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プレイ・フォー・オートチェス【小説】

これは、令和元年にオートチェスの魔性に取り憑かれた1人の男が、2日半で30時間におよぶランク上げに挑んだ儚い夢の記録である。

『Auto Chess:Origin(オートチェス オリジン)』のランク戦、シーズン1の計測期間が7月22日1時で終了することを知ったのは19日の昼だった。そのときおれのランクはルーク5で、キング1まであと階段は5つを残すところ。

久しぶりに惚れ込んだゲームだったので、一区切りとしてキング1を目指そうと思った。

巷ではポーン、ナイト、ビショップを越えてルーク1に到達すればようやくこのゲームに関して「言葉を発する権利を得られるランク」だという。だとすると、キング1は「ちょっとは自慢していいランク」だろう。ワールドランキングはその上となるクイーンで占められているが、いずれにせよ簡単に辿り着ける境地ではない。

やっぱり、好きなゲームだから腕前も自慢したい。

目標達成は計画的に

まずは計画を立てよう。2日半の間になんとなく試合をこなせばキング1になれるわけではなく、それなりのスケジューリングが必要だと思われた。

最大の問題は時間だ。あと3日もない。土日にあたる20日と21日はフルに使えるとして、19日は帰宅してから取り組むことになる。ということは、猶予は19日19時から22日1時までの56時間。

では、キング1の達成まで最短で何試合が必要なのか。

そもそもこのゲームは8人で争い始め、最後の1人になるまで試合が続く。8人から5、6人くらいになるまでに20分ほどかかり、ちょっと平衡状態が続いて4人くらいになると一気に片がつく。30分以上かかるのが普通である。

↑の初心者ガイドでどういうゲームかよく分かる。

ランクを上げるポイントを得るには上位4人(ときどき5人)にならなければならず、もちろん1位のポイントが最も多い。とすると、時間を短縮するならポイントがもらえる順位になった時点でリタイアすることも考えられる。だが、長引く場合もあるけれど、たいてい4位になるのも1位になるのも数分の違いしかない。1位のほうがポイントが多いため、毎試合1位を目指すのが最善の選択となる。

では、いまのランクであるルーク5(所持ポイントは30)からキング1に至るには何ポイントが必要か。1段階上がるためには100ポイントが必要なので、合計470ポイントを獲得しなければならない。

ただ、1試合でもらえるポイントは自分のランク帯や対戦する相手のランクにも依存するのでまちまちだ。1位になれば50ポイント以上もらえることもあるし、3位でも25ポイントくらいもらえることもある。逆に、1位で25ポイント、3位で15ポイントということもある。4位はとても少ないので考慮しなくてもいいだろう。1位より2位と3位が多い自分の勝率も加味して均し、1位から3位に入ると20ポイントがもらえることにしよう。

ということで、最少必要試合数は470ポイントを20ポイントで割って23.5試合、キリよく24試合。

1試合30分だから、少なくとも720分=12時間かかる。また、全試合で上位3位に入るのは現実的ではない。なぜなら、この時点でのおれの上位3位率は60%だったからだ。つまり、この勝率のもとに計算すれば、実質的には約40試合、1200分=20時間が必要になる。

シーズン終了までの56時間中、20時間。もちろん、上位3位率が下がればこれより時間がかかるし、逆もしかり。プレイすればうまくなるという見込みはあれど、ランクが上がれば相手も強くなるので劇的に成績がよくなることはないだろう。現実に、ルークに入るまでは上位3位率が70%を越えていたので、勝率はかなり下がっている。

とりあえずのペースとしては、19日に5時間で120ポイントを得てルーク6中盤を目指す。20日は8時間で192ポイントを得てルーク8の中盤、この日にどれだけ伸ばせるかが肝だ。21日は7時間で168ポイントを得てキング1へ。

寝て食べて風呂に入って、という日常行為の分を差し引いてもずいぶん余裕があるように思えた。このときは。

あっけなくルーク8手前へ

『オートチェス オリジン』には6月末に大型アップデートが入り、ユニットとして1Gの「戦神」と5Gの「雷神」と5Gの「不思議な卵」、そしてシナジーとして〈ディヴァイン〉が追加された。新しい選択肢に慣れるのにとても手間取ったが、めちゃくちゃ強いというのが結論だった。

で、〈ディヴァイン〉+《メイジ》の勝率が高すぎてすぐに戦神に下方修正が入った。7月16日、まさにシーズン1が終了する直前だ。アップデートではこのほかに不遇とされた《ウォリアー》とこれに属するユニットや〈ビースト〉に上方修正が入った。

