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人は自分の優秀さを見せびらかしたくてモノを買っている

人間誰しも、他人にどう見られたいかを意識して生きています。あるいは意識していなくても、あるべき自分、ありたい自分をにおわせて生きています。

それは恥ずかしいことでも何でもなく、ごく自然で生物学的な現象です。他人のかっこつけを指差して笑う人もいますが、実は指差して笑うこと自体も「自分はわざとらしくかっこつけない謙虚な人間である」というイメージを見せびらかしているにすぎません。

慈善団体に寄付したり、Facebookに空港の写真を上げたり、高級ブランドの商品を買ったりするのも、すべて他人に認識してもらいたい自分像を見せびらかすためです。個人だけでなく、企業のブランディングも見せびらかしの1種。見せびらかしは、周りの人に「あの人はこういう人(だから好感を持てる)」「あのブランドはこういうブランド(だから買いたくなる)」と思ってもらうために必須の処世術です。

さて、皆さんはどんな自分を見せびらかしているでしょうか。どんな自分を見せびらかしたいと思っているでしょうか。

見せびらかすためには、自分自身のことを正しく知り、何を見せびらかしたいのかを把握して適切に演出することが不可欠です。そこで重要なことは、見せびらかしは自分が持つ資質(性格)を強調する行為だということ。地位や権力、富や名声ではありません。

では、僕たちが見せびらかしたがっている資質とは何なのでしょうか。今回はジェフリー・ミラーの『消費資本主義!: 見せびらかしの進化心理学』をレビューしながら、本書から皆さんがどういう資質を持っているのか、言いかえるとどういう性格なのかを診断する方法、そしてその資質をより効率よく見せびらかす方法を紹介します。

見せびらかし消費とは

本書は進化心理学者のジェフリー・ミラーが、現代の過剰な消費の理由について分析した意欲的な本です。過剰な消費とは例えば、機能はまったく同じでも1000円のバッグよりも10万円のブランドのバッグを買ってしまうこと。あるいは、Instagramに投稿するために旅行することなどが挙げられます。

これまでの経済学では、こうしたブランドへの消費や慈善活動への消費がなぜ行なわれるのかという答えとして、金持ちが富を見せびらかすため、と説明してきました。当事者は必ずしもそれに意識的ではないかもしれませんが、非常に合理的な説明に思えます。ミラーはこれに異を唱え、富の見せびらかしは表面的で、ゴクラクチョウのオスが長い尾羽を持っているのと同じ現象だと指摘したのです。

ゴクラクチョウの尾羽は見てもらえば分かるように、飛翔には邪魔ですし、成長させるために余計なエネルギーも必要です。要は、長ければ長いほど生存が難しくなります。さらに、ゴクラクチョウのオスは天敵に対して無防備になる求愛のダンスも行ないます。ですが、尾羽が長いほど、ダンスが複雑なほどメスと交尾しやすくなるという利点があります。メスはオスの長い尾羽や激しいダンスが大好きなのです。

だから、オスはできるだけ長い尾羽を持ち、魅力的なダンスを踊ろうとします。それによって、自身に余分なエネルギーを摂取できる能力があること、強靭な肉体や健康があることをアピールしているわけです。メスにとって、丈夫で魅力的な子供を残すにはこうした遺伝子を持つオスと交尾したほうがいい、ということになります。

ここには主に性選択とシグナリング理論という進化生物学の理論がありますが、ともかく、一見すると非合理な特徴や行動はその背景に繁殖へのメリットがあるというのを覚えておいてください(つまり、遺伝子へのメリットがあるということ)。

進化心理学では、この理屈を人間の心理にも当てはめます。過剰な消費も、それをすることで何かしら遺伝子へのメリットがあるということです。もしくは、かつては見せびらかしをすることに遺伝子へのメリットがあったと言ってもいいでしょう。

