見出し画像

esportsの発展を妨げる最大の課題はファンがお金を使わないこと

日本はesports後進国である――こういった言説は例に事欠かず、その理由もさまざま挙げられている。これに関してRazerが面白いアンケートをしていたので紹介したい。

リプライを見てもらうと分かるように、本当にいろいろと「必要なもの」が提示されている。ぱっと一覧したところ、「ゲームに対する偏見やネガティブな意識の変容」が目立つ。このアンケートへの回答に限らなくても、例えば以下のような課題が挙げられることが多い。

・ゲームに対する偏見
・esportsの認知度の低さ、プレイヤーの少なさ
・大会開催に伴うゲームライセンスの問題
・PC普及率の低さ
・大会の少なさ
・法律面の問題
・プロゲーマーの待遇面や品格の問題
・チームマネジメントの問題

などなど、まあキリがない。esportsを1つの大きな文化にしていきたいという野望を掲げる人もいて、こうした課題を解決すべく取り組んでいる。

しかし、これらはすべて些事である。日本におけるesports発展を妨げている最大の課題は、自称ファンがesportsシーンにお金を使わないことだ。

これはなぜかいまだ誰も表立って明言したことがない。数を増してきたesportsに関する講演やセミナーでも誰も言わない。当然だ、プレイヤーファーストの世界観で「ファンがお金を使ってくれない」なんて言えるわけがない。

なので、今回はesportsファンがesportsにどれくらいお金を使っているかを眺めたあと、とにかくお金を使えと主張していく。そして、お金を使う機会を設ける側である大会やイベントの主催者(ゲーム会社、コミュニティ問わず)に、この記事を通してエールを送りたい。

【目次】
お金が回れば文化ができて偏見も和らぐ
たった5億円の市場なのはesportsファンが原因
参加費が高い? 盛り上げたいんじゃないの?
ゲーム会社が無料で何でもやりすぎている問題
お金が大半の課題を解決する

お金が回れば文化ができて偏見も和らぐ

先のRazerによるアンケートには「ゲームに対する偏見やネガティブな意識の変容」が目立つと書いた。こうしたリプライをしているのは、何かしらのesportsタイトルをプレイしていたり、大会を観戦していたりするesportsファンだろう。

頭が固く古い価値観に支配されている旧態依然の親世代や中高年の意識がesports発展の課題だと訴えるのはいいが、さて、この人たちはesportsにどれくらいのお金を使っているのか? 「日本はゲームに対する偏見が~」とかなんとか言う前に、自称esportsファンが少しでも多くesportsに対してお金を使い、その価値観を当たり前にすることのほうが先のはずだ。

esportsの周りでお金が循環すれば、そこには人が集まり、そして文化ができる。中高年が持つゲームに対する偏見をなくしたところで文化はできない。なぜなら、それだけではお金が回らないし、そもそもいったいどうやって偏見をなくすのか(「偏見をなくして!」と頼み込む? まったく馬鹿げている)。

逆に、お金が回り出せば偏見も減っていく。例えば、いまでも漫画(漫画家)に対する偏見は尽きないが、これが昭和の時代であればもっと程度はひどかった。けれど、漫画家が作り出す価値(漫画)にお金が支払われることが当たり前になって産業ができ、文化となったことで偏見も減っていったのだ。

たった5億円の市場なのはesportsファンが原因

ここで、ファン1人あたりが年間でどれくらいesportsシーンにお金を使っているかを明らかにしたい。

取りいだしたるは、esports市場を語るときの無敵の盾「eスポーツ産業に関する調査研究報告書」(2018年、総務省)。この報告書では、2017年の国内市場規模が3.7億円(5億円未満)、esportsの視聴者数が約158万人とされている。

2018年9月現在はそれより成長していると見込み、市場規模5億円(前年比35%増)、視聴者数200万人(前年比27%増)としておこう。なお、この「視聴者」は何らかのタイトルやチーム、選手(単数または複数)を好んでいると考えられる(プレイヤーかどうかはどちらでもいい)。

まず、5億円の内訳は下記のとおり(同報告書の数字を1.35倍し、最下位の桁を四捨五入した)。

・スポンサー・広告収入:約1.8億円
・チケット収入:約1.6億円
・賞金:約1.2億円
・グッズ収入:約0.14億円
・著作権許諾収入:約0.14億円
・放映権収入:約0.14億円

