見出し画像

『クラッシュ・ロワイヤル』のけんつめしは、esportsシーンに求められているヒーローだ

2017年7月に開催された『クラッシュ・ロワイヤル』のアジア大会、「Clash Asia Crown Cup」で日本代表として戦ったけんつめしは準決勝で敗れた。試合後、彼のTwitterにはファンから多くのメッセージが届いた。それを見て嗚咽を漏らす姿は、僕の心を射抜くのには充分すぎた。

その姿勢に胸を打たれ

同大会で奮闘したけんつめしのドキュメンタリー『けんつめし アジア挑戦の記録 in 上海』がYouTubeで公開されている(トップ画像はその1シーン)。たった25分34秒に、彼の魅力を存分に詰め込んだ珠玉の動画だ。

けんつめしは予選を勝ち上がり、決勝大会へと進んだ。試合直前、「日本の分 背負って戦います」と宣言。自分が日本代表であることの重みを感じている言葉だ。このとき、彼はまだ18歳だった。

最初の試合は追いつかれながらも勝利を収める。そのまま日本の配信ブースに直行して喜ぶのが普通のプレイヤーだろう。だが、けんつめしは真っ先に対戦相手のJuneのところへ向かった。うなだれる相手の健闘を称え、握手を交わす。

そしてそのあと、ようやく配信ブースへ向かい、喜びを爆発させた。さらに友人のHeckaが負けてしまったときは、落ち込む彼のもとへすぐに駆け寄り、声をかけた。

彼のこの姿勢は、スポーツマンシップからすれば当たり前のことに思えるが、透徹できているプレイヤーが日本に何人いるだろう? ましてやこんな大舞台でそれを貫ける意思のありようは、太陽のようにまばゆい。

勝ち方へのこだわり

準決勝に進出できる大事な試合をものにした直後の勝利者インタビューで、けんつめしはお決まりのフレーズ「ヘイヨー!」を言い放つ。その心臓の強さたるや。対戦相手のAaronと笑顔で抱き合う光景には、率直に「ゲームっていいな」と思ってしまった。

次に戦う中国の水水には「アニョハセヨ」とあいさつされてしまうも、笑いながら「こんにちは」と訂正。ちょっとイラッとしてしまいかねないシーンだが、けんつめしは大人の対応で場を取り持った。その水水に敗れたHeckaを称えることも忘れなかった。

けんつめしはゴーレムを得意とするプレイヤーだが、ここまではこだわりよりも勝てるデッキを構築して戦ってきた。しかし、準決勝でついにゴーレムを投入。試合は2対2にもつれ込み、最終戦――彼は再度、最も自信のあるゴーレムデッキで挑む。

けんつめしにとってゴーレムは特別なカード。「ゴーレムがなかったらこんなに楽しんでない」とまで言ってのける、「本当に勝ちたいときにこそ」使うカードだった。最後の試合は彼の勝利、いや勝ち方へのこだわりが最も発揮された3分間だ。だが、敗れた。

ヒーローの精神

けんつめしは試合席で目を押さえ、なんとか涙をこらえようとした。その姿が物語る想いの強さに、会場が拍手を送る。真っ先にHeckaがやってきて声をかけてくれる。そして配信ブースで仲間たちに迎えられ、泣いた。

ヒーローになりたい――大会の前、けんつめしはそう語っていた。敗北のあと、Twitterに届いたファンからのメッセージがまさに彼がヒーローであることの証拠だった。

試合後、けんつめしはプレイ、スキル、行動でみずからのあり方を示していくと告げる。現に、のちにアップされた攻略動画では「日本のクラロワのレベルを上げたい」と述べていた。僕はこれほど超一流、ヒーローの精神を持ち合わせたゲームプレイヤーは見たことがなかった。

日本一決定戦では惜しくも敗れたが、勝ち上がったフチとアマテラスが12月の世界大会に出場する。彼にも大きな期待がかかるところだ。

いま求められている存在

ここまでは『けんつめし アジア挑戦の記録 in 上海』をなぞっただけだが、いかにけんつめしがヒーローたりえているかは伝わったのではないだろうか。クラロワに興味がある人も、いまはない人も、「競合だ」という人も、複雑な感情・状況のある人も、ぜひこのドキュメンタリーを観てもらいたい。

TGSフォーラム 2017の基調講演で語られたのを始め、多くのesports業界関係者が「日本でesportsがより盛り上がるには、世界で活躍するヒーローが必要だ」と言っている。つまり、まだヒーローがいないのだと。そうだろうか? 日本にも世界で活躍しているプレイヤーはいる。格闘ゲームの世界にはそれこそ数えきれないほど。

そして、クラロワの世界にはけんつめしがいる。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。