そこで、ミラーは人が過剰な消費で何を見せびらかしているのかを説明します。富ではありません。貴重な富(お金と時間)を使ってでも、自分が何かしらのよい資質を持っていることを見せびらかしているのです(本書ではこれに肯定的な実験が示されます)。これを、ミラーは「見せびらかし消費」と言っています。現代の消費はその大半が見せびらかし消費なのです。

※本書ではこのロジックの説明と実験の紹介で200ページくらい費やしています。

金持ちが寄付する本当の狙い

金持ちが慈善団体や環境団体に寄付する行為について考えてみましょう。一般的には、婉曲的な富の見せびらかしだと受け止められます。ですが、それなら回りくどいことをせず、最初からお金を見せつけたり配ったりすればいいのではないでしょうか。そうすれば、他人に施しを与えられるほどお金に余裕があることを見せびらかせます。

ところが、金持ちはそんなことをしません。例えば、100億円を配ることで富を持っていることは認知されても、現代ではそれが醜悪さや傲慢さに解釈されてしまうのです。すると、評判が落ちて商売も落ち込んでしまいかねません。それは避けたいでしょう。

だから、金持ちは富を見せびらかすのではなく、富をもってほかの何かを見せびらかして評判を得たいわけです。他者への思いやりがあることでしょうか。それとも、地球環境を心配する繊細な心を持っていることでしょうか。金持ちはわざわざ「いいことをしている団体」に寄付することで、「人間的にいい人」に見られたいのです。

何を見せびらかしているのか

では改めて、人が見せびらかしている資質について見ていきましょう。ミラーは6つの要素――中核六項目を並べます。

一般知性(General intelligence)
開放性(Openness)
堅実性(Conscientiousness)
同調性(Agreeableness)
安定性(Stability)
外向性(Extraversion)

すべて合わせてGOCASEです。一番上を除く5つはビッグファイブ(5因子モデル)とも呼ばれ、これだけで人間の性格を的確に表せるそうです。それぞれを簡単に解説しましょう。

一般知性
一般知性はその名のとおり、生きていくうえでさまざまな状況に対応するための能力を指します。問題を解いたり、物事を記憶したり、ジョークを言ったり、他人の気持ちを慮ったりなど、あらゆる文化で持て囃される要素です。一般知性が高いほどさまざまな領域での成功度が高くなり、性的な魅力も高く評価されます。

開放性
開放性は好奇心、新しいもの探し、寛容さ、文化や美への関心といったパラメーターを指します。開放性が高いと、複雑さや新規性を追求し、変化を受け入れやすく、既成概念よりも壮大な新しいビジョンを好む傾向があります。逆に開放性が低いと、単純さや予測しやすさをよしとし、権威主義的で、伝統を尊重する傾向があります。

堅実性
堅実性は自己管理、意志力、信頼性、一貫性、頼りがいといったパラメーターを指します。堅実性が高いと、計画を立てるのが好きで、長期的な目標を追求し、約束を守り、初志貫徹し、衝動や悪癖に抗う傾向があります。逆に堅実性が低いと、思いつきや気まぐれを好み、臨機応変で、完璧よりも間に合わせをよしとし、欲求や野心の水準が低く、習慣やルールを軽んじる傾向があります。

同調性
同調性は共感や感情移入、信用、従順さ、慈愛、おとなしさなどのパラメーターを指します。同調性が高いと、他人との調和を求め、衝突よりも自分を押さえることを好み、恩に報いる傾向があります。逆に同調性が低いと、自分だけの利益を求め、要望を押し通し、他人を利用しようとする傾向があります。

安定性
安定性は特に情動の安定性を言い、適応性、感情の抑制、成熟度、ストレス耐性といったパラメーターを指します。安定性が高いと、いつも楽観的で、立ち直りが早く、穏やかでゆとりがある傾向があります。逆に安定性が低いと、何かと不安を抱え、心配性で、自意識が強く、悲観的で、立ち直りが遅く、怒りやすかったり泣きやすかったりする傾向があります。

