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eスポーツ関連企業の決算資料を見てみよう~事業会社編 2019年8月版

企業の決算資料には、その企業の現状や将来を知るためのいろいろな情報が書かれています。

もし企業がeスポーツ事業に取り組んでいて、強く注力していたり売上などにインパクトをもたらしたりしていれば(あるいはその期待があれば)、決算資料にもeスポーツのことが記載されているはず

ということで、「eスポーツ関連企業の決算資料を見てみよう」シリーズの第2回です。前回は【ゲーム会社編】ということでカプコン、ミクシィ、セガゲームスの決算資料を眺めました(ミクシィに関しては最新の決算について追記)。

また、8月8日と9日にかけてほかのゲーム会社でも最新の決算資料が公開されていました。決算の影響を直接被る株価だけを簡単に一瞥すると、ガンホー・オンライン・エンターテイメントは業績がかなり厳しく約16%も下落(かつて業界を席巻したモバイルゲーム企業は軒並み苦戦という感じ)。ネクソンは業績は悪くなかったと思いますが、自社株買いのせいか株価が約24%の大暴落となりました。ゲームメディアのファミ通やプロチームのFAV gamingを運営するKADOKAWAが約17%の高騰というグッドニュースも。

さて、それはさておき、今回の【事業会社編】ではゲーム会社以外でeスポーツ事業に取り組む企業に注目し、決算資料を見てみます。ただし、該当企業する企業は多くありません。それには3つの理由があります。

1つには、eスポーツ事業に取り組む企業が少ないこと。
2つには、eスポーツへの投資規模が小さいこと。
3つには、証券取引所に上場している企業が少ないこと。

そんな中で決算資料を公開しているサイバーエージェント、GameWith、カヤックの決算資料に注目しましょう。決算資料とは何か、これを見ると何が分かるのかといったことは前回の【ゲーム会社編】をご覧ください。

サイバーエージェント eスポーツ関連の記載がなくなる

まずはサイバーエージェントの2019年9月期第3四半期決算短信です。サイバーエージェントといえば、いまはAbemaTVへの継続的な巨額投資が最大の注目ポイントでしょう。

しかし、僕たちの関心事はeスポーツ。同社の関連会社には『Shadowverse』を開発・運営するCygames、大規模大会RAGEを運営するCyberZ、その子会社としてeスポーツの広告事業や受託事業を行なうCyberEがあります。サイバーエージェントの決算資料にこれらのことが記載されているかどうかが重要です。

結論から言うと、eスポーツ関連の記載はありませんでした。以前はOPENREC.tvやRAGEのことがけっこう書かれていたんですが、今回の決算説明会資料では37ページ中10ページもがAbemaTVに費やされていました。やはりとてつもない注力具合がうかがえますし、投資家にとっての最大の関心事でもあるということでしょう(AbemaTVにはかつてウルトラゲームスというゲームやeスポーツに特化したチャンネルがありましたが、不振のため終了してしまいました)。

ただし、決算短信のほうではゲーム事業の筆頭としてCygames、インターネット広告事業の筆頭としてCyberZが挙げられています。これは朗報といっていいでしょう。

(2)ゲーム事業
ゲーム事業には、(株)Cygames、(株)サムザップ、(株)CraftEgg等が属しております。既存タイトルが好調に推移し、売上高は114,499百万円(前年同期比4.4%増)、営業損益は19,037百万円の利益計上(前年同期比9.2%減)となりました。
(3)インターネット広告事業
インターネット広告事業には、インターネット広告事業本部、(株)CyberZ等が属しております。新規広告主の開拓に注力し、売上高は195,602百万円(前年同期比9.0%増)、営業損益は15,358百万円の利益計上(前年同期比8.7%減)となりました

