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eスポーツ大会を自分の言葉で評価できるようになったら、シーンをもっと楽しめる

いろいろ大型の大会がひととおり終わった感じで、ちょっと皆さんの箸休めがてら大会の話を書きたいと思います(と言いつつクラロワリーグは続いているし、全国高校eスポーツ選手権は予選が始まっていて、さらに全国都道府県対抗eスポーツ選手権やRAGEが迫っているので大会追っかけ屋は休まりませんね。そのほかにも諸々……)。

今回のテーマは、eスポーツ大会をどのように評価して語ればいいのか、という検討と考察です。後半ではテレ東と電通が主催した高校生大会のSTAGE:0と、『LoL』のプロリーグであるLJL 2019 Summer Split Finalsの僕なりの評価もしています。

※ここで言う「評価」は「物の善悪・美醜などを考え、価値を定めること」であり、ポジティブの意味合いはありません。

「大会にがっかりした」ってどういう意味?

最初に具体的な話をしましょう。STAGE:0とLJLを選んだのは、大会として何らか共通点があるわけではなく、たんに僕が最近がっかりした大会だからです。一般的な評価としては盛り上がった大会に「がっかり」なんて言うと斜に構えた感じがするし、聞いた人はいい気持ちにはならないでしょう。

さて、ここで問題ですが、僕は大会のどこにがっかりしたと思いますか? そのとおり、選手や試合に対してではありません。大会の運営にでもありません。いずれの大会も、これらはすばらしかったと思います。僕ががっかりしたのは、ひとえに大会の演出にです。期待が大きかった分、反動が大きかったんですね。

大会が終わると、その大会に対してさまざまな意見や評価が飛び交います。あのプレイがすごかった、実況解説が盛り上げてくれた、運営のトラブル対処がいまいちだった、スポンサーありがとう、などなど。

評価の対象は、一言で表せば「大会」ですが、具体的に見るとけっこう違っています。それらの対象を一緒くたに評価することはできません。当たり前ですが、あのプレイはすごかったけど実況はいまいちだった、という評価も成り立ちます。

ここに今回僕が提示したい問題があります。5点から-5点で点数をつけたとき、もし試合が5点で運営が-4点だとして(並が0点)、前者だけ見て「すごくいい大会だった」と総合して評価することは妥当でしょうか。あるいは逆に、後者だけ見て「全然ダメな大会」と総合して評価することは妥当でしょうか。

こうして問われれば、答えは明白です。しかし、実際には多くの人が妥当であるかのような態度を取っていることが多いように感じます。内心は違っても、表向きはそのようにしか見えないから全体としてそういう空気感になってしまうこともあるかもしれませんが、その人が何に対してその評価を下しているのかをきちんと考慮しないといけません。「いい大会だったけど、この点ではよくなかったよね」「変な大会だったけど、ここはよかったね」と思っている人も少なくないはずです。

だから、僕が「大会にがっかりした」と言うとき、それは試合がクソだったとか、選手の言動が稚拙だったとか、そういうことを言ってるかもしれませんし、あるいは大会の運営や演出がよくなかったと言っているかもしれません。僕ががっかりするのは、多くの場合には大会の運営や演出に対してですが。

大会を4つの対象に分けて評価する

僕としては大会を評価する言葉をもっと養いたいと思いますし、差し出がましいですが皆さんにもそうなってもらえると嬉しいなと思っています。試合内容がよかったからほかのすべてに目を瞑って「いい大会だった」と言うのは、あるいは運営がクソだったからほかのすべてを無視して「最悪の大会だった」と言うのは、正直あまりにも怠惰で反知性的です。

僕はよくTwitterで大会の演出について不満をぶちまけるので、それだけを見た人に「いい大会だったのに水を差すな」と言われます。いつも心のなかで「うるせーボケ!」と優しい呪詛を唱えますが、よかった点は大会の最中にツイートしていることが多いです(また例えば、僕は足を運んだ大会ではスポンサーのロゴや商品をツイートするようにしています。そういう行為は僕のTLですらほとんど見かけませんし、ましてやクソリプをしてくる輩に至っては言うまでもなく)。

これに30いいねがつく優しいeスポーツの世界

皆さんにもぜひ意識してもらいたいですが、大会について評価するときは対象を「大会」とひとくくりにせず、何に対しての評価なのかを明確にしたほうがいいということです。そのためのツールとして、僕がよく使っている4つの評価対象を紹介しましょう。それは運営、演出、試合、選手です。

