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ゲームメーカーのポノスが取り組むesportsとゲーマー雇用のほんとのところ【ポノス 板垣護、ガリレオ、トンピ?】

esportsという言葉が踊るとき、周りにいるのはたいていチームや選手、大会運営や団体、スポンサー企業で、パブリッシャーはいても本丸のゲームメーカー(デベロッパー)が登場する機会は存外少ない。

それはesportsと呼ばれるゲームの主流タイトルがほぼすべて外国産であり、日本に支社もないことがほとんどなので仕方ない(その意味で日本支社を持つメーカーの存在意義は大きい)。E3やGamescomで外国メーカーが日本市場に言及することはあっても、なんとなくふわっとした感じになるのもまた致し方ない。

esportsはゲーム会社が動かないとどうしようもない、と何年も前からまことしやかに囁かれてきた。LJLに鑑みれば、それは明らかなように思える。だとすれば、日本のesports人口が増えてお祭り騒ぎになるには、Riot Gamesのような外国メーカーが日本に進出して適切に運営してくれるようになることが望ましい(国内パブリッシャーが役割を果たしてくれるなら、それでも充分だ)。

と同時に、カプコンのような国内メーカーのesports進出には期待が大きい。たしかに、過去には数えきれないほどの血涙が流されてきた。その歴史を踏みしめながら立ち上がったのがCygamesという巨人であり、そこにKONAMIが追随しようとする時代に突入している。

他方、新規にesportsタイトルを開発し始めているメーカーもあると聞く。その1つが『にゃんこ大戦争』を開発・運営しているポノスだ。Social Game Infoでの連載『★スマホe-sports★戦の時間だバカ野郎!』や、動画の毎日更新といった活動のほか、最近ではゲーマー社員の雇用で話題になっている。

ポノスほど全面的にesportsを打ち出している国内メーカーは少ない。しかし、その実態はよく分からない。

ゲーマー社員制度がゲーマーのセカンドキャリアを支援するというビジョンは分かる。でもそれがesportsとどう繋がるのか。いやそもそも、ポノスはどんな形でesportsに進出しようとしているのか。esportsにいったいどんな価値を見出しているのか。

公開されている情報もあるが、ここはぜひ直接訊いてみたい。ということで、ポノスでesports事業を牽引する板垣護さんと、ゲーマー社員として雇用されたガリレオさん、トンピ?さんを取材した。

ポノスとesportsの関係

――最初に訊きたいんですが、ポノスってesportsに関してどんなことをしてるんですか?

板垣:
ポノスではいま、スマホゲームのesportsタイトルを作ってます。最初のタイトルの公開を2018年の春頃に予定してて、その準備をしてる段階ですね。加えて、ゲーマー社員という形でゲーマーに協力してもらいつつ、こちらからもゲーマーを応援できる仕組みを作ろうとしてます。

――会社としてesportsタイトルを作ろうとしたきっかけって何だったんですか?

板垣:
ポノスは本社が京都にあり、『にゃんこ大戦争』がいわば稼ぎ頭です。そこから次に何に投資するかを検討していたとき、僕がesportsはどうかと提案したんですよ。2015年に江戸オフィスを設置したのもあって、そのタイミングでesportsタイトルの開発に取りかかりました。実は江戸オフィスでは、ほとんどのスタッフが新規事業としてesportsタイトルに関わってます

――そうなんですね! そういう投資の仕方ってかなり珍しいんじゃないかと思います。では、板垣さん自身はどういうきっかけでesportsに興味を持ったんでしょうか。

板垣:
ゲームをプレイして賞金を稼ぐというスタイルには昔から興味がありました。でも、それだけで食べていくのは難しいというのも知ってたので、ゲームのうまい人が活躍して、それによってお金も稼げる世界になればいいなと考えてたんです。ただ、自分がゲームを作る側としてプロゲーマーと関わる中で、「なかなか厳しい」という声は聞いてました。

それをなんとかしたかったわけです。いま、ようやく目指す世界の実現に向けて動ける環境ができてきました。

もう1つ国内のesportsに関して、一般には知られてない、プレイヤー人口もそこまで多くないということに問題意識がありました。たしかにesports全体では国内にも相当数のプレイヤーがいるかもしれませんが、個々のタイトルを見ればサッカーや野球とは比ぶべくもありません。

いまや家庭用ゲーム機を買ったことのないような人でもスマートフォンでゲームを遊ぶ時代になりました。ということは、広い意味でプレイヤー人口が増えてるので、esportsもスマートフォンを通して拡大しやすくなるになるんじゃないかと。そこに賭けてみたかったんです。

自分の考えと市場がいい感じでマッチしたのがこの数年で、だからこそこのタイミングで仕掛けたというわけです。

――esportsには以前から興味があったとのことですが、原点は何ですか?

