自選30首

●自選30首が流行っているようなのでやってみました。

ただボタンひとつ外したそれだけできみはそんなに女になって

お客様さま起きてください終点です 晴れた夜ですまだこの世です ※うたの日「です」

るるるると電話が鳴るけど今ちょっと泣いているるる出られないるる

結婚の知らせばかりを聞きながら星の綺麗な離島に暮らす ※うたの日「結」

7の背をちょっと反らして書いてみるこれがあなたの書いている7 ※うたの人「数字」

僕の撮る集合写真に僕だけが写っていないことの明るさ

帰れなくならないように手加減をしながらめちゃくちゃに走り出す

完璧な優しさというものがあるとすればそれはゆで卵のゆ

胸に星、不時着したんだってねえどうだきれいな炎だったか

落ちていくような速さで駆け下りる風ひかる風ひかる風ひかる自転車

流星が群れで来るって聞いたからお寿司を取って待っていたのに

蝶になるためのわずかな液体が蛹の中で起こすさざ波

手のひらにおさまるほどの電球が廊下の影と光のすべて

湯船って言葉を生んだ人はもうどこか港に着けたのかしら

氷点下2℃に驚かないきみの子どもの頃のことを知りたい ※うたの人「マイナス」

風ですか さっき私の首元にるっと巻きついていったものは

タスマニアデビルのあくび僕たちはぬるい春には飽きてしまった ※うたの日「7音以上の名詞」

「歓迎」の文字が薄れた終点に僕の暮らしている街がある ※うたの日「迎」

いい子って言わないでって泣いているサクラクレパス片づけながら ※うたの日「いい○○」

私にもあなたにもある心臓が違う速さで鳴るのがこわい

怒るのを見たことがない人がただじっと見ている川の氾濫 ※うたの日「川」

あじさいは骨まで青い まだ誰も見たことがないあじさいの骨

しろみざかな、おまえの骨が美しい白だったことを覚えておくね

ひばりひばり あまり早くに来てはだめ 冬とは深い崖なのだから

金網を強く握れば血のにおい人を殺せる手が二つある ※うたの日「金網」

花は花 あなたはあなた ほらねまた中途半端なポイントカード

蹴るほどに月に近づく恐ろしさ噛みしめて漕ぐ夜のブランコ ※うたの日「蹴」

ほころびがほころびのまま過ぎる日のときどき抜ける風が好きだよ

分かるよと言いたくなるね輪くぐりを突然やめてしまうイルカに

絶海の孤島のような満月が私のためであるはずがない

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