見出し画像

esportsタイトルとなった『ぷよぷよ』、今後の展開に期待と不安を込めて

あのセガがesports!? しかも『ぷよぷよ』で!? 時代は変わるものだ。8月18日には3回目となるぷよぷよチャンピオンシップが(もちろんセガ公式で)開催され、いままさにesportsとして羽ばたく土台作りをしている段階である。

『ぷよぷよ』は2018年4月にJeSUのプロライセンス対象タイトルとなり、かねて界隈の火を絶やさないよう尽くしてきた面々を中心にプロゲーマーが誕生した。そこにミスケンやpopo、momoken、あるいはALFの名前がないことに寂しさを覚えないわけではないが、とにかくトッププレイヤーたちの念願が1つ叶ったことに祝杯を捧げたい。

さて、今回は『ぷよぷよ』がついにesportsとして「公式に認められたこと」をテーマに、ささっと期待と不安についてまとめよう。内容としてはわりとネガティブになるが、それは期待の裏返しだ。この記事を通してセガにはもっと本腰を入れて挑戦してほしいと訴えたい。

【目次】
セガは本当に積極的か?
なぜ遅れて4月に認定されたのか
不遇の時代を乗り越えて
『Magical Stone』とは何だったのか
情熱が周りを見えなくしていた?
『ぷよぷよ』シーンは盛り上がるか

※僕は大会に参加していないので、あくまで観戦者の立場での観察と推測である。

セガは本当に積極的か?

まず、『ぷよぷよ』が遅ればせながらプロライセンス対象タイトルに選ばれた理由を推察していく。世界的にesportsが注目され、国内でもかつてない盛り上げの兆しを醸し出している現状、対戦ゲームである『ぷよぷよ』をesportsとして展開するのは理に適っている。

しかし、セガは本当に積極的にesportsに乗り出そうとしているのだろうか?

例えば、ぷよぷよチャンピオンシップの大会番組や演出について、周回遅れと評価するツイートがあった。僕も初回から視聴しているが、少しずつ改善されつつあるとは感じながら、正直5年前かそれ以上前のコミュニティ大会のようなクオリティを呈している。

あるいは、その大会の情報発信がほとんどなされておらず、どこを見れば観戦に際しての情報や配信URLがあるのか、全然分からない。おそらくぷよぷよキャンプがesports情報サイトを兼ねていると思うが、そこにしてもほしい情報が載っていない。誰がプロライセンスを保有しているのかも一覧で分からない。コミュニティサイトとesports情報サイトを一緒にするのはちょっと無理がある。

Twitterの公式アカウントを見ても、とても積極的な情報発信をしているとは言えない。アカウントには「みどりぷよ(ぷよぷよシリーズ宣伝担当)」と「SEGA-eSPORTS」があり、情報発信は後者が中心になるだろう(開設したのは7月4日と最近で、それまでは前者でesports情報も発信されていた)。

ところが、SEGA-eSPORTSが先日の大会期間中にツイートしたのはたった6回で、配信URLが載っているツイートはたった1回。試合状況どころか誰が勝っているのか、誰が優勝したのかすらツイートしていないというありさまである。これではほとんど誰にも情報は届かない。特に下記のツイートはひどい。

こうした姿勢から滲み出てくるのは2つ、リソースがないか、積極的ではないかだ。おそらく両方の要因だと思うが、諸々の様相からして後者もかなり強いのではないかと思う(プレイヤーから見ればそうではなく至れり尽くせりなのかもしれないが)。

※2018年8月27日:liveによる言及があったので紹介しておく→「ぷよぷよカップよりも大規模なイベント!?巷で噂の『おいうリーグ』とは?

なぜ遅れて4月に認定されたのか

次に気になるのが、なぜ『ぷよぷよ』が初期のJeSU認定タイトルに入っていなかったのかということ。勝手な推測ではあるが、初期の認定タイトル発表後、体面を保つために急遽対応しようとした結果、この時期になったのではないだろうか。

体面とは、任天堂とSIEという二大ゲーム会社がesportsに本腰を入れ始めたことに対して、セガとしても何かしら立ち位置をはっきりさせないといけなかったということだ。また、JeSUの会長である岡村秀樹がセガホールディングスの代表取締役社長であるという点も見逃せない。

これは僕が風の噂で耳にしただけだが、社内でesportsに積極的だったのは岡村を始めとした少数派だったらしい。にもかかわらず、いまいち社内が乗り気でないesportsに、社内からJeSUの会長が誕生するということでセガとしては何かしら取り組んでいるアピールをしなければならない……。