プレイした感覚ではどの棋士レベル帯でもユニットが揃いやすい《ウォリアー》、序盤でユニットが出やすい〈ビースト〉のシナジーを集めていくのがよさそうに感じた。実際に、最新のアップデート後は〈ビースト〉+《ウォリアー》で上位を取れていた。

となると、キーユニットは1Gの「セイウチボクサー」、3Gの「人狼」となる。どちらも序盤に出やすいので、この2体と序盤に強い〈ケープ〉の「赤き斧の王」と「剣聖」を集め、最終形として〈ビースト〉+《ウォリアー》を狙いつつ〈ヒューマン〉や《メイジ》への派生を狙っていく。《ウォリアー》系ユニットは〈ヒューマン〉も併せ持つことが多く、《メイジ》もそうだからだ。

そういう算段をしつつ、19日は帰宅して用を済ませ、ランク上げに臨んだ。

ひとまず20日0時までにルーク7が見えるところまでいけばよかったのだが、なんとまあ勝率ももらえるポイントも高く、調子よく1時半までプレイし続けたら一気にルーク8の手前までランクが上がってしまった。

途中の休憩を除けば5時間半くらいプレイしたことになるだろうか。想定していた〈ビースト〉+《ウォリアー》や〈ヒューマン〉+《メイジ》が瞬く間に揃って相手を圧倒していったのだ。まだまだ〈ディヴァイン〉を狙う人が多く、よそでユニットの取り合いをしている最中に〈ビースト〉+《ウォリアー》が無双した感じだった。

これで、初日からいきなり余裕ができてしまった。こんなとき大切なのは、当初の予定どおりに計画を進めることだ。しかし、おれは調子のよさにかまけて2つの大きな間違いを犯してしまった。

1つは、自分がうまくなっていると錯覚したこと。そう、「この調子で勝てば明日にはキング1に届く」と思ってしまったのである。あと何連勝すれば――この思考は沼への特急券だ。

もう1つは、時間に余裕ができたことで予定外の行動を取ってしまったこと。20日の夕方からプレイしても充分間に合うだろうと皮算用したのである。

かろうじて19日分は20日1時半で終了した。久々に対戦ゲームをぶっ続けでプレイしたので、HPが尽きかけていたのだ。さらにこのゲームはガチャを回すときの祈りが重要になる。祈りにはMPが必要で、6時間近くプレイすればMPはほとんど尽きてしまう。

ということで、HPとMPの双方に限界を感じ、ちょっとだけ『Farming Simulator 19』を遊んで就寝した。

寝すぎた20日とメタの変化

就寝したと書いたがすぐに寝たとは書いていない。『Farming Simulator 19』は恐ろしいゲームだ。気づいたら夜が明け、ヒヨドリがけたたましく鳴いていた。心の余裕は計画を殺す。肝に銘じてほしい(自戒)。

だが、おれは焦りなど微塵も感じていなかった。8時から6時間くらい寝て、昼過ぎからランク上げを再開しようと思って眠りに就いた。

そして起きたら18時半だった。10時間近く寝たようだ。さすがにちょっとビビったものの、すでにランクはほぼルーク8。あと必要なポイントは200ちょっとで、17試合もやれば確実にキング1はこの手の中だ。

19日に買っておいたフルグラを大量に食べ、お茶を二煎淹れて飲み下し、世の中ではRAGEやLJLなどなどが放送されているのもさておいてスマホに向かった。

そうしたら、ゲームにおかしなことが起きていた。〈ビースト〉+《ウォリアー》で全然勝てなくなっていたのだ。序盤は〈ゴブリン〉を揃えながら様子を見て《ウォリアー》を揃えていこうとするのだが、その間にどんどん負けが込んでいってしまう。

特にやられたのが《ナイト》だ。このシナジーは物理攻撃と魔法攻撃のダメージを減少させるシールドを3秒ごとに一定確率で張ることができる。《ウォリアー》の物理防御力上昇よりも効果は高いが、常時シールドがあるわけではないのが弱みだ。

しかし、ユニットレベルが同格だとどうしても《ナイト》が硬く、突破しかねている間に後衛の《メイジ》系ユニットや《ハンター》系ユニット、あるいは「影の魔王」にやられてしまう。

