キッズが暴れまくる大会番組のチャット欄、どうやったら成熟させていけるのか

7月21日に開催された「CoD: WWIIプロ対抗戦」第4回で、このプロ対抗戦において初めて、YouTube配信のチャットが解禁された(以前からTwitch配信ではチャットができていた)。

主催がSIEとあってチャットが封印されていた理由は簡単に推測できるが、蓋を開けてみればその懸念はぴたりと的中。esports界隈の三大地獄絵図の1つ、キッズたちが大暴れする香ばしいチャット欄に仕上がっていた。100点をあげたいくらい見事であった。

主催・運営側にとってチャットは両刃の剣だ。大会の盛り上がりを示してくれる一方で、荒れれば体面がとても悪くなる。荒れたチャットを目撃したまともな視聴者やスポンサーが離れてしまうリスクを負うくらいなら、始めから封印しておいたほうがいい。

にもかかわらず、SIEはYouTubeのチャットを解禁した。なぜなのか? 僕の勝手な推測だが、少しずつ視聴者数が減ってきたため(第4回もピーク時の2割減)、何かしら打開策を講じようとしたからではないだろうか。視聴者同士のコミュニケーションを誘発することで、プロ対抗戦の盛り上げに一役買わせようとした。あるいは、チャットに参加してもらうことでより熱心なファンになってもらおうとした。

いずれにせよ、これまで封印してきたチャットを解禁したのだから、そこに何かしらメリットを見出したことは疑いようがない。しかし、その結果は……。

いったいどうして新たな地獄絵図が誕生してしまったのか。どうしたらこの惨状を食い止め、まともなチャット欄にすることができるのか。今回は大会番組におけるチャット成熟度の向上について考察していく。

【目次】
キッズが暴れ、おじが混沌を生み出す
ローコンテクストのキッズたち
最も成熟度の高い『ストV』
『ストIV』とウメスレの関係
キッズからの卒業
視聴者を育てる

キッズが暴れ、おじが混沌を生み出す

ゲームのプレイヤーや生放送のチャット欄、動画のコメント欄の質を語る際に「民度」という言葉が使われることが増えているが、ほんの数年前までは(いまもだろうが)忌避される言葉だった。その低さを侮蔑的に言及する際に使用されることが多いからだろう。

この記事でも使用せず、先に述べたように「成熟度」を使うことにする。成熟度とは「自己を省み、他者に配慮し、場を弁え、何事にも批判的精神で臨む能力の度合い」であり、高いほうが優れていることになる。

もちろん、チャットの成熟度は高いほうがいい。主催・運営側としては視聴者の成熟を促すことによって、人格攻撃や誹謗中傷ではなく、建設的な意見や応援、感嘆の言葉でチャット欄を埋め尽くしたい。

その状態を妨げている存在は2つ。「キッズ」と「おじ」だ。

キッズとは何者か
キッズという言葉が侮蔑的に使われるのは、『DQX』のキッズタイムに端を発すると言われる。キッズタイムはお金を持っていない子供のため、無料でゲームをプレイできるように設けられた時間帯のこと。キッズタイムに入ると子供たちがログインしてきて、チャット欄が荒れるという現象が発生した。そのことから、いまでは実際の年齢ではなく成熟度の低さを指してキッズと呼ぶようになった(似たような言葉に夏休み期間に大量発生する夏厨があった)。

キッズの特徴は、まず幼稚さが挙げられる。無知、無教養、自己中心的で顕示欲が強く、矮小な世界観を持っているといった性質がある。自分が興味のあることはみんなが興味を持っている(持ってくれる)と思い込んでおり、些細なことですぐに他人と喧嘩をし、自己弁護のための謎の屁理屈を撒き散らす。また、他人の容姿や人格を中傷したり、「死ね」「つまんね」など直接的な暴言を吐くことが非常に多い。

大会番組のチャット欄が荒れる原因の98%はキッズが原因であり、「キッズが~」といった言説は聞いたことのある人も多いだろう。

おじとは何者か
他方、残りの2%はおじによってもたらされる。こちらは聞き慣れない人もいるかもしれないが、僕が知るところでは発祥はウメスレである。

※ウメスレとはかつて2ちゃんねるに存在し、いまはしたらばに引っ越した「ウメハラ総合スレ」のこと。ウメハラを中心とした格ゲープレイヤーや大会に関する雑談が行なわれており、基本的に誹謗中傷やくだらないゴシップで埋め尽くされている。しかし、2010年前後は格ゲー(特に『ストIV』)に関するあらゆる情報がネット上で最も早く共有される、ある種のコミュニティとして機能していた。

