天坂さんといちごつみ
1月26日、天坂さんといちごつみを始めました。天坂さんは主に、天坂寝覚というお名前で自由律俳句を作っておられる方です。
10首完結、奇数が天坂さん、偶数がナタカです。
振り返り。
1. 青空を知ることもなく骨だけになってしまった傘を弔う/天坂
→かっちりしたのが来た!天坂さんの歌は固体・液体・気体でいうと液体っぽいと思うのですが、これは固体っぽい(何言ってるのか分からなかったらすみません。雰囲気よ伝われ)。景の切り取り方というのか視点というのか、天坂さんの自由律俳句に通じるところがある気がします。
【骨】
2. 冷たくて白くてかるいそれは骨 触って溶けるならそれは雪/ナタカ
【かるい】
3.一日がなくしたものも得たものも数えてゆけるかるい生活
→「かるい生活」というのが天坂さん的だと思います。「かるい」がひらがななのは2首目で私がひらがなで使ったからなのですが、とても自然に組み込まれています。「軽い生活」だと一気にネガティブな印象が前に出てしまう。ここでの「かるい生活」は、濃度の高い毎日ではないという意味ではあると思いますが、ただ濃度が高くないというだけであって、必ずしも悪い意味(軽率とか)では使われていないように思うので、とても上手に「かるい」を使ってもらえたなと思います。
「一日に(で)」でなく「一日が」なのもおもしろいです。「一日に」だと頭の中で意識的もしくは無意識に「〇〇が」(=主体)となる人物を想定してしまうと思うのですが、「一日が」だとこれが主語なので主体となる誰かを想定する必要がなくなります。それによって、細かく書き込んだというよりはやわらかなタッチの歌になっているように思われます。
【生活】
4. もしかしてこれが生活 灯火のような林檎を丸齧りして
【灯火】
5. 灯火は遠景であるべきだろう 孤独とはいのちのことだろう
→灯火は遠景、孤独はいのち、構造はシンプルですが読み取りは難しかったです。理詰めではなく、光景を浮かべるように読めば良いのかもしれません。孤独とはいのち、すごい。
【こと】
6. さみしさは白湯の甘さを報せたい人があなたしかいないこと
(→5首目の「遠景」は、自分ではあまり使わない言葉なので使いたいと考えましたが、上手くいかず挫折。普段から自分が使いそうな「孤独」は回避。「あなた」を使うと返歌じみてしまうので5首しか作らない今回は堪えたいところでしたが、ちょっと好きな歌ができたので送ってしまった。)
【あなた】
7. 束の間、ただ水だった熱を持つあなたの指をゆるくつかんで
→二句切れとして読むのかなと思います。これは液体っぽい。「ゆるくつかんで」のあたりの音の流れやひらがなのゆるやかさが好きです。主体の存在が少し不安定な感じがするところも好き。
【熱】
8. 仄暗く熱の上がっていく夜に桃缶ひとつ額に当てる
(→7首目は摘めそうな語がたくさんあるから次は名詞以外を摘もう、と思い副詞「ただ」を摘んで「ただ猫が温かいので抱いていて気づけば森の入口でした」という歌を作ったのですが、今までの流れから少し外れる気がして結局出したのがこの8首目でした(そして結局名詞摘み)。
いちごつみは返歌ではないので、直球で返歌になるものは作らないようにしたいのですが、ただ一語摘むだけだと本当に普通の題詠になってしまってそれも寂しいなと思うので難しい(この辺はマイルールみたいなものなのであまりお気になさらず)。難しいことを考えずにざくざく摘んでいけば良いのかもしれないけれど。引っ張られそうになりながらも引っ張られすぎない感じで作りたいのですが、今見るとなかなか7首目に引っ張られている気がする。)
【仄暗く】
9. 遥かなる渚はいつも仄暗くあえない影は絶えずつめたい
→ちゃんと形容詞を摘む天坂さん…。影に温度を見出すところが良いなと思いました。「絶えず」は動詞に掛かることが多いように思いますが、ここでは形容詞に掛かっていてその「絶えずつめたい」が印象的な余韻を残します。
【渚】
10. 遠ざかる船の速さは美しく渚にはそれきりの静けさ
(→ここまで、傘(雨を連想)・雪・白湯・水・渚と、水を連想させる歌が多かったので流れに乗って「渚」。自分(後手)の歌で終わるという重圧よ。)
以上、振り返りでした。
天坂さん、お読みくださった方、ありがとうございました。
貴重な経験でした。
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