仮に中盤を抜け出しても、そこに待っているのが驚異の掃討力を持つ〈ディヴァイン〉+《メイジ》。ユニットが揃いきっていない《ウォリアー》など神の前に紙切れ同然だった。相手はモンスターではなく神なのだ。

たまたま不運が続いただけに思えた。たまたまユニットが揃わず、相手のユニットレベルだけが上がってしまっているだけだ。その思い込みからここで脱していたらよかったのだが、そううまくはいかない……おれはほかの7人の構成をチェックするのをすっかり怠っていた。

なぜか。前日の戦績があまりによくて、自分が望むようにプレイすれば勝てると思い込んでいたからだ。要するに、7人が狙っている〈ディヴァイン〉+《メイジ》を外して〈ビースト〉+《ウォリアー》を狙うという状態から、ほかの7人が何を狙おうと〈ビースト〉+《ウォリアー》を狙えばいい、と考えるようになっていた。

大きくポイントを失うことはなかった。ただ、前進もできず、ひたすらその場で足踏み。おれがメタの変化にようやく気づいたのは、かろうじてルーク8の中盤を越えた頃だ。21日の23時を過ぎようとしていた。

どうやら、ほかの7人も積極的に《ウォリアー》を集めていたようだった。どおりでこっちにユニットが回ってこないわけだ。8人中6人が《ウォリアー》に熱を上げている状況すらあった。だからこそ、〈ディヴァイン〉や《ナイト》が活きてくる。

ただし、《ナイト》は「フロストナイト」を除いてG2以上のユニットしかいないので、序盤で揃えていくのが難しい。そしてG1とG2のユニットが弱い。それもあってG1に豊富な《ウォリアー》が集めやすかったのだが、いまは序盤をいったん〈ゴブリン〉で凌ぎながら《ナイト》に向かうのが正解だった。

《ナイト》の最終形は〈ドラゴン〉+《ナイト》が王道。そこに〈ウィングス〉や《アサシン》を絡めていくと多様な選択肢が広がっている。また、「フロストナイト」がいるので〈グレーシャー〉と〈ウォーロック〉を狙うのも強い。〈グレーシャー〉4体による味方全員の攻撃速度上昇に〈ウォーロック〉のライフスティールが重なれば威力も耐久力も破壊的だ。

それに気づいて最終形の選択肢を広げたところ、21日になった頃にやっとルーク9に辿り着いた。次がキング1、もうすぐだ。しかし、思わぬ事態とさらなるメタの変化によって、このあと24時間プレイし続けることになるとは考えてもいなかった。

キング1までポイント200

さあ、あと100ポイント! とルーク9への昇格を見届け、おれは目を疑った。なぜかルーク9では200ポイントを獲得しなければキング1に上がれなかった。当初の計画には100ポイントの誤算があったのだ。

それを予想するのは難しかった。ほかのランクではいつでも100ポイントだったのに。さすがに栄えあるキング1になるには相応の実力を示さなければならなかったのである。

さて、僕はすでに6時間近くプレイしていた。休憩がてら仮眠して、朝から22日の1時までたっぷりと時間を使えばいい。たったの200ポイントを獲得すればいいだけなのだから。これまで獲得した半分以下だ。

しかし、戦績はよかった。このままやればいけそうな気がした。ルーク9からキング1、グレードの1つくらい余裕だ。ルーク8からルーク9と何が違う?

このとき、最も危険な「いけそうな気がした」がおれの頭に閃いたのだった。

終わりなき旅の始まり

プレイ続行。いまとなってはこの判断が間違っていたかどうかは分からない。頭が冴えているときに調子を維持してプレイを続けるのは悪い選択ではないし、19日とは違って起きてから6時間しか経っていないからまったく眠気がない。

合間にTwitterを覗いて投票に行かないとなと思いつつ、スマホを握り込んだ。

ルーク9のポイント80までは順調だった。けれどもそこから停滞し、そして落ちた。5位、7位、8位、8位。なんとルーク8へ逆戻り。頭を抱えた。なんで?