おじはキッズと異なり、病的な性質を持っている。異常にこだわりが強く、妄執的で、粘着質。同じコピペを一生貼り続けたり、自分が信奉するものを少しでも否定されると論理破綻にも気づかず擁護したりする。しかし、他人とコミュニケーションする気はなく、ただ持論を押し通したいだけ。ときどきチャット欄に発生するコピペ連打はおじによるものだ。

ただし、気をつけたいのはおじが格ゲー界隈で「にぃ(兄)」や「ねぇ(姉、姐)」といった、親しみを込めた敬称と同じ役割を持つ場合だ。アレおじといえば格闘ゲームのレジェンドプレイヤーであるアレックス・ヴァイエのことだ。もちろん、コピペ爆弾を投下するような人を「○○おじ」と呼ぶこともある。つまり、おじは「やばい」と同じく両義的だ。

おじは絶対数が少なく、BANするなりブロックするなりでチャット欄から消える。わざわざ大量のアカウントを作成して荒らそうとするおじもいるが、それもブロックし続ければいずれいなくなる。そのため、この記事では主にキッズについて取り扱う。

というか、キッズは「変われる」が、おじはもう「変われない」のだ。こればかりはどうしようもない。

ローコンテクストのキッズたち

プロ対抗戦は突如としてチャットを解禁したわけだが、視聴者はそこで初めて大会を観ながらチャットをすることになった。

キッズが発生する最大の要因は、大会番組がローコンテクストだからだ。視聴者同士で繋がりがあるわけでもないし、全員がいずれかのチームや選手のファンであるわけでもない。選手のことなんて全然知らず、プレイの巧拙を見る知識もないので、目の前に映っていることを自分勝手に書き込むしかない。すると、それをほかの視聴者が気に喰わず、チャット欄で喧嘩が勃発する。

また、選手の容姿に対するネガティブチャットも多かったし、どちらかのチームがたまたま一方的に負けると「下手すぎ」といった直接的な暴言が書き込まれた。

これと同じ現象に見舞われたのが「クラロワリーグ アジア」だ。同じというより、こちらのほうが成熟度は低かった。特に海外選手の容姿への悪口が多すぎて、僕も見るに堪えずチャットを閉じた。

ローコンテクスト、つまり視聴者同士で共有されているものが何もないがゆえに、キッズは発生する。そう考えると解決策は講じやすいと思うが、ハイコンテクストならキッズは発生しないのだろうか? そのとおり、ストVオールスターがそうだ。

※ちなみにいきすぎたハイコンテクストの先にいるのがおじだ。おじ化とはハイコンテクストを極めすぎて逆に誰にも理解されないゼロコンテクストへ転落することをいう。

最も成熟度の高い『ストV』

いま多くのタイトルで大会番組が配信されているが、その中でも『ストV』のチャットは極めて成熟度が高い。カプコンプロツアーの大会や「RAGE STREET FIGHTER V All-star League powered by CAPCOM」を視聴してもらうと分かると思うが、誹謗中傷はほとんどなく、選手や出演者が愛されているのが分かるだろう。

選手のスタンプだけでなく、特有の用語で視聴者同士の一体感が醸成され、どの選手が負けても「下手すぎ」なんて書き込まれず、なぜかマゴが負ければ喜ぶという屈折したマゴファンもいる(勝っても掌返しで喜ぶ)。

一見ネガティブなチャットも実は形式に則っていることが多く(負けた選手に「○○、まだそこ?」など)、そこには親しみがある。なので、チャットが形式から逸脱する場合は対象に否があることがほとんどだ。

例えば、ストVオールスターにはゴールデンボンバーの歌広場淳がゲストキャスターとして出演しているが、視聴者からはずっとネガティブな評価を受け続けている。それは彼が「中途半端な実力しかないくせに芸能人というだけでしゃしゃり出てきている」からであり、かつ番組内でまったく面白くないからだ。

※僕の勝手な想像だが、彼は芸能人という立場をかなり意識してしまっていて、視聴者やプレイヤーに受け入れられようと頑張りすぎている。もっと自由に、好きなように振る舞ったほうがいいと思う。

では、面白ければ評価されるのか? もちろんだ。ストVオールスターにはもう1人、アナウンサーの八田亜矢子がMC兼インタビュアーとして出演している。彼女は明らかにゲームに興味がなさそうで、『ストV』なんて知りもしないだろうという感じがするため、大会開始当初はネガティブチャットの対象だった。しかし、毎回インタビューで選手をたじろがせる面白い質問をしてくれることが分かり、いまやチャットで八田姐と呼ばれている(八田ママと呼ぶ人もいた気がする)。

