esportsは儲からないのか? 事業モデルから考える

esportsビジネスの最前線にいる人に話を聞くと、異口同音に「儲からない」と言われてしまう。

表立って明言されている例としては、グルーブシンクの松井悠が「メシは食えます」という表現を使っており、忍ismのチョコブランカは「イベントそのものが1度も黒字になったことはなく」と言及している。

具体的な数字を見ると、CyberZが4億1700万円(第10期)、eスポーツコネクトが1億3445万円(第2期)の損失を計上している。

にもかかわらず、多くの企業が新規参入を試み、いろんな方面からの注目が過熱しているように、正反対の動きが進行している。つまり、多くの人がesportsに何らかの勝機を見出していることになる。

ということで、今回は「esportsビジネスは儲からない」という言説を検証し、esportsビジネスにどんな勝ち筋があるのかを簡単に議論する。ひとまずの結論としては、市場が黎明期すぎて誰にもまだ儲かるかどうか分からないというのが実態だろう。

取り組む事業によっては利益が出ている企業もあるし、いまは赤字でもどんどん投資している企業もある。両者の違いは、これから参入しようと考えている、あるいは新しい事業を展開していきたい人や企業にとって目安になると思われる。

また、業界で働きたい人においても、候補企業を分析し将来性を測るときの参考にしてもらいたい。

【目次】
近視眼的経営では立ちゆかない
短期でも利益が出る労働集約型
中長期で勝つ資本集約型
労働集約型で体力をつけ、資本集約型へ
資本集約型の事業をスタートさせる企業も増加
資本集約型はファンや観戦者に依存しがち
プロチーム運営の可能性
ゲーミングブランドの可能性
esportsビジネスで大きく儲けた人はまだいない

※esportsビジネスとは興行企業(オーガナイザー、プラットフォーマー、メディア、エージェンシー、プロダクション、チームオーナーなど)が行なう事業を指し、ゲーム自体の開発・販売は除く。ゲーム会社がesportsをメインに展開するなら、それはesportsビジネスと言えるだろう。

※なお但木一真による「Eスポーツ産業におけるビジネスモデル(興行企業編)」の併読を強くお勧めする。

近視眼的経営では立ちゆかない

初めに、「esportsビジネスは儲からない」には注釈が必要だということを指摘しておく。これには最低限「2、3年の尺度では」と付け足さなければならない。

なぜなら、本格的にesports事業を展開してきた企業はこの10年間でもほとんど存在せず、CyberZやWell Playedが参入したのすらこの数年の出来事だからだ。こうした企業がようやく勝機を掴もうとしているわけで、市場が成熟しているならまだしも、黎明期に参入する企業がたかだか1年で結果を出せるはずがないだろう。

◆主な興行企業がesports市場へ参入した年
SANKO 2011年
JCG 2013年
TOKYO MX 2014年
Sun-Gence 2015年
Well Played 2015年
CyberZ 2015年
ビットキャッシュ 2016年

もしも「我が社もesportsビジネスに参入しよう。担当者は君だ、1年で結果を出してくれ」と言われたら、もはや担当者は修羅と化すばかりである。ましてや半期、あるいは四半期で結果を求められたら……。esportsビジネスに限らず、損益計算書に映える数字を求めるような近視眼的経営は間違いなく会社を潰す。

esportsビジネスを検討するうえでは、少なくとも現状は「2、3年の尺度で利益は出ない」と考えなくてはいけない。

短期でも利益が出る労働集約型

しかし、短期で結果を出す方法はある。例えば、大会やイベントの企画・運営、映像制作や生放送配信をクライアントから受注するプロダクションないしエージェンシー的なビジネスモデルだ。

これは人手と技術があれば確実に売上を立てることができ、四半期単位でも利益を出せるだろう。ただし、競合とのコンペや営業が必要で、クライアントに満足してもらえるクオリティを出せるかが肝となる。

Well Playedはまさにこのビジネスモデルで参入し、事業を確立した。ほかに、グルーブシンクも同様のビジネスモデルで存在感を放っているし、グランドステージもこのビジネスモデルでesports事業に参入している。

