最終電車

平日・下りの最終電車。
仕事終わり、もしくは飲み会帰りか。私含め、乗り合わせている乗客は今日一日の予定を終え、ぐったりした顔で電車に揺られている。

その中に、電車の窓を鏡代わりにして身なりを整えている大学生くらいの女の子が混じっていた。その姿は、疲れきった人たちの中ではっきりと浮いていた。

電車の窓に映った自分の姿を見ては、髪型を丁寧に直す。
とくに乱れているわけでもないのに、何度も何度も髪をいじる。
意味もなく分け目を少し変えてみたりして、毛束の流れを遊ばせてみる。
それから周りにバレないよう自然を装って、指先で顔を撫でるようにしてファンデーションのムラをならしていく。
そして時々、スマホに目をやる。

これから誰かと会うのだろう。それもとびきり特別な誰かなのだろう、というのはよくわかった。

その顔にちらりと目をやると、目元がやけに黒く、不自然なほどピンクに染まった頬をしていた。時間だけをかけたであろうそのメイクは、素朴な顔立ちと雰囲気に全く似合っていなかった。
それでも目元のマスカラが落ちていないか、時折目を大きく見開いてスマホの画面も鏡にしながらこっそり確かめる。

それからサッとポーチからリップを取り出して塗り直した。カバンから出したそのポーチはメイク用品が雑多に入っていてグチャグチャだった。

よく見ると、しきりにスタイルを気にしていたその髪の毛先も、色が抜けて全体の髪色よりも何トーンか明るくなっていた。

普段は化粧っ気もなく、そこまで見た目を気にするタイプではないのかなと勝手に想像した。

自分を最もきれいに見せる術すらわかっていないのに、見よう見まねで一生懸命着飾って、誰かに会いに行こうとしている。その姿はなんてかわいくて、いじらしくて、そしてとびきりきれいなのだろうと思った。少し空回った危うさと不完全さが、本来の美しさとは別の美しさを呼んでいた。

どうか、これから会う相手が駅の改札まで迎えにきてくれていますように。同じように落ち着かない時間を過ごしていてくれますように。彼女の労力が吹き飛ぶような時間がこの後に待っていますように。

そう願わずにはいられないのは、少し羨ましさもあるのかもしれない。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

ありがとうございます!
31

成瀬瑛理子

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。