沈黙は金ではない――Dara選手引退に際してライアットゲームズとLJL関係者に望むこと

LJLに参戦しているPENTAGRAM(旧RAMPAGE)による、Dara選手とTussle選手に対する在留カードの強奪と脅迫。そして、それを原因とする精神的苦痛によるDara選手の引退。

事実や状況に関しては↓の記事を参考にしてください。今回は、この件に関して僕が思っていることを書こうと思います。

※5月8日 本件に関してライアットゲームズから「LJL全所属チームへのコンプライアンスの徹底について」という発表がありました。

再発防止策は講じられたのか

どうしてこうなってしまったのか、とただ悲しみが募ります。Dara選手を引退に追い込んだのは、直接的にはPENTAGRAMの中村洋樹氏と藤田拓也氏です。彼らの人権侵害行為は悪質で、どんな事情であれ擁護されるものではありません(一部には「しょうがない」といった声があるそうですが、そんなはずがないでしょう)。

一方で「LJL最悪の日 Dara選手引退について」でJ1N1さんが言うように、LJLが在留カード事件を公表した2月の時点で大きな声を上げなかったコミュニティや、スルーしたゲームメディアの責任もあります。ただ僕は、上記2名の次に責任が重いのは在留カード事件を風化させようとした(ように見える)LJLの運営、つまりライアットゲームズだと思います。

たしかに、事件が以前のようにリークによって明るみに出る前に事実関係を調査し、隠蔽せず公表したことについては評価すべきです。しかし、その後の対応はどうだったか。LJL 2018 Spring Splitの放送内ではペナルティに触れてもその理由については一切触れず、その後もひらすら沈黙してきました。

また、PENTAGRAM(運営会社y's agency)はあたかも「自分たちは悪くない」と主張するためだけのリリースを公開しましたが、その内容はライアットゲームズBurning Coreの発表、そしてDara選手の認識とかけ離れていました。

事実(ライアットゲームズのリリース)と反するこんなものが通るのはおかしなことですが、その掲載を許可したのはあろうことかライアットゲームズです。なぜそんなことを許したのか、いまだに理解できません。

なにより、今後同じような悲劇が起きないようにするための対策が講じられたのか、参戦チームへの通知・対応が徹底されたのか、一切分かりません。あるいは、Dara選手とTussle選手へのケアはなされたのでしょうか。各チームにおいて外国人選手(だけでなく日本人選手)への待遇に問題がないことを確認したのでしょうか。

PENTAGRAMのリリースによれば中村氏は外国人選手を擁するチームを数年にわたり率いていながら在留カードについて理解していなかったと書かれています。ほかのチームではどうなのか、ライアットゲームズは把握しているのでしょうか。

もしそうしたことがなされていなかったとしたら。ただ事件をなかったことにしようとしていたら。

事実はどうか分かりません。しかし、Dara選手がPENTAGRAMではなく「LJLに失望しました」とコメントしていることを考慮すると、ライアットゲームズの対応が(中村・藤田両名へのペナルティ内容も含め)けっしていいものではなかったことは容易に想像できます。

僕も、人権侵害に対するペナルティとしては甘すぎると感じました。そしてそれゆえに、LJL 2018 Spring Splitを予定どおり6チームで進行するためにあの裁定を下したのではないかとすら疑ってしまいます。

Player Experience Firstとは

LJLがDara選手に「心が壊れた」「薬が必要」とまで言わせてしまった。僕はそのことがひたすらに辛い。なぜなら、僕がLJLファンであると同時に、2014年にLJLを作った1人でもあるからです。自分が設立と運営に携わったLJLが、多大な貢献をしてくれた1人の選手の心を壊した、少なくともその一端に責任を負っている。それが本当に心苦しい。

ライアットゲームズは「Player Experience First」という理念を掲げています。ライアットゲームズと一緒に仕事をするパートナーの人たちもこの理念を共有しているでしょう。しかし、Dara選手の引退とその原因は、この理念に反する重大な出来事です。

ライアットゲームズはまた、2月のリリース本文において強奪や脅迫という言葉を使っていないことから、重大な事実に対する印象を薄めようとしているようにも受け止めることができます(価値判断を伴わない表現が必ずしも正しいとは限りません)。

プレイヤーの体験を第一に考える。社内文化としてこのことが通底されていたのか、疑問を感じます。ライアットゲームズは再び沈黙し風化させようとするのでしょうか(試合中に本件へ言及するコメントはBANしていいと思います、試合に関係ないので)。

僕はライアットゲームズに謝罪しろと言いたいのではなく、PENTAGRAMの両名への追加制裁を望んでいるのでもなく、今後どうしていくのかという対策を講じ、それをきちんと公表してもらいたいと思っています。

本来ならあのとき、事実が公表された時点で、LJLと日本のesportsがよりよい方向に発展するために、公に議論する必要があったはずです。Dara選手の引退宣言をあとにして、「いまからでも遅くない」と言うことはできません。ですが、それでも議論しなければならないでしょう。

LJLを安心して観戦し、応援するために。そしてLJLに日本のesportsをこれからも引っ張っていってほしいと期待するために。

起きてしまったことを覆すことはできません。であれば、再発しないよう尽力し、プレイヤーやファンに誠実にみずからの言葉で伝えることが「プレイヤーの体験を第一に考える」ことではないでしょうか。

沈黙は金ではない

本件に関して、Twitterで以下のようなツイートをしました。

(八木葱さんの敬称が抜けていて申し訳ないです)

2月に在留カード事件が公表されて以降、ライアットゲームズの沈黙に同調するかのように、ライアットゲームズやLJLの関係者や近しい人たちのほとんどが本件について沈黙していました(シェアや記事ツイートすらしない場合も)。上記ツイートで挙げた人たちだけでなく、ほかのLJL参戦チームもおおよそ同様です。