板垣:
ウメハラさんがEVOで優勝したのを見て、世界大会で勝てる日本人がいるんだと衝撃を受けました。その後、ウメハラさん自身はスポンサードを受けてプロゲーマーの道を進んでいくことになりましたが、ほかの多くのゲーマーの待遇、環境は……と先ほどの話に繋がります。

チームに所属するプロゲーマーでも、それだけで食べていけてるわけではないと聞いてます。でも、ゲーマー側も開発側も満足できるようなビジネスモデルがあるはずなんです。いろいろやってみる余地はまだまだありますよね。

ただ、とあるスマホゲーム会社がesportsという単語だけ取ってきてシフトすればうまくいく、ということはないと思います。安易にesportsと言えてしまうからこそ、ちゃんとesportsにするにはどうすべきかを考えないといけません。

なによりプレイヤーやコミュニティが大事で、メーカーはいかに信頼関係を作っていくかが重要です。信頼関係ってちょっとしたことで壊れちゃうじゃないですか。すぐに裏切る会社も多いですし、esports業界にそういう会社ばかり集まると既存のesportsシーンも萎むので、そうならないようにしないとダメですね。

――SGIでの連載『★スマホe-sports★戦の時間だバカ野郎!』や、毎日YouTubeに上げてる動画はどう繋がってくるんですか?

板垣:
とりあえず何かしないとと思って始めたもので、手探りでやってるだけですね(笑)。連載は自分が勉強・体験したことや考えたことをアウトプットする場所で、動画は毎日esportsを考えるためにやってます。いつか何かしらの場やメディアになればいいなとは思ってますが、動画で話した展望が将来的に実現できればいい、というくらいです。

――それを通して得たものってありますか?

板垣:
ありますね。特に賞金大会の仕組み、法律はかなり勉強することになりましたから。あと、ゲームや大会を観戦して言語化することで、いい大会とよくない大会が分かるようになったのも大きいです。

一番印象に残ってるのがフランスで行なわれたESWC SUMMER 2017ですね。むりやり盛り上げようとするんじゃなくて、来場者やプレイヤーが勝手に盛り上がってるんですよ。

ゲームを好きな人が、それこそ家族でやってきて参加してました。そこから勝ち上がった人が特別なステージで戦い、ヒーローが生まれる。その流れがすばらしかったです。

自社タイトルは「観て楽しい」を重視

――ポノスとしては、自社のesportsタイトルを中心に展開していくということですよね。開発ではどういう点を重視してますか?

板垣:
観て楽しいことですね。スマホゲームでも、誰かのプレイを観るのが楽しいものもありますよね。それを突き詰めるとesportsになりうるんです。なので、最初のesporstタイトルも、ゲームを知らなくても観て楽しめることを重視することにしました。

いまの目標としては、esportsがオリンピックで採用されるようになったとき、ポノスのタイトルが競技として選考される可能性がある、そういうゲームを作ってると広く知られてる、そういう立ち位置になりたいですね。

ちなみに、ポノスではesportsじゃないタイトルも作ってて、それを先にリリースする予定です。「esportsじゃないよね」と言われそうで怖いですが(笑)。

(※取材は9月6日に実施。9月22日に『はばたけ!ひよこ大競争』が発表された)

――観て楽しい、がキーなんですね。

板垣:
例えばカードゲームだと初見じゃ理解できなくて、知らない人が観て楽しいものじゃないと思います。解説を聞いても分からないでしょうね。もちろんプレイして初めて、面白さや魅力に気づけるのが醍醐味なんですが。

その点、格ゲーは観て楽しいタイプですよね。ゲームを知らなくても体力ゲージを見てれば、盛り上がりのポイントがなんとなく分かります。

――そのゲームの知識がない人でも楽しめることが重要ですか?

