新しい街

みんなで連続小説 Advent Calendar 2014 第一話は私natashaが書かせていただきます。

あっけなく引越しの業者は私の三年分の荷物を置き去り、新しい部屋から出て行った。
私は少しの家具とダンボールだけのガランとした部屋に残され、小さく溜息をついた。

ユウは今どこの街にいるのだろう。
そのことを知らないのがせめてもの救いだった。

窓を開けると、車の激しく往来する音が、私と現実とをなんとかつなぎとめていた。
煙草を吸おうとして灰皿がないのに気づき、手当たり次第にダンボールのガムテープをはがしたが、やがてあきらめてベランダのふちに腰かけて煙草に火をつけた。
新しい街、こんにちは!
車の喧騒に向かって煙を吐き出し、ベランダに灰を落とした。

今夜眠るベッドを買いに行かなくては。
他には…特に急ぐものはないように思われた。コンビニが歩いて数分のところにあった。今日でなくてはならないものはほとんどなかった。

私が誰にも特に必要とされていないのと同じように、私も特に何も必要としていない。
私はその考えが気に入り、反復するようにもう一本、火をつけた。


明日は@haluto10さん、よろしく!

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