メロスは異世界転生した。

メロスは異世界転生した。必ず、かの邪智暴虐の魔王を除かねばならぬと決意した。

メロスには魔法がわからぬ、けれど魔力は世界最高であった。
メロスは、異邦の牧人である。笛を吹き、羊と共に遊んで暮らしてきたところを転生された。邪悪に対しては人一倍に敏感であった。
きょう未明メロスは村から異世界へ飛び、次元を越え時を越え、幾次元も離れた異世界にやってきた。メロスには父も、母もない。女房もない。十六の、内気な妹と二人暮らしだ。この妹は、村の或る律儀な一牧人を、近々、花婿として迎えることになっていた。結婚式も間近なのである。メロスは、それなのに、花嫁衣装や結婚式の準備はおろか、はるばる異世界へとやってきたのだ。

メロスは元の世界へ帰る方法を探るべく、先ず野を駆け巡った。幸いにも、近くにまちを見つける。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。メロスは道すがらに逢った老婆に尋ねると、あたりをはばかる低声で、わずかに答えた。
「魔王は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「人が魔王を憎んでいる、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「沢山の人を殺したのか。」
「はい。」
聞いて、メロスは激怒した。「呆れた魔王だ。生かして置けぬ。」

メロスは、単純な男であった。まちを飛び出して、のそのそ魔王城へはいって行った。たちまち彼は巡らの魔物に捕縛されそうになるが、世界最高の魔力を持っていたので、騒ぎが大きくなってしまった。魔物を蹴散らして、メロスは、魔王の前に立った。
「その魔力で何をするつもりであったか。言え!」魔王ディオニスは静かに、けれど威厳を以て問い詰めた。
「人を魔王の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」魔王は嘲笑した。「仕方の無いやつじゃ。わしを倒しても、元の世界におまえは帰れない。」
「言うな!」メロスは、いきり立って反駁した。

【続く】

私は金の力で動く。