もちろん、全員に思うことも言いたいこともあるでしょう。それを自由に言えない立場にあること、どこまで言っていいのか判断できない状況にあることは充分に理解しています。

また、ライアットゲームズ、つまり仕事をもらっているクライアントにとって不利益(に思われるよう)なことに言及することで、今後仕事を依頼されなくなってしまうという恐れを感じ、沈黙せざるをえないのかもしれません。

しかし、本件は単なるルール違反ではなく、「(本件について考えると)ゲロでプレイできない」と言わしめるほどの、1人の選手の心を壊すまでに至った人権侵害です。関係者はそれについて懸念や対策への期待を表明することすらできないのでしょうか。

健全な批判や意見ができない状態は真っ当ではありません。健全な批判や意見を封殺するのは異常です。もしライアットゲームズが自身への健全な批判や意見を許さない空気感を作っており、関係者に忖度させることが当たり前になっているとしたら、そこにもライアットゲームズが追うべき責任があると思います。

2月の時点で関係者たちがコミュニティも交えて議論を行ない、ライアットゲームズともども再発防止策を講じ合っていれば、Dara選手の傷は少しでも癒えたかもしれません。「LJLに失望しました」とまでは言わせなくてよかったかもしれません。

当然、ライアットゲームズや関係者の間でそうしたことがまったくなされていなかったとは思いません。ですが、この3か月、外から見ていてまったく何も分かりませんでした。関係者たちが本件をどう考えているのか、もしかしてたいしたことではないと捉えているのではないか、風化を望んでいるのではないかと、ただただ不安でした。

いまや沈黙は金ではありません。当事者や近しい人たちが黙っていることで外野が尾鰭をつけて煽り続け、それが既成事実とさえなってしまいます。当初の公表から3か月が経ち、Dara選手が沈痛なツイートを残して引退したいま、黙っていることはそれ自体が悪印象を積み重ねているのと同じです。

プレイヤーやファンは(僕も含め)、ライアットゲームズや関係者が何を考えているかを知るだけでも安心します。「言及しがたい立場にあること」に言及するだけでもいいのです。本件に黙しながら、一方で「Player Experience First」や「ゲーマーの地位向上」なんて言えるわけがありません。

もちろん本件に関して何か言う立場にない、何も言いたくないという判断もありえます。その気持は尊重されるべきです。一方で、思うことがあり公表したほうがいいと考えるなら、そうすべきだとも思います。直近では、LJLに近しい人たちの数人が何らかの形で言葉を表明してくれています(Revolさん、katsudionさん、Day1さん、JOONさんなど。その内容はさておき、言及してくれたことは希望に繋がります)。

※5月6日 「本件に関して何も思わないから言及しないということがありうるのでしょうか。それはさすがに信じがたい。」という表現を改めました。

重ねて言いますが、沈黙は金ではありません。何も言わないことは、外から見ている人にとっては何も存在せず何も思っていないというのと同じです。嵐が過ぎ去るのを待っている間、信頼は落ち続けます。そしていま沈黙することは、もし自分が人権侵害を受けたときも黙り続けるということにほかなりません。

ライアットゲームズには、我々が愛してやまないesportsの最前線で起きたこの事件を風化させず、そして二度と起こさないために、できるだけのことをしてもらいたいと思います。

部外者の自分に何ができるのか

僕は2月の時点ではTwitterで意見を言うだけで、今回もどうしたらいいのか正直分かりませんでした。そんなときJ1N1さんが記事を書いていることを知り、協力してほしいと言われ、できる限りのことをしました。僕よりもはるかに濃いLJLファンであるJ1N1さんが本気でどうにかしたいと考え、行動している姿を見て、及ばぬながら何か力になりたいと思ったからです。

その過程で、僕は上記で書いたような考えに至りました。再発防止策を議論し公表してもらいたいと。この意見がどこまで届くか分かりませんが、こんなときのためにこそ業界関係者の方に読んでいただけているtokyo esportsを運営してきたのだと思います。

PENTAGRAMによる人権侵害行為はLJLだけの問題ではありません。ゲーマーの人権が、悲しいことにesports業界内部の人間によって踏みにじられたのです。普段、「ゲーマーの地位向上」を謳う業界関係者も多い中、本件を無視できるでしょうか。

たしかにいまの僕は外野であり好き勝手に言える立場です。かつての立場であれば、いまほど言及しなかったかもしれません。しかし、いまかつての立場になるのであれば、本件に関して黙っていることは絶対にありません。現在でもtokyo esportsを通して企業から声をかけられたり、仕事を依頼されたりもしています。それでも僕はいまの姿勢を崩しません。語るべきときの沈黙は、もはや悪だからです。

ここまで読んでくれるような読者の皆さんは、これからのLJLや日本のesportsのために何かしたいと思っているかもしれません。ぜひ行動を起こしてください。僕がこの記事を書いたように、ブログやTwitterで意見を表明するのもいいと思います。本件を調べたり、精力的に動いているJ1N1さんの記事をシェアしたりするのでも構いません(ただし、LJLやMSIの試合中に煽ることや誹謗中傷は無意味です)。

部外者の自分に何ができるのか。これはとても難しい問題ですが、本件について少しでも共感し、心を痛めているのであれば、何か行動してもらえればいいなと願います。これは「彼ら」の問題ではなく、「我々」の問題なのです。

※追記。ゲーマー日日新聞のJ1N1さんが本件について情報提供を呼びかけています。特に立場上表立って発言しづらい方は、ぜひご協力いただければと思います。


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謎部えむ

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