2019年9月期第3四半期決算短信」より

CyberZは中核事業が広告で、その利益をeスポーツに投資していると思われます。同社が運営するRAGEに関しては、RAGE Shadowverse Pro Leagueに福岡ソフトバンクホークスが参戦という報がありましたね。これでレバンガ北海道(バスケ)、横浜F・マリノス(野球)、読売ジャイアンツ(野球)に続いてプロスポーツチームから4チーム目の参戦となります。大会の視聴者数も持ち直してきているようです。

いちおうCyberZの決算公告も見ておくと(2018年末に掲載)、第10期は4億1700万円の赤字が出ています。第9期(2017年末に掲載)が7600万円の赤字で利益余剰金も5億円ほど減っていますから、相当にRAGEとOPENREC.tvに投資しているのではと推察できます。

ちなみにCygamesは113億円の黒字で、こちらはまだまだ安泰といったところ。サイバーエージェントとしてもゲーム事業はたいへん好調みたいです。

決算資料からeスポーツの文字がなくなるも、RAGEの運営にテレビ朝日が参画するなどいいニュースは多めで期待感は高いまま。同社グループは投資判断も撤退判断も爆速ですが、ほかの企業にはない圧倒的スピード感と圧倒的資金力でeスポーツ業界を引っ張っていってほしいですね。

GameWith ここに来てeスポーツの記載が増加

続いてゲーム攻略サイトで有名なGameWithの決算資料を見ましょう。eスポーツに関しては『クラロワ』、『スマブラ』、『Fortnite』、そして格闘ゲームのプロ選手が所属しています。この1年で一気に増えましたが、主たる事業との親和性はかなり高いですね。

しかし、2019年1月に公開された「2019年5月期第2四半期」の決算資料ではeスポーツが全然扱われていませんでした。初登場は「2019年5月期第3四半期」の決算説明資料、いきなり1ページを使って紹介されています。

そして7月に掲載された「2019年5月期」の通期決算では、決算説明資料にて『クラロワ』チームに1ページ、その他で1ページが使われています。

同社がeスポーツに注力し、期待していることがうかがえます。この背景にはゲーム攻略事業の落ち込みがあるのかもしれません。つまり、話題のeスポーツを既存事業に絡めていくことで業績を伸ばそうという目論見です。

直近のGameWithの業績は芳しくありません。売上は上がっているものの、人件費などコストがかさんで利益が大幅に下がっています。資料にもあるとおり、サイトのPVがかなり減っていることが要因のようです(最盛期は2年前の8.9億PV/月、直近は5.5億PV/月。ただしPVあたりの広告単価は高水準で維持)。伴って株価も下がり続けていて、昨年同時期の約半値、600円弱の状態。2018年初頭には2500円近かったんですが……。

ただ、証券取引所が東京証券取引所マザーズ市場から東京証券取引所市場第へ移行したことが発表されました。これにより会社としての信用が高まりますし、より活発に資金調達できるようになりそうです。

eスポーツに関しても期待できますが、現状では手探りの状態で、はっきり言って充分な展開ができているとはまったく言えません。ゲーム攻略サイトの運営とはかなり異なるノウハウが必要なのでしょうがないとはいえ……。会社として所属している選手、チームをサポートしプロモーションしていこうという姿勢が見えないので、その点が強化されていけばいいなと思います。

なお、GameWithはJeSUの正会員になっており、浜村弘一さんが取締役に就任しています。下記のサイトで株主総会の様子がレポートされており、eスポーツにより注力していくであろうことが社長の今泉卓也さんから語られています。

カヤック ウェルプレイドが順調に成長中

最後はカヤックの決算資料です。カヤック自体はLobiというゲームコミュニティプラットフォームを運営していますが、eスポーツといえば子会社のウェルプレイドに注目すべきでしょう。

どの決算資料にもウェルプレイドが登場しているので、eスポーツ好きには楽しい資料となっています。5月に掲載された「2019年12月期第1四半期決算短信」には「esportsイベントの企画・運営からesports専門メディアの運営等を行う「esports事業」が順調に成長を続けております」とあります。

