのスタイル |【短距離男道ミサイルの魅力】

ここでは他の劇団と比較して私が「これは短距離さん特有だな」と感じているスタイルについて取り上げる。

・お客さんと対話する

 演劇会場に入ってから劇団員が「いらっしゃいませ!」と声を掛けてくれる。本編が始まる前の前説までも作り込んでおり、前回の「走れタカシ」ではお客さんに選曲してもらい、尾崎豊風に歌いながら前説をやってくれた。

※↑前説(公演前の開場利用の注意事項の説明)で尾崎豊風に歌う本田さん。
 
 演劇の最後の方では客席に仕込んだ衣装をお客さんに探してもらうよう呼びかけ会場全体が一体となり「赤いパンツ」を探した。
 短距離さんのこういった仕掛けは全く一方的ではなく、彼らはお客さんの反応に応じて瞬発的に立ち回りを変える。
 本質的に大事にしていることはお客さんが楽しむことであるからこそ、言動にそれへの謙虚な姿勢と誠実さが溢れ出ており、それに触れたお客さんたちは公演後全員嬉しそうな、晴れ晴れとした顔で会場を後にする。

・裸になるからこそ生まれる空気を大事にしている

 

 特徴的なスタイルとしてほぼ裸(上半身裸)で演じている。裸の成人が必死に演じたり、全力で踊ったり、走り回ったりしている様は
 とても滑稽で観客からも笑いが生まれる。これは他のパフォーマンス(服を着て面白いことをやったもの)で代替できない質の笑いである。
 裸のシーンでは全く卑猥さを感じず、むしろ彼らの一生懸命さやがむしゃらさが、全身全霊で表現しつくされ好印象である。


・役に溺れていない

 この感覚は人によって違うかもしれないが、「役になりきっている、役を演じている自分が好き」みたいな役者さんが少なからずいるのではないかと私は
思う。作品全体のメッセージを伝えるための構成要素としての自分、という自覚がなく、役になりきって、激怒する、泣く、打ちひしがれるなどの様子をまさにそれらしく演じている自分に酔っているタイプである。
 私はこのタイプを見ると、気持ちが作品の世界観から遠のいてしまい、せっかく劇場に来ているのに、小さな画面でドラマを見ているような気分になる。
作品に引き込まれること無く、演技上手だけどぐっと来なかったなぁという印象で終わる。
 しかし短距離さんではこの冷めた感情は全く生まれない。なぜなら、彼らはお客さんありきであり、さらに作品のメッセージを第一に考え演じきっているからだ。
 その日、その時間、そのシーンの状況に合わせ、演技者はアドリブも入れる。開場の時から文脈を共有しているその日のその時間のお客さんだからこそ分かる内容が共有され、会場の全員が理解し笑う。非常にハイコンテキストな、ライブ感のある舞台となる。演出の澤野さんがそれを意図しているのかもしれない。 
 演技することがゴールではなく、演技を通じてメッセージを伝えること、
お客さんに楽しんでもらうことを大切にしているからこそできる演出であり、それがあっても崩れない全体感になっているのが本当にすごい。
ここに演出家の澤野さんの匠さと、演じる劇団員達の自己満足を許さない謙虚さを垣間見て大変感銘を受ける。

この点に関して新聞でも同様に「道化に徹し」と表現されている。

・確かな実力

『コミカルかつ生半可じゃない』半ばバカにしていた友人が演劇を見終わった後に発した言葉である。公演記録・受賞履歴は別途HPで確認していただきたい。(http://srmissile.wixsite.com/missile/history)

・現実的でクール

さきほどから「作品のメッセージ」と書いていたが、短距離さんのメッセージはけっこう重く、作風に反して大真面目である。
ここでとても好きなのは悲劇のヒロイン的な伝え方ではないところだ。主題に向き合うシーンで、お客さんにはっと重たい主題を想起させ、役者の葛藤を通じて観客もその事象に思いを巡らせるわけだが、陰から陽への巧みなシーン展開とコミカルな全体感、劇団員達のエネルギーによって、しめっぽい雰囲気はゼロになり重たい気持ちは、前向きな気持ちへと変化して終わる。
ただ叫んでも観客の心が動かされるわけでないと分かっているからではないだろうか。
重たい主題と向き合いつつも、自分が解決できることの小ささを直視しており、それでも表現を通じてお客さんに伝えていく、だから一方的に叫んだままにしない、という責任感が作品の終わり方に感じられ、これがとても現実的でクールだと私は思う。
 前回見た「走れタカシ」は東日本大震災、福島原発問題などの思いメッセージを含んでいた。走るメロスの葛藤のシーンを描いた暗闇のシーンでは
原発やメルトダウンなどの活字の切り抜きのお面をつけた覆面男達が不快な音とともに現れ、走るメロスにカラーボールや水鉄砲で攻撃し始め、
その後ろでは福島の原発の様子を報じた新聞や各メディアの映像などが壁に映し出された。

※走れタカシの1シーン※
ピーンという音とともに一瞬で眼の前のカオスが消え去り暗闇の中「黙祷」と覆面男が声を発した。ちょうど、この公演が2018年3月11日で、
このシーンは14:48頃である。7年前の大震災とその犠牲者への祈りを、観客である私もその場で捧げた。その瞬間、大震災へと想いを馳せることができたのは短距離さんのおかげである。





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