強さはプロゲーマーにとって最大の魅力、でも強さだけで食べていけないならどうすれば?

プロゲーマーは強くて当たり前だ。

それはあまりにも自明であり、そして(いまのところ日本では)強いだけでは食べていけないことも自明。そのため、これまで僕はプロゲーマーの強さについては言及してこなかった。

しかし、いまだに「プロゲーマーは強ければほかはどうでもいい」といった言説を見かけることがある。強さだけで支援者にリターンをもたらすことができるならそれも真だが、どうやらそうもいかないのが現実だ(それに、ひたすら強さだけを求めたいならわざわざプロになる必要がない)。

では、どうすればプロゲーマーとして食べていけるのか。そもそもプロゲーマーにとって強さはどんな役割を持つのか。どうして日本のトッププレイヤーは強さだけでは食べていけないのか。

今回はプロゲーマーにとって強さとは何なのかを議論していく。

目的は誰より強くあろうとすること

最初に強さを定義しておく。esportsにおいて強さとは「相対的なプレイスキルの高さ」のことをいう(運や環境も含む)。強さは他人に勝つことによって目に見える形で表現される、とても把握しやすい指標である(多くの音ゲーのように、上限のあるプレイスコアで競う場合もある)。

強さを追求することはプロゲーマーに限らず、対戦ゲームに取り組む多くのプレイヤーにも見られる志向だ。しかし、中には強さを追求しない、わいわい遊ぶことに目的を見出すプレイヤーもいる。向き合い方はそれぞれだが、esportsにおいては取り組むプレイヤーの目的は一意に決まっている。

その目的とは? esportsの最節約的な定義は「デジタルゲームを用いた競技」である。そう、esportsにはその言葉自体に誰より強くあろうとする姿勢が含意されている。だから、大会に出場し優勝を目指していない場合はesportsという言葉を使うのは適切ではない。esportsに取り組むプレイヤーの共通の目的は、誰より強くあろうとすることだ。

esportsに取り組むプレイヤーのうち、継続的な他者の(主に金銭的な)サポートを受けながら研鑽する人たちがプロゲーマーと呼ばれる。対して、継続的な他者のサポートは受けずに強さを追い求める人たちがアマチュアゲーマーと呼ばれている。

こうして整理してみると、昨今のesportsという言葉の独り歩き感はすさまじい。優劣を競わないesportsとは何なのか?(ゲームだ!)

※ところで、esportsにおいてプロとアマの差が出にくいのは、経済面を含む練習環境に大きな差がない場合だ。日本でも少しずつ練習環境に差が出始めており、大会ではプロが勝つことが増えている。ただまあ、センスと努力で強さをひっくり返せることも多い。

強さだけで食べていくのは難しい

さて、プロゲーマーにとって強さはなにより重要であり、強くあることが大会賞金という形で大きな収入に繋がりうる。

しかし、実際には強さだけで食べていくのは、特に日本人プレイヤーにはまだ難しい。E-SPORTS EARNINGSがまとめている日本人プレイヤーの獲得賞金ランキングを見てみよう。

Highest Earnings for Japanの上位30人。

※『パズドラ』や『モンスト』が除外されている理由は不明だが、大会優勝プレイヤーはいいところにランクインすると思う。

1位はときどの38万921.45ドル(約4264万円)で、30位はアオの1万6056.43ドル(約180万円)。最初に賞金を獲得した年から現在までの活動年数で割ってみると、ときどは年間平均328万円(2006~2018)、アオ(2010~2018年)は年間平均20万円。いずれにしても、インパクトのある数字ではまったくない。

ときどの場合、獲得賞金の74%がここ2年のものであり、それ以前の長い期間では苦戦してきた。2位のウメハラと3位のかずのこも近年は多額の賞金には手が届いておらず、活動年間平均を見るとときどと大きな差はない。

このことから明らかなように、日本人で最も多く賞金を獲得しているプロゲーマーたちでさえも、毎年賞金だけで安定した生活を送れてきたわけではない。6位以下の獲得賞金1万ドル台のプロゲーマーなら言うまでもないだろう。つまり、強さ(に依存する賞金)だけで食べていくのはかなり難しい。

ランキングの上位には格闘ゲームのプレイヤーが並んでいるが、格闘ゲームは日本人が強いタイトルが多い。それゆえに日本人プレイヤーが賞金を獲得できてきたものの、格闘ゲームの大会はFPSやMOVAに比べて賞金額が小さい。

今後、高額賞金の大会が見込まれる『クラロワ』や『Fortnite』、あるいは『Hearthstone』などで有望なプレイヤーが散見されるものの、いずれにせよ強さだけが直接的に収入に結びつくプロゲーマーはごく一部であろう。

※esportsを盛り上げたい誰かが強いプロゲーマーにもっと多額の賞金を獲得してもらいたいと思うなら、可能性としては(給料含む)練習環境を充実させるか、高額賞金の国内大会を開催することが考えられる。

強さは魅力の1つ

では、強さだけで食べていけないならどうしたらいいのか? 強さを別の視点から捉えなければならない。さきほどのランキング上位のプレイヤーには、強さと同時に人気があり、多くのファンがいる。強さはそれだけで人を惹きつける魅力になるからだ。