板垣:
そうですね。もう1つ、ゲームやルールを知らなくても楽しめるように、選手の背景や選手同士の関係をもっと詳しく紹介することも必要です。その顕著な例がラグビーです。五郎丸選手が注目される以前はラグビーに興味がなかった人の場合、ルールは知らなくても、五郎丸選手が好きだからと試合を観る人が多かったと思います。

この現象をesportsでも起こせれば、もっと盛り上げられるような気がします。

――ガリレオさんとトンピ?さんは、ゲームを知らない人でも楽しめることについてどう思いますか?

トンピ?:
esportsには必要だと思います。FPSは敵を倒して全滅させたら勝ちとルールは比較的分かりやすいんですが、動きや作戦は知らない人には難しいですね。そのため、自分がやってた『AVA』だと、イベントごとに「ここで盛り上がりましょう」と書いたパンフレットが配られるんです。

親切ではありますが、それがないと分からないというのはやっぱりハードルを上げてしまいますよね。なので、ゲームを知らない人でも観て楽しいことは大事だと思ってます。

日本で展開されてるesportsの中で格ゲーが盛り上がってるのは、プレイしてなくても観戦したら面白いという部分が大きいんじゃないでしょうか。

ガリレオ:
僕はずっと格ゲーをやってきましたが、昔はプレイしてない人は観もしなかったんですよ。ところが、やってなくても観る人が増えてて、ゲームを知らないのに僕のことを知ってる人もいるんです。時代は確かに変わってきてますね。

だからこそ、自分たちの舞台を大きくしていくには、観戦しかしない人を認識して配慮しないといけないと感じてます。観戦の需要が増してきてるわけですから。

――ゲーム画面を観てるだけでは分からない、神業を生み出す手元の操作に注目されずに盛り上がられることはどう思いますか?

ガリレオ:
それは楽しみ方の違いだと思うんです。競技として楽しむ人がいれば、遊びとして楽しむ人もいます。そして観戦だけを楽しむ人もいます。楽しんでもらうことに本質があるので、僕は全然構いません。

トンピ?:
操作のすごさはあとから解説で補足できるので、まずはゲーム画面で起こってることを見てもらえればいいと思いますね。

――なるほど、そういう考え方がポノスのesportsタイトルに活かされるわけですね。板垣さんは作る側としてガリレオさんやトンピ?さんの意見を聞いて、どうですか? 「それはこうでいいんだよ」って思います?

板垣:
純粋にありがたいですね。もちろん、ゲームとしてこだわってる部分、ぶれちゃダメな部分とは折り合いとつけてます。なので、ちゃんとゲームの意図を伝えて、そのうえでレビューしてもらうようにしてます。言われるがままに対応したら結局丸くなってつまんなくなりますから。

ゲームをプレイすることが応援され、自慢できる世界

――ポノス、また板垣さんにとって、理想の状態ってどんなイメージですか?

板垣:
僕らが作ったゲームがあって、そのゲームには賞金や賞品がもらえるシステムがあり、プレイヤーの頑張り次第でそれをもらえる。プレイヤーはそれをもらうために一生懸命ゲームに取り組んでくれる、というのが理想ですね。

それに加えて、ゲームをプレイすることが誰からも応援される世界にしたいです。たとえば旦那さんがプレイヤーで、今度の大会なりランキングなりの賞品が、奥さんが日頃からほしがってる有名ブランドのバッグだとしましょう。そのとき、奥さんが無関心でいたり反対したりするんじゃなく、旦那さんに「頑張って!」と応援する風景が当たり前になればいいですよね。

ガリレオ:
面白いですね。そういう家庭を持ちたい(笑)。

板垣:
ゲームの地位向上ですかね。そういう世界にしていきたいと思ってます。

――家族というのがポイントですか?

板垣:
恋人や友人、会社の同僚や上司でも同じで、普段の人間関係がゲームをプレイすることにいい意味で関わるような状態です。

トンピ?:
奥さんが友達にバッグを見せながら「旦那がゲームで勝ってくれた」と自慢できて、さらにその友達もゲームを始める、といういい循環が巡るようになれば最高ですね。

板垣:
旦那さん自身も勝ったことを自慢できると。いままではゲームで勝っても「いい歳して何やってんの」と言われて、休日に1日中ゲームをしてたら「もったいない」と言われることがほとんどでしたよね。そうじゃない状態にしていくのが今後ゲーム業界には必要だと感じてて、だからその考え方を覆せるゲームを作りたかったんです。

――それってesportsじゃないとできないことですか?