このうち、太字にしたチケット収入とグッズ収入が、ファンがお金を使う機会だ。合わせると約1.74億円となる。これを視聴者数の200万人で割りたいところだが、パレートの法則を適用して20%の熱心なファンが売上の60%を支えているとしよう(通常2:8と言われるが、『ブランディングの科学』(2018年、朝日新聞出版)によると2:6がより正確とのこと)。

すると、40万人のファンが1億円の売上を作っていることになる。1人あたりの金額は……250円! ファンでさえ1年間で250円しかesportsにお金を使っていないのだ(ただし、分布としては0円が最頻値で、ごく少数がより多くのお金を使っているだろう)。

ちなみに、200万人で計算すると1人あたり87円となる。驚きというか衝撃というか、寂しいというか……いずれにせよ信じがたい数字だ。

もちろん、同報告書に含まれていない、PCやデバイスの購入費、esportsタイトルをプレイする際の課金を含めるともっと大きな金額になるだろうし、コミュニティ大会やイベントの参加費、選手個人へのサブスクリプションやドネーションも加えるとさらに大きくなるだろう。

しかし、そのインパクトは現状そこまで大きくないと思われる。ポジティブに見積もっても、熱心なファンなら1人あたり350円/年、全体なら100円/年がいいところだろう。

esportsを盛り上げたい、盛り上がってほしい――そんな声がそこかしこから聞こえるのに、そう言っている人たちが1年間でたった350円しか使っていない。こんな状況で盛り上がるわけがない。esportsの市場規模がたった5億円に留まっているのは、ファンがお金を使っていないからなのだ。

40万人が大会やイベントの観戦料やチケット代、あるいはグッズ代として年間3000円使うだけで12億円の売上になる。もし1万円を使えば40億円になるが、そもそも日本には40万人のファンたちがesportsに対して年間1万円を使う機会や場所がない(ゲーム会社やオーガナイザー、チームが機会をきちんと作れていない)。彼らがお金を使う機会と理由を用意するのが最優先だ。

※いきなり平均単価が1万円になることはありえないので、まずは100万人が1000円くらいを使うようにしていきたい。単価よりも人数の力が重要だ。

JeSUやAMDのような団体にしても、「esportsを盛り上げるには法律がどうたら、政府支援がどうたら」と言っている場合ではないのは明らかだろう。

そして繰り返すが、esportsを盛り上げたいファンはみずから率先してesportsにお金を使おう。それが当たり前になれば、esportsは必ず盛り上がる。

参加費が高い? 盛り上げたいんじゃないの?

ここからは少し話題を変えて、コミュニティが大会やイベントで観戦料や参加費を取ることについて考えていく。これは主催者をいつも悩ませている課題なので、下記が何かしら参考になれば幸いである。

いま、一般的にはコミュニティ主催の大会・イベントは参加無料であることがほとんどだ。主催者には参加費を設定すること自体に忌避感があるが、それは参加費を取ると誰も参加してくれないという不安と、「高い」と不満を言われる懸念があるからだろう。

※それと、「結局金儲けかよ」という声。これは本当に無視しよう、取り合う必要などまったくない。こんなことを言ってくる輩はファンでも何でもないし、盛り上げたい気持ちの欠片も持っていない。

多くの大会・イベントが赤字運営というか、主催者の持ち出しで賄われている。中大規模の大会でさえも、収支はよくてトントンだという。それが趣味であるなら参加費を取らず、すべて持ち出してやればいいと思う。情熱こそ最強のガソリンである。

「いや、それは辛い」という声は当然ある。しかし、それならスモールビジネスにして参加費を取ればいいだけだ。なぜやらないのか? 上記の不安と懸念があるからだが、そもそも参加費を取る大会に参加者が来ないのは需要がないだけの話である。

需要がないけれどやりたい、結構。そこで「持ち出しが辛い」とのたまうのはダブルスタンダードだ。需要がないのだから、お金も生まれない。それなら情熱を燃やすしかない。

また、「参加費が高い」というプレイヤー側の声は無視したほうがいい。その声に従って得をするのはお金を出したがらない人たち、言いかえると、そのタイトルを盛り上げたくない人たちだけだ。そんな連中のクレームに対応していると、主催者は情熱だけではカバーできない持ち出し分に疲弊し、大会は必ず終焉していく。

お金を出してでも大会に参加したい人はそんなことを望んでいないので、お金を出してくれる。その数が足りないというなら、それは需要がないだけなので、やらなければいい。そこを押してやりたいなら……あとは同じ問答の繰り返しだ。

