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LoLに命を懸けるキャスターたち

Logicool G CUP 2018の『LoL』部門を観戦していて改めて感じたのは、eyesとRevolを始めとするキャスター陣のすさまじさだった。

ゲームに対する無尽蔵の愛情と豊富な知識はもちろん、1つの試合、1つの場面、1つの攻防、1つのテクニック、1つの動きを塵の欠片ほども見逃さないように伝える技術。

チームがどんな戦略に従って行動しているのか、相手チームの計画をどう読んで対応しているのか、選手がどういう意図でそのアクションを起こしたのか、そういった画面上には表れない選手たちの思考と心理を捉え、視聴者に届けようとする強い意思。

LJLやWorldsも含め、彼らが実況解説する試合を観戦していると、常人にはとても真似できない、狂気じみた、何かに取り憑かれたような執念を感じて圧倒されてしまう。ただ「うまい」と表現するだけではまったく足りない。

いったい彼らの何が僕の心をこうまで動かすのか? そしてまた、いったいなぜ彼らはそんな実況解説ができるのか?

スペシャリストとジェネラリスト

esportsシーンの最前線を声と言葉で表現するキャスター(実況者+解説者)には2種類のタイプがいる。1つのタイトルを専門とするスペシャリストと、さまざまなタイトルを股にかけるジェネラリストだ。

Revolのような解説者はスペシャリストがほとんどだが、スペシャリストの実況者はあまり多くないのではないだろうか。ぱっと思いつくところでは『LoL』のキャスター陣、『R6S』のOkayama(兼解説だが)、『シャドバ』の友田一貴、『クラロワ』の一部キャスター陣くらいだろうか(『Dota 2』の17uuは仕事ではやっていないが、紛うことなきスペシャリストだ)。

一方で、ジェネラリストの実況者は多い。岸大河、OooDa、平岩康佑など例には事欠かない。実況者はキャスター専業の人が増えてきている。これは、単一のタイトルでは仕事が足りないが、複数のタイトルにおいては生活費を稼ぐのに充分な数の仕事が発生しているという状況ができてきたからだろう。

逆に、解説者はあくまで番組に呼ばれたときだけ仕事をするという形が多い。ただでさえ実況者よりもゲームを深く理解することに時間が必要なのだから、複数タイトルを掛け持ちするのは現実的ではない。だから、ジェネラリストの解説者はほぼおらず、スペシャリストとして活動している。そのため、キャスター業とは別の仕事をメインにするか、あくまでスポットの仕事にするかになってしまう。

要するに、いまキャスターを専業にするには複数のタイトルを掛け持ちして稼がないといけない。ほとんどの人がジェネラリストにならざるをえないのだ。

持てる時間を1つのタイトルに捧げる

当然ながら、スペシャリストとジェネラリストでは1つのタイトルにかける時間がまったく異なる。どこまで時間をかければタイトルを理解できるかは誰にも分からないが、アップデートによってゲームが継続的に変化していく以上、終わりはない。

『LoL』で言えば、約140体ものチャンピオンがおり、それぞれが4つ以上のスキルを持っている。アイテムの種類も数えきれない。それどころか、頻繁なアップデートによってチャンピオンの能力とアイテムの性能は千変万化する。

リーグやチーム、選手も多い。ゆえに、取りうる戦略には無限の選択肢が存在する。おそらく、これまで行なわれた世界中のすべての公式戦を並べても同じバン・ピックになる試合はほとんど存在しないだろう。

『LoL』は生半可な知識では解説できないゲームだ。RevolやDay1、リクルートが解説者としてどれほどの時間をかけてこの複雑怪奇なゲームを理解しようとしているのか、想像するのは簡単ではない。しかしなお、1つの試合さえ解説し尽くすのは不可能であり、彼らが語りえなかったポイントも多いと思われる。

それは実況者にしても同じだ。eyesやkatsudion、Jaegerがスペシャリストの実況者として活動しているのは、持てる時間をすべて『LoL』に費やさなければ視聴者を満足させる実況ができないからである。eyesに至っては2014年から5年間、LJLを実況し続けている。ほかに類するキャスターはいない。

ジェネラリストという選択

だが、いまのesports市場においては、ゲームを真に理解することとキャスター業で生活していくことにはトレードオフが存在する。ゲームを理解し尽くそうとするためにスペシャリストになるか、仕事を確保するためにジェネラリストになるか。もちろん、どちらかに優劣があるわけではない。