板垣:
esportsのほうがやりやすいと思います。みんなでゲームを観たりプレイヤーを応援することも楽しい、というのがesportsに繋がるので。

ゲームに興味がなかったりよくないイメージを持ってたりする層――いわゆる一般層とゲーマー層のギャップをesportsが埋めるというイメージですね。

昔、『ワイルドアームズ』を何十時間もプレイしてたんですが、母がプレステを踏んじゃって、セーブデータが消えたことがあるんです。当然僕は怒るじゃないですか。でも、母は「なんでそんなことで怒ってるの」って態度ですよ。僕が思う問題はこれなんです。

もしそれが僕の言う理想の世界の出来事で、esportsの大会で優勝するために必要なPCやゲーミングデバイス、スマートフォンが壊されてしまったとします。その世界では母も応援してるわけですから、「なんてことをしてしまったんだ」と思うはずです。

というように、ゲームをプレイすることの価値を知ってもらうために、esportsは非常に相性のいい方法だと思います。1人用のゲームだと外部から応援されることってほとんどないですからね。

ガリレオ:
僕は前職で体育会系の会社にいて、ゲーム=オタクという価値観に囲まれてました。「ゲームは卒業して早く結婚しなよ」と言われるような環境だったんですが、実はみんな何らかのゲームはやってるんですよ。やっぱり好きなんです。でも、表立って言うのは憚られる気持ちがあるんでしょうね。

それは残念というよりもむしろ、可能性だと思います。ゲームを通じて分かり合えれば、より大きな力を生み出せるはずですから。

――いまのお話をうかがうと、板垣さんの理想にとってesportsは必然性がありますよね。1人でプレイしてるだけだと、周りはなかなかその価値に気づけません。でも、esportsならプレイの結果を他人と比べることができて、優劣がつき、さらに賞金や賞品がもらえるかもしれない。ゲームに関心がない、よくないものだと思ってる人にとって、ゲームをプレイすることの価値がとても分かりやすいですよね。

ガリレオ:
僕もいまでは作る側ですが、もともとは作る側の人がesportsについてここまで考えてくれてることに共感したんです。

トンピ?:
メディアでesportsが取り上げられるとき、どうしてもプロゲーマーの収入や賞金が最初に取り上げられてしまいます。その前にメーカーやチーム、選手がいて頑張ってるというところに焦点が当てられないのはあんまりよくないですよね。

自分たちもゲームを否定される立場だったからこそ、板垣さんの描く世界が面白いと思って入社したいと思ったんですよね。

――esportsが一般層とゲーマー層を繋ぐ橋になるという考え方は、僕も新鮮でした。メーカーの人って「ゲームを長く遊んでもらうための施策の1つとしてesportsという手段がある」と捉えてるのかなと思ってたんです。

板垣:
僕が新卒1年目だと通用しないビジョンですね(笑)。実は、esportsを掲げた当初は一部の人からいろいろと言われました。でも、作ってるものを見せて、意図を話したところ、いまでは理解してもらうことができました。一丸となって取り組めてます。

ゲーマー社員は最高の環境

――というところで、ゲーマー社員に繋がっていくんですね。すでにいろんなところで話されてると思いますが、その意図を教えていただけますか?

板垣:
ゲーマーの中には悪い大人に利用されてきた人もいると思うんですよ。でも、ゲームがうまいことには価値があるんです。だから、ゲームがうまければ食べていけるという世界を作りたいというのが最初にあります。その方法の1つがゲーマー社員でした。

制度自体は、もし僕がプロだとしたらどういう待遇だと安心できるかという基準で考えました。社員として身分が保証されてて給料がもらえる、自分のやるべきことが明確で集中できる。それと、賞金はすべて自分のもの。これがモチベーションが最大になるんじゃないかと思って、実際にやってみてる状況です。

ウメハラさんのような存在は別格かもしれませんが、彼に匹敵するような実力の人が寂しい状態にあることも少なくありません。これはダメだと。頑張っても報われないことが当たり前になってるビジネスモデルがよくないんです。

なので、ポノスでは広報や開発協力をしてもらい、その仕事に対して給料を支払う形にしました。当然、ガリレオなら選手として、トンピ?ならキャスターとして全力で活躍してもらいます。