つまるところ、やはり体面の問題が最も大きかったように思われる。上述のように明らかにesportsとしての『ぷよぷよ』に積極的な姿勢が見えづらい現状に鑑みれば、否定しきれないのが悲しいところだ(高額賞金を出して大会をやればいい、というのも5年くらい前のesports観だ)。

不遇の時代を乗り越えて

でも、トッププレイヤーからすれば、『ぷよぷよ』がJeSU認定タイトルになったことはこれまでの不遇を吹き飛ばすほどの衝撃があったのはたしかだ。

その不遇については語るに余りある。例えば、『ぷよぷよ』の対戦シーンを支えてきた『ぷよぷよ通』ガチ勢にとって、オンライン対戦の対応がなかなか実現しなかったことが挙げられる(この増田に詳しい)。

ガチ勢はアーケードの『ぷよぷよ通』を中心に活動していた。S級リーグという大会の名前を聞いたことのある人もいるかもしれないが、ガチ勢はオフラインのアーケード筐体で100先を行ない、格付けを行なっていたのだ。さまざまな名試合はいまも動画サイトに残っている。

※なぜ『ぷよぷよ通』なのかというと、昔からアーケードでプレイしてきたガチ勢にとってはこのルールこそ完成度が高いもので、親しまれていたから。続編だけでなく、2004年に登場したオンライン対応のPC版『ぷよぷよフィーバー』のルールもしっくりこなかったようだ(『ぷよぷよフィーバー』自体はセガが積極的にプロモーションや大会などを展開していて、ガチ勢もプレイしていなかったわけではない)。

セガはそうしたガチ勢の活動を見て見ぬふりしていた。ビジネス的にはインパクトがなかったからだろう。いくらアーケードでプレイしたところで、新作の『ぷよぷよ』シリーズの売上が増加するわけでもなく、新規プレイヤーが増大するわけでもない(1994年のタイトルだ)。もしアーケードシーンの『ぷよぷよ』に何らかの価値があったなら、セガが見逃すはずはない。

国内でesportsの機運が高まりつつあった2010年以降、プレイヤーからのesports化を促すアプローチはあったみたいだが、セガは無反応を決め込んだ。それどころか、そこに追い打ちをかけるように『ぷよぷよ!!クエスト』を投入した(『ぷよぷよ通』とはまったく別ゲー)。さらに『ぷよぷよテトリス』をリリース、これは『ぷよぷよ』側が相当に不利な設定になっていて、ガチ勢には不満の対象となったらしい。

もちろん、『ぷよぷよテトリス』はRed Bull 5Gで何度も採用されるなど、それなりに大きなムーブメントを生み出した。しかし、ガチ勢がやりたいのはあくまで『ぷよぷよ通』での対戦であった。その想いにセガは応えてくれなかった。

そうした不満が募りに募った結果、何が起きたか?

かの悪名高い『Magical Stone』が誕生することになったのである。

※ちなみに『ぷよぷよ!!クエスト』はいまでもセガのデジタルゲームで売上3位だし、プロライセンス対象タイトルとなったあとでも大会では『ぷよぷよテトリス』を用いて『ぷよぷよ通』ルールの対戦が行なわれている。。

『Magical Stone』とは何だったのか

『Magical Stone』騒動の顛末はAUTOMATONが詳しく取り上げているので参考にしてほしい。簡単に言うと、『ぷよぷよ通』に向き合ってくれないセガに対して数人のガチ勢が業を煮やし、『Magical Stone』というクローンゲームを開発したが、いろいろあって頓挫したのだ。

同作はルールこそ『ぷよぷよ通』と同じだが、より対戦、esports向きにシステムが練られていた(全体としての質が高かったかは別の話だが)。くまちょむやKamestry、selvaなど、いまプロとして活動しているプレイヤーも開発に参画し、同作のプロチームに所属。リーグも予定しておおいに盛り上げていこう……となっていた矢先、開発会社の資金がRMT事業からもたらされていたことが判明した。

ゲーマーからすればRMTは敵。RMT事業を行なっている会社が作ったゲームが受け入れられることはなかった。代表のれそによる弁明と対応が燃えに燃えて大炎上、同作は公開を停止し、開発が断念された。

プロチームも解散し、参画していた一部の『ぷよぷよ通』プレイヤーたちが謝罪するに至った。その中で特に中心的に動いていたALFは、いまもTwitterを停止している状態だ。Red Bull 5Gでキャスターとしても活躍していただけに残念である。

この騒動にはさまざまな問題が内在しており、けっこうややこしい。このあたりの記事で整理してもらうといいと思う(ほかにも大手ゲームメディアで取り上げられている)。

『ぷよぷよ通』のesports化を望むガチ勢の夢はここに一度潰えたわけだが、こうした歴史を踏まえて『ぷよぷよ』がJeSU認定タイトルになったことを考えると、そこには複雑な思惑が混じり合っていると想像できるだろう。

情熱が周りを見えなくしていた?

