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[短編小説]GTO物語 ターン編16

 彼女は「えー」が口癖で大抵の場合は「えー」から話し始めた。

 僕らは趣味や最近あったたわいもないニュースについて会話した。結局彼女が平日に学校に行っていなかったか聞き出せなかった。自分から話そうともしなかったし、気のせいかもしれないがどことなく、その話題は聞きづらい雰囲気があった。

会計のまえにトイレに席をたった。ただの喫茶店のトイレで小便をしているだけだが僕はニヤニヤしていた。ニヤニヤにしている自覚があったが、それを止めることができなかった。足早に席へ戻ると彼女はスマートフォンを操作してた。こちらに気づくと少し気まずそうにそそくさとスマートフォンをブレザーのポケットの中に仕舞った。僕は一口残ったコーヒーをコーヒーを啜ってから言った。

「そろそろ、出よっか」

「えー、わかったぁ」

彼女は少し不満そうに言った。二人で席を立ち、会計を済ませるために入り口付近のレジへ。注文を取った中年の女性が僕と彼女を交互にじろじろ眺めた。多分に批判的な視線だ。ぶっきらぼうに会計代金を告げ、めんどくさそうにお釣りを返された。僕は居心地が悪くなりながら、先に喫茶店のドアを開け外に出た。外に出るとやはり少し冷える。

「ごちさま!」

と突然彼女が腕を組んできた。彼女の胸が僕の腕に押しつけられた。腕はぬくもりとその柔らかさを存分に感じ取っていた。さらに僕は腕に神経を集中させた。僕の下半身は熱くなり、硬直した。心臓の鼓動は速くなり、脳みそが沸騰して気が遠のいた。からだは本能に正直だ。

 「ごちそうさまです!」

と元気よく言って、彼女は僕から離れて軽くお辞儀した。光悦感に浸っていられたのは、ほんの一瞬だった。

「連絡先教えて! それと下の名前も」

「えー、なんで?相葉さん忙しいから教えてもどうせメッセージくれないでしょ?」

「ちゃんと返事返すよ」

「えー、なにそれ。私からメッセージしないと、連絡くれないってこと?」

「いや、そういう意味じゃ無いけど」

そう言って、僕らは連絡先を交換して別れた。僕は自宅で仕事中ってことになっていたし、あまりにも緊張しすぎてこれ以上の時間を彼女とどうやって過ごしたらいいか不安になったからだ。

喫茶店から自宅マンションへ帰るまでの足取りは軽かった、さっきまで話していた彼女の顔が頭に鮮明に浮かんだ。彼女の笑顔を思い出すたびににやけて頬が崩れるのがわかった。昼下がりににやにやしながら歩いてる少しおかしな人の出来上がりだ。


(つづき)

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