(1)運営

最初に、大会の「運営」という対象があります。

より細かく見ると、コンセプトや哲学の設計、大会・ルール設計、告知や情報発信、問い合わせ対応、サイトの構築、スケジューリング、制作物の準備、会場選び、当日の進行、会場の設営、電源やネットワークの敷設、生放送の手際、スタッフの接客、観客の誘導、選手のサポート、MCの段取り、スポンサーの取り組みなどがあります。

大会を支える根幹の部分、特にテクニカルな部分が中心です。ここは本当に、主催会社や運営会社の手腕が問われます。トラブルが起きないようにすることがメインなので、トラブルが起きたとき以外はあまり観客からの評価の目が及ぶことはありませんが、大会を成立させるうえで最も重要です。

大きなトラブルがなく大会が進行したときや、トラブルが起きても復旧できたときにはその点をきちんと評価することが必要です。

(2)演出

次に、大会を盛り上げるための「演出」という対象があります。僕が一番関心のある対象ですね。

具体的には、告知やプロモーションの手法、サイトの見栄えや見やすさ、本番大会に繋がるストーリー構築、選手情報の掘り下げと提示、映像や美術セットなど制作物のクオリティ、会場での制作物の魅せ方、配信の画面構成、大会やゲームの世界観の醸し出し、オープニングや選手入場や表彰式のかっこよさ、カメラワーク、観客へのプレゼントの渡し方、コスプレやファンアートなどの一体感作り、応援方法の工夫、スポンサーの引き立てなどが挙げられます。

演出は観客をその大会に引き込み、没頭させるとても重要な機能です。これに力が入っていないと、観客の満足度は大きく下がってしまいます。しかし、こと国内では疎かになる(というかあまり意識されていない部分も多い)傾向にあり、その最たる例が表彰式です。

僕は特に表彰式警察なのでいろんな大会の表彰式を評価していますが、Tower of Prideを超えるような満足できる表彰式にはなかなか出会えません。主催・運営会社におかれましては、「これまでそうやってきた」という惰性ではなく海外大会などを参考にしながら美意識全開の表彰式を試みていただければと思います。

(3)試合

そして、選手とキャスター、さらにゲーム内カメラと画面構成の4重奏が織り成す「試合」という対象があります。

この具体例は想像しやすいと思いますが、個々のプレイやチームワークだけでなく、試合の準備や戦略の策定のほか、キャスターの的確な実況解説や決定的なシーンを逃さないカメラワーク、必要な情報の提示などがあります。

試合と選手は最も評価されやすく、かつ大会の主役なので好印象の残る対象です。そのため、これらの項目が高評価であることで運営や演出の評価が無視されてしまうこともしばしば。僕は主催・運営会社の至らなさが試合内容の面白さに助けられて「いい大会だった」と言われる事例を数多く見てきました。主催・運営会社は選手をサポートしていい試合ができる状況を作る立場ですから、そういう評価は幸いでありながらも非常に恥ずかしいことですね。

またもちろん、選手がまずいプレイをしたら咎められるべきですし、その原因も指摘しなければなりません。日本のeスポーツシーンでは、いまはまだプロ野球やJリーグのような大会後の試合の評価が盛んではないように思います。ここがアナリストやトッププレイヤーによって充実していけば、シーンはより活性化していくのではないでしょうか(クラロワリーグの試合のあと、プロ選手が自分たちのプレイ内容を振り返る動画を公開しているのはたいへんに意義あることです)。

(4)選手

最後の評価対象は、大会の中心にいる「選手」です。チームやコーチなども含みます(ただし、マネージャーやオーナーは「運営」に近いです)。

「試合」とも一部重複しますが、具体的には個々のプレイはもちろんのこと、試合に臨む態度や気合い、ファンに対する心遣い、感情表現の方法、インタビューの受け答えなどがあります。小項目は少ないですが、観客やファンの心に残る最も大事な要素です。

試合中にTiltしたり、適当なプレイをしたり、ファンを無視したり、大会後に相手チームを馬鹿にしたりすれば当然印象はよくありません。選手の第一は試合なのでそれに集中するのが最重要とはいえ、ファンやスタッフと適切にコミュニケーションすればおのずと評判も高まり選手人生が豊かになるでしょう(ファンのみならずスタッフへの横暴な態度もすぐ外に漏れ出します)。

