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esportsに直接関係ないBtoB企業のための参入案内

右も左もesportsのいま、いろんな企業が参入を目論んでいるのは周知のとおり。

自社の事業がゲームやesports、そのユーザーと親和性があるなら参入しやすいが、そうでないならどのように参入すればいいのか、なかなか難しいものがある。

いや、難しいなら参入しなければいいのでは?

そういう当たり前の判断ができるなら苦労はない。なぜなら、経営層が有する感度の高いアンテナにキャッチされた「トレンド」に合わせて事業を設計しなければならない担当者は大勢いるからだ(最近ではビッグデータ、VR、AI、VTuberなどなど)。

特に、esports市場の主要顧客であるエンドユーザーとの関わりが少ないBtoB企業でそのような事態が起こったら悲惨の一言。そこで今回は、自社がesportsと何の親和性もないのに「esportsしなければならなくなった」担当者に向けて、いったい何が可能なのかを紹介したい。

esports自体の理解を深めるのは当然として、その先、企業としてどう取り組みうるかの参考になれば幸いである。

※弊誌「esportsは儲からないのか? 事業モデルから考える」や、但木一真「Eスポーツ産業におけるビジネスモデル(興行企業編)」もどうぞ。

esports市場の顧客

まず、esports市場に存在する主要な顧客層をまとめる。

●ゲームプレイヤー、観戦者
●ゲーミングチーム
●ゲーム会社、オーガナイザー
●プロダクション、エージェンシー
●プラットフォーマー

esports市場を最下部で支えているのはエンドユーザー、つまりゲームプレイヤーと観戦者(ファン)である。彼らが支出するお金が市場を駆け回り、ゲーム会社や大会の制作をするようなプロダクション、大会番組を配信したり何らかのサービスを提供したりするプラットフォーマーなどへと行き渡っていく。

選手や大会に協賛するスポンサー企業は大半がBtoC企業、またはBtoBtoC企業だが、これはエンドユーザーに直接的にアプローチすることで利益を生み出せるか、もしくは彼らと繋がっておくことで事業展開しやすくなるからだ。

Intelはコンピューターユーザーに直接商品を販売するわけではない。しかし、ユーザーが増えればPCが売れて自社の利益も増えるため、esports大会に協賛するようになった(ESLに今後3年間で100億円を投じることも話題に)。

また、GMOペパボがゲーミングチームの支援事業を開始した。自社サービスを無償提供するとのことだが、当面はリストを作って今後マネタイズしていくのだと考えられる。これはBtoB企業が参入する形の1つだ。

このように、esports市場に参入するのであれば、自社の事業が上記の顧客層と親和性の高いことが望まれる。

しかし、たとえ事業自体の親和性が低くても、BtoC企業であればエンドユーザーという若年層にアプローチするという目的で、大会やチームに協賛するのは理に適っている。たしかに親和性は高いほうがいいが、自社商品をベースにしたゲーミングブランドを立ち上げるなどすればどんな企業でもesports市場に参入しうる。

問題は自社の事業がesportsと全然関係なく、しかもエンドユーザーとコミュニケーションすることが利益に繋がりにくいBtoB企業の場合である。

参入の方向性

そこで、今度は企業がesports市場に参入するときの方向性をまとめる。

●事業として
●PRとして
●レクリエーションとして

事業として参入する
これはオーソドックスな参入方法だ。最も顕著な例はCyberZで、同社はもともとツールベンダーだったが、動画プラットフォームのOPENREC.tvの立ち上げたあと、そのコンテンツを拡充する意図でesports事業として大会ブランドのRAGEを開始した。

ビットキャッシュは決済サービスを提供していて、もともとゲーム課金での利用を推奨していた。その親和性を前提にesportsという新しい分野に目をつけ、eスポーツコネクトを設立してCYCLOPS athlete gamingというプロチームの運営を開始、SHIBUYA GAMEというesportsメディアも運営している。

それと、デジタルハーツ三笠製作所などがプレイヤーを雇ったり社内から募ったりしてゲーミングチームを立ち上げたように、企業が実業団形式のチームオーナーになる場合もある。今後、こうした事例は増えていくかもしれない。

いずれも、もともとの事業がesportsとそこまで関係ない企業が参入した例である。もちろん、親和性が高い事業を行なっている企業の参入例もある。

その1つとしてLogicoolが挙げられる。LogicoolはマウスやキーボードなどPC周りのデバイスを開発・販売している。ゆえに、ゲーマー向けに特化したブランドはesportsのエンドユーザーと相性がよく、家電量販店でゲーミングブランドのLogicool G製品を販売している。また、ゲーミングチームや大会にも協賛している。

esports市場に事業として参入する場合、自社の既存事業のターゲットを拡大する、新しくesports市場の顧客向けに商品を開発する、ゲーミングチームを立ち上げて収益化する、といった方法がありうる。

PRとして参入する
これも分かりやすい参入方法だ。日清食品やTOYOTAのような企業がチームや大会に協賛するのは、ゲームプレイヤーや観戦者に自社商品を宣伝したり、ブランド認知を高めたりするためである。いわゆるスポンサードはすべてこの項目に入る(「これからesportsシーンに参入したい企業に知ってほしいこと(スポンサード編)」参照)。