外向性
外向性は人懐こさや社交性、話しやすさ、お喋りのユーモア、コミュニケーションへの自信といったパラメーターを指します。外向性が高いと、他人と交流したがり、誰かと一緒に働くことを求め、指導力を発揮したり、活発に動いたりすることを好む傾向があります。逆に外向性が低いと、他人を避けたがり、社会的地位を求めず、受け身で、1人で働き、指導的な立場になりたがらない傾向があります。

以上、中核六項目をざっと紹介しました。各要素の高低のバランスがその人固有の性格となって表れます。一般的に、人は自分と同じ性格特徴を持つ人を好むそうです。

高ければ高いほどいい項目もありますが、場合によっては低いほうが評価される項目もあります。高いからいい、低いからダメ、ということではなく、すべての要素が複雑に絡み合って皆さん自身の性格ができ上がっていると受け止めるのがいいでしょう。

自分の性格特徴を調べよう

ということで、性格を表現するための言葉を手に入れました。次にいよいよ、皆さんの性格を診断してみましょう。ミラーはベアトリス・ラムスタインとオリバー・ジョンが提案したBF1-10という質問表を紹介しています。これに答えるだけで、ある程度自分の性格特徴が分かるのです。やってみましょう(一般知性だけは別にテストが必要です)。

以下の質問に対し、どれくらい自分の性格を表しているか、1から5の点数をつけてください(誰も見ないので素直に!)。いい感じの質問フォームが見つからなかったので、紙とペンかスマホのメモ帳を使ってください。

【回答】
1=強く反対する
2=少し反対する
3=どちらでもない
4=少し賛成する
5=強く賛成する

【質問】
1.能動的な想像力を持ち合わせている。
2.芸術への関心はほとんどもちあわせていない。
3.ていねいな仕事をする。
4.なまけがちだ。
5.一般的に信頼できる。
6.他人の欠点を探しがちだ。
7.ゆったりしていて、ストレスにうまく対処できる。
8.すぐにくよくよする。
9.外に出かけるのが好きで、社交的だ。
10.遠慮がちだ。

点数をつけたら集計しましょう。下記のペアごとに、奇数番号の点数から偶数番号の点数を引き算してください。出てきたスコアが、皆さんの性格特徴の度合いです。

開放性 1.から2.を引く
堅実性 3.から4.を引く
同調性 5.から6.を引く
安定性 7.から8を引く.
外向性 9.から10.引く

スコアは-4(とても低い)から+4(とても高い)まであり、0が平均です。スコアにもとづいて、上述したGOCASEの説明文に当てはめてみてください。性格の詳細な解説はこの記事の目的ではないので省きますが、おおよそ自分の傾向は掴めるでしょう。

よくある性格診断や職業診断はこの簡単な質問に沿って分析されています。16Personalitiesという性格タイプ診断が流行りましたが、これも同様にビッグファイブのスコアバランスによって性格タイプを振り分けています。皆さんはもう質問を見ると「これは開放性の質問だな」とお分かりになるでしょう。

ちなみに、僕のスコアは以下のとおりです(初めて本書を読んだときにメモしたもので、この回答自体は他人の目を気にしていません。こういう回答を誰かに見せるときも「他者を意識した自分」という見せびらかしの可能性が入り込んでしまうので、心理学の実験はデザインが難しいんですね)。

開放性 +4
堅実性 +4
同調性 0
安定性 +4
外向性 -2

現実の自分、理想の自分

さて、これで皆さんの性格がだいたい分かりました。少し普段の消費行動やSNSの投稿を振り返り、それが自分のどんな資質を見せびらかしていることになるか考えてみてください。「他人にこうだと思われたい自分」を見せびらかせているでしょうか。現実の自分なんて横に置いて、理想の自分を見せびらかしてください。僕はいまSnobbistの駱駝革の財布を使っていますが、これも駱駝革という風変わりなアイテムを持つことで自分の開放性を見せびらかしているのです(いや、質はすごくいいんですよ。それに、自分がこれを使っているという楽しみもあります)。