上述の企業による事業は労働集約型で、人手がそのまま売上に反映される。例えば、1つ大会を行なうにも大勢のスタッフが必要で、売上のために受注数を増やせばもっとスタッフが必要になる。Well Playedやグルーブシンクが採用に積極的なのは、労働集約型の事業を主軸としているからだ。

労働集約型は売上が人件費に比例して上がっていくので、利益率が上がらない傾向にある。そのため、松井が「メシは食えます」と控えめに言うのは当然だろう。そもそもメシが食える以上には儲からないビジネスモデルなのだ。

なので、プロダクションなど労働集約型の事業を展開している企業の人が「esportsビジネスは(そんなに)儲からない」と言うのは正しい。だが、これではesportsビジネスの一面しか言い表せていない。

esportsビジネスのもう一面とは、資本集約型の事業である。

※コンサルタントやエージェンシー、あるいは映像制作のような高度な専門性が必要な仕事は知識集約型と呼ばれ、労働集約型よりも高付加価値で展開でき、スケールしやすい。ただし、知識集約型は労働集約型の発展形なので売上が人手に依存することには変わりない。

中長期で勝つ資本集約型

資本集約型の事業は二次関数的な成長曲線を描くため、初期は投資に比例した売上も利益もない。だが、損益分岐点を超えると非常に大きな売上を得ることができ、利益率も高くなっていく。

オーガナイザー、プラットフォーマー、メディア、チームオーナーなどがそうした事業を行なっている。大会・イベントの放映権や協賛、有料放送、広告枠販売、選手へのサブスクリプション、グッズ販売などはすべて資本集約型である。

ゲームを始めとする著作権ビジネスを想像すると分かりやすいように、資本集約型は人手よりもコンテンツやサービスを享受するユーザー数に収益が比例する。

したがって、esportsで大きく儲けるには資本集約型の事業――人気や広告枠、場所や設備、仕組みやライセンスを提供する事業――に取り組まなければならない。もちろん、この事業は初期投資が非常に重要で、数年は赤字が続くだろう。

例を挙げると、ビットキャッシュの伊草雅幸は中長期で利益を上げることを見据えており、直近の赤字を前にしてなおもっと投資したいと言っている。同社グループによるプロチームや施設、メディアの運営事業はまさに資本集約型である。ちなみに、同社傘下のJCGは労働集約型だが、これはこれとして短期における確実な利益を確保していると言える。

CyberZもRAGEやOPENREC.TVなど資本集約型の事業を展開しており、先行者利益も相まって将来的に大きな収益を得ていくだろう。近視眼的経営だったらなしえない、サイバーエージェントグループらしい取り組みだ。

こうした企業の人が「esportsビジネスは(まだ)儲からない」と言うのは正しい。いずれ大きく儲けるために投資をしている段階なのだ。

ということで、「esportsビジネスは儲からない」という言説の正体が掴めた。

(労働集約型の)esportsビジネスは(そんなに)儲からない。
(資本集約型の)esportsビジネスは(まだ)儲からない。

いまたしかに言えるのは、このどちらかだろう。もし(そんなに)も(まだ)も当てはまらないと感じるなら、それは単にビジネスに失敗しているだけである。ただし、成長中の市場とあれば、その判断を下すことすら時期尚早だ。

労働集約型で体力をつけ、資本集約型へ

労働集約型の事業は100の投資に200の確実なリターンがあるが、それ以上はない(0の場合もない)。しかし、資本集約型の事業は100の投資に1000のリターンがありうる(そして0の場合もありうる)。

とはいえ、資本集約型が有効なのは先行者利益のような特権を得られる場合だけで、消費者数の頭打ちや事業者の増加によって市場が成熟すると、つまり超長期的に見れば、どちらのほうが有利というわけではない(そのときは破壊的イノベーションのような新しい打ち手が有効となる)。

しかし、現状のesports市場を見れば、まださまざまな領域で先行者利益を得られる可能性がある。労働集約型の事業を展開する企業は、できるなら資本集約型の事業にも手を出していくほうが、会社としてより大きく成長できる可能性が高まるだろう。

※もちろん、esportsに不可欠な大会の企画・運営・制作は案件自体がなくなる可能性は低く、労働集約型は確実性の高い事業を行なえる。esportsやゲーム専業でなくてもこの事業に取り組む企業は昔からたくさんある。