ジェネラリストの実況者は、言ってしまえば複数のタイトルを活動の舞台とすることで仕事の幅を広げるという、リスクヘッジの選択をしたということだ。そもそも未成熟なesports市場で実況を仕事にするということ自体が狂気の沙汰で、恐るべきことだ。ただでさえ難しいesportsタイトルを複数掛け持ちしようとなどとは普通考えない(サッカーとバスケットボールを掛け持ちするキャスターなど存在しない)。それどころか、彼らはesports以外のタイトルの仕事もしている。はっきり言って、超人だ。

※訂正:スポーツキャスターでも4つほど競技を掛け持ちしているということを教えてもらった(ツイート参照)。

彼らの仕事ぶりはプロフェッショナルそのもので、相当な技術と知識をもって実況を行なっている。岸も平岩も1つのタイトルを少なくとも100時間プレイするという。彼らがいなければesportsシーンは成り立たないし、彼らの実況は文句なく「うまい」。しかし、僕は「うまい」と表現することにあまり違和感を覚えない。

ジェネラリストであろうとスペシャリストであろうと、キャスターの仕事の価値は同等だ――上品に言えば。でも、本音を言えば、僕は岸や平岩の実況にeyesのような鬼気迫るものを感じない。eyesがひたすら『LoL』に注ぎ込んだ時間がもたらす重みは、ほかのどの実況者においても感じることはない。

解説者にしても同様だ。さまざまなタイトルにスペシャリストの解説者はいても、Revolに匹敵するような執念は感じない。先に書いたように、それは彼らがスポットで依頼があったときだけ仕事をしているからだろう。定期的・継続的な仕事が決まっているわけではない。

RevolにはLJLの解説者という想像を絶する緊張感をもたらす指定席が用意されている。それがゆえに、彼は『LoL』に人生の多くの時間を費やし、いかにして視聴者に満足してもらう解説を行なうか試行錯誤している。

『LoL』以外のキャスターたちが適当に仕事をしていると言うつもりはまったくない。そんなはずがない。しかし、彼らとeyesたちの間には埋めがたい差がある。

スペシャリストという生き方

eyesとRevolはいったいどれほどの時間と愛情を『LoL』に捧げたのか? katsudionやリクルートはどれほどの熱量を『LoL』に注ごうとしているのか?

彼らの執念は、キャスターというフロンティアを切り開きテレビ番組にも出演するようになった岸をもってしても及ぶものではない。岸の実況がトップクラスのクオリティであることは言うまでもないし、ゲームやesportsにかけた時間はそんなに変わらないだろう。しかし、事実として、スペシャリストに比べれば1つのタイトルにかけられる時間は少ない。

たしかに、スペシャリストのキャスターは潰しが効かないという欠点がある。もしLJLがなくなったら、もし『LoL』がなくなったら、キャスター陣の仕事はなくなってしまう。ほかのタイトルでの実績がないから、キャスターとして別の仕事を見つけるのは容易ではないだろう。

しかし、だからこそ彼らの声には聴く人を圧倒する熱が生まれる。彼らは『LoL』に命を懸けている。『LoL』と心中するつもりで言葉を紡いでいる。その背景から生み出されるものがeyesの実況であり、Revolの解説なのだ。彼らの後ろを追いかけようとするDay1やJaegerの声にもまた、鬼気迫るものがある。

以前、ゲーマーの狂気について書いたが、キャスターもまた狂気に取り憑かれた存在だ。Worlds 2018でDetonatioN FocusMeが勝利したとき、katsudionとDay1が控え室で抱き合って喜んだシーンは忘れられない。

今後日本でもesports市場が熟していけば、1つのタイトルにおける仕事の数は増えていくだろう。そうなれば、スペシャリストのキャスターも増えていくと考えられる。

1つのタイトルのキャスター業だけで生きていけるようになる。プロゲーマーと同じように、それは最高の生き方に違いない。

Logicool G CUP 2018 LoL Week6の最後に放映された試合ハイライトが実況ハイライトになっていてお勧め。

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鴨南蛮を食べます。

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謎部えむ

やあ、世にも珍しいeスポーツスリンガーですよ。日本のeスポーツ業界のあれこれを考察・分析しています。 マガジン「happy esports」の詳細と連絡先は↓のプロフィールをどうぞ。「焚き火を囲って」はジャンル不定で唐突ですよ。

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