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社会人一年目に、南下した私へ。

 1994年、就職したIT企業から「入社を半年待ってほしい」と言われ、入社が10月に延びた私。

私は、北海道の離島に向かい、そこで5ヶ月間、旅館で住み込みのアルバイトとして働いた。ろくに働いた経験の無い世間知らずな私は、そこで休みなく働いて、お客様と接しながら、凝縮した労働体験を積むことが出来た。

 夏休みの時期になると、お客様は増え、地元の高校生がアルバイトに来るようになった。その中に一人「可愛いなぁ」と思う女の子がいた。ただ、「すぐにこの島を去るから」という言い訳が浮かんで、なかなか積極的にはなれずにいた。でも私は何かと近寄って行ったのだろう。どういう経緯だったか、小さな手紙のやりとりが始まった。まだ、携帯もメールも持ち合わせていなかった時代。その、たまにもらう手紙が本当に嬉しかった。内容は、学校のこととか「高校を出たら島を出るつもり」って話とか。私からもその返事を書いて、こそこそと渡していた。ただただ文通だけしてるような二人なのに、未熟な私はなんとなく「この人と結婚するかもしれない」なんて想像したりして。ただ、夏休みが終わると、その子がバイトに来る頻度は一気に減った。忙しい週末にだけ、たまに現れる程度になり、手紙の頻度も減り、会う機会も減っていった。

9月中旬。ついに島を去ることになった。港はそれなりに混雑していた。人混みをかき分け彼女は現れた。早朝にも関わらず、彼女は港に来て、手紙をくれた。

 9月末。私は北海道から東京への飛行機に乗っていた。今度は本当に入社したIT企業で勤めるために。

 社会人一年目の私の東京編が始まった。24時間365日フル回転するシステムの保守を担当。日勤、夜勤が混ざった不規則なシフト勤務をこなしていった。

 文通は続いていた。彼氏彼女という関係ではない状態で、おそらく3年ぐらいは続いただろうか。帰省した際には二人で会ったりもしたが、進学、就職など環境が変わりながら、それは、自然消滅という形で終息した。


 そのあと、2年ぐらい過ぎた頃だろうか。

 私のアパートのクローゼットの奥に、そのやりとりした手紙のかたまりを、当時彼女になりたての、妻が発見したのである。

 

社会人一年目の君へ。

君に言っても、意味はないかもしれないが。
手紙の取り扱いには、どうか注意してほしい。

#社会人1年目の私へ

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