ファンとしてはやはりいいプレイをして勝ってもらうことが一番嬉しいことですが、選手が普段からどれくらい練習に打ち込み、どんな準備をして大会に挑んでいるかを加味して評価するほうがよりシーンを楽しめると思います。

どの評価対象を注視するか

以上、大きく4つに分けて大会の評価対象を検討しました(ほかの大項目があるかもですがひとまず)。すでに書いたように、僕は「演出」に最も関心があり、次に「運営」をよく見ています。「試合」と「選手」は基本的にはネガティブな評価はしませんし、そうした評価になってしまう背景には運営や演出の稚拙さがあると考えています。

企業主催・運営の大会はそれぞれの道のプロフェッショナルたちが手がけているわけですから、僕は特に厳しいことを言うわけです。プロなんだからいい加減で生半可なことをするな、と。そこに「失態を犯したけど頑張ったから甘く評価する」「結果的に至らなかったけれどみんないいものを作ろうとはしている」という視点はありえませんし、そんなのはプロフェッショナルに対して失礼です。もちろん、有志の大会であれば全然違う評価になり、大会をやろうという心意気だけで高評価です。

対象を評価するには相応の知識や技術が必要ですが、皆さんもいつもとは違う視点で大会を観てみるのも面白いのではないでしょうか。

撮影都合の表彰式、STAGE:0

では、お待ちかねの大会感想です。まずはテレ東と電通によるSTAGE:0、高校生のみが出場でき、『Fortnite』『クラロワ』『LoL』が採用されました。会場はなんと舞浜アンフィシアターというお洒落が突き抜けたステージ。eスポーツの大会がディズニーリゾート内で開催されるという歴史的な大会となりましたし、どの試合も白熱しました。運営も手際よく、さすがはテレビが持つノウハウは違うなと思わされました。

しかしながら、これはもうTwitterで散々喚いたんですが、表彰式が最悪でした。僕の中ではいままで観てきた大会の中でもワーストに入る勢いです。『Fortnite』の選手入場(応援団のダンス)はいままでにない感じでたいへんよかったものの、なぜそのセンスが表彰式にも及ばなかったのか、本当に不思議でなりません。

何がダメだったのかと言うと、全体として運動会方式で、特に表彰式がダサかったです。優勝決定後にぞろぞろとゲストやMCがステージに出てきて話し出すわ、2位以下もステージに並ばせるわ……ダサさの見本市でしたので、真似されませんように。eスポーツにおいて表彰式とはどういう役割を持つべきなのか、その目的と哲学をしっかり議論してもらいたいところです。

とりわけ最悪だったのは、『クラロワ』と『LoL』で敗北した直後の選手をステージ上で記念撮影に臨ませ、さらにはMCが「カメラの方を向いてください」「笑顔になりましょう」「ポーズを取りましょう」と指示したことです。そんな記念撮影は大会が終わったあとにやればいいですし、負けた2位のチームが笑顔になんてなれる状況でしょうか? そもそも放送にポーズの指示が乗っているという……選手を見ていて辛くなりました。テレビ的な見栄え重視の撮影都合で成り立っていた表彰式でした。

いったいなぜ観ている側が満足するような形で選手が喜ばなければならないのか? 感情を爆発させて喜んでいるほうが絵にはなりますが、そういうところがテレビが若年層に敬遠される原因なのではと邪推した次第です。

ほかにも、選手よりゲストを目立たせようとするのも引っかかりました。また、『LoL』で選手からのコメントを紹介する際に、MCが無難なコメントよりも挑発的なコメント(赤バフ選手)を「そういうのがほしい」と煽ったことも悪印象です。繰り返すように、選手(特にプロゲーマーではない高校生)は役者や芸人ではないので、多少は挑発的なコメントに反応しつつも無難なコメントを面白くないという点で判断するのは避けるべきでした。

ほかにも演出面では申し立てたいポイントがいくつもありましたが、次回大会で改善されていくことを期待します。

LJLにeスポーツの夢見れず

続いて、LJL 2019 Summer Split Finalsの感想です。何と言いますか、過去にLJLが日本のeスポーツを牽引しているという記事を書きましたが、その夢はもうLJLでは見られないんだなと思わされた大会となってしまいました。