見せびらかしは資質の強調であり誇張です。人間の社会は言語と仕草で構築されているので、実体が伴っていなくても資質を偽って見せびらかすのが特に簡単です(チンパンジーの社会ならアルファオスになるのに腕力という実体がなければ無理ですし、人間の社会でもバレたら信用が地に落ちます)。錯覚資産という言葉を広めたふろむださんの『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』も話題になりましたが、これはまさに見せびらかしについての本です。

また、企業が必死になって育てているブランドとはその商品を購入すること、所有することで自分が持つ何らかの資質を見せびらかすことができるという特性のことです。その特性に僕たちは高いお金を払うわけです。ブランディングとはその意識づけにほかなりません。

ですから、個人がセルフブランディングをするなら自分の性格を把握し、アピールしたい人たちに対してふさわしい資質を見せびらかす商品を買い、SNSではその資質に気づいてもらえるような投稿をする必要があります。

見せびらかさない謙虚さを見せびらかす僕たち

『消費資本主義!』の原著は2009年の刊行で、いまよりSNSが盛んではなかった時代です。おそらくミラーもこんなにSNSが普及し、人々が日常的に世界に向けて見せびらかしを行なうようになるとは考えていなかったかもしれません。僕たちはもはや、他人にどう見られるかを意識しないでSNSを利用することはできません。おそらく、ほぼすべての投稿が見せびらかしと言ってもいいくらいでしょう。

「いや、自分は違う、他人の目は気にせず投稿をしている」という人もいると思います。ですが、ミラーからすればそれは「他人の目を気にしない豪胆な自分」という安定性の高さを見せびらかしているにすぎないのです。でも、「他人の目を気にすること」はマイナスに評価されがちなので、豪胆さで好感を得られるのも事実です。

日本のSNSでは自然さやあからさまに自慢しないこと、つまり見せびらかさない謙虚さが最大の美徳とされています。残念なことに、僕たちは見せびらかしを行なう人を見下しながら、自分が見せびらかさない人間であることを見せびらかしているのです。そのことを忘れてはいけません。真に見せびらかさない人ならSNSなんて使いません。

翻って、「見せびらかしてないよ」とメッセージングしながらしたたかに自分を見せびらかせる人がSNS強者となるわけです。意識しているか無意識なのか、それは関係ありません。見せびらかすことは遺伝子にとって非常な利益になるのですから、人間は勝手にそうしてしまうのです。

本書の主眼は過剰な消費をやめさせること

なお、ミラーはマーケターが中核六項目をまったく考慮できていない点を嘆きながら、本書の後半では過剰な消費を押し留める方法論が丁寧に述べられています。見せびらかしをやめろと言っているわけではなく、見せびらかしのために過剰に消費するのをやめろと言っています。なぜなら、見せびらかしのための消費は無駄が多く効果が薄いからです。

ミラーが提案するより効果的な見せびらかしの方法論とは、ものを創意工夫して使うこと、壊れたら修理すること。本当にそれが必要か、深呼吸してから検討すること。あるいはSNSの活用もそうかもしれません。その点から見れば、現代では実は過剰な消費による見せびらかしが抑制されてきていると言えるでしょう(特に日本では……まあ、みんなお金がないだけですが)。

実感としても、若年層を中心に僕たちが好印象を持つ対象は変わってきているはずです。僕たちは伝統的で高価なブランドよりも、コスパがよくて新奇性にあふれた面白いものが好きです。シェアエコノミーが称揚されていますし、断捨離やミニマリズム、シンプルライフも人気を博しています。

いずれにせよ、いま世間で好まれているのはどんな価値観か、「他人にこう思われない自分のイメージ」に合致する商品や言動は何かを考えるのが、見せびらかしを行なううえで大事な観点です。いまやそのための最強のツール、SNSは各種揃っています。

SNSの投稿なんてすべてポジショントークなのですから、どんどん(ひっそり)見せびらかしていきましょう。

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