そうした中で、労働集約型を軸に資本集約型への展開に取り組んでいる企業にWell Playedがある。同社のメイン事業は大会・イベントの企画や運営を行なうプロダクションであるが、最近はプレイヤーやキャスター、ストリーマーのマネジメント事業にも力を入れ始めた。

また、ウェブメディア事業やリーグ運営も行なっている。多数のファンを抱える、あるいは将来的に高い人気を獲得できる人材やコンテンツを抱えることによって、資本集約型で将来的に大きな収益を上げようとしていると考えられる。

最初から資本集約型の事業を行なうには多額の資金が必要だが、Well Playedは労働集約型の事業で体力をつけ、満を持してマネジメント事業とウェブメディア事業に乗り出したと言えるだろう。

その一方で、労働集約型から資本集約型に展開しようとしつつ、なかなかうまくいっていない企業もある。労働集約型で余力を生み出して資本集約型の事業に投資しようとしても、収益拡大のための人材採用・育成でコストがかかりすぎてそもそも余力が生まれないといった状況だ(そこに近視眼的経営が重なると悲惨である)。

こうなると次の一手を打つことができず、現状維持でいっぱいになってしまう。赤字にはならないが、忙しすぎて会社も社員も疲弊していく。

資本集約型の事業をスタートさせる企業も増加

もし相応の資金が用意でき、esports市場の発展を信じるなら、資本集約型の事業に取り組むのがいいかもしれない。国内のesports市場は多くのカテゴリーがまだブルーオーシャンで、先行者利益を得やすいと考えられる。

国内ではまだスタートアップの事例は少ないが、GamerCoachは日本で(おそらく)初めて企業としてコーチング事業を開始した(CtoC事業でもあり、今後が楽しみ)。また、キャスターの平岩康佑が立ち上げたODYSSEYは労働集約型だが、所属キャスターにファンをつけるという方向で資本集約型にも展開していけそうだ。

あるいは、CyberZやアックスエンターテインメント、吉本興業などの芸能事務所のように、企業が新規事業としてプラットフォームやプロチームの運営、メディアビジネスに取り組む場合もありうる。

毎日放送や日本テレビはesports番組、毎日新聞は主催大会を始動させた。これらの主な収益源は広告枠の販売になるだろう。Gzブレインが運営するファミ通のようなゲームメディア、日刊スポーツが始めた日刊eスポーツはまさにその王道だ。

PCメーカーのサードウェーブはLFS 池袋 esports Arena(運営はE5 esports Works)や、GALLERIA GAMEMASTER CUPに出資している。esportsに必須の場としての価値は非常に高く、さまざまな資本集約型の事業を広げていけるだろう。

場といえば、e-sports SQUAREも広告代理店のSANKOが設立した(運営はRIZeSTに移行)。また、Well Playedの親会社であるカヤックはメイン事業の傍らで各種のコミュニティ関連サービスを提供するLobiを運営している。

※特に重要となるのがコミュニティとの関係性だが、詳しくはこちらを参考に。大会やチームへのスポンサードを検討している場合はこちらもお勧め

資本集約型はファンや観戦者に依存しがち

プロダクション的な事業やLFS池袋のような場を貸し出す事業は多くがBtoBなので、エンドユーザー側のファンがいなくても、クライアントからの需要があれば売上が立つ。一方で、esportsビジネスにおける資本集約型の事業は大半がBtoC、エンドユーザー(ファンや観戦者)の数に依存することが多い(放映権や協賛やグッズ販売など)。

プロチーム運営であればなおのこと、ファンの存在があまりにも大きい。企業が資本集約型のesportsビジネスに参入するうえでは比較的リスクが小さく取り組みやすいと考えられるが、もちろん一筋縄ではいかない。少し考えてみよう。

※esportsタイトルを開発する事業もありうるが、ヒット作品を抱えるPONOSのesportsタイトル『ファイトクラブ』が7か月でサービス終了してしまったことは、esportsタイトルを狙ってヒットさせることの難しさを感じさせる。他方、クラロワリーグに参戦しているPONOS Sportsは快進撃を続けている。盛り上がっているタイトルにプロチーム運営という形で乗っかるほうがリスクは低く、成功確率は高そうだ。