また、最近はesportsタイトルを用いた企業対抗戦が盛んに開催されているが、こうした機会は企業のPRの場だと捉えることができる。具体例としては企業対抗格ゲートーナメントやアキバトーナメントなどがある。

もしくは、まだ実施している企業はないようだが、コミュニティマーケティングの一環としてesportsを活用することも考えられる。参加者や参加者同士のコミュニケーション手段として一緒にゲームをするのは効果があるだろう。

esports市場にPRとして参入する場合、エンドユーザーとの親和性が最も重要な要素となる。その一方で、esports関連企業に何かしらのツールやサービスを知ってもらうために参入するのもいいかもしれない。

※と言いつつ、エンドユーザーとの親和性は必ずしも欠かせないわけではない。例えば、自動車部品メーカーのジェイテクトがCrazy Raccoonにスポンサードしている例がある。

レクリエーションとして参入する
これを「参入」と呼んでいいのかは分からないが、レクリエーションとしての参入とは社内コミュニケーションの活発化や福利厚生の一端としてesportsを利用することを指している。

SIerの日立システムズが社内で部員を募り、eスポーツ部を作ったのをご存知だろうか。これは先に紹介した実業団やゲーミングチームの所有とはやや異なり、働き方改革の一環として設立したという。

また、フォーエムも同様に社内活動としてesportsを活用しており、デジタルハーツも過去に社内大会を開催したことがある。

ネットカフェなど多様なエンタメ事業を展開するシティコミュニケーションズでは、社内の忘年会でesports大会を開催した。プレスリリースを出すほどのことかと思いはするものの、「今後eスポーツイベントについて本格的な取り組みを予定」しているそうで、その先駆けとしてPRを意識していたのだろう。

esports(市場)にレクリエーションとして参入する場合、あまり制約や条件は存在しない。若年層の飲み会離れが進んでいるようだが、新しい社内文化の醸成や採用活動でのアピールなど(ゲームに理解があるよ!)、esportsを活用できる場面はいろいろとあるかもしれない。

BtoB企業の参入方法

ここまでで明らかなように、すでにいくつかのBtoB企業が何らかの形でesports市場に参入している。しかし、これもまた明らかなように、別にBtoBやBtoC、はたまたBtoBtoCといった区分はesports市場への参入において大きな違い、ないし障壁とはならない。

要は、会社としてどういった目的でどれくらいコミット(投資)するかという話で、事業として収益を上げることが目的ならそのための方法があるし、PRやレクリエーションとして活用するならそれにも方法があるということだ。

ただ、繰り返すように、顧客層の見極めは大事である。esportsが盛り上がっているからと突然チームにスポンサードしても、自社の事業とエンドユーザーの親和性が低いなら効果は出ないだろう。チームを設立したり買収したりしても、すぐに利益が出るわけでもない(「esportsは儲からないのか? 事業モデルから考える」参照)。

ましてや、いきなりプロダクションやエージェンシーのような立場で仕事を受注しようとしても、現状すでにそこはレッドオーシャンになりつつあり、参入するにはかなり上手な方法を考えないといけない(GMOペパボのような)。

esportsを通して何をしなければならないのか、参入するにはそこを考える必要がある。そもそもesports市場はまだ黎明期なので、数年かけた投資を検討できないのであればほかの手段を考慮したほうがいいかもしれない。

目的ベースを浸透させる

結局のところ、「esports市場に参入したいけれど、どうしたらいいか分からない」という状況自体が不健全としか言いようがない。すなわち、手段ベースで話が進んでしまっているからだ。手段を目的と取り違えればどうなるかは僕が改めて言うことでもない。

日立システムズのeスポーツ部設立に関するインタビュー記事を読んで「やばい」と思った人の直感は正しい。鶴の一声である「ITサービス企業なんだから、eスポーツをやらないわけにはいかないでしょう」が最も大きな理由だったそうだが、これぞという感じがして味わい深い。「働き方改革」「世代や組織を超えた交流の活性化」という目的が後付で見つかったのは幸いであった。

当然、まずesportsがどんなものかを知るのは優先すべきだ。でも、そのあとはesportsが自社の目的に合っているかどうか判断できる。「盛り上がってるから参入したい」というのは本末転倒であり……いや、もうやめておこう。

esports市場の面白いところは、全然関係ない事業を営んでいる企業でも参入する余地があるところだ。ゲームを手段として活用し、事業を展開する。かつてないその面白さに魅了される人が多いのはいいことなので、BtoB企業だからと遠慮せず、ぜひ(目的ベースで)esports市場に参入してもらいたいと思う。

※ちなみに、RAGEのCyberZしかり、e-sports SQUAREのSANKO、WCGの日本代表戦を開催していたテクノブラッド、CyACを展開するニチカレなど、esports市場の黎明期を切り開いてきたのはBtoB企業ばかりだ。これは、メイン事業がしっかりしているからこそ新規事業としてのesportsに余裕をもって投資ができたことに起因すると思われる。

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