いまのところ、ゲーム業界でこうした形でゲーマーを雇用してる企業はほとんどないんじゃないでしょうか。

――LJL 2014の頃のRascal Jesterが選手のセカンドキャリアを視野に入れた実業団形式に取り組んでました。所属選手が当時のスポンサーだったCROOZの社員として雇用され、働きながらLJLに参加する形です。ただ、LJLのほうで結果が出なくなってしまい、わりとすぐにLJLだけに集中するようになったと聞きました。

板垣:
ゲームとは別に仕事をすると、やはり練習時間も体力も限られちゃうんでしょうね。ガリレオは練習して大会で優勝することが広報として最高の結果を残すことに繋がるので、とにかく練習に時間を費やしてもらってます。朝から晩まで練習して大会に出て勝つのが仕事なんです。

もちろん、もしプロとして食べていけなくなったときのセカンドキャリアのために、企画の仕事も勉強してもらってます。ただ、メインはゲームですね。勝つために最適な環境を提供してます。

トンピ?の場合はまた違う形にしてて、ゲーマー社員全員に適用される決まりきったフォーマットがあるわけではなく、それぞれに適した働き方を一緒に考えるようにしてます。

トンピ?:
自分の場合は選手というよりもキャスターなので、ガリレオとはけっこう違うんです。仕事としては、これまで自分が作ってきた人脈をポノスと繋げる、営業に近いことをやってます。

で、土日は大会やイベントの実況をするんです。そこでは広報的な役割もありますが、実況の仕事はポノスの業務として認められてるんですよ。なので、その分の代休を取ることができます。前職は平日5日の仕事に加えて土日実況、というパターンもあって、けっこうきつかったです(笑)。

――まだ期間は短いですが、そういう働き方をしてみてどうですか?

ガリレオ:
ゲーマーとしては最高の環境です。ただ、この生活をできる人は限られてるとも思います。選手のゲーマー社員は結果を出すには大会で勝つことしかありません。もしかしたら個人で活動してるときよりもプレッシャーがありますから、本当に覚悟が必要です。

――大会で勝てなくても一定の給料がもらえる状況になりえますよね。それについてはどう感じますか?

ガリレオ:
こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、必ず結果を出せるものではないので、ある程度は仕方ないと思ってます。もちろん勝つために全力を尽くします。それでも負けた場合は、後悔や申し訳なさより、最善を尽くせたかどうかに焦点を合わせて反省し、次回に活かします。ヘコむとは思いますが(笑)。

――なるほど、仕事でも同じですよね。やってみた施策が失敗することがよくありますし、ダメだったら検証して次回うまくいくようにしますから。

ガリレオ:
僕はプロになりたいという想いは強かったんですが、ちゃんとした形でないとなりたくないと考えてました。ゲームとは関係ない仕事をしながら選手を続けるのはちょっと違うなと。やっぱりプロゲーマーは尊敬される存在であってほしいので、僕もそうなりたかったんです。その最適解がポノスでのゲーマー社員です。

――トンピ?さんは大会で勝つというような分かりやすい指標はないと思いますが、日々の仕事はどのように評価されるんですか?

トンピ?:
「ポノスがesportsをやってる」といろんな人に伝達することが主な仕事なので、ポノスにesportsに関係を持ってる人や企業、団体を呼ぶのがミッションなんです。例えばTGSでどこかの企業ブースに出演するなら、名刺交換して、後日ポノスに来てもらう、といったことが仕事の指標になります。

あと、今後ポノスがリリースするesportsタイトルの実況をやりたいですね。その番組や大会を観てくれる人を増やすのも大事な仕事になると思います。

自分で100円玉を配ってプレイさせた

――ゲーマー社員の選考は板垣さんがされてるんですか?

板垣:
僕と人事で相互にですね。

トンピ?:
自分の面接のときは、最初が人事の方で、ゲーム云々よりもまず人として見られてる感がすごかったです(笑)。質問も、「ポノスでやりたいこと」など一般的に訊かれるような事柄でした。もちろんそのときもゲームに対する情熱や実績を交えて、ポノスにどう貢献したいかを伝えました。

――実績ってやっぱり大事ですか?