一言で言うと、ザ・突貫工事。たしかに、決勝戦が久しぶりに大きな会場、4000人規模のアリーナ立川立飛で開催されたことは喜ばしいことです。ファンは誰もがそれを望んでいました。実際、4000円前後の有料チケットながら現地はほぼ満員で同接視聴者数も4.3万人と(LJLでは過去最高)、数字だけ見ればLJLが日本に根づいたのだと強烈な印象を残す結果となりました。

でも、いざ会場に足を運んでみると、そこにはゲームの世界観を表現する制作物も、試合を盛り上げ空気を作る催しもありませんでした。会場があり、申し訳程度に物販とキャンペーンのブースがあり(ただ机を置いたのみ)、試合中も多少の光と煙がチラチラするだけ(ドラゴンやバロンを倒したときに細々としたライティングが入るのが無性に寂しかった)。ファンアートは飾られていましたが、『LoL』らしさを醸し出すのはコスプレイヤーのみで彼らがいなかったらどうなっていたのか。あと、スポンサーのロゴも通路に小さくペナントがあるくらい。

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かろうじて入口正面にこのYutapon選手と、Yutorimoyashi選手のパネルが。

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スポンサーロゴの掲出は配信画面と、会場の通路に2つこれが置かれているだけ。

こうした決勝大会ではSTAGE:0の『Fortnite』部門のように選手入場に力が入れられますが、今回はただ全員が並んでステージに歩いてくるという工夫のなさ。相対するレーンの選手が得意なチャンピオンのコスプレイヤーと一緒に入場してきて、といった方法もあったように思いますが……。何もかもが準備不足の突貫工事で、演出に凝るということがまったくできなかったようです。光と煙でなんとかしよう感が明白でした。

その事情については知りませんが、関係者の企画力や想像力がなくてこうなったのでは絶対にないと思います。こんなことになってしまうほどの事情があったのでしょう。だからおそらく、この大会場で開催できたこと自体が奇跡的だったのかもしれません。けれど、LJLはこれまで間違いなくeスポーツの、特にオフライン大会の魅せ方をどこよりも工夫してきましたが、その姿はもはやなく、そこに日本のeスポーツシーンが目指すべき夢はありませんでした。

なお、4ゲーム目でネットワークトラブルが発生し、復旧に1時間近くかかりました。やはり運営面でもぎりぎりで、なんとか意地で復旧させたのではないでしょうか。僕はこれまで書いてきた会場の感じから見て半ば「今日は無理そうだな」と諦めていましたが、テクニカルスタッフの尽力には素直に拍手を贈りました。

会場はもちろん大盛り上がりでした。Gaeng選手のスレッシュが死の宣告(鎌)を当てるだけで地響きが起こるほどで、ファンがどれくらいこうした会場での決勝大会を待ち望んでいたかを感じられました。でも、表彰式はちょっとイケてませんでしたね。

大会やイベントを評価する言葉を養う

eスポーツの大会やイベントが終わったあと、その評価について語る人は少なくありません。しかし、バリエーションはあまり豊かではなく、多くは試合や選手に対する言葉です。運営は(トラブルが起きれば)語られますが、演出について語っている人はほとんどいません。それはたぶん、どのように語ればいいのか難しいからでしょう。なので、評価の言葉を持っていればそれだけで一目置かれることになります(僕は全然まだまだですね)。

そういうときは自分で実際に演出に携わるのが一番ですが、自分だったらどういう演出をするか、どうやって大会をクールにするか、と想像してみるのもいいと思います。技術を勉強するのもいいですね、例えば選手紹介の映像を表立って評価している人もほぼいませんし。ゲーム内カメラについてもそうです(これはオブザーバーの仕事をしている方々が評価しているのをよく見かけます)。

トレンドに乗って付和雷同したり、他人の言葉で自分の意見を代弁させたりするより、自分なりの視点や言葉で大会やイベントを評価し語ることができるようになれば、より一層eスポーツシーンを楽しめるでしょう。それはゲームの深い知識を持っている人が選手のプレイを評価することと同じです。

深みにはまればはまるほどもっとシーンが楽しくなるのは間違いありません。今回取り上げた2大会はわざとネガティブな評価を中心に書きましたが、「いやそんなことない、こんなによかった」と皆さんなりの言葉で語っていただければと思います。

※2019年9月23日追記。9月23日に開催されたGALLERIA GLOBAL CHALLENGEの表彰式が、会場はLFS池袋と広いステージではなかったものの、要所を押さえたお手本のようなパターンだったので紹介しておきます。

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