※ちなみに歌広場も歌にぃと呼ばれることがある。キャスターのアールも最初は全然受け入れられていなかったので、そういう時期なのだろう。

プロ対抗戦やクラロワリーグのチャットと比べるとまさに天国と地獄の差があるが、『ストV』チャットにおける成熟度の高さは、過去に視聴者の大半が『ストIV』で地獄を演じてきたがゆえだ。

『ストIV』時代の大会番組に何があったのか? 簡単に振り返ってみよう。

『ストIV』とウメスレの関係

このゲームが発売されたのは2008年。以降バージョンアップされ続け、2016年に『ストV』が発売されるまでさまざまなシーンを生み出してきた。あまりにもいろいろあったのでここで語り尽くすことはできないが、大会番組のチャットに関する面では先ほど紹介したウメスレを欠かすことはできない。

2008年から2012年頃はまだTwitterが普及してきっておらず、2ちゃんねるがまあまあ影響力を持っていた。その中で一時、最高速度のスレ消費を誇っていたのがウメスレだ。格ゲープレイヤーに関するあらゆる情報――あることないこと――が集まり、語られるコミュニティであった。

とはいえやはり2ちゃんねる。お上品さとは程遠く、ここで明言するのも憚れるような誹謗中傷や、選手に対する蔑称が誕生していった。また、いわゆる数々のウメスレ用語も生まれ出た(多くが有名選手の使用した言葉がもとになっている)。このウメスレ用語がコミュニティを一体化・活性化させ、「とりあえず言っておけば楽しい」「シーンを"分かっている"」という状況になった。

コミュニティはある程度ハイコンテクストになるほうが盛り上がる。つまり、そこに所属していないと分からない内情や用語を共有していることでより楽しめ、より仲間意識を抱くことができる。ウメスレもそうだった。

それと並行して、外の世界では『ストIV』の大会が数多く開催されるようになった。当然、そこにはチャットがある。しかし、最初期のウメスレ民はなぜか成熟度が高く(単純に格ゲープレイヤーの年齢層が高かったからだろう)、ウメスレ用語を外の世界で使用することを避けていた。

ところが、そこにニコニコ動画でウメハラを知ったキッズが紛れ込むようになり、いつしか少しずつ用語が漏れ出していった。大会番組のチャットでウメスレ用語を使用することが当たり前になった。

しばらくはキッズとウメスレ民がチャットで地獄を作り出していた。特に、選手を貶すチャットがあふれた。ウメスレ用語の氾濫は止められなかった。

ところが、次第に事態は落ち着いていった。僕の推測だが、それまで選手のことを文字情報やゲーム画面(キャラクター)でしか知らなかった視聴者たちが、選手自身のことを深く知るようになっていったからではないだろうか。2010年~2011年頃、顔TV!やNSB、TOPANGA TVなど、有名選手たちによるネット番組が次々に配信され始めたのと、選手たちがTwitterで情報発信するようになっていったのだ。

ウメスレも当時が最盛期だった。内部は相変わらずゴミ溜めだったが、生放送のチャット欄ではウメスレ用語が視聴のための用語になっていき、視聴者同士で共有されるようになった。キッズたちも感化され、ウメスレ用語を使って生放送を観るのが楽しまれるようになっていった。

要するに、出場している選手と用語を介して視聴者同士が繋がり、成熟度が高まっていったのである。こうして何年もかけて『ストV』に続く視聴文化ができ上がったと言えるだろう。

『ストIV』とウメスレを巡るこの解釈が正確なのかは分からないが、大会を観ながらみんなと共有している用語を叫ぶのは楽しい体験だったのだ。

※もしかしたらウメスレがいいもののように見えるかもしれないが、ウメスレはクソだ。SNSが普及していなかったという時代性ゆえに、たまたまコミュニティとして機能しただけ。

キッズからの卒業

プロ対抗戦もクラロワリーグも始まったばかりで、視聴者間の連帯はないし選手のこともまだまだ知られていないし、視聴のための用語もない。キッズが暴れるのに充分な環境が整っている。だから、上記の『ストIV』の例には視聴者をキッズから卒業させるための示唆が含まれているように思う。

ここで参考にしたいのが「RAGE Shadowverse Pro League」だ。今年始まったプロリーグだが、ほかの新興プロリーグよりも早くチャットの成熟度が向上している。当初はやはり選手の容姿に対するネガティブチャットが数えきれないほど書き込まれていたが、いまはプレイングに関するチャットがとても多い。

