フーダニット


 まぁ落ち着いて話しを聞いてほしい。

 お前の記憶は消し去られているはずだ。なぜわかるか? 俺がそうしたからだ。

 おっと、この端末を壊そうとするなよ。お前なら怒りに任せやりかねないからな。順を追って説明するよ。
 まずは端末の横に置いてあるケースを開け。中に入っているものにひときわ目立つものがあるだろう。グロッグG26、9ミリ口径だ。眺めている暇はない。スライドを引いて腕を伸ばして6時方向を撃て!!

 よし、完璧だ。安心しろここには人はいない。いるのは敵だけだな。どれだけ発砲しようと通報はされない、死人が出ようとな。
 ああ質問はわかってる。なぜお前が銃を使いこなせるのか、背後からの敵をノールックで撃てたのかだろう? 記憶を失っていようとお前の身体が人の殺し方を覚えているんだよ。

 最初の質問に戻ろう。お前は記憶を失いたかったんだ。詳しくは言えない。消した意味がない。お前が憶えられていると困る人間がいる。完璧に消すためにはお前を殺すのが一番だ。しかしお前は殺されたくなかったから記憶を消してもらったわけだ。ただ何も事情を知らないままだと、今みたいに殺されかけたから、チュートリアルしているんだ。

 よし、残り7分だ。話を聞きながら準備しろ。
 お前はケースを持ってこの廃墟から脱出するんだ。替えのマガジンは一つだけ懐に入れておけ。それで十分だ。部屋から出たら外付けの非常階段に行け。そこから三階分降りたらもう一度内部に入って、階段下から駆け上がってくる男を不意打ちで蹴飛ばせ。頭に一発撃ち込んだらさっさと出口から出ろ。
 1ブロック走ったところで右から車が走ってくる。タイヤを狙って撃て。お前の腕なら大丈夫だ。車が来た方向に突っ走って、右手側影にあるバイクに乗って北へ逃げろ。あとはケースの中の書類通りに動け。

 残り5分だ。言う通りに動けば生き残る。では健闘を祈る、くれぐれも気をつけろよ、『俺』自身よ。

【続く】(800文字)

逆噴射小説大賞に出そうかと思ったけどボツにしてしまったので置いておく。

私は金の力で動く。