板垣:
それもたしかに大事ですが、そうなるに至った過程も重視します。なぜゲームをやり始めたのか、どういう想いでゲームをやってるのか、いまの結果に対してどう思ってるか、今後どうなりたいか。実績も考慮しつつ、実績だけで採用することはありませんね。

――ガリレオさんとトンピ?さんの場合は、どこが響きましたか?

板垣:
ガリレオの面接で印象に残ってるのは、『恋姫†演武』の話ですね。京都に住んでたとき、一時期『恋姫†演武』に熱中してたそうなんです。でも周りにプレイヤーがいなかったから、『恋姫†演武』を広めたいがために、自分で100円玉を配ってプレイさせてたと。このエピソードはかなり心に残りました。

自分が好きなゲームがあって、みんなに知ってもらいたいという気持ちがあった。だから、ゲームセンターやメーカーの誰かに頼まれたわけでもないのに、興味のない人にすばらしさを伝えたくて行動したわけです。それってすごく大事なことですよ。

ガリレオ:
話そうと思ってたわけではなく、たまたま話題に出てきたんですよね。『恋姫†演武』はすごくいいゲームなんですが、人口が少ないという致命的な問題があったんですよ。なので、流行らせるにはいったいどうしたらいいのかを考えました。

まず、プレイしてもらったら面白さは伝わるはずです。そのためには対戦できる環境を作る、ネットに攻略記事や対戦動画がある、教えてくれる人がいる、といった要素が必要です。

ということで、自分が主催して週3で地元大会を開き、週2で大阪のゲームセンターに行く、といったことを実行しました。そういう話が印象的だったと知れてよかったです(笑)。

――それは採用しますね(笑)。

(※ちなみにガリレオさんは7月のEVO 2017 『恋姫†演武』部門、取材後のCEOtaku 2017 『BLAZBLUE CENTRALFICTION』部門と『恋姫†演武』部門で優勝)

ガリレオ:
いまプロゲーマーになるには、大会の数が多くて賞金額も高いタイトルをやる必要があります。格ゲーだとほとんど『ストV』だけで、僕がメインにしてる『BLAZBLUE』はその条件にはあまり当てはまらず、プロになりにくい現状があります。

でも、『BLAZBLUE』の実力者がプロゲーマーになるために『ストV』に流れてしまうのはやはり寂しいです。ポノスに入社したのは、そういう状況を変えていく存在になりたいというのもありました。

板垣:
トンピ?の場合は、セカンドキャリアについて話しました。esports業界の今後を憂えてることが前提にあり、プロゲーマーが食べていけなくなったときにどうするかを考えて、道を作っていきたいと。そのビジョンを共有できたんですよね。

トンピ?:
プロゲーマーが引退したあと何をするかというと、普通に就職するくらいしかないじゃないですか。でも、例えばプロゲーマーを5年やってきた人と、会社勤めを5年やってきた人を比べれば、だいたいの企業は後者を採用しますよね。

そうじゃなく、ゲーマーとして培ってきたものを活かした仕事ができることをいろんな企業に知ってほしいという気持ちを板垣に伝えました。

もう1つは、自分がプロキャスターになって、同じ道を歩む人の道標になりたいとも思ってました。もともと教育者になりたくて教員免許も取得したんですが、それは小中学生からesportsに染めてしまえばいいという悪の組織みたいな考えからです(笑)。

最終的には、どういう形であれesportsの面白さを伝える、教える存在になりたいと思ってます。

――ポノスとしては、ゲーマー社員が自社タイトル以外を推すのはいいんですか?

トンピ?:
自分はドワンゴさんとNHN PlayArtさんの『#コンパス』で公認大会の実況をしてる人になってますが、そういう活動はポノスに承認してもらうのが前提です。他社タイトルのイベントや大会に出演するのもそうです。

板垣:
基本的にはOKを出してます。競合相手のタイトルをポノスが宣伝してるように見えますが、ガリレオやトンピ?自身がポジションを獲得してくれることに意味があるんです。

他社の足を引っ張る必要はありませんし、いつかコラボできるかもしれません。もしかしたら、僕らが困ったときに助けてもらえる可能性もあります。esports業界もそういう支え合いの構造ですよね。

――実際に入社されて、周りの反応はどうでした?