どうにも相手の〈ディヴァイン〉と《ナイト》がきつかった。《ウォリアー》も含めてその3通りの最終形をイメージしていたが、ほかの7人もそれらしき気配を見せていて、こちらもなかなかシナジーを決めきれない。中途半端な構成になって中盤戦を勝ったり負けたりし、その間に連勝を重ねた人が勝利をさらっていく。

よく見てみると、8人がけっこうばらばらに最終形を目指していることが分かってきた。ここに来て相手が強くなっている? いや、ルーク9というまさにキング1にチェックメイト寸前のプレイヤーが集まってきているのだ。それも、シーズン1の最終日。死闘にならないはずがない。

おれはあえて外れのシナジーを狙うように努めた。すなわち奥の手〈ゴブリン〉である。〈ゴブリン〉はG4の「アルケミスト」とG5の「デストロイヤー」が揃わないと真価を発揮できないのだが、この両ユニットを揃えるのが難しい。特にG5のユニットは棋士レベル8から3%で出現するので、棋士レベル9まで上げないとガチャを回しづらい。

だが、誰も狙っていないからこそ序中盤にユニットが揃いやすい。ほかのシナジーでカバーしながら〈ゴブリン〉系ユニットを集め、「デストロイヤー」の出現を待つ凌ぎの立ち回りを繰り返した。それでけっこうなポイントを稼げた。

ランク上げ挑戦、2度目の夜明け。ルーク9のポイント120に到達。残り80ポイント……このままいくしかない!

が、そこから3時間ほど一切ポイントが上がらない。勝っては負け、あるいは4位や5位などポイント変動の少ない順位で敗れ去ってしまう。あえて言えば、この状態こそ真なる沼であった。

祈りのためのMPを回復しろ!

体調は急速に悪化していた。特にMPの減少が著しい。HPの減少は体力に置き換えてみれば分かりやすいだろう。MPは精神力やモチベーションと言えるが、MPの減少とは何を意味するのか?

オートチェスは利子とガチャを組み合わせた魔性のゲームである。利子収入を確保するか、それともユニットレベルのためにガチャを回すか、その判断力を問われる。所持ゴールドは50Gあるほうがいいし、けれど持っているだけでは勝てないのでガチャを回すしかない。

このガチャを回すという行為が曲者だ。通常、ガチャを回すときに人は望みのものが出るように祈る。ボタンを押すときの指にも力が入るし、極めて集中して画面を見つめるし、その結果には一喜一憂を示す。

祈りとはまさに自分が未来に希望できていることの証である。元来、人類は自分たちにはどうしようもない事態に対して儀式を執り行ない、祈ることで慰めを見出してきた。祈りとはかくも尊い。

翻せば、MPの減少は希望できなくなり、つまり祈れなくなるということ。ガチャを回す指は適当になり、結果にもたいして反応できない。祈りの伴わないガチャは無価値であり、希望できないガチャは虚無しか生まないのだ。祈れていないから、目当てのユニットも引き当てられない。

おれは勝つために祈らなければならなかった。

別のゲームだと祈ればMPが回復するが、現実世界ではもっと即物的な方法が必要だ。MPはHPと連動している。だから、コンビニに走った。スイーツとポテトサラダを買って、胃に詰め込んだ。

もちろん、まだ12時間しか起きていない。けれど、タイムリミットが迫る中で勝たなければならないというプレッシャーや、どのユニットを購入するか、いつガチャを回すべきかという判断をし続けることはけっこうきつい。適切な判断がなければ勝てないゲームだ。

適切な判断ができないと、いつまでもレベルが上がらないユニットを抱え込んでしまう。まったくユニットレベルを上げられず、ラウンド20もいかずに敗北を喫したこともある。ガチャ運というより、運を引き寄せる判断ができていなかった。

これもまたMP不足による当然の結果だ。MPが充分あれば、自他の構成と毎ラウンドの無料ガチャから自分が目指すべき最終形が序盤でなんとなく分かるものだ。

ラーメンと投票と希望の《メイジ》

戦績は一進一退。11時頃、ついにポイント150にまで辿り着いた。でも、すぐに敗北が続いてポイント80に。なかなか一線を越えられなかった……あと2連勝すればキング1だったのに。

13時頃、お腹が鳴った。HPもMPも限界近くに差しかかろうとしていた。ラーメンを食べに行った。死ぬほど胡椒をかけて、どす黒いスープを飲み干した。ピリッとしたが味はしなかった。どこかの家族がイヌを連れて参院選の投票に行っていた。おれもこの足で投票に行った。眠気はなくても少しは寝るべきだった。

――《メイジ》だ。胡椒の粒を噛み潰しながら思いついた。どの試合も《メイジ》が空いている。たしかに〈ディヴァイン〉+《メイジ》は強いが、もともとのトップメタは《メイジ》6体だった。これを狙おう。