また、決算説明会資料では昨期と同様に複数ページを使ってウェルプレイドの事業が紹介されています。イベント受託が売上の柱となっており、自社リーグ、マネジメント、メディアは投資フェーズとあります。

また、カヤックでは現場メンバーが「自慢と反省」を語るおまけ短信を公開しています。そこではウェルプレイドの谷田優也さんがグローバルな案件が増加しつつも、それに伴う人材不足が課題で採用強化をしていると述べています。

カヤックはLobiが伸び悩んでいるので、そこにeスポーツを組み合わせていこうとしていると思われます。これほどeスポーツが飛び交う決算資料はほかにないかもしれません。ウェルプレイドは内外から注目、期待されているということでしょう(弊誌の読者でも知らない人はいないはず)。

ウェルプレイドとしては今後、上述したように受託事業以外で収益を上げられるようになることが重要です。しかしながら、それはCyberZなどほかの企業でも同様で、似たような課題に直面しています。というか、eスポーツ事業を受託以外で稼げるようにするのはいまのところとても難しいため、同社がどのように新境地を切り開いていくのか楽しみですね。

決算公告にも注目

企業のeスポーツ事業について知るうえで、上場企業なら決算資料がありますが、未上場企業でも決算公告を頼る手があります。先ほどCyberZとCygamesの決算公告で財務情報を見ましたが、ほかにもeスポーツ関連企業も決算公告をしています。

例えば、ビットキャッシュの関連会社でプロチームのCAGを運営するeスポーツコネクトは、直近の第3期で8506万円の赤字を出しています。第2期は1億3444万円、第1期は5433万円の赤字でした。3年継続して相当に投資しているので、そろそろ成果が見え始める頃でしょうか。

また、JeSUの2019年3月期(初年度)の一般正味財産(企業でいう当期純利益)は2656万円のマイナスだったそうです。儲かってはいませんね。

どうなるeスポーツ市場!?

ということで、【ゲーム会社編】と【事業会社編】の2本で決算資料を見てきました。eスポーツへの深い愛を抱える皆さんも、ぜひ今後eスポーツ関連企業の決算資料に目を通してみてください。

ところで、7月29日に日経クロストレンドが主催するミートアップ「急成長するeスポーツはマーケティングにどう使えるか」に行ってきました。CyberZの大友真吾さん、GamingD(DeToNator)の江尻勝さん、サッポロビールの福吉敬さんが登壇したイベントです。

特に印象的だったのは、福吉さんがデジタルマーケティングのプロフェッショナルで、プロチームのオーナーとしてRAGEに参戦するとき、社内を説得するためにいろんなデータを検証したという話。参戦後もeスポーツの市場価値や投資対効果をいかにして数値化するか工夫されているそうです。

福吉さんはしきりに「単純なインプレッションではなく深いエンゲージメントをいかに可視化するか」を強調。現状、ブランディングなどに効果が出ているとのことでした。福吉さんのような知見を持つ方がeスポーツに期待し可能性を見出していることは、業界にとってものすごくありがたいことでしょう。

サッポロビールがeスポーツに関して持つデータ分析のノウハウがもう少し共有されていくといいなと思いますが、さて。

こうした情報も決算資料には記載されていませんから、市場や企業の動向を知るには幅広い情報収集力が必要だと言えるでしょう。サッポロビールのような企業でeスポーツという単語が決算資料に出てくれば、それはもう本物の盛り上がりです。

ただ、いまはeスポーツ業界で何かが起きたり、チームが国際大会で好成績を残しても、どの企業の株価にもまったく影響を与えていません。そこにインパクトを与える市場にするためにも、我々ファンの行動が重要でしょう。

eスポーツに関わりたい、何かしたいという人は関連企業の株式を買ってみるのも面白いかもしれません。eスポーツに関する世の中の動きが一気に自分事になりますからね。

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