ガリレオ:
母にはポノスへのに入社が決まったときに初めて自分がゲームをやってきたことを話したんですが、実は昨日、ちょうど東京に来てた母に5、6年ぶりに会ったんです。母は僕のことをかつてと同じく、刺々しくて生意気だと思ってたようですが、自分ではゲームを通して成長したと思ってます。それは母にも伝わったみたいです。

友人には「プロになるなんてすごい」と言われましたし、「ポノスに面接に行った」という人もいました。その中でも特に、「自分もなりたい」と言う人が何人かいたのが印象的でした。というのも、ゲーマー社員に採用されたと発表したとき、最初は叩かれると思ってたんですよ。ところが、そんなふうにいい影響を与えられたのは嬉しかったですね。

トンピ?:
自分の場合はTwitterのアカウントが家族やいとこにもフォローされてるんで、発信してることは勝手に伝わってます。ポノス入社も喜んでくれましたし、普段も「このイベントで実況する」とツイートしたら、母から「頑張って」とメッセージが来るんです(笑)。

でも、小中学生のときはゲームをかなり厳しく制限されてたんですよ。そんな家庭だったのに、自分がesportsや実況に本気で取り組むうちに、だんだんと理解してくれるようになりました。最近はおばあちゃんがLJLのことをテレビのニュースで観て、「これが孫がやってる仕事の1つなのね」と理解してくれたそうです。

――2人とも、けっこう板垣さんのビジョンに近い世界にいますね(笑)。家族にゲームやesports系の仕事を説明するのって難しくないですか?

ガリレオ:
僕の場合は自分の人間的な成長の理由にゲームがあったので、スポーツと一緒、といった説明ができました。それが通じれば話は早いでしょうね。まあ、僕たちが理解してるのと同じレベルではまだまだ難しいかもしれませんが、それも時間の問題だとは思います。

トンピ?:
僕はなんだかんだ『AVA』を4000時間くらいプレイしてますが、プロや仕事という結果に結びつけて、そういう時間が無駄じゃないってことは強めに伝えたほうがいいですね(笑)。

――板垣さんのご家族はどうですか?

板垣:
妻はゲームのデバッグをしてたり、そもそもゲームが好きだったりで、全然問題はないですね。ただ、結婚するとき妻の両親に説明するのがたいへんでした。「ゲーム? それでずっと食べていけるのかね?」という感じで、もう全然伝わらなくて(笑)。

どうしたのかというと、義父は町工場を経営してたんで、設計図に例えればいいと一瞬で判断したんです。僕はゲームの設計図を作る仕事をしてます、と。ゲームがなくならない限り設計図はなくならないので仕事もなくなりません、安心してください、と話したところ、納得してもらえました。

ガリレオ:
参考になります(笑)。

板垣:
そのときは頭の中がめちゃくちゃロジカルでした。目の前の人に伝えるにはどうしたらいいのか。その人の仕事は? その仕事で例えるには? と考えて、設計図が出てきました。

トンピ?:
電流が走ったわけですね(笑)。

ゲームに本気で取り組んでください

――この取材の前日に、もけさんの入社が発表されました。ゲーマー社員雇用の発表からけっこうハイペースでの雇用じゃないですか?

板垣:
そう見えるかもしれませんが、ポノスが考えてることと一致する人であれば、積極的に採用したいと思ってます。応募はかなり多くて、大会ですごい成績を残してる人もいます。ですが、実際に考えが一致して一緒に仕事をしようと思える人はそれほど多くありません。

特に目立つのが、「邪悪な考え」を持ってる人ですね。ポノスっていうおいしい食べ物があるからそれを喰ってやる、という感じで来られると、まずお断りします。その人自身も会社やゲーム・esports業界で喰い物されて、嫌な思いをしてきたんだと思います。それが反転して、会社に対して「今度は自分がesports業界を喰い物にしてやる」となっちゃったのかな……。

そういう考えを「邪悪な考え」と表現しましたが、一緒にやってくのは難しいでしょうし、無理に採用してもうまくいきません。

――採用自体はこれからも続けていくんですか?