G1に「オーガメイジ」、G2に「マナの源」と「ライトドラゴン」がいて、この3枚のシナジーは序盤でも狙えるが、これでは勝てない。打たれ弱いし、かといって前衛を置いても打点がない。しかし、大敗はしない。だから、連敗ボーナスを取りながらの《メイジ》構成だ。

最終形はこれも利用者が少なかった〈ドラゴン〉と組み合わせた〈ドラゴン〉+《ナイト》+《メイジ》か、〈ヒューマン〉+《メイジ》を目指す。前者は終盤にG5の「堕落した法師」を引ければ「不死の騎士」と〈アンデッド〉を発揮でき、スキルで物理攻撃力が上がる「ドラゴンナイト」と攻撃速度の上がる「焔霊法師」が強くなる。後者は〈ヒューマン〉で相手に沈黙を押しつけられるので、スキルを乱発してくる〈ディヴァイン〉に強い。

これが一時は功を奏した。数戦、ほとんど《メイジ》争いが起きず、ユニットが揃い放題だった。ただ、序盤から《メイジ》を揃えるとあまりにも弱いので、できれば棋士レベル6から揃えていきたい。とはいえ、のちのち売り払うユニット、特にG2以上のユニットのレベルを上げる判断がなかなかできなかった。

G2ユニットを3体使って☆2に上げると、売価は4Gになって2Gも損してしまう。G3ユニットなら☆2の売価は5G。基本的にG1ユニット以外はレベル上げによってゴールド損が生じる可能性がある。その分を勝てるならチャラになるが、☆2が1体だけではどうにもならない。

G2ユニットを☆2に上げるのをためらうと、待っているのは敗北だ。だから、あえて連敗ボーナスを狙った。自分のライフが減っていくのを見るのは辛い。18時間連続プレイによってただでさえ現実の自分のHPも減っているので、連敗それ自体が本当に苦しかった。

ルーク9での滞在試合数がどんどん増えていく。《メイジ》を取れるときはたしかに戦績はいい。しかし、取れなかったときに別のシナジーへ移行するのが難しく、勝ち続けられない。移行しようとすると必要なユニットを相手がすでに持っているのだ。明らかに、種々の判断が遅くなっていた。

30時間の果てに

20日の18時半に起きてから、24時間が経っていた。おれは『クラッシュ・ロワイヤル』が採用されPONOSの面々が出場していたWCGすら観戦せず、ひたすら複利を貪りガチャを回していた。

一睡もせずゲームを24時間プレイし続けたのは生涯で2度目だろうか。もう1つはたぶん『The Elder Scrolls V: Skyrim』。

21日の19時を過ぎると、もはや自分がゲームをプレイしているのか夢を見ているのか分からなくなっていた。24時間も対戦ゲームをプレイするのは想像以上にしんどい。前日と合わせて30時間だ。シーズン1の終了まで6時間あったが、そこまでHPが持つ気がしなかった。MPはとっくに切れていた。ただ惰性でガチャを回していた。

このとき、ある試合で致命的なミスを犯した。《メイジ》を揃えていたのに、まだ1体も確保していない「マナの源」を見逃してガチャを回してしまったのだ。挽回はしうる。けれど、あまりの情けなさに心が折れた。頭も半分眠っていた。祈る余裕などなかった。

そこにいたのはオートチェスのプレイヤーではなく、その残骸にすぎなかった。いつの間にか手からスマホが零れ落ち、おれは気を失っていた。

目を覚ましたのは22日0時40分。まだ20分あったが、これでは1試合もこなせない。トップ画面で棋士が揺れ動く様子を見ながら、無為な時間が流れていく。最終ランクはルーク9のポイント50。思ったより下がっていた。

寝そべったままTwitterを眺めて、その日何があったのかを知った。世界を舞台にプライドを懸けて闘う日本代表がいて、自分たちの居場所を懸けて戦う高校生たちがいた。おれには『オートチェス オリジン』しかなかった2日半に、いろいろあった。

1時ちょうど、ゲーム画面が更新され、ルーク9の称号が誇らしげに映し出される。

……悔しかった。

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本を買います。『マルドゥック・アノニマス』のために生きてます。

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ようこそ、eスポーツブランド研究家です。主に日本のeスポーツ業界のあれこれをマーケティングから考察・分析しています。 「happy esports」の詳細と連絡先は↓のプロフィールをどうぞ。「焚き火を囲って」はジャンル不定のコラムで、「創作の隘路」はジャンル不定の創作集です。
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