この節は丸々余談だが、『Magical Stone』関係者の想いがいかに強かったのか、いかにセガにやきもきしていたのかを知るエピソードとして読んでほしい。実は当時、僕はALFと面識があり、『Magical Stone』の開発途中にアドバイスがほしいと声をかけられた。

呼ばれた席には僕と知り合いが1人、そしてALFとれそ。そこで彼らが『ぷよぷよ通』にかける想い、セガに無下にされたことへの不満、そして『Magical Stone』に注がれた情熱を目の当たりにした。

どうしても『ぷよぷよ通』をesportsにしたい、そのためにはこの方法しかないのだと。セガが取り合ってくれないなら、自分たちでやるしかないと。

僕は「セガが興味を持たないってことはビジネス的においしくないからじゃないですか?」と当然の疑問をぶつけた。彼らはたしかにアーケードを通して『ぷよぷよ通』の火を燃やし続けていた。しかし、先に書いたように、それがビジネスとして成立しないならセガが相手をする理由はない。

もちろん、彼らの気持ちもよく分かる。僕も『ぷよぷよ通』をそれなりにプレイしていたし、小説も書いた(ALFと知り合ったのはそれがきっかけだった)。『ぷよぷよ通』がesportsとして展開されるなら嬉しい。でも、彼らの活動はセガがビジネスとして向き合うには規模が小さすぎたのだ。まさか利益の見込みがないのに取り組むわけにもいかない。

僕は「まずは『ぷよぷよ通』の対戦シーンをセガが放っておけないほど盛り上げるべきでは?」とも尋ねた。しかし、彼らの想いを曲げるには至らなかった。当然だ、彼らはずっと対戦シーンのために活動してきて、なのにセガに無視されてきたのだから(僕からするとその盛り上げがセガに見えていなかったからだと思ったが……)。

そうして『Magical Stone』の開発は進められた。座して2018年を待つことなどとてもできなかっただろう。

『ぷよぷよ』シーンは盛り上がるか

そしていま、時代は変わってプロが何人も誕生し、数十万円の賞金が用意された公式大会が開催されるようになった。これはガチ勢が騒動を経ても火を絶やさなかったからだ。

では、ここからどうやってシーンを盛り上げていけばいいのか。何と言っても30代40代には1990年代の盛り上がりを知る人が多いので、そこにプロシーンの認知を広げていくべきだろう。大会の観戦者が増えれば新規プレイヤーも増える(先日の大会は2000~3000人ほどが視聴していた)。

しかし、その前にesports周りの情報が少なすぎるのをなんとかしてほしい。そもそも『ぷよぷよ』とは言っても実際のタイトルは『ぷよぷよテトリスS』だったり『ぷよぷよクロニクル』だったり、新規プレイヤーからするとどれを買えばいいのかが分からない(ぷよぷよキャンプにも情報がない)。

とにかく「esportsに関してはここを見れば何でも分かる」という場所を作らないとどうしようもない。ツイートでぷよぷよキャンプのトップページのURLを張るのもやめてほしい、その飛び先にほしい情報はない。

liveTemaを始め、積極的な情報発信と布教活動に取り組んでいる選手はいるので、この記事を読んでくれた人はぜひフォローしよう。

課題や問題はほかにもいろいろあるので書き尽くせないが、プロ選手がシーンを動かし人を動かしていけばセガも本気にならざるをえないはず(そして長期的には儲かる)。

ぷよぷよチャンピオンシップ6月大会では高校生のmetaとマッキーが1位と2位になったし、かと思えば8月大会ではベテランのKamestryが優勝した。くまちょむもまったく衰えておらず、Temaとめいせつという女性プレイヤーもいる。あ、もこう先生もいる!

選手は間違いなく粒揃いだ。メディアには選手をもっと取り上げてもらいたいし、公式以外の大規模大会でも採用されてほしい。また、ほとんどの選手がチームに所属したりスポンサーがついたりしているわけではないので、認知度を高めるためにそこから取り組んでいってもいいと思う。いろんな"外部"を巻き込んでいきたいところだ。

セガにはどうか、esportsブームに乗っかってシーンを盛り上げていってもらいたい。何度でも繰り返すが、高額賞金の大会を開催する"だけ"ではシーンは育たない。『ぷよぷよ!!クエスト』からユーザーを誘導してもいいのでは?

liveが言うように、『ぷよぷよ』のesportsシーンは端緒についたばかりで折り返しすら組めていない。ここから土台を積み上げていかなければならないのだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もしよかったらスキやフォローをよろしくお願いします。