プロチーム運営の可能性

まずプレイヤーを集めてチームを設立し、いくらかの給料を払いながら(または無給で)オープン大会に出場していくというのが通常の流れになる。時間をかけて成長させ、やっといくつかの大会で結果が残り始め、ファンもでき、念願のスポンサーを獲得、グッズも売れるように……となると、利益が出るまでに相当の投資が必要だ。

リーグのフランチャイズが一般的になったり、ゲームの売上からチームに分配金が支払われるようになったりしたとしても、そこに参画するための初期費用を用意できるだろうか。PONOS SportsやAXIZのように、最初からプロリーグに参入できればかなり強力なスタートボーナスを得られるが……。

いずれにせよ、プロチーム運営の勝ち筋はいかに有望なプレイヤーを確保・維持できるかにかかっている(かねてプロチーム運営を行なっているDetonatioN Gamingはグッズ売上で数千万円に達しているそうだ)。

その点で僕が最近注目しているのはCRAZY Raccoonだ。同チームは今後日本でも大会が開催されていくと見込まれる『Fortnite』部門で信じがたいような準備を進めている。PS4、PC問わず国内のトッププレイヤーを数多く集めているのだ(それぞれのファンも多く、2000人以上の同時視聴者を有するプレイヤーが複数いる)。

一方、『Fortnite』のesports展開がまだ始まらないということで、Sengoku Gamingは早くも部門を解散してしまった。そこに所属していたトッププレイヤーはCRAZY Raccoonに移籍したので、もし『Fortnite』のesportsシーンが盛り上がっていけば、おそらくCRAZY Raccoonの収益は急激に成長すると思われる。

すでにesportsシーンが展開されているタイトルだと、ほかのチームがトッププレイヤーを確保してしまっている。新規でプロチームを立ち上げるにはまだ表舞台に出てきていないトッププレイヤーを探す必要があり、これもなかなか骨が折れる。

ゆえに、CRAZY Raccoonのようにこれから盛り上がりそうなタイトルに目星をつけ、先んじてプレイヤーやストリーマーを確保しておくのは有力な戦略である。

※具体的な戦略についてはRush Gamingの取り組みが非常に参考になる。

ゲーミングブランドの可能性

プロチーム運営とは方向性の異なる資本集約型の事業として、自社商品のゲーマー向けブランド(ゲーミングブランド)を立ち上げるという方法も考えられる。これもプラットフォームに手を出すよりはリスクが低いと思われる。

例えば、マウスやキーボードなどのデバイスメーカーがゲーミングブランドを持つことはもはや常識になっている。DELLのALIENWARE、LogicoolのLogicool Gなど、例を挙げるときりがない。

ゲーミングアイウェアという名称もときどき目にするようになり、最近ではジニックのG-SQUAREが注目されている。また、完全食のCOMPもゲーマー向けのプロモーションを展開しており、日清食品も大会などに協賛している。

何でも安直に「ゲーミング」をつければいいわけではないが、ゲーマーないしesports選手のための商品開発は、テストマーケティングも行ないやすいため資本集約型の事業として大きな可能性を秘めているのではないだろうか。

esportsビジネスで大きく儲けた人はまだいない

さて、ここまで議論してきたように、いまesportsビジネスに参入するなら、どんな形で取り組むかはよくよく検討しなければならない。そして、本業とどのようなシナジーを狙うのか、もしくはesportsビジネスだけで成立させるのか。そもそもどんな目的で参入するのか。当たり前だが、こうしたことから考える必要がある。

具体的なビジネスモデルについてはほかの記事などに譲るとして(いま表に出ている情報だけでかなり綿密に組み立てられるので調べてほしい)、esportsビジネスでがっぽり儲かるかどうかは分からないというのが正直なところだ。というか、冒頭で結論として述べたように、日本ではまだ誰も経験していないのだから分かるはずがない(楽して儲かることはないのは確かだ)。

そして、労働集約型と資本集約型のどちらがいいという話でもない。参入するのであれば、それぞれのリスクとメリットを意識しつつ、esports市場のポテンシャルを信じることが欠かせない。後者については多くの人がポジティブに見ていることだろう。なんと幸いなことか。

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謎部えむ

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