これにはそもそも過去の「RAGE」で視聴文化ができつつあったことも大きいだろうし、主催・運営側が選手のスタンプを積極的に作り、「ブリギノーン!(BRING IT ON!)」という掛け声を普及させたことも大きいだろう。試合日数が多く視聴者がお互いを意識する回数が多いことも要因かもしれない。

また、視聴者をキッズから卒業させるには、時間に任せるのも一手だ。「League of Legends Japan League」がそうだった。2014年から数年は本当にチャットが荒れに荒れていたが、最近はほとんどすべてがゲームや試合に関する内容で、選手に対する誹謗中傷はもう存在しないと言っていい(言いすぎかもしれないが)。

これはLJLが長く続いてきたことで、視聴者が選手やその周囲のことを深く知り、視聴者同士で共有するようになったことが大きな要因だ。

ただ、在留カード事件があったため、これをネタにチャットをする視聴者は多い。LJL側が行なった対応は「在留」と書いたユーザーのBANだった。「カード」と書くだけでBANされることもあった。

こうしたモデレーターによる対応も1つの手だ。YouTubeやOPENREC.tvの大会番組でも不適切だと判断したチャットを削除しているし、NGワードが設定されてもいる。一定のルールを設定することで、キッズも言ってはいけない言葉を学んでいく(上記のLJLの「在留カード」問答無用BANが適切だったとは思わないが)。

あるいは、RAGEの「ブリギノーン!」のように視聴者が使いやすい共通用語を提供し、視聴者に一体感を意識してもらうことで成熟を促す手もある。『ストIV』ではこれをウメスレ用語が代替していた。

LJLにおいてはそれが自然発生している。例えば、Cerosにまつわる物事は語頭が「セ」に入れ替わることなどだ(Cerosがチャンピオンのエイトロックスを使用すると、セイトロックスと呼ばれるなど)。在留カード事件にまつわるフレーズ「やめなさい、やめてください!」もネタとして使われることがある。

ここまで、キッズ卒業のためには選手を知ってもらうことと視聴者同士の連帯が重要であると強調してきた(誰しも身内は攻撃しない)。これは言いかえれば、大会開催時だけ離合集散するモデルではなかなか成熟度は高まらないことを意味している。そう、視聴者同士が普段から選手や試合に関して語り合えるコミュニティが必要なのだ。

視聴者を育てる

ビジネスやマーケティングでは「顧客や見込み客を育てる」という言い方がよくなされる。esportsにおいては「ファンを育てる」「視聴者を育てる」という言い方ができるだろう。

誰がそれをすべきなのか? 言うまでもなく、大会の主催・運営側だ。ひたすらモデレーターがBANし続ければいいわけではない。理想はモデレーターが必要ない状態を作ることだ。それは視聴者同士の自浄作用が働く結果とも言える。

具体的な施策としては、番組配信中に運営側の人が視聴者と一緒に観戦し、運営アカウントでチャットに書き込むことだ。そうすると視聴者としては運営側との一体感を感じられ、ネタに乗れば共犯関係を感じてくれるようにもなる。ネットはインタラクティブなのだ、モデレーターが一方的に断罪して視聴者といい関係が作れるはずもない。運営側が一緒に楽しんでいることを知ってもらい、「運営草」と書き込まれるようになったら上々である。

※LJLでのG-TuneのCMで総師範KSKが生み出した「精神に呼応する」というような名フレーズが一体感を生むこともある。

また、リーグであるなら出場しているチームや選手も責任を負わないといけない。チームがきちんとファンを抱え込み、視聴者を育てていないからチャット欄でキッズが暴れるのだ。

ファンや視聴者のためのコミュニティを用意できるのはチーム以外にない。まさかいまの時代、5ちゃんねるにその役割を託すわけにもいかないだろう(一部はそうあってもいいと思うが)。チームのためだけでなく、シーンのためにファンを、そして視聴者を育てる必要がある。

プロ対抗戦のチャット欄のようなキッズ地獄を目にすると、「また封印しよう」「うちもやめておこう」となるかもしれないが、そうなれば視聴者は育っていかない。成熟度は一向に高まらない。今後のesportsシーンを考えれば、チャット欄の封印はあまりにもナンセンスだ。

以前に観戦者を増やすための戦略と施策について書いたが、esportsシーンを盛り上げるためにも、自宅でのオンライン観戦でもみんなとチャットをしながらだと楽しいという文化を作らないといけない。

どうすれば大会番組のチャットを成熟させていけるか、これは関係者が今後も検討しなければならない課題だ。仕組みで変えていこう。

※2018年7月25日:番組配信中の施策を追記。

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