馬鹿みたい

みんなで連続小説 Advent Calendar 2014 の何日目かです。
葛さんからのバトンしかと受け取りました。

夜11時まで待っていた。圭一からの連絡はなかった。

「馬鹿みたい」
普段しない料理をした。
本気すぎるメニューも重い女だと思われそうで、カレーにした。
カレーなら「作りすぎちゃって」という言い訳も通用するし、大失敗することもなかろう、などと計算していた自分が憎らしい。
自分の都合で他人を振り回して、勝手に恋人気分でいたのか。
「馬鹿みたい」
今日何十回目かの「馬鹿みたい」を声に出すと、ごはんとカレーを皿に盛って食べ始めた。・・・おいしい。虚しい。

男なんか。
ユウも電話には出ない、メールには返事もしないやつだった。
今になって、あんな手紙・・・。

カレーは一瞬で食べ終わった。テーブルには、ケーキが二個とワインが一本。そして食べ終えたカレーの皿。

のろのろと空いた食器を台所に運び、振り返ると、テーブルにはケーキが二個とワインが一本。
圭一ならどんなに遅くなっても、メールぐらいくれそうな気がする。
何度目かわからない「スライドでロック解除」をしてメールボックスを開いてみたが、そもそも通知が来ていないのだ。未読メールはありません。

12時を回っていた。
賞味期限が切れたばかりのケーキを一つ皿に移すと、グラスにワインを注いだ。
ケーキは上品な甘さで、ワインともよく合った。
圭一に会いたい、と思った。
思ってから、「ユウじゃないんだ?」と自分でツッコミを入れた。
だけど圭一に会いたかった。

めちゃくちゃな気分で二つ目のケーキを皿に移し、何杯目かのワインをグラスに注いだ。

「エリ?」
圭一の声で我に返った。
私は、圭一に電話をかけていたのだ。
そして、圭一が会いたいのは私ではないのだ。
優しくされて、簡単に好きになって、もう振られてる。
「馬鹿みたい」

−−−
朝、まだアルコールが残っているのを感じながら目覚めると、それでもあえかな期待を持って、スマホの電源ボタンを押した。
そして、また、こう言わざるをえなかった。
「馬鹿みたい」

けれど、それは、昼休みがあと10分で終わろうという時、やってきた。
メールの通知。
私は屋上で煙草を吸っていた。
急いで煙草を携帯灰皿に突っ込み、ゆっくりとロックを解除する。

『昨日は電話に出れなくてゴメン。なんかあった?今日は休みだから何時でも連絡して』
うん。
圭一はそういう人だと思った。
でも、会いたいのは、私じゃないよね。ただ、優しいだけなんだよね。

午後の間、ずっとどんな風に返信するかを考えていた。
だが、定時とともに急いでPCの電源を落としている自分に気づいた時、昨日繰り返しつぶやいた声が聞こえてきた。「馬鹿みたい」

急速に、虚しい気持ちに襲われた。

『昨日は電話に出れなくてゴメン。なんかあった?今日は休みだから何時でも連絡して』
メールの文面をもう一度、確かめるように読んで、そっと削除した。


明日は(今日だ!)ドクター(@witch_doktor)です!よろしくお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?