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建前はおいしくあれ

2023年10月、岸田首相は4万円の減税を表明した。月額ではなく一回きりの4万円減税と、非課税世帯には7万円の支給。ここ最近税収が多かったのでわかりやすい形でお返しする、との言い方。しかし、世間の評判は芳しくないように見える。
こうした給付なり減税政策は、選挙の直前に行われると「バラマキ」としてしばしば批判の対象となる。

なぜ批判の対象になるのだろうか、と考えたとき、最初に浮かんだ理由は、建前の向こうに本音が透けて見えるから、というものだった。

ここでは、

  • 建前:苦しい国民の生活を支援するため

  • 本音:選挙で投票してほしいから

とする。

本音が透けて見えるとき、建前が嘘だと思われるから批判されるのではないか。国民の支援のためと言っているけれど本当は国民のためではなく、人気を得るため、自分のために行うんじゃないか、と。
「あなたのためを思って言っているのよ」というときの嘘くささに似ている。本当は自分の思いどおりにしたいだけなのに、まるでこちらの利益になるかのように言う傲慢さ。

しかし、よくよく考えると本音が透けて見えるかどうかは関係ない。
例えば一回限りの4万円減税ではなく、毎月20万円を一年間給付しますという支援だったらその狙いが選挙前の人気取りだとわかっていても歓迎する人は多いだろう(財源問題やインフレになるなど大局的な視点からの批判はあるにせよ)。

だとしたら本音がどうであれ関係ない。批判されるのは、建前がおいしそうに見えないからである。
選挙で投票して欲しいという理由のために行った政策が本当に国民の役に立ったとき、誰がその政策を批判できよう。国民のためになったのならそれで良い。というより、それが本来の政治のあり方である。政治は、長期的視点を含め、多くの国民に喜ばれることをしなくてはならない。

4万円がバラマキだと言われるのなら、それは魅力が薄いからである。

岸田首相は、今回の4万円還元に二つの観点を置いている。
ひとつは、ここ数年過去最高税収だったので還元すること。
もうひとつは、物価高の苦しみから国民を救うこと。

ここ数年過去最高税収だったので還元することについて。
何の代償もなく4万円貰えるのなら嬉しいけれど、いったん税金として集めたものを返してもらうのなら4万円は少ないと思ってしまう。
本来それが税金の形ではあるけれど、-10が-8になるようなもので、プラスにはならないし0にもならない程度の金額は、気持ちの上でしょぼいと受け止められる。まして、たくさん納税した人も少なく納税した人も同じ額であり、むしろ納税しなかった人には7万円が支給されるので「お返しする」という言葉と一致していない。

物価高の苦しみから国民を救うこと。
4万円は、生活状況が好転するほどではない、と受け止める人が多そう。一ヶ月当たりだと3,000円ちょっとなので……。

いずれの観点からも、建前が魅力的に思えないから不評なのだろう。




様々な場面において、本音と建前を使い分けることがある。
このとき本音がどうであれ、建前はおいしくなければならないのである。

名角こま

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