板垣:
そうですね、会社としての体力や経営バランス、作るタイトルとの親和性もありますが、いい人がいれば都度対応します。自身の目指す姿やビジョンと、ポノスの方向性が一致する人が来てくれれば嬉しいです。

やっぱり喰う喰われるの関係より、両者の共感と親和性が大事ですよ。プレイしてるゲームも、できれば幅広くカバーできる人材が揃ってくるといいですね。

――それでは最後に、ガリレオさんとトンピ?さんにはセカンドキャリアが不安なゲーマーに、どういう道を選べばいいのか、いま何をすればいいのか、アドバイスをお願いします。

ガリレオ:
僕自身がそれを模索してる最中ですが……。1つには、今後esports市場が発展する中で、いろんな企業がesportsに関心を持つはずです。でも、スポンサードしたり大会を開催したりするノウハウはありません。そういう企業に対して、ゲーマーは企画やノウハウを持っていけるんじゃないでしょうか。

ただ、それだと手の届く企業がかなり限られてしまいます。なので、ゲームを通じて仕事を学ぶことが大事です。僕もゲームに集中して大会で勝つことを目標にするだけでなく、ゲーマー社員という制度を利用して、社内の仕事、特に企画について学ぼうとしてます。時間はかかるかもしれませんが、プロゲーマーをしながら仕事もできるようになったという成功例になりたいですね。

トンピ?:
社会人として必要なのはビジネスマナーですが、その根本は「ありがとう」と「ごめんなさい」をすぐ言えることです。特に感謝が大事ですよね。ゲーマーも、それが言えるだけでかなり印象がよくなりますし、環境すら変わっていくと思います。

練習相手にお礼を言ったり、味方のいいプレイに「ナイス」とか「ty」って言ったり。あるいは、味方のミスには自分の非もあったと認めて謝る。一言「sry」でいいんです。こうしたちょっとした「ありがとう」と「ごめんなさい」を意識することで、セカンドキャリアにも繋がると思うんですよ。

僕自身、それを痛感する出来事がありました。イベントの実況をすると、「これは俺のイベントだ」って感じでけっこう天狗になりやすいんです。でも、イベントを行なうにはタイトルのメーカーやパブリッシャーがいて、運営する人がいて、来場者や視聴者もいます。自分以外に関係する人がいっぱいいます。

なのに調子に乗って、周りの人に感謝しなくなったら最悪です。かつて自分がそうだったんですが、とあるチームのオーナーが注意してくれたんです。その瞬間は鮮明に記憶に残ってます。あのとき注意されなかったら、いまの自分はないですね。

――注意してくれる人がいたというのが幸運だと思います。トンピ?さんはまさに経験から学んだわけですね。では最後の最後に、板垣さんからゲーマーへのメッセージをいただけますか?

板垣:
なによりもゲームに本気で取り組んでください。いい成績を残すことに全力になって、得たものには誇りを持ってほしいです。ゲームで生きていく道は、僕らが作っていきますから。

インタビューを終えて――橋渡しとしてのesports

ポノスがどこを目指して、何のためのesportsに取り組むのか、今回の取材でかなりクリアになったのではないだろうか。

esportsタイトルを開発していることはかねて発表されていたが、それは日本にある(と言われ続ける)アンチゲームの価値観とゲーム/ゲーマーを繋ぐためのものだという。

その考えに至る原風景として板垣さんが話してくれた『ワイルドアームズ』のセーブデータ消滅事件と親の反応は、世代によってはたいへん共感できるはずだ。かく言う僕も、主人公のレベルを80くらいまで育てた『ドラクエV』のセーブデータが家族の不注意で一瞬にして消えたという同じような経験がある。

板垣さんとポノスは旧来の価値観を覆し、ゲームをプレイすること、ゲーマーであることに大きな価値があると示そうとしている。ガリレオさん、トンピ?さん、もけさんに代表されるゲーマー社員がその意思表示であり、最初の一歩だ。

今後リリースされるゲームが好評を博し、esports路線が順調にいくかは僕には何とも言えない。いまやモバイルゲームの開発は1本数億円が当たり前で、しかもヒットするかも未確定。おまけに日本で根づいているとは言いがたいesportsのタイトル。見ようによっては大博打。ゲーム開発とesportsの両輪を揃えようとしたゲームバンクがわずか2年で解散したことも記憶に新しい。

けれども、ポノスは勝算があるからこそ取り組んでいる。esportsに確固たる価値を見出している。「esports」と誰でも気軽に言えてしまうからこそ、その価値は眩く映る。

※9/28 トンピ?さんの発言「公式の人」を「公認大会の実況をしてる人」に修正。

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ガリレオ @garireotarget
トンピ? @tonpiava

ポノス @ponoskouhou / コーポレートサイト

取材・執筆・撮影
なぞべーむ @Nasobem_W

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