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音ゲーの競技シーンはいまどうなっているのか、esportsとしての可能性はあるのか

この中でアーケードの音ゲーをプレイしたことのあるやつだけ手を挙げろ!

おそらくものすごく少ない。そもそもプレイできるゲームセンターが減っていて、ゲームセンターからも筐体がどんどん撤去されていて、プレイヤー人口も減り続けている。そして、たとえ音ゲーをプレイしていてもesportsとして認識している人は多くないだろう。だから、この記事の読者に音ゲーマーはほとんどいないし、音ゲーをesportsとして捉えている人もほとんどいないと思う。寂しい。

そんな悲観的な状況を変えること——音ゲーを「いま熱い」esportsの俎上に乗せて語り、esportsとして盛り上げることはできるのか? 今回は音ゲーの競技シーンを整理し、その未来について想いを馳せよう。

※2018年4月17日 『osu!』について追記。また、ゲーム外部からのルール設計によるesports化についても追記。

※2018年4月18日 この記事は音ゲータイトルを完全網羅することが主旨ではないので言及・記載してないタイトルが多いが、それについてはご了承を。

アーケード、スマホ、コンソール/PC、そしてVR

音ゲーと一口に言ってもいろいろあるので、まずは分類してみる。大きくアーケード(ゲームセンター)、スマホ(ポータブル)、コンソール/PC(家庭)、VR(ゲームセンター、家庭)の4種類ある。1つのタイトルがアーケード版、スマホ版、コンソール版、PC版とマルチ展開されていることも多い。

タイトルはさまざまだが、音ゲーというジャンルを牽引してきたのは間違いなくアーケードだろう(もちろん『パラッパラッパー』に代表されるように、コンソールの役割も大きかった)。いま音ゲーの裾野が広がっているのはスマホで、これから期待されるのがVRだ。

とはいえ、esports(対人戦)という文脈で触れるなら、大々的な全国大会が開催されているアーケードを取り上げるしかない。スマホは『Deemo』などを筆頭に魅力的なタイトルは多いものの、esports的に注目すべきタイトルはほぼない。実際、全国大会があるのは『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』くらいで(アーケード版もある)、スクフェス全国大会が開催されている。

『スクフェス』をesportsタイトルと呼んでもいいし、上達するために苛烈な練習に身を投じている人もいるだろうが、スクフェス全国大会をesportsシーンの1つとして語るのは無理がある気がする(あくまで印象の話なので、競技として取り組んでいる人には申し訳ない)。

また、PCの音ゲーとしては『osu!』が有名だろう。無料で遊べて『osu!mania』などいろいろ派生モードもあり、世界的にプレイヤーがいる(世界で最も人気な音ゲーの1つ)。国内でコミュニティ大会がいくつかあるだけでなく、世界大会としてosu! World Cupも開催されている。ただし、『osu!』はどんな楽曲でも利用して譜面を作成できるので、「著作権とは何だったのか」状態になっていることも無視できない。ここでは簡単に紹介するだけにしておく。

アーケードにはどんな音ゲーがあるのか

さて、それでは現在esportsシーンとして語りうるアーケードの音ゲーにはどんなタイトルがあるのか。最初に挙げるべきは当然コナミの音ゲー、BEMANIシリーズだ(アーケードはコナミアミューズメントに引き継がれた)。

音ゲータイトルの柱はその中でも『beatmania IIDX』(弐寺)と『SOUND VOLTEX』(SDVX)の2本。数年前まで『jubeat』と『REFLEC BEAT』(リフレク)も大きな勢力を誇っていたが、近年はプレイヤーが減り、筐体も減っている。『pop'n music』その他のタイトルも同様だ。

それを明確に示す客観的なデータはなく、これは僕が新宿やそのほか東京都内(池袋、渋谷、下北沢、中野、上野など)のゲームセンターに通っている中で感じていることだと留意してもらいたい。いちおうGoogleトレンドで検索ボリュームを見てみると、なんとなく状況を察せられるだろう。

『チュウニズム』以外は下降トレンド。

このグラフの紫の線は『チュウニズム』で、セガのタイトル。コナミのタイトルを差し置いていまアーケードで最も盛り上がっている。新宿のゲームセンター(主にタイトーステーションだが)に夕方過ぎに行くと、たいてい待機列ができているほどだ。『初音ミク Project DIVA』シリーズや、ドラム型洗濯機と呼ばれシャープともコラボした『maimai』で音ゲーの覇権を取ろうとして叶わなかったセガにとって、いまの『チュウニズム』の状況にはにっこり笑顔だろう。

