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【ショートショート】『スーパー・パフォーミング・アーティスト/義志田 龍生』

「なんて言うのかなぁ...結局、この能力自体に、どういう意味があるのかと言われたら..僕自身も上手く説明できないんだけどね..フフッ」
目の前に座っている、新進気鋭の超能力者、
いや、スーパー・パフォーミング・アーティスト【義志田 龍生/ヨシダ・リュウセイ】はそう語った。
「そうなんですか。では、義志田さん自身も、何故、自分にこの能力が与えられたのか、答えを探している途中という事ですか?」
義志田はゆっくりと頷いて答えた。
「そうだね。でも僕は、この能力を【超能力】とは呼びたくないんだよね。僕にとっては当り前の力だからね」
俺の目の前のテーブルには、先程、義志田が、その念じるだけで物質を変化させる、という能力によって捻じ曲げたスプーンが無造作に置かれている。素人の俺にはとてもトリックがあるようには見えなかった。義志田が続ける。
「まあ、いつかこの能力を授かった意味が分かる時が来ると思ってますよ..いつかは判らないけどね、神のみぞ知るってところかな..フフッ」
義志田はそのルックスと相まって、今、若い女性を中心に、一種のアイドル的人気を集めている存在である。
一部のマスコミが彼につけた呼び名は
【奇跡の人】だ。
今回の話題の人物にインタビューするという雑誌の企画に、義志田が指定した場所は、東京郊外の自然があふれる、川べりにある公園だった。
「僕は都会の喧騒が苦手でね、フフッ..静けさが僕にインスピレーションを与えてくれるんだ。こういう場所に来ると【自分本来の姿】つまり【造られた自分】ではなくて、僕自身に本来備わっている資質、本当の意味での、ありのままの自分でいられる気がするんだよね..そして、いつもこういう場所で本当の自分と対峙していたい..そう思っている..」
そう言って義志田は、川に入って一人遊んでいる子供に目を向けた。 
「僕にもあんな無邪気な時代があったな、フフッ..時々考えるよ..あの楽しかった子供時代に戻れたらなって...ああ、この能力が無かったら楽なのにって...まあ、普通の人には理解してもらえないんだけどね」 

そして、義志田は何かに気付いた様子で「あれっ」と声を出して腰を上げた。
「あの子、溺れてない?」

義志田が見ているその先では、子供が川に流されそうになっていた!
俺は立ち上がった!
「本当ですね!義志田さん、助けに行きましょう!」

義志田と俺とカメラマンの3人は、溺れている子供の近くまで走った!
川辺に来た俺は、慌てながらカメラマンに聞いた!
「山ちゃん、泳げる?!」
カメラマンは答えた。
「いえ、僕、ダメです!」
「俺もなんだよ!」

あっ!もしかしたら、義志田さんなら..

俺は、義志田に向かって叫んだ!
「あのっ!義志田さんのチカラで!」

義志田は、慌てて、手を顔の前でブンブン振って答えた。

「無理だよ!衣装が濡れちゃうもん!」

おい!衣装の心配している場合じゃないだろう、と口から出かかった言葉を飲み込んで、俺は子供めがけて川に飛び込んだ!
そして、必死に子供の所まで辿り着き、流されそうな、その子の腕を掴んだ所で俺の記憶は途絶えた..
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気が付くと、義志田、カメラマン、溺れていた子供が、横になっている俺をのぞき込んでいた。

「良かった、気が付いた」

義志田はそう言ってから、子供に向かって語りかけた。

「今度から気を付けるんだよ!僕がいたから良かったものの...帰ったら、お母さんにちゃんと言うんだよ。はい、これ僕の名刺」

そして義志田は、俺にペットボトルの水を差し出しながら言った。

「あの、大丈夫ですか?これ飲みます?」

怒りがこみ上げてきた俺は、義志田に向かって

「ふっざけんじゃねえよ、バカタレ!今、散々飲んだばっかりだろうが、この野郎!義志田、いや、吉田、てめえ普段格好つけてるクセに、いざという時全然役に立たねえじゃねえか、お前は!大体スプーンが曲がった所で、何の意味があるんだよ、何の役にも立たないんだよ、そんなのはよ!馬鹿野郎!てめえ、さっきから聞いてれば、調子に乗って偉そうな事ばっかり言いやがって、お前、何様のつもりなんだよ、おい!ヨシダ!お前、本名【ヨシダヨシオ】っていうらしいじゃねーか、この野郎!なにが【スーパー・パフォーミング・アーティスト】だよ!たかがスプーン曲げる位でアーティスト気取りやがって、そんなの普通の大人が、力入れれば曲がるだろうが!全然意味ないんだよ!おい!」





と心の中で叫んでから、

「あっ、すいません...いただきます」

とペットボトルを受け取った。

【了】


監督.脚本/ミックジャギー/出演. インタビュアー. 佐村河内せめる、義志田役. 未来ノエル、カメラマン. ミックジャギー、子役.鈴木大福

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