つまり、プロゲーマーは強さを自分が持つ魅力の1つと捉える必要がある。魅力とはもちろん、さまざまな収入源に繋がるファンを獲得するために不可欠なパラメーターだ。ファンの数はサブスクリプション契約、グッズ販売、スポンサー(広告)契約などに大きな影響をもたらす。

プロゲーマーにとって強さは魅力のうちの大きな割合を占める。もし出場するすべての大会で優勝するほど強ければ、ほかに何もせずともファンが増えていくだろう。でも、現実にはそんなプロゲーマーはいない(ただし、トッププレイヤーに並べるほどの強さを身につければ、それに惹かれてファンになってくれる人たちはいる)。

どれほど強くても毎回優勝はできないし、しかもプロゲーマーの強さはどんどん均質化していく。要するに、プロゲーマーはみんな同じ水準の強さを身につけていくので誰が恒常的に大会で優勝できるかを特定できず、強さだけでは魅力を差別化できなくなっていく(一番強いプレイヤーが判明するのは大会で優勝者が決まったときだけだが、その栄光もすぐに終わる)。

だからこそ、強さを魅力の1つと捉え、収入をもたらしてくれるファンを獲得するために強さ以外の魅力要素を持たなければならないのだ。

※いったいなぜ人は他人より強くなろうとし、あるいは強い人を好きになるのか。ここで説明すると長くなるので省くが、それらは人間に生得的な性質だと述べておく。

「強さ×○○」がより大きな魅力になる

プロゲーマーなら強くて当たり前で、当たり前ゆえに強さだけではほかのプロゲーマーと差別化できなくなる。しかも評価の仕方も単純明快。となると、強さをテーマに議論するなら「どのように強くなればいいか」という内容になる。僕はトッププレイヤーでもコーチでもないので、それはできない。

繰り返すが、差別化できない要素でファンを獲得するのは難しい。たとえ突出した強さを持つプロゲーマーやプロチームが登場したとしても、当人の衰えや新参の躍進などでいずれ強さはどこかの水準で均質化していく。

しかし、強さとほかの要素を掛け合わせて魅力にできるのはプロゲーマーだけだ。強くて話が面白い、強くて教えるのがうまい、などなど。1つだけでなく、いくつでもいい。強さが均質化するなら、そこに自分なりの要素を掛け合わせればいいのだ。そうすることで独自の魅力が生まれ、ファンができる。特に人柄や考え方、バックグラウンドといった固有の要素は欠かせない魅力となるだろう。

僕がプロゲーマーについて議論してきたのは、「強さ×○○」の○○を伸ばしてファンを獲得しようという点でのみだった。例えば、参考になりそうな記事として以下がある。

◆紹介する人は紹介される人になる――無名のプロゲーマーがファンを作るために
◆商品としてのプロゲーマーをより魅力的にするための戦略と施策
◆Rush Gamingに学ぶ、チームや選手のファン作りに役立つ戦略と指標【分析編】

強くて当たり前という世界は非常に酷だ。強くなるために膨大な時間が必要なのに、食べていくためにはそれ以外にも時間を費やさないといけない。しかし、それこそプロゲーマーであることの面白さだと思う。

強さは裏切らない

プロゲーマーやトッププレイヤーには各タイトルのプレイヤーレベルがもっと上がるようにノウハウを共有してもらいたい。全体のレベルが上がればトップのレベルも上がるし、そうなれば日本人プレイヤーが世界で活躍できるようになる。すると、より多くのプレイヤーが強さだけでもっと稼げるようになる。筋肉が裏切らないように、強さもプレイヤーを裏切らない。

※その意味で、『スマブラ』のノウハウがトッププレイヤーたちによって惜しげなく解説されているSmashlogは異彩を放っている。

ただ、それが実現したとしても、強さはいずれ均質化する。なので、強さを活かして継続的に収入を得たいならファンを獲得するほかない。あるいは黙ってお金だけ出してくれるスポンサーを見つけることだ。

esportsの世界は、結局のところ誰より強くなろうとするプレイヤーの存在で成り立っている。そのことを忘れた瞬間にどうなるかは、推して知るべしである。

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謎部えむ

eスポーツスリンガーとして日本のeスポーツ業界にまつわるあれこれを取材・分析しています。マガジン「happy esports」の詳細と連絡先は↓のプロフィールをどうぞ。「焚き火を囲って」はジャンル不定で唐突です。「happy game note」はおすすめゲーム系記事まとめです。

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eスポーツシーンの企業やチーム、選手に役立つ戦略や施策をまとめたり、業界の分析や考察をしたり。eスポーツでハッピーになろう。

コメント6件

発信力がフォロワー(ウォッチ)数ならば、そうですね。。
たぶん言われてるのは発信するコンテンツを持ってる=発信力ということだと思いますが、それならそうですね〜
優劣を競わないe-sportsとは? 本当にその通りで、その二つは分けた上で議論しなければいけないと思います
メジャーな体を使うスポーツでさえ(例えば野球とバスケの差)差があるのだから、ファンを獲得するための何かが強さ以外に必要だと思いますね
強さは自己研鑽でどうにかなるのと評価が分かりやすいので、面白い話をできるようになるより伸ばしやすいと思いますね
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