そしてもう1つ挙げておくべきタイトルがある。バンダイナムコの『太鼓の達人』だ。店の前や1階の目立つところに設置されていることが多く、特に外国人観光客に人気。テレビ番組で取り上げられる音ゲーといえばこれ。誰しも一度は上級者のプレイに息を呑んだことがあるのではないだろうか。

上記3社はほかの音ゲーも展開しているし、コナミは『ノスタルジア』や『DANCERUSH STARDOM』など積極的に新作をリリースしている。また、タイトーの『グルーヴコースター』(グルコス)、CAPCOMの『crossbeats REV.』、ANDAMIROの『Pump It Up』といったタイトルもある(CAPCOM×Rayarkの『Cytus Ω』は先日開発の中止が告知された)。しかし、いずれも設置されている店舗が少なく、設置されていても1台か2台で、今回はメインでは取り上げない(僕はタイトーの『ミュージックガンガン!』が好きだ)。

音ゲーの大会とは

どのゲーム会社のどのタイトルに注目したらいいのか、なんとなく分かってもらえただろう。次にいよいよ、大会について概観していこう。ただ、音ゲーのいまの競技シーンにはリーグがなく、中~大規模大会自体がほとんどない。esportsとして見るなら寂しい状況である。

最も大規模な大会は、コナミが年1回開催しているKONAMI Arcade Championship(KAC)。『弐寺』や『SDVX』を初め、コナミがアーケードで展開するほぼすべての音ゲータイトルが採用されている(音ゲー以外もKACの枠組みで開催)。予選ラウンドは店舗でのプレイでスコアを蓄積し、その上位者が決勝大会に出場するという形式。日本、香港(マカオ)、台湾、韓国、シンガポール、タイ、アメリカ、フィリピン、カナダといった公式に筐体が設置されている施設のある地域から参加できる。

決勝大会は、近年はジャパンアミューズメントエキスポ(JAEPO、ここ数回は闘会議と併催される)でのコナミブース内で開催されるようになった。2018年からはコナミとしても音ゲータイトルをesportsとして展開するようになったのと、大勢のプレイヤーやファンが観戦に来ることもあり、競技シーンとして成立していると言えるだろう(そのあとのBEMANI SPECIAL LIVEがお目当てだって?)。

次に紹介するのは『太鼓の達人』の世界大会、ドンだー!世界一決定戦。KACも外国から参加できるが、「世界」を冠している音ゲー大会は珍しい。2年ごとに開催されており、店舗予選とエリア決勝を経て本戦へと進出できる(小学生部門は都道府県大会→小学生決勝大会→世界一決定戦、中学生以上は店舗予選→エリア大会→世界一決定戦)。

そして最後に、音ゲーの総合大会として天下一音ゲ祭がある。2018年の第4回はJAEPO×闘会議内で開催され、『SDVX』『チュウニズム』『グルコス』『太鼓の達人』の4タイトルが採用。また、『maimai』『シンクロニカ』の2タイトルは別でブロック決勝大会が行なわれた。

また、天下一音ゲ祭の開催を記念してタイトル間で楽曲の交換イベントも行なわれる(つまり、セガの『チュウニズム』からコナミの『SDVX』に楽曲が提供されたり、その逆があったりする)。長年コナミを中心とした各社の間で確執があったと言われるが、最近はこうした取り組みやセガ系列のゲームセンターでもコナミの音ゲーが導入されるなど、会社間の壁はなくなってきている。それはアーケードの音ゲー人口が全体的に減少していることへの危機感からかもしれないが……。

ということで、大規模大会はこの3つである。いずれも年1回か2年に1回なので、大会の数は少ない。もちろん店舗大会は全国的に開催されているが、コミュニティ大会なので競技シーンとまで言えるかは微妙だ。

ちなみにほかにも、先ほど挙げた『スクフェス』の全国大会や、『crossbeats REV.』の王者決定戦~ANIMAX MUSIX CUP~(2016年のみ)が開催されている。また、フジテレビONEの『いいすぽ!』で複数の音ゲーが取り上げられたこともある。