とにかく、情熱だけでやりたくないなら最初から、または途中からでもいいので参加費を取らなければならない。赤字にならない程度で価格設定すればいい(ぜひ賛同者を増やすためにその旨を説明しよう)。その大会に需要があるなら、プレイヤーは参加費を払ってでも参加してくれるだろう。

昨今のesportsブームを概観すると、例えば先のRazerのアンケートへの反応を見ると、それなりに多くのプレイヤーがesportsを盛り上げたいと考えているようだ。よし分かった、盛り上げたいならコミュニティ大会にもお金を出そう

盛り上げたいけどお金は出したくない? 知るかボケ。誰かがお金を出して盛り上げてくれるんじゃない、おれたちが盛り上げるんだよ。スポンサー企業もその盛り上げに反応してお金を出してくれるようになる。

※事例として。ENLIFEの主催する大会やパブリックビューイングは豪勢な食事が食べられることで有名だが、参加費3000円くらいというのは正直安すぎると思う。

ゲーム会社が無料で何でもやりすぎている問題

簡単な理屈だが、これが透徹していないのはなぜなのか? なぜいつもコミュニティ大会やイベントの主催者は参加費を取るか取らないかで悩んでいるのか? 需要を認識し、独自性のある大会を開催できるなら、とっとと参加費を設定すればいいだけなのに。

その葛藤の影にはゲーム会社による大会やイベントのほとんどすべてが参加費・観戦料を無料にして開催されてしまっているという問題がある。ゲーム会社にとってはプロモーションの一環になるのでそこに費用をかけることができ、高いクオリティの体験を提供できる。

それと比べると、コミュニティ大会はクオリティで劣る。目の肥えたプレイヤーは、そんな大会に参加費を出したくない、参加費が釣り合っていないから下げてほしいとおっしゃる。

これを解決するには、ゲーム会社も参加費や観戦料を取る流れにしなければならない。そうすることでより多くのお金がesportsに使われ、市場規模が拡大する。もちろん、グッズを作って売るのでもいい。

とにかく、ゲーム会社の大会やイベントでは参加者や観戦者がお金を使う機会を作り、「esportsにお金を使うといいことに繋がる(大会などのクオリティがアップする)」というイメージを作らないといけない。無料でやるとコミュニティが死に、ばらばらのプレイヤーが点在するだけになる。

余談として、コミュニティが参加費無料の大会を開催することには別の観点から意義が見いだせる。無料であっても多数の参加者、多数の視聴者を獲得できたなら、そこにスポンサーを呼び込むことができ、運営費を賄えるようになる。

ただ、スポンサーに頼りきりでは持続性がない(成果のない協賛など誰も続けたがらない)。スポンサーを引き留めておくためにも、esportsファンがお金を使わないといけないのだ。

※また、大会の需要を作るために先に供給する(潜在的なニーズに気づかせる)という考え方もありうる。そのときは最初は持ち出しになるだろうが、どこかのタイミングで有料にしよう。それはとても難しいことではあるが、きちんと説明すれば大丈夫だ。

お金が大半の課題を解決する

esportsにまつわる課題はいろいろあるが、たいていはesportsファンからもたらされるお金が解決してくれる。スポンサーからもたらされるお金ではない点に注意してほしい。スポンサーは(あるいはゲーム会社も)esportsファンの1人1人が自社の商品やサービスにお金を使ってくれることを期待しているのだ。お金の循環はそこから始まる。

大会が少ないという課題にしても、最低でも運営費と参加費がトントンになるならいま以上にコミュニティ主催の大会は増えるだろう。結局、「大会が少ない」と言うやつがお金を出さないから大会が少ないのだ。

ここまで述べてきたように、日本でesportsを発展させるための最大の課題はesportsファンがお金を使わないことにある。

それは事実ではない? ファンはお金をたくさん使っている? すばらしい、それならesportsは確実に発展し盛り上がっていくだろう!

もし参加や観戦が有料になって人数が目標に至らなかったら? それはユーザー側にとってesportsシーンにはお金を出す価値がない、つまり需要がないということなので、ゲーム会社のプロモーションやエンドコンテンツ以外で発展する道はない。

※2018年12月11日追記:Gzブレインが発表した最新の調査レポートによると、1人当たり約400円となる。内訳は

(市場規模48.3億円×チケット&グッズ収入6.4%)÷(ファン全体383万人×熱狂的ファン20% ≒ 392円)。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。