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Bar JET
「みんなで連載小説 PART2 Advent Calendar 2018」6日目の記事です。
いけはるさん https://note.mu/haluto10/n/nb84444575f42 からバトンを受け取りました。
まだまだまだまだ一緒に物語を書いてくださる方募集中ですよー!泣
豊さんは、電話を切ると「行かなきゃならなくなった」と言った。「来週、来週末また東京に来る。待っていてくれないか?」
私は、迷う心とは裏腹に、深くうなづいた。
これからどこへ行くのかは言われなかったし聞かなかった。今の二人そのものだと思った。
どこにも行く場所がなくなった私は、前友人と行った女性OKのゲイバーに行ってみることにした。
「いらっしゃい、あら初めて?」
「いえ、以前友達と」
「そうなの、初めてなのにごめんなさい、あなた浮かない顔してるわよ、ふられたの?」
「ごめんなさい、この子人の話聞かないし、おしゃべりなの。構わなくていいからゆっくりしていって」
「あら、ごめんなさい、ここに来る女の子は十中八九傷心なものだから」
「シャラップ」
「私、付き合っている人がいるのに、昔の人にやり直したいって言われて」人見知りする性格なのに、なぜか心を開いて話してみたくなった。
「あら、うらやましい話じゃない。でもクリスマス前にここにいるってことは、どっちともうまくいってないのね?」
「あんたみたいに何人とでも付き合う人ばっかりじゃないのよ。なんで両方と付き合ってる前提なのよ」
「よくわからないんです…今付き合ってる人のことすごく好きなんです。迷いはなかったんです。でもやり直したいって言われて、急にわからなくなって。」
「一度は好きになった人だものね。誰だって心揺れるわよ。…あなたのこと大事にしてくれる人はどちらだと思う?」
祐樹の子犬みたいな笑顔が頭をよぎった。そして豊さんの真剣な眼差し…
「今心に浮かんだ人なんじゃない?『最初に』心に浮かんだ人よ。」
家に着くとテレビを見ていた祐樹は「いい気分でご帰宅ですね」と皮肉っぽく言った。
「ごめん、仕事終わりに部長に誘われて…」
彼はスンと鼻を鳴らして、何も言わずに自分の部屋に戻っていった。
誰もいなくなったリビングのソファに身を沈める。
本当に…本当に豊さんではないのだろうか?
少し痩せた顔。見慣れない眼鏡。高めのクセのある声。細い指。指…
豊さんの指が触れた右手の甲をぼんやりと見た。
そして祐樹が飲み残した冷めたコーヒーを啜った。