音ゲーにもプロゲーマーはいる

ところで、音ゲーにもプロゲーマーがたった1人だが、いる。コナミと契約した大魔王ことDOLCE.だ。『弐寺』を主戦場としながらもほぼすべての音ゲーで神がかり的な実力を誇る、唯一無二の存在にして生ける伝説である。10年以上トッププレイヤーであり続け、KAC2012ではコナミの音ゲー9タイトルで競うMaster部門で優勝した。プロになったのは2017年の2月だ。

また、ブライトというタレントマネジメント会社と契約しているプレイヤーもいるようだが、その実態はよく分からない(契約したのに仕事が来ないというツイートもあった)。

あと、ゲーム番組やイベントで活躍しているグラビアアイドルの水沢柚乃は『SDVX』がめちゃくちゃうまい。

いまの音ゲーはesportsに向いていない

とりあえず、音ゲーにもアーケードを中心とした競技シーンがあるにはあると分かった。しかし、アーケードであるがゆえに大規模大会の数を増やしていくのは難しい。どうしてもゲームセンターが中心になるし、ホルダー以外のサードパーティが全国規模で大会を開催するメリットがあまり見当たらない(なにせ減り続けている筐体を使わないといけない……一部スマホ版やPC版もあるが)。

大会は、あくまで開発・運営するゲーム会社がユーザー満足度の向上をプレイの継続を目標としたエンドコンテンツとして開催するしかない。ただ、年1回でも全国大会が開催されているなら、そこに向けて全力で取り組む価値はあるだろう。

それと致命的な問題として、ほとんどの音ゲーがesports(対人戦)に向いていないと言わざるをえない。音ゲーは基本的にソロプレイ、定められた上限スコアを目指してプレイするゲームだ。大多数の対戦ゲームのようにプレイ中に自分と対戦相手が相互に作用する機会がなく、対戦する場合はプレイスコアの高低で競う(『リフレク』は相互作用があるが、結局は上限スコアを目指す)。

もちろん、ソロプレイでも上限スコアを目指してプレイすることは競技的でありうるし、その点をもってesportsと呼ぶこともできる。最高難度の楽曲をクリアする(一定上のスコアを獲得する)ことは難しく、トッププレイヤーへの憧れも生まれうる。

だからこそコナミはDOLCE.とプロゲーマー契約を結んだ……が、それは自社タイトルに何かしら貢献してもらえるという目論見があるからで、サードパーティやスポンサーへの広がりは難しいと思われる。コナミが公式に音ゲー(KAC)をesportsと冠しても、どうやって発展させていくのかは未知数だ。

なお、既存の音ゲーが競技として成り立っているのはゲーム外部からのルール設計によるもので(プレイ結果によるスコアの比較)、この方法に従えば原則としてはどんなゲームでもesportsとして扱いうる(松井悠の定義はこれに近いし、僕も同意する)。

だが、ゲーム外部からの競技化によってesportsとして隆盛しているタイトルは世界的に、また国内にもほとんどない。なので、esportsタイトルとしてはゲーム内部での競技性(プレイ中の対戦相手との相互作用)が大事な要素であると考えられる。ここでの議論はこの考えに依っている。

対戦型音ゲーの可能性

では、音ゲーの競技シーンはこれからどうなっていくのか。esportsとして盛り上がっていく可能性はあるのか?

アーケードについては、プレイヤー人口が減っているのだから、現状維持がなされれば上々ということになる。そしておそらく、しばらくは現状が維持されていくだろう。なので、アーケード以外に期待しなくてはいけない。それは新しいスマホの音ゲーや、VRの音ゲーになるのかもしれない。

結局のところesportsは人口がどれだけいるかであり、下降トレンドのアーケード音ゲーがたとえesportsと銘打たれても、盛り返していく土壌(ゲームセンター)がすでに失われつつある。格ゲーはうまくコンソール/PCにシフト(ないしクロス)できているが、音ゲーをアーケードから家庭に持ってきてもまったく違う体験になってしまうのでうまくいかない。現に、PC版がリリースされた『弐寺』と『SDVX』はうまくいっているように見えない。

だからこそ、国内のesportsシーンでPC以上に熱気を増しているスマホに期待が寄せられる。スコア比較ではない対戦型の音ゲーは、先に挙げたように現状ほぼ存在しないので意外と未開拓の領域に思えるが、ここに展開していくゲーム会社は現れるのだろうか。

一音ゲーマーとしては、どんな形であれesportsシーンで音ゲーのタイトルが当たり前のように挙がる時代が来てほしいと思っている。コナミやセガがスマホの対戦型音ゲーに全力を出せば、それが現実になる可能性はある……かもしれない。

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